以下の資料に基づき、各問に解答してください。(単位指定がない場合は円、単位:千円とある場合は千円で回答すること)
問1:三分法による決算整理仕訳
当社は三分法を採用している。期末にあたり、売上原価を算定する。
資料:
- 期首商品棚卸高:12,000円
- 当期商品仕入高:90,000円
- 期末商品棚卸高:15,000円 棚卸減耗等は生じていない。
解答として、売上原価を算定するための決算整理仕訳(C/S処理)を示しなさい。
問2:原価率を用いた売上高の算定(計算問題)
以下の資料に基づき、当期の売上高を算定しなさい。(単位:千円) [資料Ⅰ] 決算整理前残高試算表における繰越商品残高 10,000千円 [資料Ⅰ] 決算整理前残高試算表における仕入残高 50,000千円 [資料Ⅱ]
- 期末商品棚卸高は15,000千円であった。
- 当社では、毎期、売価は原価の25%増に設定している。
問3:他勘定振替高を含む売上原価の算定(計算問題)
以下の資料に基づき、当期の損益計算書に表示される売上原価の金額を算定しなさい。
- 期首商品棚卸高:10,000円
- 当期商品仕入高:85,000円
- 期末商品棚卸高:12,000円
- 期中に、見本品として販売用商品2,000円を社外に提供した。 棚卸減耗等は生じていない。
問4:分記法による期中仕訳
当社は分記法を採用している。以下の取引について、適切な仕訳を示しなさい。 得意先へ、商品150,000円を掛けにより売り上げた。なお、この商品の原価は120,000円である。
問5:総記法による決算整理仕訳
当社は総記法を採用している。以下の資料に基づき、決算整理仕訳(利益計上と商品残高の修正)を示しなさい。 資料:
- 期首商品棚卸高:5,000円
- 当期商品仕入高:70,000円
- 当期商品売上高:80,000円
- 期末商品棚卸高:15,000円
- 決算整理前残高試算表における商品勘定残高は貸方5,000円であった。
問1:三分法による決算整理仕訳
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
---|---|---|---|
(借) 仕入 | 12,000 | (貸) 繰越商品 | 12,000 |
(借) 繰越商品 | 15,000 | (貸) 仕入 | 15,000 |
問2:原価率を用いた売上高の算定
56,250千円
問3:他勘定振替高を含む売上原価の算定
81,000円
問4:分記法による期中仕訳
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
---|---|---|---|
(借) 売掛金 | 150,000 | (貸) 商品 | 120,000 |
(貸) 商品販売益 | 30,000 |
問5:総記法による決算整理仕訳
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
---|---|---|---|
(借) 商品 | 20,000 | (貸) 商品販売益 | 20,000 |
一般商品売買の基礎と特殊な記帳方法
1.一般商品売買の基本的な処理(三分法)
私たちがこれまで簿記2級などで学習してきた、商品の通常の販売形態における売買処理を「一般商品売買」といいます。これに対し、特殊な販売形態(例えば委託販売など)は「特殊商品売買」と区別されます。
一般商品売買において最もポピュラーな会計処理方法が「三分法」です。三分法では、『仕入』『売上』『繰越商品』という3つの勘定科目を使って記録を行います。
期中では、商品を仕入れた際に『仕入』勘定の借方に、商品を売り上げた際に『売上』勘定の貸方に、それぞれ取引金額を記録します。決算時には、売上原価の算定が必須となります。
売上原価は、以下の算式によって求められます。
売上原価 =期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 – 期末商品棚卸高}
この売上原価の算定は、決算整理仕訳において、C/S(Cost/Sales)処理として行われます。具体的には、期首商品を繰越商品勘定から仕入勘定へ振り替える仕訳と、期末商品を仕入勘定から繰越商品勘定へ振り替える仕訳の2本で行われます。
