問1:製造間接費の実際配賦と勘定記入
以下の資料に基づき、製造間接費の実際配賦率と、製造指図書#201に対する製造間接費の配賦額を求めなさい。また、製造間接費の配賦に関する仕訳を示しなさい。
〔資料〕 当社は個別原価計算制度を採用しており、製造間接費は直接作業時間を基準として実際配賦している。 当月のデータは次のとおりである。
- 製造間接費の実際発生額:180,000円
- 当月の総直接作業時間:150時間
- 製造指図書#201の直接作業時間:70時間
問2:製造間接費の予定配賦計算
以下の資料に基づき、製造間接費の予定配賦率と、当月完成した製造指図書#305に対する製造間接費の配賦額を求めなさい。
〔資料〕 当社は個別原価計算制度を採用しており、製造間接費は直接作業時間を基準として予定配賦している。 製造間接費の予算に関するデータは次のとおりである。
製造指図書#305の実際直接作業時間:85時間
年間の製造間接費予算額:3,000,000円
年間基準操業度(期待実際操業度):2,500時間 当月のデータは次のとおりである。
問3:製造間接費配賦差異の計算
以下の資料に基づき、製造間接費配賦差異の金額を求め、有利差異か不利差異かを答えなさい。
〔資料〕 当社は製造間接費を直接作業時間を基準として予定配賦している。
- 当月の予定配賦額:230,000円
- 当月の製造間接費実際発生額:255,000円
問4:固定予算における製造間接費配賦差異の分析
以下の資料に基づき、製造間接費配賦差異を求め、さらに予算差異と操業度差異に分析しなさい。
〔資料〕 当社は製造間接費を直接作業時間を基準として予定配賦している。 製造間接費の予算に関するデータは次のとおりである。
- 製造間接費の年間予算額:2,880,000円(固定予算)
- 年間基準操業度:2,400時間 当月のデータは次のとおりである。
- 製造間接費の当月実際発生額:260,000円
- 当月の実際操業度:210時間
問5:変動予算における製造間接費配賦差異の分析
以下の資料に基づき、製造間接費配賦差異を求め、さらに予算差異と操業度差異に分析しなさい。
〔資料〕 当社は製造間接費を直接作業時間を基準として予定配賦している。 製造間接費の予算に関するデータは次のとおりである。
- 製造間接費の年間予算額:2,700,000円(変動予算)
- うち固定費:1,620,000円
- 年間基準操業度:2,700時間 当月のデータは次のとおりである。
- 製造間接費の当月実際発生額:205,000円
- 当月の実際操業度:190時間
問1:製造間接費の実際配賦と勘定記入
- 製造間接費の実際配賦率:1,200円/時間
- 製造指図書#201に対する製造間接費の配賦額:84,000円
- 製造間接費の配賦についての仕訳:
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
仕掛品 | 180,000円 | 製造間接費 | 180,000円 |
問2:製造間接費の予定配賦計算
- 製造間接費の予定配賦率:1,200円/時間
- 製造指図書#305に対する製造間接費の配賦額:102,000円
問3:製造間接費配賦差異の計算
- 製造間接費配賦差異:25,000円(借方差異/不利差異)
問4:固定予算における製造間接費配賦差異の分析
- 製造間接費配賦差異:8,000円(借方差異/不利差異)
- 予算差異:20,000円(借方差異/不利差異)
- 操業度差異:12,000円(貸方差異/有利差異)
問5:変動予算における製造間接費配賦差異の分析
- 製造間接費配賦差異:15,000円(借方差異/不利差異)
- 予算差異:6,000円(貸方差異/有利差異)
- 操業度差異:21,000円(借方差異/不利差異)
製造間接費の配賦と配賦差異
製造原価には、特定の製品に直接的に紐づけられる「製造直接費」と、複数の製品の生産活動全体に共通して発生し、特定の製品に直接紐づけることが難しい「製造間接費」があります。この製造間接費を各製品に適切に配分するプロセスが製造間接費の配賦です。
