【簿記1級】1株当たり当期純利益(EPS)の基礎と潜在株式による希薄化効果

問題

当期は×2年3月31日を決算日とする1年である。なお、計算過程で生じる1株未満の端数は四捨五入する。また、計算過程で生じる円未満の端数は小数点以下第3位を四捨五入する。ただし、解答は整数となるように四捨五入または切り捨てて解答することとする。

問1(計算問題:基本EPS)

以下の資料に基づき、1株当たり当期純利益を算定しなさい。

[資料]

  • 普通株式のみを発行している。当期首(×1年4月1日)の発行済株式総数は50,000株である。
  • 当期純利益は250,000円である。
  • 期中に株式の増減はない。

問2(計算問題:自己株式調整)

以下の資料に基づき、1株当たり当期純利益を算定しなさい。

[資料]

  • 普通株式のみを発行している。当期首(×1年4月1日)の発行済株式総数は100,000株である。
  • 当期純利益は900,000円である。
  • 当期首より自己株式10,000株を継続して保有している。

問3(選択肢問題:概念理解)

1株当たり当期純利益の注記に関する以下の記述のうち、最も適切でないものを選びなさい。

  1. 投資家が意思決定を行うにあたって、1株当たり当期純利益に関する情報は有用である。
  2. 「1株当たり当期純利益」は、当期に純損失が生じた場合でも「1株当たり当期純損失」として注記されるケースが含まれる。
  3. 制度上、「1株当たり当期純利益金額」と「潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額」の注記は不要である。
  4. 新株予約権は、将来普通株式に転換される可能性があるため、潜在株式に該当する。

問4(計算問題:潜在株式調整後EPS)

以下の資料に基づき、潜在株式調整後1株当たり当期純利益を算定しなさい。

[資料]

  • 普通株式に係る当期純利益:700,000円
  • 普通株式の期中平均株式数:100,000株
  • 潜在株式の期中平均株式数(普通株式増加数):20,000株
  • 潜在株式の調整による当期純利益調整額:20,000円

問5(計算問題:希薄化効果の判定)

問4の資料に基づき、基本EPS(調整前)を算定し、潜在株式調整後1株当たり当期純利益との比較により、希薄化効果の有無を判定しなさい。


<答え>
問題解答
問15円
問210円
問33
問46円
問5希薄化効果を有する

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1株当たり当期純利益(EPS)の意義と開示義務

投資家が企業の収益力を評価し、投資に関する意思決定を行うにあたっては、1株当たり当期純利益に関する情報は非常に有用であると考えられています。これは、企業が獲得した当期純利益を、発行済株式数で割ることで、株式1株あたりがどれだけの利益を生み出しているかを測定する指標です。英語ではEarnings Per Shareといい、EPSと略されることがあります。

さらに、市場に流通している株式以外にも、将来普通株式に転換される可能性のある「潜在株式」の発行が予定されている場合には、それらを調整したあとの1株当たり当期純利益の情報に対しても投資家のニーズがあると言えます。

そのため、制度上、上場企業などは投資家への情報提供を目的として、**「1株当たり当期純利益金額」「潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額」**の両方を財務諸表の注記として開示しなければならないこととされています。

1株当たり当期純利益(基本EPS)の算定

1株当たり当期純利益(基本EPS)は、以下の算式により算定します。

普通株式に係る当期純利益(分子) 算定式の分子となる「普通株式に係る当期純利益」は、当期純利益から、もし種類株式(配当が優先される優先株式など)が存在する場合にその配当額を控除した額となります。ただし、通常、普通株式のみを発行している場合は、当期純利益をそのまま用います。

