問1 (仕訳問題)
以下の取引について、適切な仕訳を解答してください。
当社は、新製品の研究開発部門において、以下の支出を行いました。
- 研究開発専用の試験用機械装置を現金300,000円で購入した。
- 研究開発部門の従業員給与として、現金500,000円を支払った。
- 上記試験用機械装置の当期の減価償却費120,000円を計上した。
問2 (計算問題)
当社は製造業を営んでおり、新技術の開発のために発生した費用について、以下の情報を把握しています。
- 研究開発活動に該当する費用総額:800,000円
- このうち、当期製造費用として処理された研究開発費:300,000円
- 期末時点で完成品として残っている製品(期末棚卸資産)には、上記の当期製造費用として処理された研究開発費のうち30%が含まれていることが判明した。
このとき、期末棚卸資産に資産として計上されている研究開発費の金額はいくらになりますか。
問3 (選択肢問題)
研究開発費に関する以下の記述のうち、最も不適切なものはどれですか。適切な選択肢を選んでください。
ア. 研究開発費は、発生時に費用として処理されるのが原則である。 イ. 新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探求は、「開発」に該当する。 ウ. 研究開発目的のみに使用される機械装置の取得原価は、研究開発費に含まれる。 エ. 製造業において研究開発費が当期製造費用として処理された場合、期末に製品が売れ残ると、研究開発費が期末棚卸資産を構成することがある。
問4 (仕訳問題)
以下の取引について、適切な仕訳を解答してください。
当社は、市場販売目的のスマートフォン向けアプリケーションソフトの開発プロジェクトを完了し、その制作費のうち、無形固定資産として計上すべき費用が1,500,000円であった。この費用は現金で支払われたものとする。
問5 (計算問題)
当社は新しい化学素材の研究を行っており、その活動には以下の費用が発生しました。
- 研究員の人件費:4,500,000円
- 実験用材料費:1,200,000円
- 研究設備(専用設備ではない)の減価償却費のうち、研究活動に使用された部分:300,000円
- 上記とは別に、将来の収益獲得が確実視される新製品の開発のために、開発段階で発生した特別な費用(「開発費」に該当し、繰延資産として処理されるべきもの):1,000,000円
このとき、当期に費用として処理される「研究開発費」の合計額はいくらになりますか
問1 解答
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
研究開発費 | 300,000 | 現金 | 300,000 |
研究開発費 | 500,000 | 現金 | 500,000 |
研究開発費 | 120,000 | 減価償却累計額 | 120,000 |
問2 解答
90,000円
問3 解答
イ
問4 解答
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
ソフトウェア | 1,500,000 | 現金 | 1,500,000 |
問5 解答
6,000,000円
研究開発費とソフトウェアの会計処理
コンピュータやIT技術の急速な発展は、企業の活動においてソフトウェアの重要性を飛躍的に高めています。これに伴い、ソフトウェアの研究開発に投じられる費用も相当な規模になっています。このように「研究開発費」と「ソフトウェア」は密接な関係があるため、両者は「研究開発費等に係る会計基準」という一つの基準でまとめて会計処理が定められています。本記事では、この研究開発費とソフトウェアについて、簿記1級で求められる知識を深掘りして解説していきます。
1. 研究開発費とは
「研究開発費」とは、研究と開発に関する活動から生じる費用を指します。具体的に「研究」と「開発」が何を意味するのかを理解することが重要です。
(1) 研究とは
研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探求をいいます。例えば、未知の科学原理を探求する基礎研究や、新しい技術の可能性を探る応用研究などがこれに該当します。
(2) 開発とは
開発とは、研究の成果その他の知識を具体化することをいいます。これは、新しい製品やサービスに関する計画や設計、あるいは既存の製品やサービスを著しく改良するための計画や設計を指します。例えば、新薬の臨床試験や、新しい素材を使った製品の試作などが「開発」の活動に当たります。
補足として、研究開発は英語で「Research & Development」といい、略してR&Dと表記されることもあります。
2. 研究開発費に含まれる具体的な内容
研究開発費は、特定の費用科目だけでなく、研究開発活動のために消費されたあらゆる原価要素を含みます。
(1) 研究開発費に含まれる原価要素