製造間接費の配賦とは
製造直接費(直接材料費、直接労務費など)は、ある製品を作るためにいくらかかったかが明確にわかるため、その製品に直接的に費用を賦課(直課)します。 一方、製造間接費(例えば、工場全体の減価償却費、間接材料費、間接労務費など)は、個々の製品との直接的な関係が分かりにくい原価です。そのため、何らかの合理的な基準に基づいて、各製品に費用を配分する必要があります。この配分する作業を製造間接費の配賦と呼び、その際に使用する基準を配賦基準と呼びます。
(1)配賦基準
配賦基準は、企業の状況に応じて適切なものが選択されます。主要な配賦基準には以下の種類があります。
- 価額法(金額基準):
- 直接材料費
- 直接労務費
- 素価(そか):製造直接費(通常は直接材料費と直接労務費)の合計金額を指します。
- 時間法(時間基準):
- 直接作業時間
- 機械時間
- 数量法(数量基準):
- 製品の生産量
日商簿記1級の試験では、特に直接作業時間や直接労務費を配賦基準とする問題が多く出題される傾向にあります。
(2)実際配賦と予定配賦
製造間接費の配賦方法には、大きく分けて実際配賦と予定配賦の2種類があります。
- 実際配賦:製造間接費の実際発生額を、実際配賦率を用いて配賦する方法です。
- 予定配賦:あらかじめ設定された予定配賦率を用いて配賦する方法です。
原価計算基準では、原則として製造間接費を予定配賦することが定められています。これは、予定配賦がいくつかのメリットを持つためです。
2.製造間接費の実際配賦
実際配賦は、実際に発生した費用と活動量に基づいて配賦を行う方法です。
(1)実際配賦率
製造間接費の実際配賦率は、当月の製造間接費の実際発生額を当月の配賦基準数値で割って計算されます。
\(\text{実際配賦率} = \frac{\text{当月の製造間接費実際発生額}}{\text{当月の配賦基準数値}}
\)
(2)実際配賦額
各製品への製造間接費の実際配賦額は、実際配賦率に各製品の配賦基準数値を掛けて計算します。
\(\text{各製品への実際配賦額} = \text{当月の実際配賦率} \times \text{各製品の配賦基準数値}
\)
(3)勘定記入
製造間接費の実際配賦額は、製造間接費勘定から仕掛品勘定へ振り替えます。 例えば、製造間接費の実際配賦額が220,000円だった場合、以下のように仕訳を行います。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
仕掛品 | 220,000円 | 製造間接費 | 220,000円 |
3.製造間接費の予定配賦
予定配賦は、製造間接費の配賦額をあらかじめ定めた予定配賦率によって計算する方法であり、「正常配賦」とも呼ばれます。
予定配賦のメリット
予定配賦には、以下のような重要なメリットがあります。
- 迅速な計算が可能:実際配賦率は、製造間接費の実際発生額が確定するまで計算できません。しかし、製造間接費の集計には時間がかかることが多く、製品原価の計算が遅れる原因となります。予定配賦であれば、あらかじめ定めた予定配賦率を使うことで、迅速に配賦額や製品原価を計算できます。
- 製品単位原価の安定化:製造間接費の実際発生額は、季節的な要因や景気変動、突発的な修理などによって月ごとに大きく変動する可能性があります。この変動が、実際配賦率や製品の単位原価に大きな影響を与えてしまうことがあります。予定配賦を使用すると、年間を通じて安定した予定配賦率を用いるため、製品の単位原価の大きな変動を回避できます。
(1)予定配賦率
製造間接費の予定配賦率は、年間の製造間接費の予算額を年間の予定配賦基準数値で割って計算します。
\(\text{予定配賦率} = \frac{\text{年間の製造間接費予算額}}{\text{年間の予定配賦基準数値}}
\)
この計算式の分母にある「年間の予定配賦基準数値」を基準操業度と呼びます。また、分子の「製造間接費の予算額」は、基準操業度における製造間接費の予定発生額を意味します。 予定配賦率は、会計期間(通常1年)の期首に定められ、その後毎月の原価計算期間で配賦計算に用いられます。
