【簿記1級】会計基準設定の理論的背景:帰納法、演繹法、そして概念フレームワーク

問題

問1(仕訳問題:費用の期間的対応)

当社は新製品の販売開始にあたり、20X5年4月1日から3年間の効果を見込む大規模な広告宣伝活動を実施し、20X5年3月31日に現金で¥900,000を支出した。当該費用のうち、当期(20X5年4月1日から20X6年3月31日)に負担すべき費用を計上するための仕訳を示しなさい。なお、費用は効果の期間にわたって均等に対応させるものとする。

問2(計算問題:損益計算書)

以下の期中取引データ(単位:千円)に基づき、損益計算書における「営業利益」と「経常利益」の金額をそれぞれ計算しなさい。

勘定科目金額(千円)
売上高2,500
売上原価1,500
販売費及び一般管理費700
受取利息(毎期発生)80
支払利息(毎期発生)30
固定資産売却益(臨時的)100

問3(選択肢問題:会計基準の設定)

財務会計における会計基準の設定に関する記述として、最も不適切なものを以下の選択肢から選びなさい。

ア.演繹的アプローチは、最初に前提や目的を設定し、首尾一貫した整合性のとれた会計基準を設定するアプローチである。

イ.日本の企業会計原則は、企業会計の実務の中に慣習として発達したものを要約したものであり、帰納的アプローチで設定されたものである。

ウ.財務会計の概念フレームワークは、財務諸表を作成する上で従わなければならないルール(会計基準)として位置づけられている。

エ.会計基準の設定においては、会計公準論や概念フレームワークといった伝統的な議論が基礎として用いられる。

問4(計算問題:B/Sの流動・固定分類)

以下の負債情報(単位:円)は、決算日(20X6年3月31日)時点のものである。このうち、貸借対照表において固定負債として計上される合計額を計算しなさい。

負債項目支払期限金額
買掛金20X6年6月30日4,000,000
短期借入金20X6年12月31日1,000,000
長期借入金20X7年9月30日2,500,000
社債20X8年3月31日5,500,000

問5(仕訳問題:収益の認識)

当社は20X5年3月31日に顧客に対してサービスの提供を完了したが、契約上、その対価(¥500,000)は翌期首(20X5年4月10日)に現金で受け取ることになっている。当期末(20X5年3月31日)に収益を認識するために必要な仕訳を示しなさい。



<答え>

問1(仕訳問題)解答

勘定科目金額勘定科目金額
広告宣伝費300,000長期前払費用300,000

問2(計算問題)解答

利益の種類金額(千円)
営業利益300
経常利益350

問3(選択肢問題)解答

問4(計算問題)解答

8,000,000 円

問5(仕訳問題)解答

勘定科目金額勘定科目金額
未収金500,000売上500,000

おすすめ 通信講座 ランキング

第1位:

お金と時間を節約したい人へ
公式サイト

第2位:

紙のテキストがいい人へ
公式サイト

第3位:

従来型のスクールがいい人へ
公式サイト

各講座の比較ページへ

タップできるもくじ

財務会計の基礎概念と期間損益計算の原則

財務会計の意義と役割

企業会計は、企業の経済活動を対象とするものであり、その領域は「財務会計」と「管理会計」の二つに分けられます。このうち、財務会計は、主に企業の外部者(株主や債権者など)に対して報告を行うための会計です(外部報告会計)。

財務会計には伝統的に二つの機能があると言われています。一つは利害調整機能です。これは、経営者と株主の間(エージェンシー問題)や、債権者と株主の間(配当による資金流出のリスク)など、企業の利害関係者の間の対立を、財務諸表を通じて真実を報告することで調整または解消する機能です。

もう一つは情報提供機能であり、これは投資家などの意思決定に有用な情報を提供する機能です。企業情報が正しく提供されることで、優良な企業に資金が集まる市場メカニズムが働き、効率的な資金配分が促され、経済の健全な発展に寄与すると考えられています。近年の議論である「財務会計の概念フレームワーク」においては、情報提供機能が財務会計の主たる機能と位置づけられ、利害調整機能は副次的なものとされています。

