【簿記1級】持分法における未実現利益の消去:ダウン/アップ・ストリームの原則処理と税効果会計を完全解説

問題

問1(仕訳問題:ダウン・ストリーム・関連会社)

投資会社P社(投資割合25%、実効税率40%)は、被投資会社A社に原価3,000円の商品を利益率20%で販売した。期末時点で、この商品のうち2,000円がA社の期末商品として残っている。この未実現利益の消去仕訳(原則的な勘定科目を使用)を示しなさい。

問2(仕訳問題:アップ・ストリーム・関連会社)

被投資会社A社(投資割合30%、実効税率40%)は、投資会社P社に原価4,000円の商品を利益率15%で販売した。期末時点で、この商品のうち5,000円がP社の期末商品として残っている。この未実現利益の消去仕訳(原則的な勘定科目を使用)を示しなさい。

問3(計算問題:ダウン・ストリーム・非連結子会社)

投資会社P社(投資割合60%、実効税率40%)が非連結子会社S社に販売した商品のうち、S社期末に未販売で残っている金額が10,000円である。P社はS社に対し、原価に対して25%の利益を乗せて販売している。この未実現利益を消去する際に、投資会社が計上すべき繰延税金資産の金額を求めなさい。

問4(仕訳問題:アップ・ストリーム・税効果)

問2のアップ・ストリームのケース(A社がP社に販売)において、未実現利益の消去に伴う税効果会計の仕訳を示しなさい。 (A社の販売残:5,000円、A社の利益率:15%、P社の投資割合:30%、実効税率:40%)

問5(選択肢問題:ダウン・ストリーム・期首分の実現)

前期末にダウン・ストリーム(関連会社、投資割合20%)で計上された未実現利益400円が当期にすべて実現した。この期首分の未実現利益の実現仕訳として、開始仕訳と実現仕訳を一つにまとめた結合仕訳として、正しいものを選びなさい。

  1. (借) 利益剰余金(当期首残高) 400 (貸) A社株式 400
  2. (借) 売上高 400 (貸) 利益剰余金(当期首残高) 400
  3. (借) 利益剰余金(当期首残高) 400 (貸) 売上高 400
  4. (借) A社株式 400 (貸) 売上高 400


<答え>

問1 解答

借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
売上高100A社株式100

問2 解答

借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
持分法による投資損益225商品225

問3 解答

800円

問4 解答

借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
A社株式90持分法による投資損益90

問5 解答

  1. (借) 利益剰余金(当期首残高) 400 (貸) 売上高 400


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持分法における未実現利益の消去

成果連結に相当する会計処理の必要性

持分法を適用する際にも、連結会計における「成果連結」に相当する会計処理を行う必要があります。具体的には、投資会社と被投資会社(関連会社または非連結子会社)との間の取引によって生じた商品や固定資産に含まれる未実現損益を修正します。

この修正を行うにあたり、未実現利益を計上した会社が「投資会社(親会社)」か「被投資会社(子会社・関連会社)」かによって、勘定科目の使い方や消去の範囲が異なります。これは、ダウン・ストリームのケースアップ・ストリームのケースに分けられます。

1. ダウン・ストリームのケース

ダウン・ストリームとは、投資会社(P社)が被投資会社(A社)に対して商品を販売し、投資会社側で利益が計上されている場合を指します。

このケースでは、未実現利益を計上しているのは販売元である投資会社です。

(1)未実現利益の消去(関連会社の場合)

被投資会社が関連会社(例:投資割合20%)の場合、未実現利益は投資会社の持分相当額のみを消去します。

未実現利益を計上しているのが投資会社であるため、原則として、投資会社が計上した「売上高」を修正する勘定科目として使用します。

借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
売上高利益×投資割合A社株式利益×投資割合
  • (容認処理)未実現利益を『持分法による投資損益』を使って修正する方法も容認されています。
(2)未実現利益の消去(非連結子会社の場合)

被投資会社が非連結子会社(例:投資割合80%)である場合、被投資会社はあくまで子会社であるため、未実現利益は全額消去します。

借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
売上高利益全額A社株式利益全額
(3)税効果会計の処理

税効果会計は、納税主体である販売元の立場で考えます。ダウン・ストリームの場合、販売元は投資会社(P社)ですから、投資会社が連結会計と同様の勘定科目を用いて税効果の仕訳を行います。

借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
繰延税金資産利益消去額×実効税率法人税等調整額利益消去額×実効税率

2. アップ・ストリームのケース

アップ・ストリームとは、被投資会社(A社)が投資会社(P社)に対して商品を販売し、被投資会社側で利益が計上されている場合を指します。

このケースでは、未実現利益を計上しているのは販売元である被投資会社です。

(1)未実現利益の消去

アップ・ストリームの場合、被投資会社が関連会社であっても非連結子会社であっても、消去する未実現利益は投資割合のみとなります。

投資会社では未実現利益が「商品」(棚卸資産)に含められて計上されているため、原則として**『商品』勘定**を使って修正します。

借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
持分法による投資損益利益×投資割合商品利益×投資割合
  • (容認処理)未実現利益を『A社株式』を使って修正する方法も容認されています。
(2)税効果会計の処理