(2)予定配賦額
各製品への製造間接費の予定配賦額は、予定配賦率に各製品の実際配賦基準数値を掛けて計算します。
\(\text{各製品への予定配賦額} = \text{予定配賦率} \times \text{各製品の実際配賦基準数値}
\)
各製品の実際配賦基準数値の合計は、当月の実際操業度を示します。したがって、製造間接費の予定配賦額の合計は、予定配賦率に当月の実際操業度を掛けて計算することもできます。
(3)勘定記入
製造間接費の予定配賦額も、実際配賦額と同様に製造間接費勘定から仕掛品勘定へ振り替えます。 例えば、製造間接費の予定配賦額が200,000円だった場合、以下のように仕訳を行います。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
仕掛品 | 200,000円 | 製造間接費 | 200,000円 |
(4)基準操業度(予定配賦率の分母)
基準操業度とは、予定配賦率の計算式の分母となる年間の予定配賦基準数値のことで、企業の状況に応じて以下のいずれかが選択されます。
- 実際的生産能力:理論的生産能力(最高の能率で操業が中断されない理想的な状態での操業水準)から、機械故障や修繕、工員の欠勤など、不可避な作業停止による生産量の減少分を差し引いて得られる、実現可能な年間の最大操業水準です。
- 平均操業度:販売上予想される季節的および景気変動の影響による生産量の増減を長期的に平均した操業水準です。
- 期待実際操業度:次の1年間に予想される操業水準です。
日商簿記1級の試験では、実際的生産能力と期待実際操業度がよく出題されます。
(5)製造間接費予算(予定配賦率の分子)
製造間接費予算の設定方法には、主に固定予算と変動予算の2つがあります。
- 固定予算:基準操業度に対する製造間接費予算を、他の操業度に対する予算としても適用する方法です。
- 特徴: 実際操業度が基準操業度と異なっていても、同じ予算額が適用されます。
- 問題点: 実際操業度が基準操業度より低かった場合でも、変動費の発生が抑えられたことが予算額に反映されないため、予算額と実際発生額を比較しても有用な情報が得られにくいという問題があります。管理上はあまり好ましくない方法とされています。
- 変動予算:製造間接費に変動費と固定費があることを考慮し、各操業度に応じた製造間接費予算を設定する方法です。
- 特徴: 実際操業度が基準操業度と異なる場合、実際操業度に応じた予算額が適用されます。このような予算設定方法を公式法変動予算と呼びます。
- 利点: 固定予算の問題点を解消し、実際操業度に応じた予算額が変動するため、実際発生額との比較によって無駄がなかったかを明確に把握できます。これは原価管理において非常に有用です。
変動予算には、公式法変動予算の他に、基準操業度を中心に、他のいくつかの操業度に対しても個別に予算を設定する実査法変動予算という方法もあります。
4.製造間接費配賦差異
製造間接費を予定配賦する場合、実際に発生した費用と、予定配賦率で計算された配賦額の間には差額が生じることがあります。この差額を製造間接費配賦差異と呼びます。
\(\text{製造間接費配賦差異} = \text{予定配賦額} – \text{実際発生額}
\)
- 計算結果がマイナスの場合:**借方差異(不利差異)**と呼ばれます。予定配賦額が実際発生額よりも少なかった、つまり費用を少なく見積もっていた、または使いすぎたことを意味します。
- 計算結果がプラスの場合:**貸方差異(有利差異)**と呼ばれます。予定配賦額が実際発生額よりも多かった、つまり費用を多く見積もっていた、または節約できたことを意味します。
勘定記入
製造間接費配賦差異は、製造間接費勘定からの振り替えによって記帳されます。
- 借方差異の場合(不利差異、費用が不足している状態):
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
製造間接費配賦差異 | ×××円 | 製造間接費 | ×××円 |