普通株式の期中平均株式数(分母) 算定式の分母には**「普通株式の期中平均株式数」**を用います。期中平均株式数とは、期中に株式の発行や消却があった場合に、その増減がその期の経営活動にどれだけ貢献したかを考慮し、日割りで加重平均して計算した株式数です。

$$ \text{1株当たり当期純利益} = \frac{\text{普通株式に係る当期純利益}}{\text{普通株式の期中平均株式数}} \text{\(\text{1株当たり当期純利益} = \frac{\text{普通株式に係る当期純利益}}{\text{普通株式の期中平均株式数}}\)} $$

h4 自己株式を所有している場合の調整 企業が自己株式を所有している場合、その自己株式は市場に流通しておらず、利益を生み出す源泉とはみなされません。そのため、自己株式を所有している場合の算式では、分母の「普通株式の期中平均株式数」から「普通株式の期中平均自己株式数」を控除して算定します。

$$ \text{1株当たり当期純利益} = \frac{\text{普通株式に係る当期純利益}}{\text{普通株式の期中平均株式数} – \text{普通株式の期中平均自己株式数}} \text{\(\text{1株当たり当期純利益} = \frac{\text{普通株式に係る当期純利益}}{\text{普通株式の期中平均株式数} – \text{普通株式の期中平均自己株式数}}\)} $$

なお、「1株当たり当期純利益」は、当期に純損失が生じた場合の**「1株当たり当期純損失」**のケースも含まれます。

潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定と希薄化効果

潜在株式とは、将来普通株式に転換される可能性のある金融商品であり、具体的には、新株予約権や転換社債型新株予約権付社債などがこれに該当します。

潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、これらの潜在株式がすべて普通株式に転換されたと仮定して算定します。

潜在株式調整後EPSの算定式 算定式では、分子と分母の両方に調整を加えます。

$$ \text{潜在株式調整後EPS} = \frac{\text{普通株式に係る当期純利益} + \text{調整額}}{\text{普通株式の期中平均株式数} + \text{普通株式増加数}} \text{\(\text{潜在株式調整後EPS} = \frac{\text{普通株式に係る当期純利益} + \text{調整額}}{\text{普通株式の期中平均株式数} + \text{普通株式増加数}}\)} $$

  • 調整額:潜在株式が転換された場合に生じる当期純利益への影響額です。例えば、転換社債型新株予約権付社債の支払利息は、転換により支払いが不要になるため、利息相当額が調整額として利益に加算されます。
  • 普通株式増加数:潜在株式が転換されたと仮定した場合に増加する普通株式の数(期中平均株式数)です。

希薄化効果の判定 この算定の結果、潜在株式調整後1株当たり当期純利益が、調整前の1株当たり当期純利益を下回る場合には、当該潜在株式は**「希薄化効果」**を有すると判定されます。希薄化効果とは、潜在株式を考慮に入れることで、1株当たりの価値が薄くなることをいいます。



問題解説

問1(計算問題:基本EPS)

【問題の意図と考え方】 この問題は、自己株式や潜在株式といった調整要素がない場合の、**1株当たり当期純利益(基本EPS)**の最も基本的な算定式を適用できるかを確認するためのものです。簿記1級の複雑な論点を学ぶにあたり、基本の算定ロジックを確実に押さえていることが重要となります。期中に株式の増減がない場合、普通株式の期中平均株式数は、期首の発行済株式総数と一致します。

【解法手順】 基本EPSの算定式は、「普通株式に係る当期純利益」を「普通株式の期中平均株式数」で割って求めます。

  1. 分子(普通株式に係る当期純利益):250,000円
  2. 分母(普通株式の期中平均株式数):50,000株
  3. 計算:250,000円 ÷ 50,000株

【計算の背景】 EPSは、その企業が稼いだ利益が1株あたりどれくらいかを示す指標であり、企業の収益力を評価する上で基礎となるものです。分子の250,000円は株主全体に帰属する利益ですが、分母で株式総数(50,000株)で割ることで、株式市場で取引される最小単位である「1株」に利益を分配し直す意味合いがあります。

$$ \text{基本EPS} = \frac{250,000\text{円}}{50,000\text{株}} = 5\text{円} \text{\(\text{基本EPS} = \frac{250,000\text{円}}{50,000\text{株}} = 5\text{円}\)} $$

問2(計算問題:自己株式調整)