2.原価率・利益率の考え方と算定
小売業などでは、仕入れた商品にどれだけの利益を上乗せして販売するかという価格設定は非常に重要です。そのため、簿記の問題では、商品売買に関する資料として「原価率」や「利益率」が与えられることがあります。
これらの率の関係性を理解することは、売上高から売上原価を逆算したり、原価から売価を計算したりする上で必須です。
主要な関係式
算定項目 | 関係式 |
---|---|
売上原価率と売上利益率の関係 | 売上原価率 + 売上利益率 = 1 |
売価の算定(付加利益率利用) | 売価 = 原価 × (1 + 付加利益率) |
例えば、売価が原価の25%増(付加利益率25%)に設定されている場合、売上高を(1 + 0.25)で割ることで売上原価を求めることができます。
売上原価を算定する際には、商品の流れを整理するための「商品BOX図」を描く習慣をつけると、情報を整理しやすく、計算間違いを防ぐことができます。
3.他勘定振替高の処理
本来は販売する目的で保有していた商品を、販売以外の目的で利用する場合があります。例えば、広告宣伝のために無償で使ったり、顧客に提供する見本品として使ったりするケースです。
このような場合、商品の原価は販売目的の『仕入』勘定から、使途に応じた別の費用勘定へ振り替えられます。この処理を「他勘定振替高」として扱います。
他勘定振替高は、会社の費用であることに変わりはありませんが、売上原価には含めません。
転用目的 | 振り替える勘定 |
---|---|
広告宣伝目的 | 広告宣伝費 |
見本品として | 見本品費 |
仕訳の例: 広告宣伝目的で商品1,000円分を使用したとき (借) 広告宣伝費 1,000 / (貸) 仕入 1,000
この処理によって、仕入勘定の金額が減少するため、売上原価の計算(BOX図)においても、当期商品仕入高から他勘定振替高を差し引いて、純粋な販売用商品の原価を把握する必要があります。
4.三分法以外の記帳方法(分記法と総記法)
三分法が最もポピュラーで出題可能性が高いですが、それ以外の記帳方法として「分記法」と「総記法」が存在します。
分記法(B/S科目とP/L科目を分けて記録)
分記法は、『商品』(B/S・資産)と『商品販売益』(P/L・収益)の2つの勘定を使用して記録する方法です。
- 仕入時: 商品(資産)の増減を原価で記録します。 (借) 商品 $\text{XXX}$ / (貸) 買掛金 $\text{XXX}$
- 売上時: 売価で売掛金(または現金など)を計上するとともに、商品の減少を原価で商品勘定の貸方に記録し、売価と原価の差額を『商品販売益』として計上します。 (借) 売掛金 $\text{XXX}$ / (貸) 商品 $\text{YYY}$ (原価)、商品販売益 $\text{ZZZ}$ (利益)
分記法は、販売の都度、利益(商品販売益)を把握するため、決算時に改めて売上原価を算定し、利益を計算する決算整理仕訳は不要となります。
総記法(売価と原価を混在させて記録)
総記法も分記法と同様に『商品』と『商品販売益』を使用しますが、記帳の方法が大きく異なります。総記法はパズルのような要素が強い記帳方法です。
- 仕入時: 商品勘定の借方に原価で記録します。 (借) 商品 $\text{XXX}$ (原価) / (貸) 買掛金 $\text{XXX}$
- 売上時: 商品勘定の貸方に売価で記録します。 (借) 売掛金 $\text{XXX}$ (売価) / (貸) 商品 $\text{XXX}$ (売価)
この方法だと、期中の『商品』勘定の残高は、借方(原価)と貸方(売価)が混在するため、貸方残高になる可能性があります。
決算整理: 決算時には、商品BOX図の考え方を用いて、期末商品棚卸高(原価)を確定させつつ、利益をまとめて『商品販売益』として計上します。
商品勘定の借方合計(期首原価+当期仕入原価)と、貸方合計(当期売上売価+期末原価)の差額が利益(商品販売益)となります。この差額を計上することで、期末の『商品』勘定の残高が期末商品棚卸高(原価)と一致するように調整されます。期中の記録は楽ですが、決算整理仕訳にはコツが必要です。