- (製造間接費勘定の貸方に配賦差異の金額が記帳されるため、貸方差異と勘違いしないように注意が必要です。)
- 貸方差異の場合(有利差異、費用が余っている状態):
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
製造間接費 | ×××円 | 製造間接費配賦差異 | ×××円 |
製造間接費配賦差異は、会計年度末に原則として売上原価に加減します(借方差異は売上原価に加算、貸方差異は売上原価から減算)。
5.配賦差異の分析
製造間接費配賦差異は、予算差異と操業度差異という2つの原因に分解することができます。この分析は、原価管理に役立てるために行われます。
予算差異、操業度差異のどちらも実際操業度に対する予算額を用いて計算されます。この「実際操業度に対する予算額」は、製造間接費予算の設定方法(固定予算か変動予算か)によって異なるため、予算差異と操業度差異の金額もそれに伴って異なります。
(1)固定予算における配賦差異の分析
固定予算では、基準操業度に対する予算額がそのまま実際操業度に対する予算額として適用されます。
- 予算差異:実際操業度に対する予算額(=基準操業度に対する予算額)と実際発生額の差です。
\text{予算差異} = \text{実際操業度に対する予算額} – \text{実際発生額}
\)
固定予算の場合、実際操業度が基準操業度と異なっても予算額は固定されているため、この予算差異は原価管理上あまり有用ではありません。
操業度差異:予定配賦額と実際操業度に対する予算額の差です。
\(\text{操業度差異} = \text{予定配賦額} – \text{実際操業度に対する予算額}
\)
操業度差異は、基準操業度と実際操業度が異なることによって生じる差異であり、以下の計算式でも求めることができます。
\(\text{操業度差異} = \text{予定配賦率} \times (\text{実際操業度} – \text{基準操業度})
\)
固定予算では、\(\text{製造間接費配賦差異} = \text{予算差異} + \text{操業度差異}\) となります。
(2)変動予算における配賦差異の分析
変動予算(公式法変動予算)では、操業度に応じて予算額が変動するため、基準操業度に対する予算額と実際操業度に対する予算額は異なる金額となります。
変動予算における予定配賦率は、以下の変動費率と固定費率に分けて考えることができます。
- 変動費率:
\text{変動費率} = \frac{\text{基準操業度に対する変動費予算額}}{\text{基準操業度}}
\)
固定費率:
\(\text{固定費率} = \frac{\text{基準操業度に対する固定費予算額}}{\text{基準操業度}}
\)
そして、予定配賦率は 変動費率 + 固定費率 で計算されます。
予算差異:実際操業度に対する予算額(予算許容額とも呼ばれます)と実際発生額の差です。
\(\text{予算差異} = \text{実際操業度に対する予算額} – \text{実際発生額}
\)
実際操業度に対する予算額は、以下の式で計算されます。
\(\text{実際操業度に対する予算額} = (\text{変動費率} \times \text{実際操業度}) + \text{固定費予算額}
\)
変動予算では、実際操業度に応じた予算額が反映されるため、原価管理にとって有用な予算差異を計算することができます。
操業度差異:予定配賦額と実際操業度に対する予算額の差です。
\(\text{操業度差異} = \text{予定配賦額} – \text{実際操業度に対する予算額}
\)
操業度差異は、以下の計算式でも求めることができます。
\(\text{操業度差異} = \text{固定費率} \times (\text{実際操業度} – \text{基準操業度})
\)
変動予算の場合も、\(\text{製造間接費配賦差異} = \text{予算差異} + \text{操業度差異}\) となります。この差異分析を視覚的に表現した図を「シュラッター図」と呼ぶことがあります。