会計基準の設定と概念フレームワーク

財務諸表を作成する上で、企業間の比較や信用性を確保するためには、共通のルールが必要です。これが「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準(GAAP)」です。法令で規制されている財務会計は「制度会計」と呼ばれ、GAAPに従うことが求められます。

会計基準の設定方法には、「帰納的アプローチ」と「演繹的アプローチ」の2種類があります。

帰納的アプローチ

実際に現場で行われている会計処理方法を観察し、その中から一般的で公正妥当と認められるものを抽出して基準とする方法です。日本の企業会計原則は、この帰納的アプローチで設定されており、実務の慣習から発達したものを要約したものです。メリットとして遵守されやすい点が挙げられますが、全体の整合性が問題となることがあります。

演繹的アプローチ

最初に前提や目的を設定し、それに基づいて首尾一貫した整合性のとれた会計基準を設定するアプローチです。代表的なものに、会計の基礎的前提を定める会計公準論(ギルマンの三公準:企業実体の公準、継続企業の公準、貨幣的評価の公準)や、財務会計の概念フレームワークがあります。概念フレームワークは、会計基準そのものではなく、財務諸表を作成する上での指針(基本的な考え方)として公表されています。

期間損益計算の基礎概念

期間損益計算は、企業の経営成績や企業成果を測定・報告することを目的としています。適正な期間損益計算を行うためには、収益及び費用を「何を、いつ」計上するか(認識の問題)と、「いくらで」計上するか(測定の問題)を明確にする必要があります。

収益と費用の認識基準

会計において、収益や費用の認識(いつ計上するか)に関する基準として、現⾦主義、発⽣主義、実現主義などがあります。

  1. 費用の認識(発生主義) 費用は、経済的価値が減少した事実に応じて認識する発生主義によります。現⾦収⽀を伴わない場合でも、その会計期間に属する費用として認識されます。
  2. 収益の認識(実現主義と現行基準) 収益は、かつては実現主義が制度上採用されていました。これは、以下の2要件を満たした時点で収益を認識する基準です。
  • 1.企業外部の第三者に、財貨またはサービスを提供する
  • 2.対価として現⾦または現⾦等価物(売掛⾦など)を受け取る 概念フレームワークでは、これを「リスクからの解放」という用語で説明し、統一的な理解を促しています。現在では、国際的な会計基準との調和化のため、2021年4月以降、原則として「収益認識に関する会計基準」により収益の認識が行われています。

測定基準と対応の原則

収益及び費用を「いくらで」計上するかの測定は、原則として過去または将来の現⾦の収⼊額や⽀出額を基礎とする収支額基準によります。

そして、期間損益計算において最も重要な原則の一つが費用収益対応の原則です。当期の成果である収益と、それに貢献した費用を対応させて計算することが要請されています。

  • 個別的対応: 売上と売上原価のように、商品や製品を媒介とした直接的な対応関係。
  • 期間的対応: 広告宣伝費のように、収益に対する直接的な対応把握が困難な費用を、時間(会計期間)を媒介として対応させる方法。

貸借対照表(B/S)の表示

貸借対照表は、「資産の部」「負債の部」「純資産の部」に大きく区分されます。

このうち、「資産の部」と「負債の部」の項目配列は、原則として流動性配列法(流動項目→固定項目の順)によって行われます。流動・固定の分類は、企業の短期的な支払い能力を判断するために重要です。

分類は以下の2段階の手順で行われます。

  1. 正常営業循環基準: 営業取引過程にある棚卸資産、営業債権・債務(売掛金、買掛金など)は常に流動項目として扱われます。
  2. 一年基準(ワンイヤー・ルール): 正常営業循環基準で流動項目とならなかったもののうち、決算日の翌日から起算して1年以内に期限が到来する債権・債務は流動項目とされます。