【問題の意図と考え方】 この問題は、基本EPSの算定において自己株式が存在する場合の、分母の調整方法を理解しているかを確認します。自己株式は、企業が自社株を保有している状態であり、市場に流通していないため、利益獲得に寄与しないものとみなされます。したがって、計算の公平性を保つため、分母の期中平均株式数から自己株式数を控除する必要があります。本問では期首から継続保有されているため、日割り計算は不要で、単純に株数を控除します。

【解法手順】

  1. 普通株式の期中平均株式数:期中に増減がないため、100,000株です。
  2. 控除する期中平均自己株式数:期首から継続して10,000株保有しているため、10,000株です。
  3. 分母(調整後株式数):100,000株 - 10,000株 = 90,000株
  4. EPS計算:900,000円 ÷ 90,000株

【計算の背景】 仮に自己株式の控除を行わずに計算すると、900,000円 / 100,000株 = 9円となります。しかし、実際に利益を享受する権利を持つのは流通している90,000株の株主のみです。自己株式を分母から控除することで、実際に外部に流通している株式のみを対象とした、より正確な1株当たりの利益(900,000円 / 90,000株 = 10円)を算出することができます。もし期中に自己株式の取得や処分があった場合は、保有期間を考慮した日割り計算が必要となりますが、本問では計算過程の理解を優先するため単純化しています。

$$ \text{基本EPS} = \frac{900,000\text{円}}{100,000\text{株} – 10,000\text{株}} = \frac{900,000\text{円}}{90,000\text{株}} = 10\text{円} \text{\(\text{基本EPS} = \frac{900,000\text{円}}{100,000\text{株} – 10,000\text{株}} = \frac{900,000\text{円}}{90,000\text{株}} = 10\text{円}\)} $$

問3(選択肢問題:概念理解)

【問題の意図と考え方】 この問題は、EPS及び潜在株式調整後EPSに関する制度上の要件や概念的な理解を問うものです。簿記1級では、単に計算できるだけでなく、なぜその情報が必要とされ、どのようなものが潜在株式に該当するのかといった背景知識が問われます。特に、EPSの開示義務や純損失時の取り扱いについては、重要な制度上のルールとなります。

【選択肢の検証と解法手順】

  1. 適切です。 投資家が企業の収益力を評価し、意思決定を行う上でEPS情報は有用であるとされています。
  2. 適切です。 「1株当たり当期純利益」には、純損失が発生した場合の「1株当たり当期純損失」のケースも含まれるため、損失であっても注記は必要です。
  3. 適切ではありません。 制度上、「1株当たり当期純利益金額」と「潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額」は、投資家への有用性の観点から注記をしなければならないこととされています。したがって、注記が不要とする記述は誤りです。
  4. 適切です。 潜在株式とは、将来普通株式に転換される可能性のある金融商品であり、新株予約権や新株予約権付社債などがこれに該当します。

【計算の背景】 EPS関連の注記は、特に上場企業において重要な開示項目です。将来の株式価値の希薄化リスクまで含めた情報(潜在株式調整後EPS)を提供することで、投資家がより多角的に企業価値を評価できるようにする目的があります。選択肢3のように注記が不要であると誤解してしまうと、開示制度の根幹を理解していないことになります。

問4(計算問題:潜在株式調整後EPS)

【問題の意図と考え方】 この問題は、潜在株式が存在する場合に、それらがすべて普通株式に転換されたと仮定して算定する**「潜在株式調整後1株当たり当期純利益」**の計算式を適用できるかを確認します。潜在株式が転換されたと仮定すると、分母の株式数が増加するだけでなく、転換社債の利息のように、本来発生していた費用が不要になることで分子の利益も増加(調整)するという、分子・分母両方を調整する理解が求められます。

