特殊な連結会計 – 在外子会社

問題 

問1

P社は、アメリカに設立した子会社S社の株式を×1年12月31日に取得し、連結子会社としました。S社の×3年度の損益計算書には、売上高[2,000ドル]、売上原価[1,200ドル]、販売費及び一般管理費[300ドル]、そして親会社P社への受取利息[10ドル]が計上されています。P社は、この受取利息に対応するS社への支払利息を円貨で計上する際に、1ドル=115円のレートを用いていました。S社の×3年度の期中平均レートは1ドル=113円、×3年12月31日の決算日レートは1ドル=120円でした。

S社の×3年度の損益計算書を円貨に換算した際の、連結上の「受取利息」の円貨額を求めなさい。

問2

問1の子会社S社について、以下の資料に基づき、S社の×3年度における利益剰余金の期首残高(円貨)を求めなさい。

[資料]

  • S社の利益剰余金は、支配獲得時(×1年12月31日)に[100ドル]でした。
  • ×2年度にS社で計上された当期純利益は[50ドル]であり、配当は行っていません。
  • 各期の為替レート:
    • ×1年12月31日(支配獲得日/決算日)レート:1ドル=120円
    • ×2年度期中平均レート:1ドル=117円
    • ×2年12月31日決算日レート:1ドル=115円
    • ×3年度期中平均レート:1ドル=113円

問3

問1の子会社S社は、×3年12月31日現在、現金預金[500ドル]と土地[1,000ドル]を所有しています。連結上の土地の帳簿価額は、支配獲得時(×1年12月31日)の時価を基に評価された結果、支配獲得時の帳簿価額[800ドル]から時価評価差額[200ドル]が認識されています(繰延税金負債を除く)。支配獲得時のレートは1ドル=120円、×3年12月31日決算日レートは1ドル=120円でした。

S社の×3年度連結貸借対照表において、「土地」と「現金預金」の円貨額の合計を求めなさい。

問4

P社は、×1年12月31日に子会社S社を支配獲得しました。S社の純資産項目は以下の通りです。

[資料]

  • 支配獲得日(×1年12月31日)の資本金:[1,000ドル]
  • 支配獲得日(×1年12月31日)の利益剰余金:[200ドル]
  • ×3年度末(×3年12月31日)の資本金:[1,000ドル]
  • ×3年度末(×3年12月31日)の利益剰余金:[350ドル]
  • ×2年度当期純利益:[80ドル](配当なし)
  • ×3年度当期純利益:[70ドル](配当なし)

[為替レート]

  • ×1年12月31日レート(支配獲得日/決算日):1ドル=110円
  • ×2年度期中平均レート:1ドル=112円
  • ×3年度期中平均レート:1ドル=115円
  • ×3年12月31日決算日レート:1ドル=118円

S社の×3年度末連結貸借対照表における「為替換算調整勘定」の円貨額を求めなさい。

問5

以下の記述のうち、在外子会社の連結財務諸表換算に関する最も適切なものを選択しなさい。

ア.在外子会社の損益計算書における収益及び費用は、原則として決算日レート(CR)で換算される。 イ.のれんは連結修正仕訳の段階で認識されるため、個別財務諸表の換算段階では為替換算調整勘定は発生しない。 ウ.在外子会社の貸借対照表における負債は、発生時のレート(HR)で換算される。 エ.為替換算調整勘定は、連結貸借対照表上、のれん償却額として計上される。



<答え>

問1

1,150円

問2

17,850円

問3

180,000円

問4

10,290円

問5


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在外子会社の連結会計における財務諸表の換算

2-1. 在外子会社とは

在外子会社とは、外国に存在する子会社を指します。日本にある親会社は、連結財務諸表を円建てで作成する必要がありますが、在外子会社の財務諸表は外貨建てで作成されています。そのため、在外子会社の外貨表示財務諸表を円に換算する作業が必要となります。

2-2. 在外子会社の連結会計の流れ

在外子会社の連結会計の流れは、基本的に通常の連結会計と大きな違いはありません。 具体的には、以下の手順で連結財務諸表を作成します。

  1. 個別財務諸表の組替修正:在外子会社の個別財務諸表を、日本の会計基準に合わせて修正します。この際、修正仕訳はドルなどの外貨ベースでメモしておくと良いでしょう。
  2. 換算:修正後の在外子会社の外貨建て財務諸表を、円に換算します。この換算プロセスにおいて、「為替換算調整勘定」が発生します。
  3. 合算:換算後の在外子会社の円建て財務諸表と親会社の財務諸表を合算します。
  4. 連結修正仕訳:連結財務諸表固有の修正仕訳(投資と資本の相殺消去など)を行います。この段階で、のれんなどが認識されます。
  5. 完成:連結財務諸表が完成します。