B/Sの作成においては、すべての資産、負債及び純資産を記載しなければならない貸借対照表完全性の原則や、資産と負債を相殺せずに総額で表示する総額主義の原則が求められます。


問題解説

問1(仕訳問題:費用の期間的対応)解説

この問題は、広告宣伝費という費用の認識と、費用収益対応の原則における期間的対応を問うものです。費用は原則として発生主義に基づき認識されますが、その効果が将来の複数期間にわたる場合、その費用を支出した期に全額を費用として認識すると、その期間の損益計算が不適正になります。

広告宣伝費は、収益に対して直接的に対応を把握するのが困難な費用(販売費及び一般管理費など)に該当し、期間的対応によって費用化されます。この広告宣伝費は3年間の効果が見込まれているため、支出額¥900,000を3年間で均等に費用として配分することが適切です。

まず、支出した時点で、将来の費用として繰り延べ(資産計上)する処理を行います。この資産(繰延資産または長期前払費用)は、効果の期間が到来するたびに費用化されていきます。当期に負担すべき費用は、支出額を効果期間で除した金額です。

計算過程: ¥900,000 ÷ 3年 = ¥300,000

この¥300,000が当期に費用(広告宣伝費)として認識されるべき金額です。この仕訳は、期末に行われる費用の配分(繰延べられた費用の取り崩し)の処理を示します。

借方貸方
広告宣伝費 300,000長期前払費用 300,000

(解答では、支出時に全額を費用(広告宣伝費)として計上していた場合を想定し、期末に翌期以降の費用を前払費用等に振り替える処理も考えられますが、ここでは「当期に負担すべき費用を計上するための仕訳」として、資産から費用への振り替え処理を採用します。)

問2(計算問題:損益計算書)解説

この問題は、損益計算書(P/L)の基本的な構造を理解し、「営業利益」と「経常利益」の計算に必要な項目を正しく識別できるかを問うものです。P/Lは、「営業損益計算の区分」「経常損益計算の区分」「純損益計算の区分」の3区分で構成されます。

  1. 営業利益の計算 営業利益は、企業の主たる営業活動から生じた損益の計算結果です。 営業利益 = 売上高 – 売上原価 – 販売費及び一般管理費 営業活動に直接関係のない収益・費用(受取利息、支払利息、固定資産売却益など)は含めません。

営業利益 = 2,500千円 – 1,500千円 – 700千円 = 300千円

  1. 経常利益の計算 経常利益は、営業利益に、企業の主たる営業以外の活動から生じた損益(ただし毎期発生するもの)を加減して計算されます。これは、企業が通常行っている活動(経常的な活動)全体の成果を示すものです。受取利息や支払利息などは、本業の営業活動ではないものの、資金調達・運用に伴い毎期継続的に発生するため、経常損益に含まれます。一方、固定資産売却益のような臨時的に生じた損益は含めません。

経常利益 = 営業利益 + 受取利息 – 支払利息 経常利益 = 300千円 + 80千円 – 30千円 = 350千円

この計算により、企業の恒常的な収益力(経常利益)と、本業の収益力(営業利益)を明確に把握できます。

問3(選択肢問題:会計基準の設定)解説

この問題は、会計基準の設定に関するアプローチ(演繹的・帰納的)や、概念フレームワークの位置づけといった、財務会計の基礎概念を問うものです。

各選択肢の評価: ア.適切です。演繹的アプローチは、理論を先に考えてから個別ケースを考える方法です。 イ.適切です。企業会計原則は、実務の慣習(一般に公正妥当と認められたところ)を要約したものであり、実務から理論を導く帰納的アプローチで設定されました。 ウ.不適切です。「討議資料 財務会計の概念フレームワーク」は、会計基準のように財務諸表を作成する上で従わなければならないルールではなく、あくまで指針(基本的な考え方)として公表されたものである点が特徴です。 エ.適切です。会計基準を設定する演繹的アプローチの代表的なものとして、会計公準論や概念フレームワークがあります。

