【簿記1級】 有形固定資産総論:取得から減価償却まで、計算と仕訳の最重要ポイント解説

問題

問1(計算問題:取得原価の計算)

当社は期首に、以下の諸費用を支払い、製造機械Xを導入しました。

項目支払額(千円)備考
機械購入代金20,000
設置場所の整地費用500
運送費および荷役費300
試運転費用200営業の用に供するために必須の費用
導入後の機械調整費用100定期的に発生する通常のメンテナンス費用
代金支払に係る銀行振込手数料50

この製造機械Xの取得原価として計上すべき金額(千円)を算定しなさい。

問2(仕訳問題:有形固定資産の交換)

当社は、営業用に使用していた車両(帳簿価額3,500千円、時価4,000千円)を、同じ営業用の目的で使用する別の車両(時価4,000千円)と交換し、取得した。なお、交換に際して差額の授受は発生していない。この取引に係る仕訳を示しなさい。

問3(計算問題:資本的支出と収益的支出)

期首に取得し稼働中の建物に対し、当期中に修繕を行い、代金5,000千円を小切手で支払いました。この修繕費用のうち、3,500千円は建物の外壁の塗装や機能維持のための費用であり、1,500千円は建物の主要構造部を補強し、当初見込みの耐用年数を延長させる効果があることが判明しました。当期に計上すべき『修繕費』の金額(千円)を求めなさい。

問4(仕訳問題:割賦購入)

期首に備品(現金正価1,500千円)を割賦で購入しました。割賦契約は総額1,800千円を3回払い(毎月末に期限が到来する額面600千円の営業外支払手形3枚)としています。期首の購入時に行うべき仕訳を示しなさい。

問5(計算問題:200%定率法と償却保証額)

当社は期首に、機械装置(取得原価10,000千円)を取得し、200%定率法で減価償却を行います。耐用年数は5年、残存価額は0円、保証率は0.10800、改定償却率は0.200です。定額法の償却率は0.200(1/5年)となります。

取得から3年目の減価償却費を算定しなさい。なお、解答は千円単位とし、円未満の端数が出た場合は四捨五入して千円単位で解答すること。


計算資料

年数期首未償却残高(千円)200%定率法の償却率(0.400)適用時の償却額(千円)償却保証額(千円)
1年目10,0004,0001,080
2年目6,0002,4001,080
3年目3,6001,4401,080
4年目2,1608641,080
5年目1,2961,080



<答え>

問1(計算問題:取得原価の計算)

21,000千円

問2(仕訳問題:有形固定資産の交換)

借方勘定科目金額(千円)貸方勘定科目金額(千円)
車両運搬具3,500車両運搬具3,500

問3(計算問題:資本的支出と収益的支出)

3,500千円

問4(仕訳問題:割賦購入)

借方勘定科目金額(千円)貸方勘定科目金額(千円)
備品1,500営業外支払手形1,800
前払利息300

問5(計算問題:200%定率法と償却保証額)

1,440千円

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有形固定資産の取得原価、割賦購入、資本的支出と減価償却

2.有形固定資産の取得原価の決定原則

有形固定資産とは、物理的な形態を持ち、長期にわたって利用する目的で保有される固定資産です。棚卸資産のように売却を目的とするものではありません。代表的な勘定科目に『土地』(非償却性資産)や『建設仮勘定』(建設中の非償却性資産)などがあります。

投資家にとって有用な財務情報を提供するためには、適正な期間損益計算を行う必要があり、その計算の基礎となる固定資産の取得原価の決定は非常に重要です。なぜなら、減価償却は原則として取得原価をベースに行われるからです。

固定資産の取得には主に**「購入」「自家建設」「現物出資」「交換」「贈与」**の5つのケースがあり、それぞれ取得原価の決定方法が異なります。

3.有形固定資産の取得形態と取得原価の算定

3.1.購入によるケース

購入によって資産を取得する場合の取得原価は、購入代金に付随費用を加算し、値引きや割戻を控除して計算します。

\(\text{取得原価} = \text{購入代金} + \text{付随費用} – \text{値引・割戻}\)

ここでいう付随費用とは、買入手数料、運送費、荷役費、据付費(設置費用)、試運転費など、購入した有形固定資産を使えるようにするためのコスト全般が該当します。たとえば、土地を購入し、営業の用に供するために支出した「土地ならし費」なども取得原価に算入されます。

また、「土地と建物を一括で取得した」といったように複数の有形固定資産をまとめて購入した場合、個々の値段が不明なときは、それぞれの時価で取得原価の合計額を按分して決定します。

