連結会計に関する以下の設問に答えなさい。
問1 (選択肢問題)
連結会計の意義と必要性に関する記述として、最も適切でないものはどれか。
ア. 企業集団全体を単一の組織体とみなし、その財政状態、経営成績などを総合的に報告するために連結財務諸表が作成される。
イ. 親会社が子会社の意思決定機関を支配しているため、子会社を利用した利益操作を防ぐために連結会計が必要となる。
ウ. 企業に資金を提供する投資家にとって、個々の会社の情報開示だけで十分であり、連結財務諸表は補助的な情報に過ぎない。
エ. 国際会計基準(IFRS)は、企業集団全体を連結実体と捉える経済的単一体説と整合的な会計処理方法を採用している。
問2 (仕訳問題)
P社は×1年3月31日にS社の発行済株式の100%を取得し、完全子会社としました。支配獲得日におけるS社の土地の帳簿価額は800円でしたが、時価は900円でした。税効果会計を適用し、税率を40%と仮定した場合、S社の土地の時価評価に関する組替修正仕訳として適切なものはどれか。
問3 (計算問題)
P社は×1年3月31日にS社の発行済株式の80%を1,500円で取得し、S社を子会社としました。支配獲得日におけるS社の資本金は1,000円、利益剰余金は600円でした。また、S社の資産・負債を全面時価評価した結果、評価差額が50円(税効果考慮後)発生していました。この支配獲得日における投資と資本の相殺消去を行った結果、発生する「のれん」または「負ののれん発生益」の金額を答えなさい。なお、負ののれん発生益の場合はマイナス記号を付して回答すること。
問4 (選択肢問題)
子会社の判定基準に関する以下の記述のうち、最も適切なものはどれか。
ア. 日本の会計基準では、子会社かどうかの判定は株式の所有割合のみで行う「持株基準」が採用されている。
イ. 支配力基準では、他の企業の議決権の40%以上50%以下を自己が所有している場合でも、自己と緊密な者が所有する議決権と合わせて過半数を占めていれば子会社とみなされることがある。
ウ. 親会社が他の企業の議決権の過半数を所有していれば、その支配が一時的であっても必ず連結の範囲に含めなければならない。
エ. 連結の範囲から除外された重要性の乏しい子会社(除外可能規定による非連結子会社)には、会計処理を一切行う必要がない。
問5 (仕訳問題)
P社はS社の発行済株式の100%を取得し、完全子会社としました。支配獲得日における投資と資本の相殺消去後の連結貸借対照表上、のれんの残高が200円計上されました。連結会計年度末(支配獲得日から1年後)において、こののれんを20年間にわたって定額法で償却する場合の連結修正仕訳として適切なものはどれか。
問1
ウ
問2
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
土地 | 100 | 評価差額 | 60 |
繰延税金負債 | 40 |
問3
180円
問4
イ
問5
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
のれん償却費 | 10 | のれん | 10 |
1.連結会計とは?企業集団の全体像を捉える
企業活動は経済の高度化に伴い、親会社を中心とした企業集団という形で営まれるようになりました。このような状況で、投資家が企業に資金を提供する際には、個々の会社の情報だけでは不十分であり、より実態に即した企業集団全体での情報開示が求められます。
そこで、企業集団全体を対象とする「連結財務諸表」が作成・開示されます。そして、この企業集団全体の情報を開示するための会計処理を「連結会計」と呼びます。
日本の会計基準では、連結財務諸表は「支配従属関係にある2つ以上の企業からなる集団(企業集団)を単一の組織体とみなして、親会社が当該企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を総合的に報告するために作成するもの」と定義されています。これは、親会社が子会社の意思決定機関を支配しているため、子会社を利用して自社の利益を操作する行為、例えば「押し込み販売」のような粉飾決算を防ぐ目的もあります。
【補足:連結財務諸表の種類】 連結財務諸表には、連結損益及び包括利益計算書、連結貸借対照表、連結キャッシュ・フロー計算書、連結株主資本等変動計算書、連結附属明細表があります。簿記1級の試験では、主に連結損益計算書(連結P/L)、連結貸借対照表(連結B/S)、**連結株主資本等変動計算書(連結S/S)**の3つが問われることが多いです。
2.連結財務諸表の作成手順と連結修正仕訳の基礎
連結財務諸表は、親会社と子会社の各「個別財務諸表」を合算した後、そこに「連結修正仕訳」を施して作成します。
