問1(計算問題:低価法原価率)
当社は売価還元低価法を採用している。以下の資料に基づき、低価法原価率を算定しなさい。
項目 | 原価(千円) | 売価(千円) |
---|---|---|
期首商品棚卸高 | 50,000 | 80,000 |
当期商品仕入高 | 250,000 | 420,000 |
純値上額 | – | 50,000 |
純値下額 | – | 30,000 |
問2(計算問題:商品評価損)
問1と同じ資料を使用し、期末商品実地棚卸高の売価が100,000千円であるとき、『商品評価損』の金額を算定しなさい。
問3(計算問題:棚卸減耗費)
当社は売価還元原価法を採用している。以下の資料に基づき、『棚卸減耗費』の金額を算定しなさい。
項目 | 原価(千円) | 売価(千円) |
---|---|---|
借方合計 | 300,000 | 400,000 |
当期売上高 | – | 280,000 |
期末商品実地棚卸高(売価) | – | 110,000 |
問4(仕訳問題:トレーディング目的棚卸資産の評価)
トレーディング目的で保有している棚卸資産(期末帳簿価額:15,000千円)について、期末の時価が16,500千円であった。この棚卸資産の評価替えに関する必要な仕訳を行いなさい。
問5(選択肢問題:棚卸資産の範囲)
日本の会計基準において、棚卸資産の範囲に含まれるとされているものとして、適切な記述を選びなさい。
A. 通常の営業サイクル内の販売目的のもの(商品、製品など)のみに限定される。 B. 販売目的のものに加え、販売費及び一般管理費となる活動で消費されるもの(事務用消耗品など)も範囲に含まれる。 C. 国際会計基準との整合性を図るため、事務用消耗品は棚卸資産の範囲から除外される。 D. トレーディング目的で保有する棚卸資産は、売買目的有価証券に分類されるため、棚卸資産の範囲から除外される。
問1
低価法原価率 54.55%
問2
商品評価損 3,147千円
問3
棚卸減耗費 7,500千円
問4(仕訳解答)
借方科目 | 金額(千円) | 貸方科目 | 金額(千円) |
---|---|---|---|
棚卸資産 | 1,500 | 売上高 | 1,500 |
問5
B
売価還元低価法とは
売価還元法は、多数の類似性のある棚卸資産グループについて、期末の売価合計額に原価率を乗じることによって、期末棚卸資産の取得原価(費⽤配分)を算定する⽅法です。この方法には「売価還元原価法」と「売価還元低価法」の2種類が存在します。
売価還元低価法は、期末棚卸資産の評価において、収益性の低下による簿価切下げ、すなわち『商品評価損』を認識するために用いられます。
売価還元低価法における原価率の計算
売価還元低価法の特徴は、原価率を算定する際に「値下額」及び「値下取消額」(これらをまとめて純値下額といいます)を考慮しない原価率を別途求める点にあります。この原価率が「低価法原価率」となります。
売価還元原価法の原価率は、分母において「純値下額(売価)」を控除して算定されます。
\( \text{原価率} = \frac{\text{期首商品(原価)} + \text{当期仕入(原価)}}{\text{期首商品(売価)} + \text{当期仕入(売価)} + \text{純値上額(売価)} – \text{純値下額(売価)}} \)これに対し、売価還元低価法の原価率は、分母から純値下額(売価)を控除しません。
\( \text{原価率} = \frac{\text{期首商品(原価)} + \text{当期仕入(原価)}}{\text{期首商品(売価)} + \text{当期仕入(売価)} + \text{純値上額(売価)}} \)純値下額を控除しないため、低価法原価率の分母は原価法原価率の分母よりも大きくなります。その結果、低価法原価率は原価法原価率よりも小さくなるという特徴があります。
商品評価損の算定
売価還元低価法では、この2つの原価率を用いて『商品評価損』を算定します。