問題解説
問1:三分法による決算整理仕訳
この問題は、三分法における最も基本的な決算整理である**売上原価の算定(C/S処理)**を確認するものです。三分法では、期首商品と期末商品を『仕入』勘定に振り替えることで、最終的に『仕入』勘定の残高を売上原価とします。
手順1:期首商品の振り替え 期首商品棚卸高12,000円を『繰越商品』勘定(資産:貸方)から『仕入』勘定(費用:借方)へ振り替えます。これにより、当期販売可能額に期首在庫の原価が加算されます。
(借) 仕入 12,000 / (貸) 繰越商品 12,000
手順2:期末商品の振り替え 期末商品棚卸高15,000円を『仕入』勘定(費用:貸方)から『繰越商品』勘定(資産:借方)へ振り替えます。これにより、当期売れ残った商品の原価が仕入勘定から除かれ、資産として次期へ繰り越されます。
(借) 繰越商品 15,000 / (貸) 仕入 15,000
結果として、『仕入』勘定の最終残高は、期首商品12,000円 + 当期仕入90,000円 - 期末商品15,000円 = 87,000円(売上原価)となり、損益計算書に計上されます。このC/S処理は、三分法を採用している限り、簿記一巡の手続きの中で必ず意識すべき処理の時系列を理解する上で非常に重要です。
問2:原価率を用いた売上高の算定(計算問題)
この問題は、原価率と利益率の関係を利用して、売上原価を算定し、そこから売上高を逆算する手順を問うものです。日商簿記1級では、このように千円単位で計算させる問題が多くなるため、単位の処理にも慣れておく必要があります。
手順1:売上原価(COGS)の算定 まず、与えられた情報(期首、当期仕入、期末)を商品BOX図に当てはめ、売上原価を計算します。 決算整理前残高試算表(前T/B)の『繰越商品』が期首棚卸高(10,000千円)、『仕入』が当期商品仕入高(50,000千円)を表しています。
売上原価 $=$ 期首商品10,000千円 $+$ 当期仕入50,000千円 $-$ 期末商品15,000千円 売上原価 $= 45,000$ 千円
手順2:売上高の算定 資料Ⅱ-2より、「売価は原価の25%増」とあります。これは「付加利益率が25%」であることを意味します。 売価(売上高)は、売上原価に(1+付加利益率)を乗じて計算されます。
売上高 $=$ 売上原価 $\times$ $(1 + 0.25)$ 売上高 $= 45,000$ 千円 $\times$ $1.25$ 売上高 $= 56,250$ 千円
このように、原価率や利益率を用いた計算問題は、まずBOX図で原価の流れを整理し、次に原価と売価の関係式を適用するというステップを踏むことで、落ち着いて対処することができます。
問3:他勘定振替高を含む売上原価の算定(計算問題)
この問題は、他勘定振替高の処理を理解しているかを確認するものです。他勘定振替高は、販売目的で仕入れた商品が販売以外の目的(ここでは見本品費)に使われたことを示します。
他勘定振替高の考え方: 商品2,000円分は販売されず、見本品費として処理されるため、この2,000円は『仕入』勘定から『見本品費』勘定へ振り替えられます。その結果、損益計算書に表示される売上原価には含まれません。
手順1:純粋な当期商品仕入高の算定 当期仕入高(85,000円)から他勘定振替高(2,000円)を差し引いたものが、純粋に販売のために使われた仕入額となります。 純粋仕入高 $= 85,000$ 円 $- 2,000$ 円 $= 83,000$ 円
手順2:売上原価(COGS)の算定 この純粋仕入高を用いて、売上原価を計算します。
売上原価 $=$ 期首商品10,000円 $+$ 純粋仕入高83,000円 $-$ 期末商品12,000円 売上原価 $= 81,000$ 円
他勘定振替高は、商品BOX図を描く際にも、仕入の項目から控除して考える必要があり、P/L(損益計算書)上でも売上原価とは別の費用として表示される点に注意が必要です。
問4:分記法による期中仕訳