研究開発費には、以下のような、研究開発のために使われたすべての原価が含まれます。
- 人件費: 研究開発部門の従業員の給料や手当など。
- 原材料費: 研究開発のために消費された材料の費用。
- 固定資産の減価償却費: 研究開発に使用された機械装置や建物の減価償却費。
- 特定の研究開発目的にのみ使用される固定資産の取得原価: 他の目的に転用できない機械装置や特許権などの取得原価も、発生時に研究開発費として処理されます。
つまり、どのような種類の費用であっても、それが**「研究開発」のために使われたものであれば、すべて「研究開発費」として計上される**ということです。
(2) 繰延資産としての「開発費」との関係
ここで注意が必要なのが、繰延資産の一つである「開発費」との区別です。両者は名称が似ているため混同しやすいですが、明確な区別があります。
- 研究開発費: 上記の「研究」や「開発」の定義に該当する費用は、すべて「研究開発費」として扱われます。
- 開発費: 「研究開発費」の定義には該当しないものの、「開発費」として認められる費用は、容認処理として繰延資産に計上することができます。
実務上は、「研究開発費」の定義に当てはまるかどうかをまず判断し、当てはまる場合はすべて「研究開発費」として費用処理します。そうではないが、「開発費」として資本化の要件を満たすものがあれば、繰延資産として計上することを検討します。
3. 研究開発費の会計処理
「研究開発費」の会計処理の最も重要な原則は、すべて発生時に費用として処理されるという点です。
(1) 発生時費用処理の原則
発生した研究開発費は、その期の費用として損益計算書に計上されます。この費用処理の方法には、主に以下の二つがあります。
- 一般管理費として処理する方法: 販売費及び一般管理費の一部として計上されます。これが原則的な処理方法です。
- 当期製造費用として処理する方法: 製造業などにおいて、研究開発が製品の製造活動に密接に関連している場合、当期の製造費用の一部として計上されることがあります。
(2) 製造業における例外
製造業で研究開発費が当期製造費用として処理された場合、一つの例外的な状況が発生することがあります。 もし、その研究開発費を投入して製造された製品が、期末時点でまだ販売されずに残っている(期末棚卸資産を構成している)場合、その棚卸資産の中に研究開発費が含まれることになります。 これは、「研究開発費は発生時に費用処理される」という原則がありながらも、結果的に期末時点で資産(棚卸資産)として計上される形になる、という点を理解しておく必要があります。
【設例による会計処理の確認】
- 当社で⾏っている研究開発⽬的のためにのみ使⽤される備品200,000円を現⾦で購⼊した。 研究開発のためだけに使われる備品は、取得時に研究開発費として費用処理します。 (借方) 研究開発費 200,000 / (貸方) 現金 200,000
- 機械装置の減価償却費100,000円のうち、半分は研究開発⽬的に該当すると判断された。 減価償却費のうち、研究開発目的で使用された部分のみを研究開発費とします。残りは通常の減価償却費として処理されます。 (借方) 減価償却費 50,000 (借方) 研究開発費 50,000 / (貸方) 機械装置減価償却累計額 100,000
- 研究開発部⾨の従業員に給料600,000円を現⾦で⽀払った。 研究開発部門の人件費も研究開発費として費用処理します。 (借方) 研究開発費 600,000 / (貸方) 現金 600,000
4. ソフトウェアの分類と会計処理
ソフトウェアの制作にかかる費用(制作費)は、その制作目的によって会計処理が大きく異なります。制作目的によって、将来の収益との対応の仕方が変わってくるため、これを正確に分類することが求められます。
まず、「研究開発目的のソフトウェア制作費」と「研究開発目的以外のソフトウェア制作費」に大別されます。
(1) 研究開発目的のソフトウェア制作費
文字通り、新しい知識の発見や具体的な製品・サービスの開発を目的として制作されるソフトウェアにかかる費用です。 この費用は、「研究開発費」として扱われ、発生時に全額費用処理されます。
(2) 受注制作のソフトウェア制作費
顧客からの注文を受け、その顧客のためだけにオーダーメイドで制作されるソフトウェアにかかる費用です。 この制作プロセスは、建設業における請負工事と非常に似ているため、工事契約の会計処理に準じた処理を行うこととされています。現在では、「収益認識に関する基準」の影響を受けるため、この基準に定める要件に当てはめて会計処理が行われます。
(3) 市場販売目的のソフトウェア制作費
ゲームソフトやアプリケーションソフトのように、大量に複製して市場で不特定多数の顧客に販売することを目的として制作されるソフトウェアにかかる費用です。 この制作費の一部は、貸借対照表(B/S)の無形固定資産の区分に「ソフトウェア」として計上されます。 償却方法には特徴があり、一般的な無形固定資産(特許権など)が定額法で償却されるのに対し、市場販売目的のソフトウェアは、見込販売数量や見込販売収益に基づいて償却されることとされています。
