問1(仕訳問題:会計方針の変更)
当社は、当期(×3年度)の期首において、棚卸資産の評価方法を従来の先入先出法から総平均法へ変更することを決定した。この変更には正当な理由がある。遡及適用を行った結果、前期(×2年度)末の棚卸資産残高は、先入先出法に基づく帳簿価額よりも2,500千円減少することが判明した。当期首における、この会計方針の変更に伴う修正仕訳を示しなさい。
問2(計算問題:会計上の見積りの変更)
当社は×3年4月1日に、備品(取得原価800,000円、残存価額ゼロ、耐用年数8年、定額法)を購入し、償却を続けてきた。×6年4月1日(当期首)において、技術革新により備品の陳腐化が生じ、残存耐用年数を3年に見直すこととした。なお、取得時点の耐用年数の見積りは合理的であった。当期の減価償却費として計上すべき金額を計算しなさい(解答が割り切れない場合は、千円未満を四捨五入して千円単位で答えなさい)。
問3(仕訳問題:減価償却方法の変更)
当社は、×3年3月31日までは機械装置(取得原価1,500,000円)について、残存価額ゼロ、耐用年数10年とし、定率法(償却率20%)を適用してきた。×4年4月1日(当期首)より、当該機械装置の減価償却方法を定額法に変更することとした。前期末(×3年3月31日)時点の減価償却累計額は540,000円である。この変更は会計上の見積りの変更と同様に取り扱う。当期の減価償却費計上仕訳を示しなさい。
問4(仕訳問題:過去の誤謬の訂正)
前期(×3年度)の決算において、売上債権の回収可能性に関する見積りを誤り、貸倒引当金の設定額が本来計上すべき金額より400千円過少であったことが、当期(×4年度)に入って判明した。この誤謬を訂正するため、当期首に行うべき修正仕訳を示しなさい。
問5(選択肢問題:表示方法の変更)
財務諸表の表示方法を、一般に公正妥当と認められた他の表示方法に変更した場合の処理として、最も適切なものを選びなさい。
ア.新たな表示方法を過去の財務諸表すべてに遡及適用し、組替えを行う。
イ.新たな表示方法を将来にわたって適用するため、過去の財務諸表の修正は行わない。
ウ.過年度の損益に影響を与えるため、組替えを行うとともに、繰越利益剰余金を修正する。
エ.遡及適用と将来適用を組み合わせた折衷法により、過年度の一部を修正する。
問1(仕訳問題:会計方針の変更)解答
勘定科目 | 借方(千円) | 勘定科目 | 貸方(千円) |
---|---|---|---|
繰越利益剰余金 | 2,500 | 繰越商品 | 2,500 |
問2(計算問題:会計上の見積りの変更)解答
167,000円 (167千円)
問3(仕訳問題:減価償却方法の変更)解答
勘定科目 | 借方(円) | 勘定科目 | 貸方(円) |
---|---|---|---|
減価償却費 | 120,000 | 機械減価償却累計額 | 120,000 |
問4(仕訳問題:過去の誤謬の訂正)解答
勘定科目 | 借方(千円) | 勘定科目 | 貸方(千円) |
---|---|---|---|
繰越利益剰余金 | 400 | 貸倒引当金 | 400 |
問5(選択肢問題:表示方法の変更)解答
ア
会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正
1.本基準の目的と概要
本章で学習する「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」は、企業が採用している会計方針を変更した場合、会計上の見積りを変更した場合、または過去の財務諸表に誤り(誤謬)が発見された場合に、財務諸表の利用者が適切な意思決定を行えるよう、どのように会計処理し、開示すべきかを定めています。
この基準は、以前は「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」という名称でしたが、2020年の公表、2021年の適用により、現在の名称に変更されましたが、内容に大きな変更はありません。財務諸表の真実な報告を提供するため、これらのケースにおける適切な会計処理を理解することが重要です。
2.会計方針の開示
重要な会計方針とは
**「会計方針」**とは、財務諸表の作成にあたって企業が採用した会計処理の原則および手続きをいいます。
例えば、棚卸資産の評価方法(先入先出法や総平均法)や、固定資産の減価償却方法(定額法や定率法)などが会計方針の具体例です。
注記の目的
財務諸表には、重要な会計方針を注記しなければなりません。この目的は、財務諸表の利用者が、その財務諸表が作成される基礎となる事項(採用された会計処理の原則および手続きの概要)を理解できるようにすることにあります。
ただし、重要性の乏しいものについては注記を省略することが可能です。
3.会計上の変更
**「会計上の変更」**は、「会計方針の変更」、「表示方法の変更」、および「会計上の見積りの変更」の3パターンに分類され、それぞれ異なる会計処理が規定されています。
(1)会計方針の変更
「会計方針の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から、他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することをいいます。
会計方針は、原則として毎期継続して適用されなければなりませんが、正当な理由により変更を行う場合は、以下の処理が必要です。