2-3. 在外子会社の財務諸表の換算方法

在外子会社の財務諸表を円に換算する際、原則としてP/L(損益計算書)→S/S(株主資本等変動計算書)→B/S(貸借対照表)の順に換算を行います。これは、連結財務諸表を作成する一般的な流れと一致しています。

2-3-1. 資産及び負債の換算(B/S)

在外子会社の貸借対照表に計上されているすべての資産及び負債は、決算日の為替相場(CR:Closing Rate)によって換算されます。この換算方法は、「決算日レート法」と呼ばれます。

2-3-2. 株主資本項目の換算(S/S、B/S)

株主資本項目(資本金、利益剰余金など)の換算は、その項目の発生時期によって換算レートが異なります。

  • 支配獲得時から存在する株主資本項目:親会社が子会社の支配を獲得した日の為替レート(HR:Historical Rate)で換算します。
  • 支配獲得後に発生した株主資本項目:当該項目が発生した時点の為替レート(HR)で換算します。例えば、利益剰余金の増加分(当期純利益など)は、原則として期中平均レート(AR)で換算されます。剰余金の配当を行った場合は、配当時の為替レートで換算します。

2-3-3. 収益及び費用の換算(P/L、S/S、B/S)

損益計算書に計上される収益及び費用(相殺するもの以外)は、原則として期中平均レート(AR:Average Rate)で換算されます。これは、収益や費用が期を通じて時間の経過とともに発生すると考えられるためです。ただし、親会社との取引により発生した収益及び費用は、相殺消去の必要性があるため、親会社と同じ為替レート(HR)によって換算します

これらの換算によって生じた差額は、当期の「為替差損益」として処理されます。なお、この為替差損益が発生した場合でも、当期純利益は原則としてARで換算される点に注意が必要です。

2-3-4. 為替換算調整勘定

在外子会社の資産・負債は決算日レート(CR)で換算されるのに対し、純資産(株主資本項目)は発生時の為替レート(HR)で換算されるため、これらの換算レートの相違から差額が発生します。この差額は「為替換算調整勘定」という純資産項目として処理されます。

為替換算調整勘定は、その他有価証券評価差額金と同様に処理され、非支配株主に帰属する部分を振り替え、親会社に帰属する部分のみが連結財務諸表に残るように会計処理されます。

2-3-5. のれんの換算と償却

連結修正仕訳の段階で認識される「のれん」は資産項目であるため、外貨建てで把握されたのれんは、決算日の為替レート(CR)で換算されます。また、「のれん償却額」は費用項目であるため、他の費用と同様に、原則として期中平均為替レート(AR)により換算されます

のれんおよびのれん償却額の換算からも為替換算調整勘定が発生しますが、これらは個別財務諸表の換算段階ではなく、連結修正仕訳の段階で認識される点に留意が必要です。タイム・テーブル上では、のれんの行で追加の為替換算調整勘定が発生することになります。なお、のれんは親会社持分からのみ発生するため、非支配株主持分への按分は行われません。

2-4. タイム・テーブルの活用

在外子会社の換算では、タイム・テーブル(下書き)の作成が非常に重要です。タイム・テーブルは、連結修正仕訳を導き出すだけでなく、在外子会社の純資産の部の換算を行う上でも不可欠なツールとなります。

タイム・テーブルを作成する際は、以下の点に留意しましょう。

  • 外貨額のメモ:ドルなどの外貨額を円貨額の横にメモし、外貨と円が区別できるように [ ] をつけるなどの工夫をします。
  • 為替換算調整勘定のスペース確保:タイム・テーブルは子会社の純資産の部を表すため、「為替換算調整勘定」を記入するためのスペースを一行空けておきます。
  • 為替レートのメモ:各決算日レート(CR)や各期の期中平均レート(AR)などの為替レートを、タイム・テーブル上に明記します。

5. 問題解説

問1 解答解説

この問題は、在外子会社の損益計算書の換算において、期中平均レート(AR)と親会社との取引レート(HR)の使い分けを理解しているかを問うものです。

在外子会社の収益及び費用は、原則として期中平均レート(AR)で換算されます。しかし、親会社との取引により発生した収益及び費用は、連結上相殺消去する必要があるため、親会社がその取引で用いた為替レート(HR)で換算することが求められます。

本問では、S社の受取利息[10ドル]が親会社P社からのものであるため、これは親会社との取引に該当します。したがって、S社の受取利息を円貨に換算する際には、親会社P社が支払利息を計上する際に用いたレートである1ドル=115円を使用します。