- 損益計算書(P/L)の期末商品原価:期末商品売価に売価還元原価法の原価率を乗じて求めます。これは、棚卸減耗費を計算する際の基礎となる金額です。
- 貸借対照表(B/S)の評価額:期末商品売価に売価還元低価法の原価率を乗じて求めます。
このP/L期末商品原価とB/S価額の差額が、『商品評価損』として認識されます。
\( \text{商品評価損} = (\text{期末商品売価} \times \text{原価法原価率}) – (\text{期末商品売価} \times \text{低価法原価率}) \)売価還元法における棚卸減耗費の算定
売価還元法において『棚卸減耗費』が発生しているケースでは、期末商品の下書き(商品BOX)を詳細に分析する必要があります。
棚卸減耗費の金額を算定する手順は以下の通りです。
- 帳簿棚卸高(売価)の把握: 借方売価合計(期首+仕入+純値上)から売上高を差し引いて、「期末商品帳簿棚卸高」の売価を求めます。
- 売価ベースの棚卸減耗費の特定: 帳簿棚卸高(売価)と実地棚卸高(売価)の差額を求め、これが売価ベースの『棚卸減耗費』となります。
- 原価ベースへの換算: 売価ベースの棚卸減耗費に、原価ベースの金額にするために売価還元原価法の原価率を乗じます。
トレーディング目的で保有する棚卸資産
トレーディング目的で保有する棚卸資産とは、加工や販売の努力を行うことなく、単に市場価格の変動により利益を得る目的で保有する棚卸資産を指します。
評価と損益処理
この種の棚卸資産は、その性格が売買目的有価証券と非常に類似しています。そのため、期末の貸借対照表価額は時価をもって評価され、簿価との差額は当期の損益として処理されます。
ただし、これはあくまで「棚卸資産」に該当するため、関連する損益(評価益や評価損)の表示区分は、原則として売上高として計上されます。
棚卸資産の範囲に関する補足
棚卸資産は「通常の営業サイクル内の販売目的のもの」(商品、製品など)を指しますが、我が国の会計基準では、事務用消耗品など、販売費及び一般管理費となる活動で消費されるものもその範囲に含めることとされています。
問題解説
問1(計算問題:低価法原価率)
問1は、売価還元低価法の基本である「低価法原価率」の算定能力を問う問題です。売価還元法では、まず商品BOXの借方合計を把握します。
原価の合計(分子) 期首商品原価 50,000千円 + 当期仕入原価 250,000千円 = 300,000千円
売価の合計(分母) 低価法原価率を算定する際の最大の特徴は、分母の計算において、純値下額(30,000千円)を考慮しない点です。純値下額を考慮しないことで、分母が大きくなり、結果として原価率が小さくなります。
期首商品売価 80,000千円 + 当期仕入売価 420,000千円 + 純値上額 50,000千円 = 550,000千円
低価法原価率の計算 原価合計 300,000千円 ÷ 売価合計 550,000千円 ≒ 0.54545…
したがって、低価法原価率は54.55%(四捨五入)となります。
問2(計算問題:商品評価損)
『商品評価損』の算定には、売価還元原価法の原価率と低価法原価率の両方が必要です。問1で低価法原価率(54.55%)を求めましたが、正確な『商品評価損』を算定するためには、計算過程で端数処理をせず、両方の原価率の差額を計算するか、またはそれぞれ正確に算定する必要があります。
1. 売価還元原価法の原価率の算定 原価法の場合、分母は純値下額(30,000千円)を控除します。 売価合計(分母): 550,000千円 - 純値下額 30,000千円 = 520,000千円 原価法原価率: 原価合計 300,000千円 ÷ 売価合計 520,000千円 = 0.576923…
2. P/L期末商品原価の算定 期末商品売価 100,000千円 × 原価法原価率 0.576923… = 57,692.3千円
3. B/S価額の算定 期末商品売価 100,000千円 × 低価法原価率 0.545454… = 54,545.4千円
4. 商品評価損の算定 P/L期末商品原価 57,692.3千円 - B/S価額 54,545.4千円 = 3,146.9千円
