以下の設例に基づき、簿記1級の持分法会計に関する5問に解答してください。税効果会計は考慮外とします。
<設例共通> P社はX1年4月1日にA社株式の30%を6,000千円で取得し、関連会社とし、持分法を適用することとした。A社の純資産の内訳は、資本金10,000千円、資本剰余金5,000千円、利益剰余金4,000千円である。なお、取得時のA社の純資産の帳簿価額と時価は一致しているものとする。投資差額(のれん相当額)は10年間で定額償却を行う。
問1(計算問題・仕訳)
X1年度末において、A社は当期純利益として2,000千円を計上しました。P社が行うべき持分法による当期純利益の計上仕訳の金額を求め、仕訳を完成させなさい。
問2(計算問題・仕訳)
X1年度において、A社は利益剰余金を原資として1,000千円の剰余金の配当を実施しました。P社が行うべき持分法による受取配当金の修正仕訳を完成させなさい。
問3(計算問題・計算過程)
P社がA社株式を取得したX1年4月1日における投資差額(のれん相当額または負ののれん相当額)を求めなさい。
問4(計算問題・仕訳)
問3で算定された投資差額(のれん相当額)について、X1年度末に行うべき償却仕訳の金額を求め、仕訳を完成させなさい。
問5(計算問題・選択肢)
P社はX1年4月1日にB社株式の40%を9,000千円で取得し、関連会社として持分法を適用することとした。B社の純資産の内訳は、資本金10,000千円、資本剰余金10,000千円、利益剰余金5,000千円であった。なお、取得時のB社の純資産の帳簿価額と時価は一致している。この取得に伴い、P社が認識すべき『持分法による投資損益』の金額(負ののれん相当額)として正しいものを選びなさい。
A. 0千円 B. 1,000千円 C. 4,000千円 D. 9,000千円
問1
借方 | 貸方 |
---|---|
A社株式 600千円 | 持分法による投資損益 600千円 |
問2
借方 | 貸方 |
---|---|
受取配当金 300千円 | A社株式 300千円 |
問3
300千円
問4
借方 | 貸方 |
---|---|
持分法による投資損益 30千円 | A社株式 30千円 |
問5
B. 1,000千円
持分法会計の基礎知識
簿記1級の学習お疲れ様です。本章で学習する持分法会計は、連結会計の基礎知識が前提となる重要なテーマです。持分法とは、投資会社が、被投資会社(関連会社や非連結子会社)の資本および損益のうち、投資会社に帰属する部分の変動に応じて、投資の額を修正する方法をいいます。
簡単に言えば、被投資会社の業績が上がれば投資会社の保有株式の簿価を上げ、業績が下がれば簿価を下げるという仕組みです。
連結会計との比較:一行連結の意味
連結会計が企業集団全体の全科目を合算する「完全連結(全部連結)」と呼ばれるのに対し、持分法は「一行連結」と呼ばれます。
これは、連結会計がすべての勘定科目を連結の対象とするのに対し、持分法は被投資会社の株式という一つの勘定科目(関連会社株式など)だけを対象として連結処理を行うと考えられるからです。
重要なポイントとして、親会社(投資会社)の当期純利益および純資産に与える影響は、連結会計と持分法会計でほぼ同一となるように設計されています。
持分法の適用範囲
持分法は、関連会社および非連結子会社に対して適用される会計処理です。
ただし、持分法が適用されるのは、連結会計を行っている場合に限定されます。したがって、関連会社や非連結子会社が複数あっても、他に連結子会社がないために連結財務諸表が作成されない場合、持分法は適用されません。
区分 | 個別財務諸表上の評価 | 連結財務諸表上の評価 |
---|---|---|
関連会社株式 | 原価法による評価 | 持分法による評価 |
子会社株式 | 原価法による評価 | (財務諸表の合算後)相殺消去 |
関連会社の判定(影響力基準)
関連会社とは、企業が出資、人事、資金、技術、取引などの関係を通じて、子会社以外の他の企業の財務および営業の方針決定に対して重要な影響を与えることができる場合における、当該子会社以外の他の企業をいいます。
具体的には、株式の所有割合が20%以上50%以下のケースが該当すると考えておくとよいでしょう。ただし、連結会計における子会社の判定と同様に、実質的な支配や影響力を判断する「影響力基準(実質基準)」が採用されています。
非連結子会社への適用
連結の範囲から除外された子会社(非連結子会社)も持分法の適用対象となります。
連結会計において子会社が除外されるケースとしては、「支配が一時的であると認められる企業」や、「連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業」(除外規定)や、「重要性の乏しいもの」(除外可能規定)があります。
会計処理の基礎:投資勘定の増減
持分法の基本的な会計処理は、被投資会社の業績に応じて、投資勘定(『関連会社株式』や『A社株式』など)を増減する形で行われます。この増減に対応する損益勘定は、『持分法による投資損益』を使用します(営業外収益または営業外費用となります)。