(1)連結財務諸表を作成する流れ
連結財務諸表は、**連結損益計算書(P/L)→ 連結株主資本等変動計算書(S/S)→ 連結貸借対照表(B/S)**の順に作成されます。 これは、P/Lで計算された当期純利益がS/Sに記入され、S/Sで計算された純資産項目がB/Sに記入されるという財務諸表間の有機的なつながりがあるためです。したがって、上流にあるP/Lから順に連結修正仕訳を行うことで、自動的にS/SやB/Sも修正される流れになります。
(2)連結修正仕訳の種類
連結修正仕訳は、大きく分けて資本連結と成果連結の2つに分類されます。
① 資本連結
資本連結とは、親会社による投資(子会社株式など)と、これに対応する子会社の資本(資本金、利益剰余金など)を相殺消去する会計処理をいいます。
資本連結を行う際には、まず支配獲得日において子会社の資産および負債のすべてを時価で評価する必要があります。これを「全面時価評価法」と呼びます。ここで発生する帳簿価額と時価との差額は「評価差額」として、子会社の資本項目として扱われます。この時価評価に関する仕訳は、親会社と子会社の財務諸表を合算する前に行われ、これを「組替修正仕訳」といいます。
その後、親会社と子会社の財務諸表を合算し、投資と資本の相殺消去を行います。この相殺消去によって発生する差額は、借方残高の場合は「のれん」として無形固定資産に計上され、20年以内の効果の及ぶ期間にわたって償却されます。一方、貸方残高の場合は「負ののれん発生益」として発生した期に特別利益として処理されます。
② 成果連結
成果連結とは、親会社と子会社の間で行われた取引(内部取引)を相殺消去する会計処理をいいます。例えば、親会社が子会社に商品を販売した場合、企業集団全体で見れば、それは内部で備品とお金が移動しただけであり、利益を計上することは許されません。このような内部取引から生じる利益を修正する仕訳などが成果連結に含まれます。
(3)開始仕訳
連結修正仕訳は、帳簿外の「連結精算表」上で行われる下書きのような作業です。そのため、翌期以降に記録が残されません。翌期以降は、それまでの連結修正仕訳を「開始仕訳」として再度行ったうえで、新しい連結修正仕訳を行う必要があります。
3.連結財務諸表作成の前提となる考え方
連結財務諸表を「どのような立場から作成するか」という前提の違いから、「親会社説」と「経済的単一体説」という2つの考え方があります。
- 親会社説:連結財務諸表を親会社の財務諸表の延長線上に位置づけ、親会社の株主の持分のみを反映させる考え方です。日本の会計基準は、従来から親会社説を採用してきました。
- 経済的単一体説:連結財務諸表を親会社とは区別される企業集団全体の財務諸表と位置づけ、企業集団を構成するすべての連結会社の株主の持分を反映させる考え方です。国際会計基準(IFRS)は経済的単一体説と整合的な会計処理方法を採用しており、日本の会計基準もこれに影響を受け、両説が混在した状態になっています。
4.連結の範囲と子会社の判定基準
親会社は、原則としてすべての子会社を連結の範囲に含めなければなりません。
(1)子会社の判定基準:支配力基準
「親会社」とは、他の企業の意思決定機関を支配している企業をいい、「子会社」とは、他の企業に意思決定機関を支配されている企業をいいます。 子会社かどうかの判定は、通常は株式の所有割合によって行われますが、恣意的な連結外しなどを防ぐため、所有割合のみによる形式的な判定ではなく、実質的な判定が行われます。
日本の会計基準で採用されているのは「支配力基準」です。これは、実質的な支配関係の有無に基づいて子会社を判定する基準であり、国際的にも広く採用されています。「実質基準」とも呼ばれます。これに対し、株式の所有割合のみで判定する「持株基準」(形式基準)は、連結範囲を操作できる問題点があるため、日本では採用されていません。
【支配力基準の詳細な規定】 支配力基準では、以下のような場合に子会社と判定されます。
- 他の企業の議決権の過半数を自己の計算において所有している企業。
- 他の企業の議決権の40%以上50%以下を自己の計算において所有している場合で、かつ以下のいずれかの要件に該当する企業。
- 自己と緊密な者及び同意している者が所有する議決権と合わせて、過半数を占めている。
- 役員等で自己が影響を与えられる者が、取締役会等の構成員の過半数を占めている。
- 重要な財務及び営業の方針の決定を支配する契約等が存在する。
- 資金調達額の過半について融資を行っている(緊密な者の融資を含む)。
- その他、意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在する。
