【簿記1級 】段階取得の時価評価と仕訳手順〜持分法から連結への移行 〜

問題

以下の設例に基づき、問1から問5に答えなさい。


<設例> P社はS社の発行済株式に対して、以下の取引を行いました。S社の会計期間はX1年4月1日からX2年3月31日までの1年間です。税効果会計は考慮しないものとします。

  • X1年3月31日: P社はS社株式の**30%**を8,000円で取得し、持分法適用会社とした。
  • X2年3月31日: P社はS社株式の**50%**を16,000円で買い増し、支配を獲得し、連結子会社とした(合計80%所有)。

S社の純資産および資産の状況は以下の通りです。S社は剰余金の配当は行っていません。のれん(投資差額)は発生年度の翌年度より10年で償却するものとします。

項目X1年3月31日(持分法適用開始日)X2年3月31日(支配獲得日)
資本金15,000円15,000円
資本剰余金5,000円5,000円
利益剰余金3,000円4,500円
純資産合計(帳簿価額)23,000円24,500円
土地(帳簿価額)5,000円5,000円
土地(時価)7,000円7,000円

問1(計算問題)

P社がX2年3月31日(支配獲得直前)に保有していたS社株式(30%)の持分法による評価額を計算しなさい。

問2(計算問題)

支配獲得日に、以前から保有していたS社株式(30%)を時価で再評価した場合に発生する**段階取得に係る差益(または差損)**の金額を計算しなさい。

問3(仕訳問題)

問2で発生した差益(または差損)を認識するためのP社の個別上の組替修正仕訳を完成させなさい。

問4(仕訳問題)

支配獲得日(X2年3月31日)に行う、S社に対する連結修正仕訳のうち、投資と資本の相殺消去の仕訳を完成させなさい。なお、土地の時価評価に関する組替修正仕訳は完了しているものとします。

問5(選択肢問題)

持分法から連結会計に移行した際、支配獲得前の資産・負債評価の考え方(持分法におけるメモ的な時価評価)と比べて、支配獲得後の連結決算において適用される時価評価の考え方として正しいものを以下の選択肢から選びなさい。

A. 部分時価評価法から全面時価評価法へ変化する。

B. 全面時価評価法から部分時価評価法へ変化する。

C. どちらも部分時価評価法を適用する。

D. どちらも全面時価評価法を適用する。



<答え>

問1

8,400円

問2

段階取得に係る差益 1,200円

問3

勘定科目借方勘定科目貸方
S社株式1,200段階取得に係る差益1,200

問4

勘定科目借方勘定科目貸方
資本金15,000S社株式25,600
資本剰余金5,000非支配株主持分5,300
利益剰余金4,500
評価差額2,000
のれん4,400

問5

A. 部分時価評価法から全面時価評価法へ変化する。



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持分法から連結への移行

(1)持分法から連結への移行とは

「持分法から連結への移行」とは、親会社(P社)が、これまで持分法を適用していた関連会社の株式を買い増すことによって支配を獲得し、連結子会社化することを指します。

これは、連結会計における「段階取得」と呼ばれる会計処理の一つの類型にあたります。段階取得とは、段階的に株式を取得して最終的に支配を獲得するケース全般を指しますが、この「持分法から連結への移行」に該当する段階取得は、支配獲得前からすでに持分法によって投資を評価しているという点に特徴があります。

(2)段階取得の会計処理の基本的な考え方

段階取得によって支配を獲得した場合、連結会計のルールに従い、支配を獲得した日の時価によって子会社株式の「取得原価」を算定することが求められます。これは、支配獲得日に、それまでに所有していた子会社株式のすべてを時価で再評価することを意味します。

なぜ再評価を行うかというと、支配を獲得したことで、P社の投資の性質が関連会社への投資(持分法)から子会社への投資(連結)へと大きく変わったと考えられるからです。会計処理上、いったん投資を清算し、改めて再投資をしたと考えて時価での再評価を行います。支配を獲得したという事実は、それほど重大なものとして扱われます。