- 遡及適用(そきゅうてきよう):新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡って適用します。
- 繰越利益剰余金への反映:過年度の損益項目(P/L項目)の修正影響額は、当期の財務諸表において**『繰越利益剰余金』**として反映されます。
(2)表示方法の変更
**「表示方法」**とは、財務諸表の科目分類、科目配列、報告様式、および注記による開示など、財務諸表作成にあたって採用した表示の方法をいいます。
「表示方法の変更」があった場合、原則として表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従って財務諸表の組替えを行います。この**「財務諸表の組替え」**とは、新しい表示方法を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように表示を変更することです。
(3)会計上の見積りの変更
**「会計上の見積り」**とは、資産や負債、収益や費用などの額に不確実性がある場合に、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、合理的な金額を算出することです。
**「会計上の見積りの変更」**とは、新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に行った見積りを変更することをいいます。
見積りの変更は、過去に遡って修正は行いません(遡及適用は不要)。なぜなら、過去の見積り自体はその時点では合理的であったため、新しい事実に対して新しい会計処理を行っていると考えるからです。これは、過去の財務諸表に影響を与えるものではありません。
ただし、もし過去に見積りを行った時点でその見積りが合理的でなかった場合は、それは「会計上の見積りの変更」ではなく、後述する**「誤謬(ごびゅう)」**として扱われます。
(4)会計方針の変更と見積りの変更の区別が困難な場合
会計方針の変更であっても、それが会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合については、会計上の見積りの変更と同様に取り扱い、遡及適用は行いません。
例えば、有形固定資産や無形固定資産の減価償却方法の変更は、会計方針に該当しますが、この区別が困難な場合として、見積りの変更と同様に処理されます。
4.過去の誤謬の訂正
「誤謬」とは、原因となる行為が意図的(故意)であるか否かに関係なく、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったこと、または誤用したことによる誤りをいいます。
具体的には、データの収集や処理上の誤り、事実の誤解による見積りの誤り、または会計方針・表示方法の適用の誤りなどが含まれます。
過去の財務諸表における誤謬が発見された場合には、**過去に遡って修正再表示**します。
この**「修正再表示」**とは、過去の誤謬の訂正を財務諸表に反映することを意味し、誤謬の訂正による過年度の損益修正額は「繰越利益剰余金」として処理されます。
4. 【問題解説】
問1(仕訳問題:会計方針の変更)解説
この問題は、棚卸資産の評価方法という「会計方針の変更」に関するものです。会計方針の変更は、正当な理由がある場合、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する必要があります。
遡及適用により、過去の財務諸表における売上原価や期末棚卸資産の金額が修正されます。
- 過年度の影響の特定: 前期末の棚卸資産残高が2,500千円減少することが判明しました。これは、前期の売上原価が2,500千円増加し、前期の利益が2,500千円減少したことを意味します。
- 修正方法: 過年度のP/L項目(売上原価)の修正は、当期首の財務諸表において繰越利益剰余金の修正として反映させます。利益が減少したため、繰越利益剰余金を借方(減少)します。
- B/S項目の修正: 過年度の期末商品棚卸高(資産)は、そのまま当期首の繰越商品(資産)として反映させます。棚卸資産残高が減少するため、繰越商品を貸方(減少)します。
この問題の意図は、会計方針の変更における「遡及適用」と、その際の「繰越利益剰余金」を用いた修正処理を理解しているかを確認することにあります。
問2(計算問題:会計上の見積りの変更)解説
この問題は、固定資産の耐用年数の変更という「会計上の見積りの変更」に関するものです。取得時の見積りが合理的であったため、これは誤謬ではなく、会計上の見積りの変更に該当します。
見積りの変更は、過去に遡って修正を行わず、変更時以降の期間に将来適用されます。したがって、過去の減価償却費の計算方法や金額を変更する必要はありません。
解法手順:
- 変更時までの減価償却累計額の計算:
- 年間償却費:800,000円 ÷ 8年 = 100,000円
- ×3年4月1日から×6年3月31日までの償却期間は3年間。
- 減価償却累計額:100,000円 × 3年 = 300,000円
- 変更時(当期首)の未償却残高(帳簿価額)の計算:
- 帳簿価額:800,000円 – 300,000円 = 500,000円
- 当期以降の償却費の計算(将来適用):