被投資会社が純利益を計上した場合(増額) (例:A社が1,000千円の純利益、保有割合20%の場合)
借方 | 貸方 |
---|---|
A社株式 200 | 持分法による投資損益 200 |
(1,000千円 × 20% = 200千円)
被投資会社が純損失を計上した場合(減額) (例:A社が1,000千円の純損失、保有割合20%の場合)
借方 | 貸方 |
---|---|
持分法による投資損益 200 | A社株式 200 |
取得時の会計処理:評価法の違い
持分法は連結会計とほぼ同等の処理を行うため、実質的な連結修正を行うための「下書き」を考えます。特に取得時においては、投資差額(のれん相当額)などを算定するためにタイムテーブルを作成しておく必要があります。
全部時価評価法と部分時価評価法
連結会計では、支配獲得日に子会社の資産および負債のすべてを時価により評価し、その差額を『評価差額』とする「全部時価評価法」を採用します。
一方、持分法を適用する関連会社では、被投資会社の資産および負債のうち、投資会社の持分相当額のみを時価により評価します。これを「部分時価評価法」といいます。
なお、持分法を適用する非連結子会社は、あくまで子会社であるため、連結会計と同様に「全部時価評価法」で会計処理を行います。
適用対象 | 適用される評価法 |
---|---|
子会社(連結を適用) | 全部時価評価法 |
非連結子会社(持分法を適用) | 全部時価評価法 |
関連会社(持分法を適用) | 部分時価評価法 |
部分時価評価法では、時価評価差額のうち、投資会社持分相当額のみを算定し、この持分相当額を、連結会計の組替修正に相当する仕訳のメモとして利用します。
投資差額の会計処理
投資差額が負ののれん(割安購入)に相当する場合には、連結会計と同様に、持分法においても利益として計上されます。 (例:負ののれん相当額600円だった場合)
借方 | 貸方 |
---|---|
A社株式 600 | 持分法による投資損益 600 |
支配獲得後の会計処理(期中仕訳)
実質的に連結会計と同等の結果を得るために、以下の調整を『A社株式』と『持分法による投資損益』の2つの勘定科目(場合によっては『受取配当金』)を使って行います。
1. 投資差額の償却(のれん相当額の償却)
連結会計での「のれん償却額 / のれん」の仕訳に相当する処理を、持分法では行います。
(例:投資差額400円を10年償却する場合、40円)
借方 | 貸方 |
---|---|
持分法による投資損益 40 | A社株式 40 |
2. 当期純利益の計上
被投資会社が計上した当期純利益のうち、投資会社持分相当額を直接増額します。
(例:A社当期純利益1,500円、持分20%の場合、300円)
借方 | 貸方 |
---|---|
A社株式 300 | 持分法による投資損益 300 |
3. 受取配当金の修正
投資会社が被投資会社から受け取った配当金は、個別上『受取配当金』として計上されています。しかし、持分法を適用する上で、この配当金は投資会社の持分である純資産の減少(投資の回収)とみなされます。
そのため、受取配当金を取り消し、投資勘定を減少させる修正を行います。この修正には、『持分法による投資損益』ではなく、『受取配当金』勘定を使います。
(例:A社配当金500円、持分20%の場合、100円)
借方 | 貸方 |
---|---|
受取配当金 100 | A社株式 100 |
4. 翌年の開始仕訳
連結会計と同様に、持分法においても翌年には前期に行った修正仕訳を開始仕訳として再度行います。この際、過年度の損益項目(『持分法による投資損益』)は『利益剰余金(当期首残高)』に振り替えられます。
問題解説
問1:当期純利益の計上
本問は、持分法の基本的な処理である、被投資会社の当期純利益を投資会社の利益として取り込む処理を問うています。持分法では、被投資会社(A社)の業績が上がった分だけ、投資勘定(A社株式)を増額し、対応する損益勘定として『持分法による投資損益』を計上します。
まず、P社が取得した時点のA社の純資産総額を計算します。純資産は10,000千円(資本金)+5,000千円(資本剰余金)+4,000千円(利益剰余金)=19,000千円です。
次に、A社がX1年度に計上した当期純利益2,000千円のうち、P社に帰属する持分相当額を計算します。 持分相当額 = 2,000千円 × 30% = 600千円
この600千円を、投資勘定(A社株式)の増額として処理します。この処理は連結会計における非支配株主への利益配分処理とは異なり、P社に帰属する部分を直接計上する形をとります。これにより、P社の当期純利益は増加し、持分法を適用しない場合に比べて、より実態に近い業績が反映されます。仕訳では、借方で『A社株式』を増やし、貸方で『持分法による投資損益』を計上します。
問2:受取配当金の修正
本問は、持分法における受取配当金の修正処理を問うています。A社が配当金1,000千円を実施した際、P社は個別上、持分相当額(1,000千円 × 30% = 300千円)を『受取配当金』として計上しています。
