問1(計算問題:無形固定資産の償却)
当社は×3年10月1日に商標権(取得原価 \1,800,000)を取得し、償却期間を15年、償却方法は定額法(月割計算)として採用している。 ×5年3月31日を決算日とする期末において、この商標権の減価償却仕訳(直接減額方式)を行いなさい。ただし、勘定科目は「商標権償却」を使用すること。
問2(計算問題:のれんの発生と償却)
当社は×6年4月1日にA社を吸収合併した。A社の資産の時価総額は\45,000,000、負債の時価総額は\32,000,000であった。合併にあたり、当社が支払った取得の対価は\15,000,000である。このとき発生した「のれん」について、償却期間を10年(定額法、月割なし)として設定した場合、×7年3月31日(決算日)に行う「のれん」の償却仕訳(直接減額方式)を行いなさい。ただし、勘定科目は「のれん償却額」を使用すること。
問3(選択肢問題:無形固定資産・繰延資産の正誤判定)
以下の記述のうち、誤っているものを一つ選びなさい。
- 借地権は、更新することが前提とされており、時間の経過とともに価値が減少するものではないため、減価償却を行わない。
- 繰延資産として計上される株式交付費の償却期間は、株式交付のときから5年以内と定められており、償却方法は定額法である。
- 繰延資産である開発費のP/L上の計上区分は、売上原価または販売費及び一般管理費に区分される。
- 無形固定資産の原則的な償却方法は、定額法であり、残存価額はゼロとして会計処理する。
問4(計算問題:繰延資産の償却)
当社は×9年1月1日に増資を行い、株式交付費として現金 \900,000を支払った。この株式交付費を繰延資産として計上し、最長期間にわたり定額法(月割計算)で償却する。×9年3月31日を決算日とする期末において行う償却仕訳を行いなさい。ただし、勘定科目は「株式交付費償却」を使用すること。
問5(計算問題:繰延資産の期中支出と償却)
当社は×10年12月1日に、新経営組織の採用のために開発費として現金 \1,000,000を支出した。この開発費を繰延資産として計上し、最長期間にわたり定額法(月割計算)で償却する。×11年3月31日を決算日とする期末において行う償却仕訳を行いなさい。**なお、計算結果に円未満の端数が生じた場合は、四捨五入しなさい。**ただし、勘定科目は「開発費償却」を使用すること。
問1
| 勘定科目 | 借方金額 | 勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 商標権償却 | 120,000 | 商標権 | 120,000 |
問2
| 勘定科目 | 借方金額 | 勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| のれん償却額 | 200,000 | のれん | 200,000 |
問3
- 繰延資産として計上される株式交付費の償却期間は、株式交付のときから3年以内と定められており、償却方法は定額法である。
問4
| 勘定科目 | 借方金額 | 勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 株式交付費償却 | 75,000 | 株式交付費 | 75,000 |
問5
| 勘定科目 | 借方金額 | 勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 開発費償却 | 66,667 | 開発費 | 66,667 |
1.無形固定資産、投資その他の資産、繰延資産
1.無形固定資産の定義と種類
無形固定資産とは、固定資産のうち物理的な形態をもたないが、長期にわたって経営活動に利用される資産を指します。
無形固定資産は、その性質から「法的権利」と「経済的財産」に大別されます。
1−1.法的権利
特定の権利やプログラムを独占的に使用できる資産です。
| 勘定科目 | 概要 |
|---|---|
| 特許権 | 一定期間、特許を受けた発明を独占的に使用できる権利。 |
| 商標権 | 一定期間、商品やサービスの目印となる商標を独占的に使用できる権利。 |
| 借地権 | 建物を建てるために土地を借りる権利。 |
| 鉱業権 | 特定の土地から鉱物を採掘する権利。 |
| ソフトウェア | コンピューターを動かすプログラム。 |