問題解説
問1:製造間接費の実際配賦と勘定記入
この問題は、製造間接費の実際配賦の基本的な計算と仕訳の理解を問うものです。まず、総実際発生額と総配賦基準数値から実際配賦率を計算し、次にその率を使って特定の指図書への配賦額を算出します。最後に、配賦された製造間接費を仕掛品勘定へ振り替える仕訳を行います。
【考え方と手順】
- 実際配賦率の計算: 製造間接費の実際発生額を、当月の総直接作業時間で割って1時間あたりの実際配賦率を求めます。 \(\text{実際配賦率} = \frac{\text{製造間接費実際発生額}}{\text{当月の総直接作業時間}}\)
- 個別配賦額の計算: 計算した実際配賦率に、製造指図書#201の直接作業時間を掛けて、#201への配賦額を算出します。 \(\text{製造指図書\#201への実際配賦額} = \text{実際配賦率} \times \text{製造指図書\#201の直接作業時間}\)
- 仕訳: 製造間接費の配賦では、製造間接費勘定から仕掛品勘定へ振り替える仕訳が必要です。この際、振り替える金額は、当月の総製造間接費実際発生額(総配賦額)となります。
【計算過程】
- 実際配賦率:180,000円 ÷ 150時間 = 1,200円/時間
- 製造指図書#201への配賦額:1,200円/時間 × 70時間 = 84,000円
- 仕訳の金額:当月の製造間接費実際発生額である180,000円が、製造間接費勘定から仕掛品勘定へ振り替えられます。これは、すべての製品への実際配賦額の合計が、実際発生額と一致するためです。
この問題を通じて、製造間接費がどのように各製品原価に組み込まれていくのか、その第一歩となる実際配賦のプロセスを確実に理解することが重要です。
問2:製造間接費の予定配賦計算
この問題は、製造間接費の予定配賦に関する計算プロセスを理解しているかを確認します。特に、年間予算額と年間基準操業度から予定配賦率を算出し、それを使って特定の期間や製品への予定配賦額を計算する能力が問われます。
【考え方と手順】
- 予定配賦率の計算: 年間の製造間接費予算額を、年間の基準操業度で割って、1時間あたりの予定配賦率を計算します。予定配賦率は、会計期間の期首に設定され、その後の原価計算期間を通じて使用される固定的な率です。 \(\text{予定配賦率} = \frac{\text{年間の製造間接費予算額}}{\text{年間の基準操業度}}\)
- 個別配賦額の計算: 計算した予定配賦率に、製造指図書#305の実際直接作業時間を掛けて、#305への予定配賦額を算出します。予定配賦は、実際操業度に基づいて計算される点に注意してください。
【計算過程】
- 予定配賦率:3,000,000円 ÷ 2,500時間 = 1,200円/時間
- 製造指図書#305への配賦額:1,200円/時間 × 85時間 = 102,000円
予定配賦は、実際発生額を待たずに迅速に製品原価を計算できるというメリットがあります。また、月々の製造間接費の変動に影響されず、安定した製品単位原価を把握できるため、原価管理上も非常に有用な方法です。簿記1級では、この予定配賦を前提とした問題が非常に多く出題されますので、計算の基本をしっかり押さえておくことが重要です。
問3:製造間接費配賦差異の計算
この問題は、予定配賦を行った場合に生じる「製造間接費配賦差異」の基本的な計算方法と、その評価(有利差異か不利差異か)を理解しているかを確認します。
【考え方と手順】
- 製造間接費配賦差異の計算: 製造間接費配賦差異は、「予定配賦額」から「実際発生額」を差し引くことで計算されます。 \(\text{製造間接費配賦差異} = \text{予定配賦額} – \text{実際発生額}\)
- 有利差異と不利差異の判断:
- 計算結果がプラス(予定配賦額 > 実際発生額)であれば、**貸方差異(有利差異)**です。これは、予想よりも費用が少なく済んだ、または節約できたことを意味します。