分記法は、三分法以外の記帳方法の一つで、『商品』勘定(資産)と『商品販売益』勘定(収益)を使用します。この記帳方法の最大の特徴は、販売の都度、利益(商品販売益)を把握する点にあります。
取引内容の分析:
- 売上高(売価):150,000円
- 原価:120,000円
- 利益(販売益):150,000円 $-$ 120,000円 $= 30,000$ 円
仕訳の構成:
- 掛けで売り上げたため、『売掛金』(資産)が150,000円増加します(借方)。
- 商品が販売されたため、『商品』(資産)が原価である120,000円分減少します(貸方)。
- 売価と原価の差額である利益30,000円を『商品販売益』(収益)として計上します(貸方)。
これにより、期中において既に損益が確定しているため、決算でC/S処理を行う必要はありません。分記法は実務上あまり行われないため、試験範囲から外された経緯がありますが、基本的な会計処理方法として理解しておく必要があります。
問5:総記法による決算整理仕訳
総記法は、三分法や分記法とは異なり、期中の『商品』勘定に原価と売価が混在して記録されているのが特徴です。仕入は原価で借方、売上は売価で貸方に記録されています。決算整理仕訳は、この混在した『商品』勘定を整理し、利益を『商品販売益』として計上する役割を持ちます。
手順1:利益額の算定 総記法では、商品の流れを原価ベースで見た場合の貸借のバランスと、実際に売価で記帳されている貸方との差額が利益となります。利益(商品販売益)は、以下の算式で求められます。
利益 $=$ 貸方合計(売上売価 $+$ 期末商品原価)$-$ 借方合計(期首商品原価 $+$ 当期仕入原価)
- 期首商品原価:5,000円
- 当期仕入原価:70,000円 → 借方合計:75,000円
- 当期売上売価:80,000円
- 期末商品原価:15,000円 → 貸方合計:95,000円
利益 $= 95,000$ 円 $- 75,000$ 円 $= 20,000$ 円
前T/Bの残高(貸方5,000円)は、期首、仕入、売上の期中取引の結果生じた残高であり、これを含めても最終的な利益は同じ20,000円となります。
手順2:決算整理仕訳の構成 決算整理では、算定された利益20,000円を『商品販売益』として貸方に計上します。そして、この利益相当額を『商品』勘定の借方に振り替えることで、修正後の商品勘定の残高が期末商品棚卸高(15,000円)と一致するように調整されます。
(借) 商品 20,000 / (貸) 商品販売益 20,000
仕訳実行後、『商品』勘定は、前T/B残高(貸方5,000円) $+$ 借方計上(20,000円)= 借方15,000円となり、期末商品棚卸高(原価)と一致します。総記法は、借方原価・貸方売価という特殊な記帳方法から、決算整理がパズル的な要素を持ちますが、商品BOX図の構造を理解していれば対応可能です。
まとめ
ポイント1:三分法が基本 一般商品売買の記帳は『仕入』『売上』『繰越商品』を用いる三分法が最もポピュラーであり、出題頻度も最も高いです。三分法では決算時にC/S処理(売上原価算定)を行います。
ポイント2:原価率・利益率の関係 売上原価率と売上利益率の合計は1になります。売価は、原価に付加利益率を乗じたもの(1 + 付加利益率)をかけて算定されます。逆算が必要な問題も多いため、この関係式を正確に理解しておく必要があります。
ポイント3:他勘定振替高の処理 販売目的の商品を、広告宣伝費や見本品費などに転用した場合は『他勘定振替高』として処理します。この原価は売上原価ではなく、使用目的に応じた費用勘定(例:広告宣伝費)に振り替えられます。
ポイント4:分記法は利益把握が都度 分記法は『商品』と『商品販売益』を使用し、売上時に商品(貸方)を原価で減らし、差額を商品販売益として計上します。これにより、期中に利益が確定するため、決算整理仕訳は基本的に不要です。
ポイント5:総記法は決算整理に注意 総記法も『商品』と『商品販売益』を使用しますが、仕入は原価、売上は売価で『商品』勘定に記録します。決算時には、商品BOX図を基に、貸借の差額(利益)と期末商品棚卸高(原価)を同時に確定させる仕訳が必要であり、数字の把握にコツが必要です。