【解法手順】 潜在株式調整後EPSの算定式に資料の数値を当てはめます。

  1. 分子(調整後利益):普通株式に係る当期純利益(700,000円)に、潜在株式の調整による当期純利益調整額(20,000円)を加算します。
    • $700,000\text{円} + 20,000\text{円} = 720,000\text{円}$
  2. 分母(調整後株式数):普通株式の期中平均株式数(100,000株)に、潜在株式が転換されたと仮定した場合の普通株式増加数(20,000株)を加算します。
    • $100,000\text{株} + 20,000\text{株} = 120,000\text{株}$
  3. 潜在株式調整後EPS計算:720,000円 ÷ 120,000株

【計算の背景】 もし潜在株式が転換社債型新株予約権付社債であった場合、転換が完了すると、会社は社債の利息を支払う必要がなくなります。この利息相当額(20,000円)は、利益を増加させる効果(費用減少)を持つため、分子に加算して調整後の利益を計算します。これにより、あたかも期首から潜在株式がすべて普通株式であったかのように、将来の利益水準を反映したEPSを算定することができます。

$$ \text{潜在株式調整後EPS} = \frac{700,000\text{円} + 20,000\text{円}}{100,000\text{株} + 20,000\text{株}} = \frac{720,000\text{円}}{120,000\text{株}} = 6\text{円} \text{\(\text{潜在株式調整後EPS} = \frac{700,000\text{円} + 20,000\text{円}}{100,000\text{株} + 20,000\text{株}} = \frac{720,000\text{円}}{120,000\text{株}} = 6\text{円}\)} $$

問5(計算問題:希薄化効果の判定)

【問題の意図と考え方】 この問題は、潜在株式調整後EPSが、基本EPS(調整前)を下回るかどうかを比較することで、その潜在株式が希薄化効果を有するかどうかを判定するものです。潜在株式の開示において、希薄化効果の有無は非常に重要であり、簿記1級の計算問題では必ず問われる論点の一つです。反希薄化効果を持つ潜在株式は調整後EPSの算定には使用しないというルールを理解する前提となります。

【解法手順】

  1. 基本EPS(調整前)を算定:問4の資料の、潜在株式による調整前の数値を用います。
    • $700,000\text{円} / 100,000\text{株} = 7\text{円}$
  2. 潜在株式調整後EPS(問4の結果):6円
  3. 比較と判定:基本EPSと潜在株式調整後EPSを比較します。

【計算の背景】 基本EPS(7円)と比較して、潜在株式調整後EPS(6円)は1円下回っています。この結果は、もし将来すべての潜在株式が普通株式に転換されれば、1株あたりの利益が希薄化し、現在の収益力(7円)よりも低下することを示しています。投資家にとっては、この潜在的なリスク情報が重要であるため、開示が求められます。調整後EPSが調整前EPSを上回る、または同額になる場合は、反希薄化効果を持つとされ、算定・開示の対象外となります。

$$ \text{潜在株式調整後EPS}(6\text{円}) < \text{基本EPS}(7\text{円}) \text{\(\text{潜在株式調整後EPS}(6\text{円}) < \text{基本EPS}(7\text{円})\)} $$


まとめ

  • ポイント1(開示義務):投資家への有用性から、**「1株当たり当期純利益金額」「潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額」**は制度上、注記が義務付けられています。
  • ポイント2(基本算定式):基本EPSは、「普通株式に係る当期純利益」を「普通株式の期中平均株式数」で割って算定されます。
  • ポイント3(自己株式の調整):自己株式を所有している場合、分母である期中平均株式数から期中平均自己株式数を控除します。自己株式の保有日数は、取得日と決算日の両方を含めて算定します(両端入れ)。
  • ポイント4(純損失の取り扱い):当期に純損失が生じた場合でも、「1株当たり当期純損失」として注記に含まれます。
  • ポイント5(希薄化効果の定義):潜在株式調整後1株当たり当期純利益が、調整前の基本EPSを下回る場合、その潜在株式は希薄化効果を有すると判定されます。

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この記事を書いた人

簿記2級を取得し、現在簿記1級を勉強中。
学んだことを忘れないようにここでまとめてます。
普段は、会社で経理をしながら、経理・簿記関係の情報を発信。
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