- 計算結果がマイナス(予定配賦額 < 実際発生額)であれば、**借方差異(不利差異)**です。これは、予想よりも費用が多くかかった、または無駄があったことを意味します。
【計算過程】
- 製造間接費配賦差異:230,000円 - 255,000円 = △25,000円
計算結果がマイナスであるため、借方差異となります。これは、予定よりも25,000円多く製造間接費が発生した、つまり不利な状況であったことを示しています。この差異は、最終的に売上原価に加減されることになりますが、その前に予算差異と操業度差異に分解されることで、発生原因が分析され、原価管理に役立てられます。配賦差異の把握は、原価管理における第一歩であり、非常に基本的ながら重要な概念です。
問4:固定予算における製造間接費配賦差異の分析
この問題は、固定予算を採用している場合の製造間接費配賦差異を、予算差異と操業度差異に分解する能力を試すものです。固定予算では、実際操業度が変動しても予算額は一定であるという特徴を理解しているかがポイントになります。
【考え方と手順】
- 月間基準操業度の計算: 年間基準操業度を12ヶ月で割って、月間の基準操業度を算出します。
- 月間固定予算額の計算: 年間予算額を12ヶ月で割って、月間の製造間接費予算額(固定予算額)を算出します。固定予算なので、この金額が「実際操業度に対する予算額」となります。
- 予定配賦率の計算: 年間予算額を年間基準操業度で割って、予定配賦率を算出します。
- 予定配賦額の計算: 計算した予定配賦率に、当月の実際操業度を掛けて、当月の予定配賦額を算出します。
- 製造間接費配賦差異の計算: 予定配賦額から実際発生額を差し引いて、総差異を求めます。
- 予算差異の計算: 固定予算の場合の予算差異は、月間固定予算額(実際操業度に対する予算額)から実際発生額を差し引いて求めます。
- 操業度差異の計算: 操業度差異は、予定配賦額から月間固定予算額(実際操業度に対する予算額)を差し引いて求めます。あるいは、予定配賦率に(実際操業度 - 月間基準操業度)を掛けて求めることもできます。
【計算過程】
- 月間基準操業度:2,400時間 ÷ 12ヶ月 = 200時間
- 月間固定予算額:2,880,000円 ÷ 12ヶ月 = 240,000円
- 予定配賦率:2,880,000円 ÷ 2,400時間 = 1,200円/時間
- 予定配賦額:1,200円/時間 × 210時間 = 252,000円
- 製造間接費配賦差異:252,000円 - 260,000円 = △8,000円(借方差異)
- 予算差異:240,000円(実際操業度に対する予算額)- 260,000円 = △20,000円(借方差異)
- 操業度差異:252,000円(予定配賦額)- 240,000円(実際操業度に対する予算額)= 12,000円(貸方差異) または、1,200円/時間 ×(210時間 - 200時間)= 12,000円(貸方差異)
固定予算の予算差異は、操業度の変動を考慮しないため、原価管理上の有用性は限定的です。しかし、操業度差異は、実際操業度が基準操業度と異なることによって発生した差異を明確に示しており、生産量の変動が原価に与える影響を把握する上で役立ちます。グラフをイメージしながら各差異の計算範囲を理解すると、より深く理解できます。
問5:変動予算における製造間接費配賦差異の分析
この問題は、変動予算を採用している場合の製造間接費配賦差異を、予算差異と操業度差異に分解する能力を問うものです。変動予算では、操業度に応じて予算額が変動する点を正確に捉えることが重要です。
【考え方と手順】
- 月間基準操業度の計算: 年間基準操業度を12ヶ月で割ります。
- 月間変動費予算額・月間固定費予算額の計算: 年間変動費予算額、年間固定費予算額をそれぞれ12ヶ月で割って、月間の予算額を算出します。
- 年間変動費予算額は、年間予算額から年間固定費を差し引いて求めます。
- 変動費率・固定費率の計算: 月間変動費予算額を月間基準操業度で割って変動費率を、月間固定費予算額を月間基準操業度で割って固定費率を算出します。
- 予定配賦率の計算: 年間予算額を年間基準操業度で割るか、変動費率と固定費率を合計して求めます。