  • 受取利息[10ドル] × 115円/ドル = 1,150円

その他の収益(売上高)や費用(売上原価、販売費及び一般管理費)は原則通り期中平均レート1ドル=113円で換算しますが、問われているのは「受取利息」のみであるため、上記の計算で回答が得られます。この使い分けを正しく理解することが、在外子会社の損益計算書換算における重要なポイントです。

問2 解答解説

この問題は、支配獲得後の利益剰余金の換算方法、特に過去の期間に遡って換算レートを適用する考え方を問うものです。

株主資本項目の換算は、支配獲得時からある項目は「支配獲得時のHR」で、支配獲得後に発生した項目は「当該項目発生時のHR」で換算します。利益剰余金は、期首残高と当期純利益(または配当)によって変動するため、その変動の発生源と発生時期に応じて適切なレートを適用する必要があります。

S社の利益剰余金の推移をたどって、×3年度の期首残高を算出します。

  1. 支配獲得時(×1年12月31日)の利益剰余金
    • [100ドル] × 120円/ドル (×1年12月31日レート) = 12,000円
  2. ×2年度の利益剰余金増加分
    • ×2年度の当期純利益[50ドル]は、支配獲得後に発生した項目であり、当期を通じて発生すると考えられるため、×2年度の期中平均レート(AR)で換算します。
    • [50ドル] × 117円/ドル (×2年度AR) = 5,850円
  3. ×2年度末(=×3年度期首)の利益剰余金
    • 支配獲得時の利益剰余金と×2年度の増加分を合算します。
    • 12,000円 + 5,850円 = 17,850円

したがって、S社の×3年度における利益剰余金の期首残高(円貨)は17,850円となります。このように、利益剰余金は期首残高と当期変動額を分けて換算し、それぞれの発生源と時期に対応するレートを適用する点が重要です。

問3 解答解説

この問題は、在外子会社の貸借対照表項目、特に資産の換算方法と、支配獲得時に認識された時価評価差額の取り扱いを理解しているかを問うものです。

在外子会社の資産及び負債は、すべて決算日レート(CR)で換算されます。これは決算日レート法と呼ばれる方法です。

  1. 現金預金の換算
    • 現金預金は資産項目であるため、×3年12月31日の決算日レートで換算します。
    • [500ドル] × 120円/ドル (×3年12月31日CR) = 60,000円
  2. 土地の換算
    • 土地も資産項目であるため、同様に×3年12月31日の決算日レートで換算します。ただし、本問では支配獲得時に時価評価差額が認識されています。組替修正仕訳は円貨に換算する前段階の会計処理であるため、ドルベースでメモしておきます。
    • 支配獲得時の土地の時価評価差額[200ドル]は、支配獲得時のレート1ドル=120円で換算されます。
    • 連結上の土地の帳簿価額は、元の帳簿価額[800ドル]に時価評価差額[200ドル]を加えた[1,000ドル]が基準となります。この[1,000ドル]を資産項目として決算日レートで換算します。
    • [1,000ドル] × 120円/ドル (×3年12月31日CR) = 120,000円

最終的な円貨額は、各項目の換算結果を合算することで求められます。

  • 土地の円貨額:120,000円
  • 現金預金の円貨額:60,000円
  • 合計:120,000円 + 60,000円 = 180,000円

資産及び負債はすべて決算日レートで換算するという原則をしっかりと押さえ、支配獲得時の時価評価差額も連結上の資産の一部として決算日レートで換算されることを理解しておくことが重要です。

問4 解答解説

この問題は、在外子会社の株主資本項目の換算を通じて「為替換算調整勘定」を計算する能力を問うものです。為替換算調整勘定は、資産・負債と純資産の換算レートの違いから生じる差額であり、純資産項目として計上されます。

為替換算調整勘定を計算するためには、まず×3年度末におけるS社の純資産の各項目を適切なレートで円貨換算し、その合計額を、資産・負債を全て決算日レートで換算した場合の純資産合計額と比較します。