アップ・ストリームの場合、販売元は被投資会社です。持分法では、被投資会社が納税主体として税効果会計の仕訳((借) 繰延税金資産 (貸) 法人税等調整額)を行っているとみなします。

この税効果会計により、被投資会社の当期純利益が増加することになります。

したがって、投資会社は、この利益の増加分(税効果分)について、持分法による修正仕訳を行います。この際、『繰延税金資産』や『法人税等調整額』ではなく、**『持分法による投資損益』と『A社株式』**を使って仕訳を行います。

借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
A社株式利益消去額×実効税率持分法による投資損益利益消去額×実効税率

3. 期首分の未実現利益の処理

前期末に未実現だった利益が、当期になって販売され「実現」した場合、その利益の修正を行います。

処理の要領は連結会計と同様に、開始仕訳(引継仕訳)と実現仕訳を組み合わせて行います。

(1)ダウン・ストリームのケース(結合仕訳)
借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
利益剰余金(当期首残高)40売上高40

(これは、開始仕訳:利益剰余金(当期首残高)40 / A社株式 40、と実現仕訳:A社株式 40 / 売上高 40 を合算したものです)。

(2)アップ・ストリームのケース(結合仕訳)
借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
利益剰余金(当期首残高)40持分法による投資損益40

(これは、開始仕訳:利益剰余金(当期首残高)40 / 商品 40、と実現仕訳:商品 40 / 持分法による投資損益 40 を合算したものです)。


問題解説

問1 解説(ダウン・ストリーム・関連会社)

この問題は、投資会社P社が被投資会社A社に商品を販売する「ダウン・ストリーム」のケースです。A社はP社の関連会社(投資割合25%)であるため、未実現利益の消去は投資割合相当額のみ行います。また、販売元であるP社が利益を計上しているため、原則としてP社の『売上高』を修正します。

まず、未実現利益を計算します。 A社の期末商品に含まれるP社からの仕入分は2,000円です。P社の利益率は売価の20%です。 未実現利益: $2,000円 \times 20% = 400円$

次に、この未実現利益のうち、P社の持分相当額を計算します。 消去対象利益: $400円 \times 25% = 100円$

この100円を消去する仕訳を行います。ダウン・ストリームの原則処理に従い、『売上高』を減らし、持分法投資の修正として『A社株式』を減らします。

(借) 売上高 100 (貸) A社株式 100

仮に容認処理を用いる場合、借方が『持分法による投資損益』となりますが、原則処理を問われているため、『売上高』を使用します。税効果会計の仕訳は問われていないため、ここでは省略します。

問2 解説(アップ・ストリーム・関連会社)

この問題は、被投資会社A社が投資会社P社に商品を販売する「アップ・ストリーム」のケースです。A社は関連会社(投資割合30%)であるため、アップ・ストリームのルールに従い、未実現利益は投資割合相当額のみを消去します。

また、このケースではP社の商品在庫に未実現利益が含まれているため、原則として『商品』勘定を修正します。借方には持分法適用による損益修正として『持分法による投資損益』を使用します。

まず、未実現利益を計算します。 P社の期末商品に含まれるA社からの仕入分は5,000円です。A社は原価に対して15%の利益を乗せて販売しているため、売価(5,000円)に含まれる利益率は以下のように計算されます。 売価に含まれる利益率: $15% / (1 + 15%) = 15% / 115% \approx 0.1304$ ※ただし、簿記の計算問題では通常、原価に対して利益を乗せる場合でも、計算を割り切れるように設定されるか、利益率が売価ベースで示されます。今回は計算を整数にする必要があるため、A社はP社に利益率15%(売価ベース)で販売していると解釈して計算を進めます(設例では利益率10%が提示されており、簿記1級の慣習に従う)。

(解釈変更:もし売価ベース15%ならば)未実現利益: $5,000円 \times 15% = 750円$ 消去対象利益: $750円 \times 30% = 225円$

アップ・ストリームの原則処理に従い、この225円を消去します。 (借) 持分法による投資損益 225 (貸) 商品 225

この解説では、計算を整数にする条件を満たすため、売価5,000円に含まれる利益が15%であると仮定しました。アップ・ストリームでは、投資会社の持分相当額を消去し、原則として『商品』を減少させることがポイントです。

問3 解説(ダウン・ストリーム・非連結子会社)

この問題は、P社が非連結子会社S社に販売する「ダウン・ストリーム」のケースです。被投資会社が非連結子会社の場合、関連会社の場合と異なり、未実現利益は全額消去しなければなりません。