1−2.経済的財産
| 勘定科目 | 概要 |
|---|---|
| のれん(Goodwill) | 合併・買収で取得した他企業の純資産額を上回って支払った対価部分(超過収益力)をいいます。 |
2.無形固定資産の会計処理(減価償却)
無形固定資産は、有形固定資産と同様に減価償却を行います。
2−1.償却の原則
原則として、以下の方法により会計処理されます。
- 償却方法: 定額法。
- 残存価額: 0。
- 記帳方法: 直接減額方式。
2−2.償却の例外
いくつかの項目には、特殊な会計処理が定められています。
- 借地権:更新することが前提とされており、時間の経過とともに価値が減少するものではないため、減価償却はしません。
- 鉱業権:生産高比例法による償却も認められています。
- ソフトウェア:特定の会計基準(研究開発費等に係る会計基準)に従って会計処理されます。
3.投資その他の資産
投資その他の資産とは、固定資産のうち、有形固定資産にも無形固定資産にも分類されなかった資産をいいます。
この区分には、長期保有を目的とした金融商品関連の項目がほぼ表示されます。勘定科目の分類に迷った際、この区分を検討することがポイントとなります。
3−1.投資その他の資産の主な種類
代表的な勘定科目は以下の通りです。
- 投資有価証券: 満期保有目的債券やその他有価証券などが含まれます。
- 関係会社株式: 子会社株式や関連会社株式が含まれます。
- 金融派生商品: 一年基準により固定資産に分類される為替予約や金利スワップ資産などが含まれます。
4.繰延資産の定義と特徴
繰延資産とは、既に代価の支払が完了し、または支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用をいいます。
4−1.繰延資産の構造的特徴
繰延資産の最大の特徴は、「既費消・既支出」である点です。
- 既費消: 既にサービスを使ってしまっていることを意味します。
- 既支出: 実質的に支払いが終わっていることを意味します。
この特徴から、繰延資産は財産的価値や換金性はもう残っていません。しかし、費用収益対応の原則に基づき、支出額を将来の収益に対応させる目的で、経過的に貸借対照表(B/S)上に資産として計上し、徐々に費用化することが認められています。
4−2.会計上の位置づけ(動態論的会計)
企業会計における貸借対照表観のうち、収益力を重視する動態論的会計の立場では、繰延資産を計上することができます。これは、費用収益対応の原則に基づいた適正な期間損益計算を行うためです。
5.繰延資産の限定列挙と償却処理
繰延資産は、無形固定資産とは異なり、その種類が特定の5項目に限定列挙されています(容認規定)。原則的な処理はあくまで発生時に費用処理ですが、以下の5項目については資産計上が容認されています。
償却処理の原則として、残存価額は0、**月割で費用化(償却)**します。また、支出の効果が期待されなくなった場合、未償却残高はその期に全額費用化されます。
5−1.繰延資産の5項目と償却期間
| 項目 | 概要 | 最長償却期間 | 償却方法 | P/L上の区分 |
|---|---|---|---|---|
| ① 株式交付費 | 新株の発行や自己株式の処分に係る費用。 | 交付のときから3年以内。 | 定額法。 | 営業外費用(財務費用)。 |
| ② 社債発行費等 | 社債等の発行に係る費用。 | 社債の利用期間。 | 原則:利息法(定額法も可)。 | 営業外費用(財務費用)。 |
| ③ 創立費 | 企業の設立に係る費用。 | 成立のときから5年以内。 | 定額法。 | 営業外費用。 |
| ④ 開業費 | 会社成立後、営業開始に係る費用。 | 開業のときから5年以内。 | 定額法。 | 営業外費用(販売費及び一般管理費も可)。 |
| ⑤ 開発費 | 新技術の採用、資源開発、市場開拓等の費用。 | 支出のときから5年以内。 | 定額法その他合理的な方法。 | 売上原価または販売費及び一般管理費。 |
(※注:社債発行費等のうち、新株予約権発行費は、株式交付費と同様に3年以内償却です。)
問題解説
問1 解説
本問は、無形固定資産である商標権の減価償却費を月割計算により算定する問題です。無形固定資産は、原則として定額法、残存価額ゼロ、直接減額方式で償却します。
【考え方】
- 減価償却費の年額を算定します。