3.2.自家建設によるケース

自社で使う固定資産(建物や機械など)を自社で作ることを自家建設といいます。この場合の取得原価は、適正な原価計算基準に従って算定された製造原価となります。

自家建設に要した多額の資金について借入を行った場合、その借入利息(本来は営業外費用)について、国の政策的な配慮から、稼働前の期間に帰属する利息に限り、取得原価に算入することが容認処理として認められています。原則としては営業外費用として処理すべきものです。

3.3.現物出資によるケース

株主から現金の代わりに現物(有形固定資産など)の出資を受ける場合、取得原価は時価などを基準とした公正な評価額となります。

3.4.交換によるケース

元々保有していた固定資産と別の固定資産を交換して取得する場合、その実態に応じて「投資の継続/非継続」という考え方に基づいて処理が分かれます。

  1. 投資が継続している場合: 提供した固定資産と、新たに受け入れた資産が**「同じ種類で、かつ同じ投資目的」であると判断される場合です。この場合、会計上は「帳簿価額のままでいい」とされ、取得原価は提供した固定資産の適正な簿価**となります。
  2. 投資が継続していない場合: 提供した固定資産と受け入れた資産が「同じ種類で、かつ同じ投資目的」ではない場合です。この場合、提供した資産をいったん時価で売却し、その現金で新たな資産を取得したとみなします。取得原価は提供した固定資産の時価となります。
3.5.贈与によるケース

有形固定資産を無償で受け取った(贈与)場合、取得原価主義に基づけばゼロ評価とすべきですが、それでは有償取得した他社との比較可能性が損なわれてしまいます。したがって、制度上、贈与によって取得した固定資産は、時価などを基準とした公正に評価した額を取得原価とします。

4.有形固定資産の割賦購入

有形固定資産の購入が高額なため分割払い(割賦)にすることがありますが、この支払いには利息相当額が含まれています。取得原価とするのは利息部分を除いた金額であり、利息相当額は正確に記録する必要があります。

利息部分を除いた支払総額を現⾦正価といいます。割賦購入時の利息相当額は一旦**『前払利息』として処理し、後日、割賦代金を支払うタイミングで時間が経過して利息が発生したものと考え、前払利息を『支払利息』**に振り替えます。

(計算例として、利息を定額法で処理する場合、総利息額を支払い回数で均等に割って毎期の支払利息を計算します。)

5.資本的支出と収益的支出

有形固定資産の「取得後の支出」として修繕を行った際、その支出が取得原価に加えるべきかどうかが問題となります。この判断は、費用収益対応の原則に基づいて行われます。

  1. 資本的支出: 修繕によって耐用年数が伸びる場合や、有形固定資産の価値が増加したケースが該当します。これらの支出は、将来の収益に対応させる必要があるため、取得原価に加えられ、減価償却を通じて費用化されます。
  2. 収益的支出: 耐用年数が伸びたり価値が増加したりすることのない、あくまで現状の資産の機能維持のためのコストと考えられます。将来の収益を増加させる支出ではないため、発生した期の費用(『修繕費』など)として処理されます。

6.有形固定資産の減価償却

6.1.減価償却の意義と費用配分の原則

有形固定資産の経済的価値の減少を計画的・規則的に計算し費用化していく処理が減価償却です。これは、資産の取得原価を、資産の種類に応じて当期と次期以降の期間に費用として配分する費用配分の原則に基づいています。

棚卸資産のように個別具体的に価値の減少を把握するのが困難な有形固定資産について、恣意性(経営者の主観)を排除し、一定の仮定に基づいて計画的・規則的な減価償却(正規の減価償却)を行う必要があります。

6.2.減価償却の記帳方法(直接法と間接法)

帳簿への記帳方法には、直接法間接法があります。

  • 直接法: 減価償却累計額を有形固定資産の取得原価から直接控除する記帳方法です。帳簿上の建物の金額(簿価)は、取得原価から既に償却された額が差し引かれた残額が表示されます。
  • 間接法: 『減価償却累計額』という評価勘定を別建てで記帳し、取得原価はそのまま残ります(間接控除)。

なお、これらは企業の内部資料である帳簿への記入方法であり、外部公表用のB/Sにおける『減価償却累計額』の表示方法(科目ごとに間接控除する方式など)とは別の論点であることに注意が必要です。

6.3.減価償却費の計算方法(新定額法・新定率法)

簿記1級では、従来の定額法・定率法・生産高比例法に加え、法改正を反映した計算方法を理解する必要があります。

(1)定額法 耐用期間中、毎期均等額の減価償却費を計上する方法です。

\(\text{減価償却費} = (\text{取得原価} – \text{残存価額}) \div \text{耐用年数}\)