  1. 資本金の換算
    • 資本金[1,000ドル]は支配獲得時から変わっていないため、支配獲得日レート(HR)で換算します。
    • [1,000ドル] × 110円/ドル (×1年12月31日HR) = 110,000円
  2. 利益剰余金の換算
    • 利益剰余金は、支配獲得時の残高と、その後の各期の当期純利益増加分に分けて換算します。
    • 支配獲得時の利益剰余金[200ドル]:[200ドル] × 110円/ドル (×1年12月31日HR) = 22,000円
    • ×2年度の当期純利益増加分[80ドル]:[80ドル] × 112円/ドル (×2年度AR) = 8,960円
    • ×3年度の当期純利益増加分[70ドル]:[70ドル] × 115円/ドル (×3年度AR) = 8,050円
    • ×3年度末の利益剰余金合計(円貨):22,000円 + 8,960円 + 8,050円 = 39,010円
  3. 純資産合計額の算出
    • 円貨換算後の資本金と利益剰余金を合計します。
    • 110,000円 + 39,010円 = 149,010円
  4. 為替換算調整勘定の算出
    • 「資産及び負債はすべて決算日レートで換算した純資産」から「個別に換算した純資産合計」を差し引くことで、為替換算調整勘定が求められます。
    • S社の×3年度末における純資産総額(ドルベース):資本金[1,000ドル] + 利益剰余金[350ドル] = [1,350ドル]
    • これを×3年12月31日決算日レートで換算すると:[1,350ドル] × 118円/ドル = 159,300円
    • 為替換算調整勘定:159,300円 (CR換算純資産) - 149,010円 (HR/AR換算純資産) = 10,290円

為替換算調整勘定は、資産・負債を決算日レートで一括換算した場合の純資産合計と、個別の株主資本項目を発生時レートで換算した場合の合計との差額として理解することが重要です。この差額は純資産の構成要素となります。

問5 解答解説

この問題は、在外子会社の連結財務諸表換算に関する基本的な知識を問う選択肢問題です。各選択肢を一つずつ確認し、正しい記述を選びます。

  • ア.在外子会社の損益計算書における収益及び費用は、原則として決算日レート(CR)で換算される。
    • これは不適切です。収益及び費用は、原則として**期中平均レート(AR)**で換算されます。決算日レートは資産及び負債の換算に用いられます。
  • イ.のれんは連結修正仕訳の段階で認識されるため、個別財務諸表の換算段階では為替換算調整勘定は発生しない。
    • これは適切です。のれんは連結修正仕訳の段階で初めて認識されるため、個別財務諸表の換算段階では、のれんから発生する為替換算調整勘定は把握されません。のれんに関連する為替換算調整勘定は、連結修正仕訳の段階で追加で発生します。
  • ウ.在外子会社の貸借対照表における負債は、発生時のレート(HR)で換算される。
    • これは不適切です。貸借対照表の**資産及び負債はすべて決算日レート(CR)**で換算されます。発生時レート(HR)が用いられるのは、主に支配獲得後の株主資本項目の増加分や、親会社との取引など限定的な場合です。
  • エ.為替換算調整勘定は、連結貸借対照表上、のれん償却額として計上される。
    • これは不適切です。為替換算調整勘定は、純資産項目であり、換算差額として処理されます。のれん償却額は費用項目であり、損益計算書に計上されます。両者は全く異なる勘定科目です。

したがって、最も適切な記述はイです。


まとめ

ポイント1:在外子会社の連結会計の流れ

在外子会社の連結会計は「個別財務諸表の組替修正 → 換算 → 合算 → 連結修正仕訳」という流れで実施されます。外貨建て財務諸表を円に換算するプロセスが重要です。

ポイント2:財務諸表の換算方法(B/S)

貸借対照表の資産・負債はすべて決算日レート(CR)で換算します(決算日レート法)。株主資本項目は、支配獲得時のものは支配獲得日レート(HR)、支配獲得後に発生したものは発生時レート(HR、例えば利益剰余金増加分はAR)で換算します。

ポイント3:財務諸表の換算方法(P/L)

損益計算書の収益・費用は原則として期中平均レート(AR)で換算します。ただし、親会社との取引に係る収益・費用は、相殺消去のため親会社が使用したレート(HR)で換算します。換算差額は「為替差損益」として処理されます。

ポイント4:為替換算調整勘定

資産・負債と純資産の換算レートの相違から生じる差額は、**純資産項目である「為替換算調整勘定」**として処理されます。これはその他有価証券評価差額金と同様に、非支配株主持分に帰属する部分を振り替えて処理します。

ポイント5:のれんの換算

「のれん」は資産項目なので**決算日レート(CR)で換算し、「のれん償却額」は費用項目なので期中平均レート(AR)**で換算します。のれん関連の為替換算調整勘定は連結修正仕訳の段階で認識され、親会社持分のみに帰属します。タイム・テーブルの活用が換算作業の鍵を握ります。


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この記事を書いた人

簿記2級を取得し、現在簿記1級を勉強中。
学んだことを忘れないようにここでまとめてます。
普段は、会社で経理をしながら、経理・簿記関係の情報を発信。
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