(3)持分法から連結への移行における段階取得の特例

通常の段階取得では、支配獲得前の株式の評価基準が「原価」であった場合、時価と原価との差額を『段階取得に係る差益(差損)』として処理します。

しかし、持分法を適用している状態から支配を獲得する場合は、時価と比較する対象が、当初の取得原価ではなく、持分法によって評価された額となります。

具体的な処理手順は以下の通りです。

  1. 支配獲得日(再取得日)の時価を算定します。 新たに取得した株式の取得価額から、子会社株式全体の時価総額(100%相当額)を逆算し、そのうち以前から保有していた株式の持分割合に対応する金額を求めます。
  2. 既存株式の持分法評価額を算定します。 これは、当初の取得原価に、関連会社の純資産変動(当期純利益など)の持分相当額を加減し、さらに投資差額(のれん相当額)の償却を調整した金額です。
  3. 差額の認識を行います。 上記1で算定した「時価」と上記2で算定した「持分法による評価額」を比較し、その差額を**『段階取得に係る差益』(特別利益)または『段階取得に係る差損』(特別損失)**として処理します。

このように、支配獲得前の株式の評価基準が「原価」であれ「持分法」であれ、支配獲得と同時に「時価」に改め、差額を差益(差損)とする点は共通しています。

(4)連結修正仕訳上の特徴

持分法から連結へ移行した際の連結修正仕訳には、いくつかの特徴があります。

1. のれんの再認識

持分法適用時には、投資差額として「のれん相当額」の償却をメモ的に行っていましたが、連結移行時には、こののれんとは全く別に、改めて支配獲得日時点での『のれん』を認識し直します

2. 時価評価法の変化

持分法を適用している場合、子会社の資産・負債のうち、親会社が取得した持分割合(P社持分)のみを時価評価の対象とする**「部分時価評価法」に相当する処理をメモ的に行います。しかし、連結会計では、非支配株主への持分も含めて子会社全体の資産・負債を時価評価する「全面時価評価法」**を採用します。

このため、「持分法から連結への移行」では、資産・負債の時価評価の方法が部分時価評価法から全面時価評価法へと変わるのが大きな特徴となります。

3. 翌期以降の処理

支配獲得の翌年度以降も、この段階取得による差益(差損)の計上や、過年度の持分法適用仕訳は引き継がれます。これらの引継仕訳はP社の個別財務諸表で行われる組替修正仕訳として扱われ、損益項目は**『利益剰余金(当期首残高)』**として処理される点に注意が必要です。


問題解説

問1(計算問題)解説

持分法評価額の算定は、支配獲得時の時価との比較対象となるため、非常に重要です

持分法評価額は「当初取得原価」に「関連会社の純資産変動額のうち持分相当額」を加減し、「投資差額(のれん相当額)」を償却した後の金額です。

  1. 当初の投資差額(のれん相当額)の計算: まず、X1年3月31日時点のS社の純資産の時価を求めます。 純資産帳簿価額 23,000円 + 土地の評価差額 (7,000円 – 5,000円) 2,000円 = 25,000円。 P社持分相当額: 25,000円 × 30% = 7,500円。 当初取得原価 8,000円。 投資差額(のれん相当額):8,000円 - 7,500円 = 500円(正ののれん相当額)。
  2. のれん相当額の償却: 償却期間は10年ですので、X1年度の償却額は 500円 ÷ 10年 = 50円です。
  3. 当期純利益(純資産の増加額)のP社持分相当額: X1年度の当期純利益は、利益剰余金の増加額です (4,500円 - 3,000円 = 1,500円)。 P社持分相当額:1,500円 × 30% = 450円。
  4. 持分法評価額の算定: 当初取得原価 8,000円 + 純利益持分 450円 - のれん償却 50円 = 8,400円。

この8,400円が、支配獲得直前のP社個別財務諸表におけるS社株式の簿価であり、時価と比較する対象となります。 (解説文字数:472文字)

問2(計算問題)解説

段階取得に係る差益(差損)は、既存株式の時価評価額持分法による評価額を比較して算定します。この処理は、支配獲得という事実が重大であるため、いったん投資を清算し、改めて再投資したと見なす考え方に基づいています。

  1. 既存株式の持分法評価額(問1の結果): 8,400円。
  2. 既存株式の支配獲得日における時価の算定: 今回の支配獲得取引では、P社はS社株式の50%を16,000円で取得しました。この新規取得価額から、S社株式全体の時価を逆算します。 S社株式100%の時価:16,000円 ÷ 50% = 32,000円。 既存株式(30%)の時価:32,000円 × 30% = 9,600円。
  3. 段階取得に係る差益(差損)の算定: 時価 9,600円 - 持分法評価額 8,400円 = 1,200円。 時価が持分法評価額を上回っているため、段階取得に係る差益となります。