したがって、最も不適切な記述はです。

問4(計算問題:B/Sの流動・固定分類)解説

この問題は、貸借対照表(B/S)における負債の流動・固定分類の基準、特に**一年基準(ワンイヤー・ルール)**の適用を理解しているかを問うものです。B/Sの資産・負債を流動・固定に分類する目的は、企業の短期的な支払い能力を判断するための有用な情報を提供することにあります。

負債の分類手順は、まず正常営業循環基準、次に一年基準によります。

  1. 買掛金:正常な営業取引過程にある営業債務であるため、支払期限にかかわらず流動負債として扱われます。
  2. 短期借入金:営業循環外の負債ですが、支払期限が20X6年12月31日であり、決算日の翌日から起算して1年以内(20X7年3月31日まで)に期限が到来するため、流動負債です。
  3. 長期借入金:支払期限が20X7年9月30日であり、決算日の翌日から起算して1年を超えて期限が到来するため、固定負債です。
  4. 社債:支払期限が20X8年3月31日であり、1年を超えて期限が到来するため、固定負債です。

固定負債として計上される合計額は、長期借入金と社債の合計額となります。

計算過程: 長期借入金 2,500,000円 + 社債 5,500,000円 = 8,000,000円

したがって、固定負債として計上される合計額は¥8,000,000です。

問5(仕訳問題:収益の認識)解説

この問題は、期間損益計算における収益の認識のタイミング、特に実現主義の適用を問うものです。収益の認識において、現金主義ではなく発生主義的な考え方(制度会計においては実現主義)が採用されることが重要です。

実現主義の要件は、「財貨またはサービスの提供」と「対価として現金または現金等価物を受け取ること」です。本件では、期末(20X5年3月31日)までにサービスの提供は完了しており、収益獲得活動が実質的に完了しています。対価の現金受け取りは翌期ですが、現金等価物である債権が確定しているとみなせます。したがって、当期末に収益(売上)を認識する必要があります。

しかし、まだ現金は受け取っていないため、この収益に対応する債権(未収金)を計上する必要があります。この債権は、主たる営業活動以外から生じた債権であるため、未収収益ではなく未収金(または未収役務収益)として処理するのが適切です。

借方貸方
未収金 500,000売上 500,000

これにより、現金の受領とは関係なく、収益活動が完了した会計期間に正しく収益が計上されます(発生主義/実現主義の適用)。


まとめ

ポイント1:財務会計の機能 財務会計の目的は企業の外部者への報告であり、伝統的な機能は利害調整機能と情報提供機能ですが、近年の概念フレームワークでは情報提供機能が主たる機能と位置づけられています。

ポイント2:会計基準の設定アプローチ 「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準(GAAP)」に従う制度会計は、実務の慣習を要約する帰納的アプローチで設定されました(例:企業会計原則)。これに対し、理論的な整合性を重視し、前提・目的から設定するアプローチを演繹的アプローチ(例:概念フレームワーク)といいます。

ポイント3:費用と収益の認識基準 期間損益計算において、費用は原則として発生主義により認識されます。収益の認識は、原則として財貨またはサービスの提供と対価の受取を要件とする実現主義(または現行の収益認識会計基準)によります。

ポイント4:期間損益計算の重要原則 期間損益計算は、当期の収益と、その収益獲得に貢献した費用を対応させる費用収益対応の原則が基礎となります。対応には、売上原価のような個別的対応と、販管費のような期間的対応があります。

ポイント5:B/Sの流動・固定分類 貸借対照表における資産と負債の流動・固定の分類は、まず正常営業循環基準(営業債権債務、棚卸資産など)で判断し、次に一年基準(ワンイヤー・ルール)で判断されます。配列は原則として流動性配列法です。


あわせて読みたい!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

簿記2級を取得し、現在簿記1級を勉強中。
学んだことを忘れないようにここでまとめてます。
普段は、会社で経理をしながら、経理・簿記関係の情報を発信。
Twitterもやってますので良かったらフォローお願いします。

タップできるもくじ