(2)新定額法 平成19年4月1日以後に取得した固定資産について、残存価額をゼロとして減価償却を行う方法です。最終年度には、資産の存在を把握できるように備忘価額として1円だけ残す点に留意します。

\(\text{減価償却費} = (\text{取得原価} – \text{残存価額} 0) \div \text{耐用年数}\)

(3)定率法 期首未償却残高に定率法償却率を乗じて計算する方法です。

\(\text{減価償却費} = (\text{取得原価} – \text{期首減価償却累計額}) \times \text{定率法償却率}\)

(4)新定率法(200%定率法・250%定率法) 新定率法は、残存価額をゼロとして償却を行う定率法です。平成24年4月1日以後に取得した固定資産には200%定率法が適用されます。これは、定額法の償却率を2倍(200%)にした償却率を用いる方法です。

定率法は初期に多額の償却費が計上され、徐々に費用が逓減(ていげん)していく「逓減法」です。年数が経過すると償却額が少なくなりすぎるのを防ぐため、償却保証額という最低ラインが設けられています。

償却保証額

\(\text{償却保証額} = \text{取得原価} \times \text{保証率}\)

減価償却費が償却保証額を下回った場合、その期以降は改定償却率を適用して、残りの簿価を耐用年数終了時までに備忘価額(1円)を残して均等償却するように計算方法が切り替わります。


問題解説

問1(計算問題:取得原価の計算)

本問は、有形固定資産を外部から購入した際の取得原価の決定に関する問題です。取得原価は、購入代金に加え、その資産を**「使えるようにするためのコスト」**である付随費用を加算して計算するという原則を理解しているかが問われます。

\(\text{取得原価} = \text{購入代金} + \text{付随費用} – \text{値引・割戻}\)

付随費用に算入すべき項目は、機械を設置し、営業に供するために必要な費用です。

  1. 機械購入代金:20,000千円(基本となるコスト)
  2. 設置場所の整地費用:500千円(使えるようにするために必要な費用)
  3. 運送費および荷役費:300千円(運搬に必要な費用)
  4. 試運転費用:200千円(営業の用に供するために必須の費用)

付随費用に算入しない項目は、取得原価の算定から除外されます。

  1. 導入後の機械調整費用(100千円):これは通常のメンテナンスであり、取得後、将来の収益を増加させない収益的支出に該当します。取得原価には含めず、当期の費用(修繕費など)として処理されます。
  2. 代金支払に係る銀行振込手数料(50千円):これは資金調達または決済に関連する費用であり、機械本体を使えるようにするためのコストではありません。通常、支払手数料などの営業外費用として処理されます。

したがって、取得原価の合計は以下のようになります。

\(20,000 + 500 + 300 + 200 = 21,000 \text{千円}\)

取得原価は21,000千円です。簿記1級では、単なる運送費だけでなく、「営業の用に供するために必須の費用」と解釈できるコスト(本問の試運転費など)を正確に識別し、取得原価に算入できるかどうかが問われるポイントです。

問2(仕訳問題:有形固定資産の交換)

有形固定資産の交換取引では、投資の継続性の判断が非常に重要です。

本問では、提供した車両(簿価3,500千円)と、新たに受け入れた車両(時価4,000千円)が、**「同じ営業用の目的で使用する別の車両」であり、「同じ種類で、かつ同じ投資目的」**と判断できます。

したがって、この取引は投資が継続していると考えられます。

投資が継続している場合、提供した資産を売却したとは見なされず、取得原価は提供した固定資産の適正な簿価をもって計上します。本問では差額の授受がないため、提供資産の簿価(3,500千円)が、新たに取得した車両の取得原価となります。

この交換によって損益は発生しません。もし投資が継続していない場合(例:車両と土地を交換した場合)であれば、提供資産の時価(4,000千円)が取得原価となり、簿価との差額(4,000千円 – 3,500千円 = 500千円)は売却益(固定資産売却益)として計上されます。しかし本問では投資継続と判断されるため、簿価による処理が正解です。

問3(計算問題:資本的支出と収益的支出)

本問は、有形固定資産の取得後の支出を、資本的支出収益的支出に分類し、適切な費用処理を行う能力を問うものです。

判断基準は、その支出が将来の収益に対応する必要があるかどうか(費用収益対応の原則)です。

  1. 資本的支出: 建物の強度を増し、耐用年数を延長させる効果がある支出。
    • 金額:1,500千円
    • 処理:建物の取得原価に算入(資産計上)
  2. 収益的支出: 外壁の塗装や機能維持など、現状の機能維持のためのコストであり、耐用年数を延長しない支出。
    • 金額:3,500千円
    • 処理:発生した期の費用(修繕費として費用処理)