この差額が『商品評価損』として認識されます。四捨五入すると、3,147千円となります。
※より簡単に計算するには、期末商品売価(100,000千円)に、原価率の差(0.576923… – 0.545454… = 0.031469…)を乗じる方法もあります。
問3(計算問題:棚卸減耗費)
この問題は売価還元原価法を採用しているケースであり、棚卸減耗費を算定するため、帳簿棚卸高と実地棚卸高を比較するプロセスが必要です。
1. 売価還元原価法の原価率の算定 借方原価合計 300,000千円 ÷ 借方売価合計 400,000千円 = 0.75(75%)
2. 期末商品帳簿棚卸高(売価)の算定 帳簿棚卸高は、借方の商品の総売価から売上高を差し引くことで求められます。 借方売価合計 400,000千円 - 売上高 280,000千円 = 120,000千円
3. 売価ベースの棚卸減耗費の算定 帳簿上の売価と実地棚卸高の売価の差額が、売価ベースの棚卸減耗費です。 帳簿棚卸高(売価) 120,000千円 - 実地棚卸高(売価) 110,000千円 = 10,000千円
4. 原価ベースの棚卸減耗費の算定 売価ベースで求めた減耗費に、原価ベースに戻すために原価率(75%)を乗じます。 10,000千円 × 0.75 = 7,500千円
したがって、『棚卸減耗費』は7,500千円となります。
問4(仕訳問題:トレーディング目的棚卸資産の評価)
トレーディング目的で保有する棚卸資産は、単に市場価格の変動により利益を得る目的で保有されており、売買目的有価証券と同様に扱われます。
期末には時価をもって評価し、その差額(評価益)を当期の損益として処理します。 評価益:時価 16,500千円 - 帳簿価額 15,000千円 = 1,500千円
評価益が発生した場合、貸借対照表価額を時価に合わせるために、棚卸資産(資産)を増加させます。相手科目は『売上高』または『トレーディング商品評価益』を使いますが、この種の損益は原則として売上高として表示されます。簿記1級の仕訳では、評価益を直接売上高として計上することが求められる場合があります。
借方科目 | 金額(千円) | 貸方科目 | 金額(千円) |
---|---|---|---|
棚卸資産 | 1,500 | 売上高 | 1,500 |
問5(選択肢問題:棚卸資産の範囲)
この問題は、日本の会計基準における棚卸資産の範囲に関する知識を問うものです。
棚卸資産は、主に通常の営業サイクル内の販売目的のもの(商品、製品など)を指しますが、これに加えて、我が国の基準では、事務用消耗品など、販売費及び一般管理費として消費されるものも棚卸資産の範囲に含めることとされています。
Aは販売目的のものに限定しているため不適切です。Cは、批判される意見として述べられていますが、現行の日本の基準とは異なります。Dは、評価方法が類似しているものの、トレーディング目的の棚卸資産はあくまで棚卸資産の範囲に該当します。
したがって、Bが適切な記述となります。
まとめ
ポイント1:低価法原価率の計算 売価還元低価法では、原価率を算定する際、分母から純値下額(売価)を考慮外とします。これにより、低価法原価率は売価還元原価法の原価率よりも必ず小さくなります。
ポイント2:商品評価損の算定 売価還元低価法で計上される『商品評価損』は、P/L価額(原価法原価率を使用)とB/S価額(低価法原価率を使用)の差額として計算されます。
ポイント3:棚卸減耗費の計算手順 売価還元法における棚卸減耗費は、まず帳簿棚卸高(売価)と実地棚卸高(売価)の差額(売価ベースの減耗)を求め、これに売価還元原価法の原価率を乗じて原価ベースに換算します。
ポイント4:トレーディング目的棚卸資産の評価 トレーディング目的で保有する棚卸資産は、売買目的有価証券と同様に、期末に時価をもって貸借対照表価額とします。
ポイント5:トレーディング目的棚卸資産の損益表示 トレーディング目的の棚卸資産に係る評価差額は当期の損益となりますが、表示区分は原則として売上高に含めて表示されます。