(4) 自社利用のソフトウェア制作費
自社が事業活動で利用し、それによって収益の獲得や費用の削減に役立てることを目的として制作されるソフトウェアにかかる費用です。例えば、自社内の経理システムや顧客管理システムなどが該当します。 この制作費も、一定の条件を満たした場合に、貸借対照表(B/S)の無形固定資産の区分に「ソフトウェア」として計上されます。
問題解説
問1 解説
この問題は、研究開発活動において発生する様々な費用の仕訳処理について問うものです。研究開発費は、それがどのような費用であっても、研究開発活動のために消費されたものであれば「研究開発費」として費用処理されるという原則を理解しているかがポイントとなります。
- 研究開発専用の試験用機械装置の購入: 特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に転用できない固定資産の取得原価は、発生時に研究開発費として費用処理します。これは資産計上ではなく、取得時費用処理である点に注意が必要です。 (借方) 研究開発費 300,000 / (貸方) 現金 300,000
- 研究開発部門の従業員給与の支払い: 研究開発活動に従事する従業員の人件費は、研究開発費の重要な要素です。これも発生時に費用処理します。 (借方) 研究開発費 500,000 / (貸方) 現金 500,000
- 試験用機械装置の減価償却費の計上: 減価償却費のうち、研究開発活動のために使用された部分も研究開発費として処理されます。ただし、この問題では「研究開発専用」とあるため、機械装置全体の減価償却費が研究開発費となります。 (借方) 研究開発費 120,000 / (貸方) 減価償却累計額 120,000 (または機械装置減価償却累計額)
このように、研究開発活動に関連するあらゆる費用が「研究開発費」という勘定科目で集計され、発生時に費用として処理されることを確認する問題でした。
問2 解説
この問題は、製造業における研究開発費の会計処理と、期末棚卸資産との関係について理解を深めるための計算問題です。研究開発費は原則として発生時に費用処理されますが、製造業で当期製造費用として処理された場合に、期末棚卸資産を構成することがあるという点が重要なポイントとなります。
まず、当期製造費用として処理された研究開発費は300,000円です。この費用が投入された製品が期末に残っている場合、その残っている製品に含まれる研究開発費は、期末棚卸資産の一部として資産計上されることになります。
計算過程は以下の通りです。
- 当期製造費用として処理された研究開発費:300,000円
- 期末棚卸資産に含まれる割合:30%
期末棚卸資産に資産として計上される研究開発費の金額 = 300,000円 × 30%
300,000 円x 0.30 = 90,000 円
したがって、期末棚卸資産に資産として計上されている研究開発費の金額は90,000円となります。 これは、研究開発費が原則として発生時費用処理であるにもかかわらず、製造業の特殊なケースにおいて、費用が一旦棚卸資産として資産計上されるという例外的な状況を理解しているかを問う問題です。このケースでは、売れ残った製品が翌期以降に販売される際に、その売上原価の一部として費用化されることになります。
問3 解説
この問題は、研究開発費に関する基本的な定義と会計処理の原則について、正確な知識を問うものです。各選択肢の内容を検討し、最も不適切な記述を見つけ出すことが求められます。
ア. 「研究開発費は、発生時に費用として処理されるのが原則である。」 これは「研究開発費等に係る会計基準」の基本的な考え方であり、正しい記述です。
イ. 「新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探求は、『開発』に該当する。」 「新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探求」は、「研究」の定義に該当します。一方、「開発」は研究の成果などを具体化する活動を指します。したがって、この記述は不適切です。
ウ. 「研究開発目的のみに使用される機械装置の取得原価は、研究開発費に含まれる。」 特定の研究開発目的にのみ使用される機械装置や特許権などの取得原価は、発生時に研究開発費として費用処理されるため、この記述は正しいです。
エ. 「製造業において研究開発費が当期製造費用として処理された場合、期末に製品が売れ残ると、研究開発費が期末棚卸資産を構成することがある。」 これは、教科書解説記事でも述べた製造業における研究開発費の会計処理の例外的な側面であり、正しい記述です。発生時費用処理の原則がありながらも、実質的に資産計上されるケースです。