修繕に要した総額は5,000千円です。

  • 建物(資本的支出):1,500千円
  • 修繕費(収益的支出):3,500千円

本問で問われているのは、当期に計上すべき『修繕費』の金額です。

\(\text{修繕費} = 5,000 \text{千円} – 1,500 \text{千円} = 3,500 \text{千円}\)

修繕費は3,500千円となります。資本的支出として資産計上された1,500千円は、当期の費用とはならず、将来的に減価償却を通じて費用配分されます。

問4(仕訳問題:割賦購入)

有形固定資産を割賦で購入した場合、支払総額には利息相当額が含まれているため、取得原価と利息部分を分けて記録する必要があります。取得原価は利息部分を除いた現金正価となります。

  1. 取得原価の算定:
    • 現金正価:1,500千円
    • 支払総額:1,800千円
  2. 利息相当額の算定:
    • 利息部分(前払利息):1,800千円 – 1,500千円 = 300千円
  3. 負債の計上:
    • 割賦による未払い債務は、総額(1,800千円)を営業外支払手形として計上します。

購入時の仕訳では、資産(備品)を現金正価で計上し、利息部分を『前払利息』として資産計上します。

借方では、備品1,500千円と前払利息300千円を計上し、貸方では、支払総額1,800千円を営業外支払手形として計上します。

問5(計算問題:200%定率法と償却保証額)

本問は、新定率法(200%定率法)における償却保証額の取り扱いを理解しているかを問う、簿記1級特有の計算問題です。

200%定率法では、計算された減価償却費が、最低限計上すべき金額である償却保証額を下回った場合、償却方法を切り替える必要があります。

  1. 償却保証額の確認
\(\text{償却保証額} = \text{取得原価} \times \text{保証率} = 10,000 \text{千円} \times 0.10800 = 1,080 \text{千円}\)

この1,080千円が、毎期チェックすべき最低ラインです。

1年目、2年目の償却: 1年目償却費:4,000千円 > 1,080千円 2年目償却費:2,400千円 > 1,080千円 (定率法をそのまま適用)

3年目の償却計算とチェック: 3年目期首未償却残高:3,600千円 200%定率法による償却額:\(3,600 \text{千円} \times 0.400 = 1,440 \text{千円}\)

ここで、計算された償却額(1,440千円)と償却保証額(1,080千円)を比較します。 1,440千円 > 1,080千円

3年目の償却額は償却保証額を上回っているため、この年は改定償却率を適用せず、200%定率法で計算された額をそのまま減価償却費として計上します。

3年目の減価償却費は1,440千円となります。

(補足:もし4年目以降を見ると、4年目の償却額864千円は保証額1,080千円を下回ります(864<1080)。このため4年目からは改定償却率(0.200)を適用し、残存簿価2,160千円に0.200を乗じた432千円ではなく、簿価を償却保証額などで均等に償却する計算に切り替わりますが、本問では3年目の計算のみが問われています。)

まとめ

ポイント1:取得原価の原則 購入による取得原価は、購入代価に、資産を**使えるようにするために要したコスト(付随費用)**を加算します。自家建設のための借入資本利子については、稼働前の期間に帰属する分に限り、取得原価に算入する処理が容認されています。

ポイント2:交換取引の判断基準 交換取引では、提供した固定資産と受け入れた資産が「同じ種類で、かつ同じ投資目的」であるかどうかの投資の継続/非継続の判断が重要です。継続している場合は提供資産の簿価、非継続の場合は提供資産の時価が取得原価となります。

ポイント3:割賦購入時の利息処理 割賦購入時には、支払総額から利息相当額(現⾦正価との差額)を分離し、利息部分は**『前払利息』**として処理します。取得原価は現⾦正価です。

ポイント4:資本的支出の定義 取得後の支出は、費用収益対応の原則に基づいて処理を判断します。耐用年数を延長する効果や、資産の価値を増加させる効果がある支出は『資本的支出』として取得原価に算入します。

ポイント5:新定率法の償却保証額 新定率法(200%定率法など)は、償却費が逓減していく方法であり、償却費が極端に少なくなるのを防ぐために償却保証額が設けられています。計算された減価償却費が償却保証額を下回る場合、償却方法が切り替わるため、毎期チェックが必要です。


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この記事を書いた人

簿記2級を取得し、現在簿記1級を勉強中。
学んだことを忘れないようにここでまとめてます。
普段は、会社で経理をしながら、経理・簿記関係の情報を発信。
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