- 自己の議決権所有割合に関わらず、緊密な者及び同意している者が所有する議決権と合わせて過半数を占めており、かつ上記2.の②~⑤のいずれかの要件に該当する企業。
【補足:孫会社】 子会社がさらに他の企業の意思決定機関を支配している場合、その「孫会社」も連結会計上は子会社とみなされます。
(2)連結の範囲からの除外規定
原則として全ての子会社を連結の範囲に含める必要がありますが、例外的に除外されるケースもあります。
- 除外規定(連結の範囲に含めてはいけない規定)
- 支配が一時的であると認められる企業。
- 連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業。
- 除外可能規定(連結の範囲から除外することができる規定)
- その資産、売上高等を考慮して、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性の乏しいもの。
【補足:非連結子会社】 除外規定や除外可能規定によって連結の範囲に含まれなかった子会社(非連結子会社)は、原則として持分法が適用されます。
5.連結財務諸表の一般原則と会計処理の統一
連結財務諸表の作成には、以下の4つの一般原則が掲げられています。
- 真実性の原則
- 個別財務諸表基準性の原則
- 明瞭性の原則
- 継続性の原則
この中でも特に「個別財務諸表基準性の原則」は重要です。これは、「連結財務諸表は、企業集団に属する親会社及び子会社が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成した個別財務諸表を基礎として作成しなければならない」という原則です。 つまり、連結財務諸表作成のために独自の帳簿は不要であり、基礎となる個別財務諸表が適正に作成されている必要があります。
(1)連結会計期間と連結決算日
連結財務諸表の会計期間は1年と定められており、親会社の会計期間に基づき、年1回一定の日に連結決算日とします。 親会社と子会社で決算日が異なる場合、子会社は親会社の決算日に合わせて仮決算を行うのが原則です。ただし、決算日の差異が3カ月を超えない場合は、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことができます。
(2)連結会社間の会計処理の統一
同一環境下で行われた同一性質の取引については、親会社と子会社の間で会計方針を統一する必要があります。これは、例えば同じ自動車でも使用環境が異なれば耐用年数も変わるように、取引の実態や性質が異なれば適用する会計処理も異なるべきですが、逆であれば統一すべきという考え方に基づきます。この際、子会社の会計処理の方がより真実に忠実な報告をするものであれば、親会社が子会社の会計処理に合わせることもあります。
【問題解説】
問1 (選択肢問題)
この問題は、連結会計の根本的な意義と必要性に関する理解度を問うものです。連結会計は、現代の企業集団の実態を反映し、投資家に対してより有用な情報を提供するために不可欠な会計処理です。
- ア. 適切:連結財務諸表は、企業集団を単一の組織体とみなし、その全体像を報告するために作成されます。これは連結会計の基本的な意義です。
- イ. 適切:親会社が子会社を支配しているため、子会社を利用した利益操作(「押し込み販売」など)が行われる可能性があります。これを防ぎ、企業集団の実態を適切に反映させるために連結会計が必要とされます。
- ウ. 不適切:経済の高度化に伴い企業活動は企業集団によって行われるため、投資家は個々の会社の情報だけでは投資判断に不十分であると考えます。そのため、より実態に即した企業集団での情報開示である連結財務諸表が必要とされています。したがって、連結財務諸表は補助的な情報ではなく、意思決定に有用な主要な情報源の一つです。
- エ. 適切:国際会計基準(IFRS)は、企業集団全体が連結実体であるとする経済的単一体説と整合的な会計処理方法を採用しています。日本の会計基準もこれに影響を受け、両説が混在する状況になっています。
したがって、最も適切でない記述はウです。
問2 (仕訳問題)
この問題は、資本連結における最初のステップである「組替修正仕訳」の理解を問うものです。支配獲得日において子会社の資産・負債を時価評価し、その評価差額に対して税効果会計を適用する点がポイントです。
S社の土地の帳簿価額800円が時価900円に値上がりしているため、評価益は100円発生します。 評価益:900円 – 800円 = 100円
この評価益100円に対して税率40%を適用し、繰延税金負債を計上します。 繰延税金負債:100円 × 40% = 40円
評価益100円から繰延税金負債40円を差し引いた残りが、子会社の資本項目として「評価差額」となります。 評価差額:100円 – 40円 = 60円