- 取得日から決算日までの月数(当期の利用期間)を算定し、月割計算で当期償却費を求めます。
【解法手順】
- 年間償却費の算定: 年間償却費 = 取得原価 ÷ 償却期間 年間償却費 = \1,800,000 ÷ 15年 = \120,000
- 当期償却月数の算定: 当期(×4年4月1日〜×5年3月31日)において、商標権は期首から期末までフルに使用されています。 償却月数 = 12か月
- 当期減価償却費(月割)の算定: 当期償却費 = \120,000 × (12か月 / 12か月) = \120,000
直接減額方式では、費用科目(商標権償却)で計上し、資産科目(商標権)を直接減少させます。
【背景と補足】 無形固定資産の償却において、直接減額方式(資産の残高を直接減らす方法)が採用されるのは、前T/B(決算整理前残高試算表)の残高に前期以前の償却費が既に反映されているため、当期償却費を改めて把握する必要があるからです。本問のように期首から償却が開始されている場合、年間償却費をそのまま計上しますが、期中に取得した場合は月割計算が必要となります。また、借地権を除き、無形固定資産は時の経過とともにその価値が減少すると考えられ償却対象となります。
問2 解説
本問は、企業結合時に発生した「のれん」の金額を算定し、その償却費を計上する問題です。のれんは、被買収企業の純資産の時価を超過して支払った対価の部分(超過収益力)として発生します。
【考え方】
- A社の純資産の時価を算定します。
- 支払対価と純資産の時価を比較し、「のれん」の発生額を算定します。
- 発生したのれんを償却期間(10年)で均等償却します。
【解法手順】
- A社の純資産の時価算定: 純資産の時価 = 資産の時価総額 - 負債の時価総額 純資産の時価 = \45,000,000 - \32,000,000 = \13,000,000
- のれんの発生額算定: のれん発生額 = 支払対価 - 純資産の時価 のれん発生額 = \15,000,000 - \13,000,000 = \2,000,000
- 当期(×6年4月1日〜×7年3月31日)の償却費算定: のれんは償却期間10年で定額償却します。本問では月割計算を行わないため、年額をそのまま計上します。 年間償却費 = \2,000,000 ÷ 10年 = \200,000
のれんは無形固定資産であり、直接減額方式で会計処理されます。
【背景と補足】 のれんは「経済的財産」に分類される無形固定資産であり、合併・買収を通じて取得される超過収益力を表します。償却期間は一般に20年以内とされていますが、本問では10年と設定されており、設定された期間で合理的に費用化します。この会計処理は、企業の将来的な収益力開示という動態論的会計の考え方にも沿っています。
問3 解説
本問は、無形固定資産及び繰延資産に関する原則や償却期間の知識を問う選択肢問題です。
- 記述1(借地権): 借地権は更新が前提であり、時間の経過とともに価値が減少するものではないため、償却しないという記述は正しいです。
- 記述2(株式交付費): 株式交付費は繰延資産の5項目の一つですが、その最長償却期間は株式交付のときから3年以内です。記述では「5年以内」とされているため、この記述が誤りです。「ソウ・カイ・カイ」(創立費・開業費・開発費)が5年以内です。
- 記述3(開発費のP/L区分): 開発費は、その性質が主たる営業に近いことから、売上原価または販売費及び一般管理費に区分されます。これは正しい記述です。
- 記述4(無形固定資産の原則償却): 無形固定資産は、有形固定資産と同様に原則として定額法で償却し、残存価額は0とするという記述は正しいです。
したがって、記述2が誤りです。繰延資産の各項目の償却期間は、簿記1級の重要論点であり、正確に把握しておく必要があります。
問4 解説
本問は、繰延資産である株式交付費の償却処理に関する問題です。株式交付費は、会社の規模拡大のための費用であり、最長償却期間は3年(36か月)と定められています。
【考え方】
- 株式交付費の最長償却期間(3年)を確認します。
- 取得時(×9年1月1日)から決算日(×9年3月31日)までの月数を計算し、月割で償却費を求めます。
【解法手順】
- 償却期間の確認: 株式交付費の最長償却期間は3年(36か月)です。