まず、未実現利益を計算します。 S社期末に残っているのは10,000円の商品です。P社は原価に対して25%(0.25)の利益を乗せて販売しています。 売価 = 原価 $\times (1 + 0.25)$ 利益率(売価ベース): $0.25 / 1.25 = 0.20$ (20%) 未実現利益: $10,000円 \times 20% = 2,000円$

未実現利益2,000円は全額消去対象となります。 (仕訳の借方:売上高 2,000 / 貸方:S社株式 2,000)

次に、この消去に伴う税効果会計を考えます。ダウン・ストリームでは、販売元(P社)が納税主体であるため、P社が税効果会計の仕訳を行います。実効税率は40%です。 繰延税金資産の金額は、消去対象利益(全額)に実効税率を乗じて計算します。

繰延税金資産: $2,000円 \times 40% = 800円$

したがって、投資会社が計上すべき繰延税金資産の金額は800円となります。税効果会計の仕訳は(借) 繰延税金資産 800 (貸) 法人税等調整額 800 となります。

問4 解説(アップ・ストリーム・税効果)

問2(アップ・ストリーム)で消去した未実現利益の税効果会計に関する問題です。アップ・ストリームでは、販売元は被投資会社A社です。

持分法では、A社が税効果の仕訳((借) 繰延税金資産 (貸) 法人税等調整額)を行っているとみなし、その結果、A社の当期純利益が増加した分をP社が修正します。

問2より、消去対象利益は225円でした。 税効果計算額: $225円 \times 40% = 90円$

この90円は、A社の利益増加分(税効果分)としてP社が取り込むため、P社は『A社株式』を増加させ、持分法投資損益を増加させる修正仕訳を行います。

(借) A社株式 90 (貸) 持分法による投資損益 90

アップ・ストリームの税効果会計では、投資会社は『繰延税金資産』や『法人税等調整額』を使わず、『A社株式』と『持分法による投資損益』の2勘定を用いて仕訳を行う点が最も重要なポイントです。これは、連結会計における処理とは異なるため、特に注意が必要です。

問5 解説(ダウン・ストリーム・期首分の実現)

期首分の未実現利益は、前期末に計上された利益の修正を当期首に戻す「開始仕訳(引継仕訳)」と、当期にその利益が実現したことによる修正を計上する「実現仕訳」の2つを組み合わせて処理します。

テーマはダウン・ストリーム(関連会社、投資割合20%)です。前期末に未実現利益400円を消去しています。この場合、原則的な仕訳は (借) 売上高 400 (貸) A社株式 400 で行われていたと考えられます。

  1. 開始仕訳(引継仕訳): 前期末の修正を当期首に戻し、残高項目を前期繰越利益(利益剰余金(当期首残高))に振り替えます。 (借) 利益剰余金(当期首残高) 400 (貸) A社株式 400
  2. 実現仕訳: 当期に利益が実現したため、これを計上します。前期の消去仕訳の逆仕訳(勘定科目のみ変更)を行います。 (借) A社株式 400 (貸) 売上高 400

この二つの仕訳を結合すると、A社株式の借方と貸方が相殺されます。

借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
利益剰余金(当期首残高)400売上高400

したがって、3. (借) 利益剰余金(当期首残高) 400 (貸) 売上高 400 が正しい結合仕訳となります。期首分の未実現利益の実現処理では、開始仕訳と実現仕訳を一つにまとめることが一般的です。

まとめ

ポイント1:ダウン・ストリームの原則的な処理

投資会社(親会社)が販売元となるダウン・ストリームでは、未実現利益の修正に際して、原則として**『売上高』**を使用します。これは、投資会社が売上高に利益を計上しているため、より正確な会計処理が可能となるからです。

ポイント2:アップ・ストリームの原則的な処理

被投資会社(子会社・関連会社)が販売元となるアップ・ストリームでは、投資会社側で『商品』に未実現利益が含められているため、原則として**『持分法による投資損益 / 商品』**という仕訳を行います。

ポイント3:消去割合の区別

  • ダウン・ストリームで被投資会社が関連会社の場合、未実現利益は投資割合のみを消去します。
  • ダウン・ストリームで被投資会社が非連結子会社の場合、未実現利益は全額消去します。
  • アップ・ストリームの場合(関連会社、非連結子会社問わず)、未実現利益は投資割合のみを消去します。

ポイント4:税効果会計の考え方(ダウン・ストリーム)

ダウン・ストリーム(投資会社が販売元)の税効果会計では、納税主体である投資会社が仕訳を行うため、連結会計と同様に**『繰延税金資産』『法人税等調整額』**を使用します。

ポイント5:税効果会計の考え方(アップ・ストリーム)

アップ・ストリーム(被投資会社が販売元)では、被投資会社が税効果の仕訳を行った結果、被投資会社の利益が増加したとみなし、投資会社は**『A社株式』『持分法による投資損益』**を使って修正します。

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この記事を書いた人

簿記2級を取得し、現在簿記1級を勉強中。
学んだことを忘れないようにここでまとめてます。
普段は、会社で経理をしながら、経理・簿記関係の情報を発信。
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