この結果に基づき、組替修正仕訳を行います。土地の価値が増加するため借方に「土地」を、評価差額と繰延税金負債を貸方に計上します。
問3 (計算問題)
この問題は、資本連結における投資と資本の相殺消去を行い、「のれん」または「負ののれん発生益」を計算する能力を問うものです。非支配株主持分が存在する点が重要です。
まず、支配獲得日におけるS社の正味資産の時価を計算します。 S社の資本金:1,000円 S社の利益剰余金:600円 評価差額(税効果考慮後):50円 S社の正味資産の時価合計 = 1,000円 + 600円 + 50円 = 1,650円
P社はS社の株式を80%取得しているため、S社の正味資産の時価のうち、P社に帰属する部分(親会社持分)は以下のようになります。 親会社持分 = 1,650円 × 80% = 1,320円
P社がS社株式を取得するために投じた金額(投資額)は1,500円です。 投資額1,500円と、取得したS社の正味資産の親会社持分1,320円との差額が「のれん」となります。 のれん = 投資額 – 親会社持分 = 1,500円 – 1,320円 = 180円
もし、親会社持分が投資額を上回る場合は「負ののれん発生益」となりますが、このケースでは投資額の方が高いため「のれん」が発生します。
問4 (選択肢問題)
この問題は、子会社の判定基準と連結の範囲に関する正確な知識を問うものです。特に支配力基準の詳細と除外規定の理解がポイントです。
- ア. 不適切:日本の会計基準では、株式の所有割合のみで判定する「持株基準」ではなく、実質的な支配関係に基づいて判定する「支配力基準」が採用されています。
- イ. 適切:支配力基準の詳細な規定によれば、他の企業の議決権の40%以上50%以下を自己が所有している場合でも、自己と「緊密な者及び同意している者」が所有する議決権と合わせて過半数を占めていれば子会社とみなされます。
- ウ. 不適切:親会社が議決権の過半数を所有していても、その支配が一時的であると認められる企業は、連結の範囲から除外されます(除外規定)。必ず連結に含めなければならないわけではありません。
- エ. 不適切:除外可能規定によって連結の範囲から除外された重要性の乏しい子会社(非連結子会社)であっても、原則として持分法が適用されます。会計処理を一切行わないわけではありません。
したがって、最も適切な記述はイです。
問5 (仕訳問題)
この問題は、連結財務諸表上に計上された「のれん」の償却に関する連結修正仕訳を問うものです。のれんは無形固定資産として計上され、20年以内の効果の及ぶ期間にわたって定額法で規則的に償却されます。
連結貸借対照表に計上されたのれんの残高は200円です。 これを20年で定額償却する場合の年間償却額を計算します。 年間償却額 = のれんの金額 ÷ 償却期間 = 200円 ÷ 20年 = 10円
のれんの償却は、損益計算書上「販売費及び一般管理費」として処理されます。したがって、のれんの償却は費用(のれん償却費)の発生と、のれんの減少を伴います。
【まとめ】
- ポイント1:連結会計の意義と目的 連結会計は、親会社を中心とした企業集団を「単一の組織体」とみなして、企業集団全体の財政状態、経営成績などを総合的に報告するための会計処理です。投資家の意思決定に有用な情報を提供し、子会社を利用した利益操作(押し込み販売など)を防ぐ目的があります。
- ポイント2:連結財務諸表の作成手順 連結財務諸表は、親会社と子会社の個別財務諸表を合算し、その後、連結修正仕訳を行って作成します。作成順序はP/L → S/S → B/Sです。連結修正仕訳は「資本連結」と「成果連結」に大別されます。
- ポイント3:資本連結の主要な処理 資本連結では、支配獲得日に子会社の資産・負債を全面時価評価し(組替修正仕訳)、親会社の投資と子会社の資本を相殺消去します。この際生じる差額は「のれん」または「負ののれん発生益」として処理されます。
- ポイント4:子会社の判定基準は「支配力基準」 連結の範囲を決定する際、子会社かどうかの判定は「支配力基準」によって行われます。議決権の過半数所有だけでなく、40%以上50%以下でも緊密な者の議決権を含めて過半数となる場合や、役員構成、契約関係、資金調達など実質的な支配関係がある場合に子会社とみなされます。
- ポイント5:連結の範囲からの除外規定 原則としてすべての子会社を連結の範囲に含めますが、支配が一時的な場合や、連結することで利害関係者の判断を著しく誤らせる場合は除外されます(除外規定)。また、重要性が乏しい子会社は除外することが可能です(除外可能規定)。これらの非連結子会社には持分法が適用されます。