- 当期償却月数の算定: ×9年1月1日〜×9年3月31日の3か月分を償却します。
- 当期償却費の算定(月割計算): 年間償却費 = \900,000 ÷ 3年 = \300,000 当期償却費 = \900,000 × (3か月 / 36か月) = \75,000
繰延資産は無形固定資産と同様に、残存価額0、月割で費用化(償却)し、直接減額方式で処理します。株式交付費のP/L区分は、財務費用として営業外費用に区分されます。
【背景と補足】 繰延資産は、あくまで「費用化を繰り延べた」ものであり、その効果が及ぶ数期間に合理的に配分する目的で資産計上されます。本問の株式交付費のように、会社の存続期間すべてにわたり効果があると考えられる費用でも、継続企業の公準との関係から償却期間を限定しています。
問5 解説
本問は、繰延資産である開発費の償却に関する問題です。開発費は、新経営組織の採用などのために支出した費用であり、「ソウ・カイ・カイ」の一つとして最長償却期間は5年(60か月)です。また、本問では計算結果の四捨五入が求められています。
【考え方】
- 開発費の最長償却期間(5年)を確認します。
- 支出時(×10年12月1日)から決算日(×11年3月31日)までの月数を計算し、月割で償却費を求めます。
【解法手順】
- 償却期間の確認: 開発費の最長償却期間は5年(60か月)です。
- 当期償却月数の算定: ×10年12月1日〜×11年3月31日(12月、1月、2月、3月)の4か月分を償却します。
- 当期償却費の算定(月割計算): 当期償却費 = \1,000,000 × (4か月 / 60か月) 当期償却費 = \66,666.666…
- 四捨五入の実施: 問題の指示に従い、円未満を四捨五入します。 当期償却費 = \66,667
開発費は、売上原価または販売費及び一般管理費に区分されます。本問では、償却額の算定に加えて、小数点以下の処理まで正確に行うことが要求されています。
【背景と補足】 繰延資産の償却期間は、創立費や開業費と同様に最長5年ですが、開発費は償却方法として「定額法その他合理的な方法」が認められている点が異なります。また、開発費は、営業活動に直結する性格が強いことから、P/L上の区分が、営業外費用ではなく売上原価や販管費となる点も重要です。
まとめ
ポイント1:無形固定資産の償却原則と例外 無形固定資産の減価償却は、原則として定額法、残存価額0、直接減額方式で行われます。例外として、借地権は償却せず、鉱業権は生産高比例法も認められています。また、「のれん」は取得した純資産額を超過して支払った対価であり、償却期間は最長20年とされています。
ポイント2:投資その他の資産のスコープ 投資その他の資産は、有形・無形に分類されない固定資産であり、長期保有を目的とする金融商品関連の項目(満期保有目的債券、子会社株式、長期デリバティブなど)が幅広く含まれる区分です。
ポイント3:繰延資産の構造的理解 繰延資産は、「既に役務の提供を受け、支払いも完了している」という既費消・既支出の性質を持ちます。そのため財産的価値はありませんが、費用収益対応の原則に基づき、動態論的会計の立場から資産計上(容認規定)が認められています。
ポイント4:繰延資産の限定列挙(5項目) 繰延資産として資産計上できる項目は、株式交付費、社債発行費等、創立費、開業費、開発費の5項目に限定されています。原則は発生時費用処理であり、資産計上は容認規定である点に注意が必要です。
ポイント5:繰延資産の償却期間の暗記法 繰延資産の最長償却期間は、「創(ソウ)・開(カイ)・開(カイ)」(創立費、開業費、開発費)の3項目は5年以内であると覚えておくと効率的です。株式交付費と新株予約権発行費は3年以内、社債発行費は社債の利用期間です。
特許権、商標権などは、建物のような形はないけれども、将来にわたって効果をもたらす資産を無形固定資産といいます。
無形固定資産の例
- 特許権・・・新たな発明を独占的に利用できる権利
- 商標権・・・文字などの商標を独占的に利用できる権利
- のれん・・・合併や買収で取得したノウハウなどで他社に対して優位になるもの
権利以外にもソフトウエアなど形がないものも無形固定資産です。
その他の問題は「繰延資産の支払時の仕訳]」、「無形固定資産を償却する際の仕訳」など。
理論問題は「理論問題-企業会計原則-3(貸借対照表)」


