以上の検討から、最も不適切な記述はイであることがわかります。
問4 解説
この問題は、ソフトウェア制作費の分類の中でも「市場販売目的のソフトウェア制作費」の会計処理に関する仕訳を問うものです。ソフトウェアの制作費は、その目的によって会計処理が大きく異なるため、適切な分類とその処理方法を理解していることが重要です。
市場販売目的のソフトウェア制作費は、ゲームソフトやアプリケーションソフトのように、不特定多数の顧客に販売することを目的として制作されるものです。この費用は、将来の収益獲得に貢献すると考えられるため、一定の条件を満たす部分については、無形固定資産の「ソフトウェア」として資産計上されます。他の無形固定資産とは異なり、見込販売数量や見込販売収益に基づいて償却されるという特徴も持ちます。
今回の問題では、制作費のうち無形固定資産として計上すべき費用が1,500,000円と明示されています。これを現金で支払ったため、仕訳は以下のようになります。
(借方) ソフトウェア 1,500,000 / (貸方) 現金 1,500,000
ここで、「研究開発費」として費用処理するのではなく、「ソフトウェア」という資産科目で計上する点がポイントです。もしこれが「研究開発目的のソフトウェア制作費」であったならば、全額「研究開発費」として費用処理されることになりますので、制作目的の判断がいかに重要であるかを認識しておく必要があります。
問5 解説
この問題は、研究開発活動において発生する費用のうち、どの部分が「研究開発費」として当期に費用処理されるのかを正確に判断し、計算する能力を問うものです。「研究開発費」には、研究と開発に関する活動から生じるすべての原価が含まれますが、「開発費」という繰延資産との区別も重要となります。
各費用の内訳を見てみましょう。
- 研究員の人件費:4,500,000円 研究活動に従事する人員にかかる費用は、明確に「研究開発費」に含まれます。
- 実験用材料費:1,200,000円 実験のために消費される材料費も「研究開発費」に含まれる原価要素です。
- 研究設備(専用設備ではない)の減価償却費のうち、研究活動に使用された部分:300,000円 固定資産の減価償却費のうち、研究開発活動に使用された部分も「研究開発費」に含まれます。専用設備であるか否かは関係なく、実際に研究活動に使われた部分が対象となります。
- 上記とは別に、将来の収益獲得が確実視される新製品の開発のために、開発段階で発生した特別な費用(「開発費」に該当し、繰延資産として処理されるべきもの):1,000,000円 この費用は、問題文中に「『開発費』に該当し、繰延資産として処理されるべきもの」と明記されています。繰延資産である「開発費」は、発生時に費用処理される「研究開発費」とは異なるため、当期に費用処理される「研究開発費」の合計額には含めません。これは、研究開発費と開発費の明確な区別を理解しているかを試すための情報です。
以上の分析に基づき、当期に費用として処理される「研究開発費」の合計額を計算します。
- 研究員の人件費:4,500,000円
- 実験用材料費:1,200,000円
- 研究設備減価償却費(研究活動使用分):300,000円
4,500,000 円 + 1,200,000円 + 300,000 円 = 6,000,000 円
したがって、当期に費用として処理される「研究開発費」の合計額は6,000,000円となります。繰延資産としての「開発費」は「研究開発費」には含まれないことに注意してください。
まとめ
- ポイント1:研究開発費とソフトウェアの定義の理解
- 研究は「新しい知識の発見」を目的とした調査・探求。
- 開発は「研究成果や知識の具体化」を目的とした計画・設計。
- 両者は「研究開発費等に係る会計基準」で一体的に扱われます。
- ポイント2:研究開発費の会計処理原則
- 研究開発費はすべて発生時に費用処理されるのが原則です。
- 処理方法は「一般管理費」または「当期製造費用」のいずれかです。
- ポイント3:研究開発費に含まれる要素と「開発費」との区別
- 研究開発のために使われた全ての原価(人件費、原材料費、減価償却費、専用固定資産取得原価など)が研究開発費に含まれます。
- 繰延資産の「開発費」とは異なる概念であり、「研究開発費」に該当しないものが「開発費」となり得ます。
- ポイント4:ソフトウェア制作費の分類の重要性
- ソフトウェアの制作費は、その制作目的によって会計処理が大きく異なります。
- 目的別に「研究開発目的」「受注制作」「市場販売目的」「自社利用」の4つに分類されます。
- ポイント5:各ソフトウェア制作費の具体的な会計処理
- 研究開発目的: 「研究開発費」として発生時に費用処理。
- 受注制作: 「工事契約の会計処理」に準じて処理。
- 市場販売目的: 一部が無形固定資産「ソフトウェア」として計上され、見込販売数量等で償却。
- 自社利用: 一部が無形固定資産「ソフトウェア」として計上される。