- 予定配賦額の計算: 計算した予定配賦率に、当月の実際操業度を掛けて、当月の予定配賦額を算出します。
- 製造間接費配賦差異の計算: 予定配賦額から実際発生額を差し引いて、総差異を求めます。
- 実際操業度に対する予算額(予算許容額)の計算: 変動費率に実際操業度を掛け、これに固定費予算額を加えることで算出します。 \(\text{実際操業度に対する予算額} = (\text{変動費率} \times \text{実際操業度}) + \text{月間固定費予算額}\)
- 予算差異の計算: 実際操業度に対する予算額から実際発生額を差し引いて求めます。
- 操業度差異の計算: 予定配賦額から実際操業度に対する予算額を差し引いて求めます。あるいは、固定費率に(実際操業度 - 月間基準操業度)を掛けて求めることもできます。
【計算過程】
- 月間基準操業度:2,700時間 ÷ 12ヶ月 = 225時間
- 年間変動費予算額:2,700,000円 - 1,620,000円 = 1,080,000円
- 月間変動費予算額:1,080,000円 ÷ 12ヶ月 = 90,000円
- 月間固定費予算額:1,620,000円 ÷ 12ヶ月 = 135,000円
- 変動費率:90,000円 ÷ 225時間 = 400円/時間
- 固定費率:135,000円 ÷ 225時間 = 600円/時間
- 予定配賦率:400円/時間 + 600円/時間 = 1,000円/時間
- 予定配賦額:1,000円/時間 × 190時間 = 190,000円
- 製造間接費配賦差異:190,000円 - 205,000円 = △15,000円(借方差異)
- 実際操業度に対する予算額(予算許容額):(400円/時間 × 190時間)+ 135,000円 = 76,000円 + 135,000円 = 211,000円
- 予算差異:211,000円(実際操業度に対する予算額)- 205,000円(実際発生額)= 6,000円(貸方差異)
- 操業度差異:190,000円(予定配賦額)- 211,000円(実際操業度に対する予算額)= △21,000円(借方差異) または、600円/時間 ×(190時間 - 225時間)= △21,000円(借方差異)
変動予算を用いた差異分析は、固定予算よりも詳細な情報を提供し、原価管理の有効性を高めます。予算差異が操業度の影響を除外して予算達成度を示すのに対し、操業度差異は固定費の未吸収・過吸収を表します。各差異の意義と計算プロセスを正確に理解し、シュラッター図のイメージで各要素の関係性を捉える練習を重ねることが、簿記1級合格への鍵となります。
【まとめ】
- ポイント1:製造間接費の配賦の必要性 製造間接費は特定の製品に直接紐づかないため、配賦基準(直接作業時間、直接労務費など)を用いて各製品に合理的に配分する必要があります。特に直接作業時間が試験でよく出題されます。
- ポイント2:実際配賦と予定配賦の使い分け 配賦方法には実際配賦と予定配賦があり、実務上は予定配賦が原則です。予定配賦は、迅速な計算と製品単位原価の安定化というメリットがあります。
- ポイント3:予定配賦率の計算式と構成要素 予定配賦率は、\(\frac{\text{年間の製造間接費予算額}}{\text{年間の予定配賦基準数値(基準操業度)}}\) で計算されます。基準操業度には実際的生産能力や期待実際操業度、製造間接費予算には固定予算と変動予算があることを理解することが重要です。
- ポイント4:製造間接費配賦差異の把握 予定配賦を行った場合、予定配賦額と実際発生額の差額が製造間接費配賦差異となります (\(\text{予定配賦額} – \text{実際発生額}\))。マイナスは借方差異(不利)、プラスは貸方差異(有利)と評価されます。
- ポイント5:配賦差異の分析(固定予算 vs. 変動予算) 配賦差異は予算差異と操業度差異に分解されます。特に、固定予算と変動予算でそれぞれ計算式が異なる点に注意が必要です。変動予算の方がより精緻な管理に役立ちます。