しかし、持分法の考え方では、被投資会社からの配当金は、P社がすでに純利益の計上を通じて取り込んだA社の純資産の一部がP社に戻ってきたものであり、「投資の回収」とみなされます。したがって、この配当金はP社の収益として残しておくべきではありません。
修正仕訳では、個別上で収益として計上されている『受取配当金』を貸方に記入して取り消し、その分だけ投資勘定である『A社株式』を減額します。この際、受取配当金の修正に限り、『持分法による投資損益』ではなく、『受取配当金』勘定をそのまま用いる点に注意が必要です。これにより、持分法による投資損益の計算において、配当金の影響は排除されます。
修正額 = A社配当金 1,000千円 × P社持分 30% = 300千円。
問3:投資差額(のれん相当額)の算定
本問は、取得時における投資差額(のれん相当額)の算定を問うています。持分法においても、連結会計と同様に、取得原価と、取得した持分に相当する純資産の額との差額を算定し、これを投資差額と呼びます。
まず、取得日におけるA社の純資産総額を計算します。 純資産総額 = 資本金10,000千円 + 資本剰余金5,000千円 + 利益剰余金4,000千円 = 19,000千円。
次に、P社が取得した持分相当額(簿価)を計算します。 P社持分相当額 = 19,000千円 × 30% = 5,700千円。
取得原価は6,000千円です。
投資差額 = 取得原価 - P社持分相当額 投資差額 = 6,000千円 - 5,700千円 = 300千円。
取得原価が持分相当額を上回っているため、この300千円は「のれん」に相当する金額となります。持分法では、この投資差額についても、連結会計と同様にタイムテーブルを作成して管理し、償却していく必要があります。
問4:投資差額の償却
本問は、問3で算定された投資差額(のれん相当額)の償却処理を問うています。投資差額300千円は10年間で定額償却を行うとされています。
償却額は以下のように計算されます。 年間償却額 = 投資差額 300千円 ÷ 償却期間 10年 = 30千円。
この償却処理は、連結会計における「のれん償却額 / のれん」の仕訳と実質的に同等です。しかし、持分法は「一行連結」であり、個別の勘定科目(のれんやのれん償却額)は使用しません。
したがって、償却によって投資の価値が減少するとともに、費用(損益)を認識するため、借方には損益勘定である『持分法による投資損益』を、貸方には投資勘定である『A社株式』を使用します。のれん償却は費用処理であるため、『持分法による投資損益』は借方に計上され(費用)、P社の利益を減少させます。
問5:負ののれん相当額の計上
本問は、負ののれん(割安購入)相当額が発生した場合の持分法上の処理を問うています。
まず、B社の純資産総額を計算します。 純資産総額 = 資本金10,000千円 + 資本剰余金10,000千円 + 利益剰余金5,000千円 = 25,000千円。
次に、P社が取得した持分相当額(簿価)を計算します。 P社持分相当額 = 25,000千円 × 40% = 10,000千円。
P社の取得原価は9,000千円です。
投資差額 = 取得原価 - P社持分相当額 投資差額 = 9,000千円 - 10,000千円 = ▲1,000千円。
この差額(▲1,000千円)は、負ののれん(割安購入)に相当します。連結会計では『負ののれん発生益』として特別利益に計上されますが、持分法においても、この負ののれん相当額は利益として認識されます。
持分法においては、利益項目は『持分法による投資損益』として計上します。この認識仕訳は、投資勘定を増加させ、損益を増加させる形で行われます。
認識すべき『持分法による投資損益』は1,000千円となります。 したがって、正解はBです。
まとめ
ポイント1:一行連結と影響力基準
持分法は「一行連結」と呼ばれ、投資の額を被投資会社の純資産および損益の変動に応じて修正する方法です。適用対象となる関連会社は、持株割合(20%以上50%以下)だけでなく、実質的な「影響力基準」で判定されます。
ポイント2:適用範囲と前提条件
持分法が適用されるのは、関連会社および非連結子会社です。ただし、持分法は連結財務諸表を作成している場合にのみ行われる会計処理です。
ポイント3:評価法の違いに注意
関連会社に持分法を適用する場合、被投資会社の資産負債の時価評価は、投資会社の持分相当額のみを評価する「部分時価評価法」を用います。一方、非連結子会社に持分法を適用する場合は、子会社であるため「全部時価評価法」を適用します。
ポイント4:基本的な仕訳勘定
持分法の修正仕訳は、原則として貸借対照表項目として『A社株式』などの投資勘定を、損益項目として『持分法による投資損益』を使用します。
ポイント5:受取配当金の処理
被投資会社から受け取った配当金は、持分法の修正仕訳においては『持分法による投資損益』ではなく、『受取配当金』勘定を用いて修正(取り消し)し、投資勘定(A社株式)を減少させます。