- この未償却残高を、新しい残存耐用年数(3年)で償却します。
- 当期の減価償却費:500,000円 ÷ 3年 = 166,666.66…円
- 四捨五入処理:
- 問題文の指示に基づき、千円未満を四捨五入します。
- 167千円
この計算の背景には、過去の減価償却費は適切であったという前提があり、残存すべき価値を、残りの耐用年数で割り振るという考え方があります。見積りの変更が会計処理にもたらす影響を正確に把握することが、この問題の意図です。
問3(仕訳問題:減価償却方法の変更)解説
減価償却方法の変更は、本来は会計方針の変更ですが、会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合に該当するため、見積りの変更と同様に将来適用として処理します。遡及適用は行いません。
解法手順:
- 変更時(当期首)の未償却残高(帳簿価額)の計算:
- 取得原価:1,500,000円
- 前期末累計額:540,000円
- 帳簿価額:1,500,000円 – 540,000円 = 960,000円
- 残存耐用年数の確認:
- 定率法(償却率20%)を2年間適用してきたと仮定します(累計額540,000円)。
- 1年目:1,500,000 × 20% = 300,000
- 2年目:(1,500,000 – 300,000)× 20% = 240,000
- 累計額:300,000 + 240,000 = 540,000円 (これは耐用年数10年で2年償却したケースです)。
- 当初の耐用年数10年に対し、2年が経過しているため、残存耐用年数は8年です(10年 – 2年)。
- 定率法(償却率20%)を2年間適用してきたと仮定します(累計額540,000円)。
- 当期以降の償却費の計算(定額法、将来適用):
- 未償却残高を、残存耐用年数で償却します。
- 当期の減価償却費:960,000円 ÷ 8年 = 120,000円
この問題は、減価償却方法の変更が特例的に見積りの変更として扱われ、その結果、遡及修正ではなく未償却残高をベースに計算を継続する点(将来適用)を理解しているかを問うものです。
問4(仕訳問題:過去の誤謬の訂正)解説
前期の決算における引当金設定額の誤りは、事実の見落としや見積りの誤り(ただし合理的ではなかった場合)から生じた誤謬に該当します。
誤謬が発見された場合、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、過去に遡って修正再表示しなければなりません。
- 過年度の影響の特定: 貸倒引当金の設定額が400千円過少であったということは、前期に貸倒引当金繰入額(費用)が400千円過少計上され、その結果、利益が400千円過大に計上されていたことを意味します。
- 修正方法: 過年度の利益を修正する場合、当期首の財務諸表において繰越利益剰余金を修正します。利益の過大計上を修正するため、繰越利益剰余金を借方(減少)します。
- B/S項目の修正: 貸倒引当金は前期末に計上すべきであった金額なので、これを当期首の貸方に計上します。
この問題は、誤謬が将来適用される見積りの変更とは異なり、必ず遡及修正が必要であること、そしてその修正が「繰越利益剰余金」を介して行われるというプロセスを理解しているかを問います。
問5(選択肢問題:表示方法の変更)解説
この問題は、財務諸表の「表示方法の変更」に関する規定を問うものです。表示方法とは、科目の分類、配列、報告様式、および注記による開示などを含みます。
表示方法を変更した場合、財務諸表利用者の比較可能性(コンパラビリティ)を担保するために、原則として、表示する過去の財務諸表すべてについて、新たな表示方法に従って組替えを行う必要があります。
これは、あたかも最初から新しい表示方法を遡って適用していたかのように表示を変更すること(財務諸表の組替え)を指します。表示方法の変更は、通常、過年度の損益計算書(P/L)の金額自体には影響を与えないため、会計方針の変更のように繰越利益剰余金の修正は発生しません(例えば、売上高から営業外収益への科目の組み替えは金額合計を変えないため)。
したがって、過去の財務諸表の組替えを行う「ア」が最も適切な処理となります。
まとめ
ポイント1:会計方針の継続適用と開示
- 会計方針(棚卸資産評価方法や減価償却方法など)は、正当な理由がない限り継続して適用しなければなりません。
- 重要な会計方針は、財務諸表利用者の理解を助けるために必ず注記します。
ポイント2:会計方針の変更
- 正当な理由による会計方針の変更は、原則として遡及適用し、過年度のP/L影響は期首の繰越利益剰余金に反映させます。
ポイント3:会計上の見積りの変更
- 新たな情報に基づいて行われた見積りの変更は、過去に遡って修正しません(将来にわたって適用する将来適用です)。
- 見積りの変更は、過去の財務諸表に影響を与えないと考えられます。
ポイント4:減価償却方法の変更の特例
- 有形固定資産などの減価償却方法の変更は、会計方針の変更に該当しますが、会計上の見積りの変更と区別が困難なため、見積りの変更と同様に将来適用として処理します。
ポイント5:過去の誤謬の訂正
- 誤謬(過失・故意によらない誤り)は、過去に遡って修正再表示(修正を過去の財務諸表に反映させること)します。
- 誤謬訂正による過年度の修正損益額は、期首の繰越利益剰余金で処理します。