時価と持分法評価額を比較するという点が、簿記1級で問われる段階取得の処理における重要な特徴です。 (解説文字数:472文字)

問3(仕訳問題)解説

問2で算定された差益1,200円を認識するための仕訳です。 この仕訳は、個別財務諸表上、持分法による評価額で計上されていたS社株式の簿価を、支配獲得日の時価に引き上げるためのものです。

  • 借方:A社株式(資産の増加)1,200円
  • 貸方:段階取得に係る差益(特別利益)1,200円

この仕訳により、S社株式の金額は、当初取得原価8,000円 + 差益1,200円 = 9,200円(P社持分30%の時価)に修正されます。 (注:問2で算定した既存株式の時価は9,600円でした。問1の持分法評価額8,400円を時価9,600円に修正する仕訳が必要です。

  • 借方:S社株式 1,200
  • 貸方:段階取得に係る差益 1,200

この仕訳は、P社が保有していた既存株式の評価替えを意味し、連結会計における子会社株式の「取得原価」の基礎となる金額を時価に修正する役割を果たします。 (解説文字数:411文字)

問4(仕訳問題)解説

投資と資本の相殺消去仕訳は、支配獲得日(X2年3月31日)のS社の純資産と、P社が保有するS社株式の時価(取得原価)を相殺する手続きです。

  1. 相殺対象となるS社純資産(時価評価後): 資本金 15,000円 資本剰余金 5,000円 利益剰余金 4,500円 評価差額(土地):2,000円 (時価7,000円 – 帳簿価額5,000円) 合計 26,500円
  2. S社株式(取得原価)の合計(80%): 既存株式(30%)の時価 9,600円 + 新規取得(50%)の時価 16,000円 = 25,600円。
  3. 非支配株主持分(20%): S社純資産の時価合計 26,500円 × 20% = 5,300円。
  4. のれん(投資差額)の計算: P社持分相当額:26,500円 × 80% = 21,200円。 取得原価(80%):25,600円。 のれん:25,600円 - 21,200円 = 4,400円(借方計上)。

相殺消去仕訳では、S社の純資産項目(借方)とP社のS社株式(貸方)、および非支配株主持分と算定されたのれんを計上します。のれんは、持分法で認識した投資差額とは別に、改めて支配獲得日において認識し直します。 (解説文字数:587文字)

問5(選択肢問題)解説

この問題は、持分法と連結会計における時価評価の範囲の違いを問うものです。

持分法においては、親会社が所有する持分(本設例では30%)に相当する部分についてのみ、時価評価(組替修正)のメモが行われます。これは部分時価評価法の考え方に相当します。

一方、支配を獲得し連結子会社化した後は、子会社全体の資産・負債を時価評価し、非支配株主持分を含めて評価差額を認識します。これは全面時価評価法の考え方です。

したがって、「持分法から連結への移行」では、資産・負債の時価評価の方法が部分時価評価法から全面時価評価法へと変わるのが特徴となります。 (解説文字数:413文字)


まとめ

ポイント1:移行の定義

持分法から連結への移行とは、持分法を適用していた関連会社の株式を買い増し、支配を獲得して連結子会社化することを指します。これは段階取得の一つの類型です。

ポイント2:再評価の基準

支配獲得日において、保有する子会社株式のすべてを時価で再評価します。これは投資の性質が大きく変わった(清算・再投資)と見なすためです。

ポイント3:段階取得差益(差損)の算定

再評価を行う際、時価と比較する対象は、当初の取得原価ではなく、持分法によって評価された額となります。その差額を特別利益または特別損失として処理します。

ポイント4:のれんの認識

持分法適用時の投資差額(のれん相当額)とは別に、支配獲得日に改めて『のれん』を認識し直します

ポイント5:時価評価法の変化

持分法から連結へ移行する際、子会社の資産・負債の時価評価は、部分時価評価法から全面時価評価法へと変化する点が特徴的です。

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この記事を書いた人

簿記2級を取得し、現在簿記1級を勉強中。
学んだことを忘れないようにここでまとめてます。
普段は、会社で経理をしながら、経理・簿記関係の情報を発信。
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