問1(仕訳問題:貸倒懸念債権—財務内容評価法)
当社は、取引先の経営状態が悪化したため、長期貸付金のうち100,000円を貸倒懸念債権に分類した。当該債権に対し、担保として設定されていた土地の処分見込額は60,000円、保証による回収見込額は5,000円である。回収が見込まれない残額のうち、さらに40%の貸倒リスクがあると判断し、貸倒引当金を設定する。設定前の当該貸付金に対する貸倒引当金残高は8,000円である。期末に必要な仕訳を示しなさい。
問2(計算問題:一般債権—貸倒実績率法)
期末における一般債権残高(受取手形・売掛金)の合計は250,000円であり、このうち設定されている貸倒引当金残高は4,500円である。過去3年間の実績は以下の通りであった。貸倒実績率の平均を用いて、当期の貸倒引当金繰入額を算定しなさい。
期末 | 期末債権残高 | 実際貸倒高 |
---|---|---|
1期末 | 150,000円 | 3,300円 |
2期末 | 200,000円 | 4,200円 |
3期末 | 240,000円 | 5,520円 |
問3(選択肢問題:破産更生債権等に関するB/S表示)
経営破綻に陥った債務者に対する債権(破産更生債権等)について、正しい記述を以下のA~Dから一つ選びなさい。
A. 貸倒見込額の算定には、貸倒実績率法を用いる。 B. 財務内容評価法を適用する際、担保・保証による回収見込額を控除した残額が、そのまま貸倒見込額となる。 C. 当該債権は、決算整理により破産更生債権等勘定に振り替えられず、元の勘定科目(売掛金など)のまま流動資産として表示される。 D. B/Sにおいては、「流動資産」として表示される。
問4(計算問題:貸倒懸念債権—CF見積法)
当社は、A社への長期貸付金80,000円を有している。当初の約定利子率は年4%であったが、A社の状況悪化に伴い、利子率を年1%に引き下げた(返済条件の緩和)。当該債権を貸倒懸念債権に分類し、キャッシュ・フロー見積法によって貸倒引当金を設定する。残存期間は1年であり、期末に利息800円と元本全額80,000円の回収が見込まれる。期末における貸倒引当金の要設定額(見込額)を算定しなさい。なお、計算過程で端数が生じた場合は、円未満を四捨五入すること。
参考:年利4%の1年後の割引現在価値係数:0.9615
問5(仕訳問題:誤謬の訂正)
前期末に発生した営業債権(売掛金)1,500円が、当期に入り全額貸し倒れた。この売掛金に対し、前期末には適切な情報に基づいて600円の貸倒引当金が設定されていた。しかし、当期に判明した事実は、前期末の段階で既に債務者に関する重大な情報を見落としており、引当金が400円不足していた(引当金設定時の見積り誤り)というものである。貸倒時の仕訳を示しなさい。
問1 解答
貸倒引当金繰入額:6,000円
勘定科目 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|
貸倒引当金繰入(営業外費用) | 6,000 | 貸倒引当金 |
問2 解答
貸倒引当金繰入額:1,000円
問3 解答
B
問4 解答
貸倒引当金の要設定額(見込額):2,311円
問5 解答
勘定科目 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|
貸倒引当金 | 600 | 売掛金 |
繰越利益剰余金 | 400 | |
貸倒損失 | 500 |
金銭債権と貸倒引当金の評価基準
1. 金銭債権の基礎と評価方法
金銭債権とは、将来的に金銭を受け取る権利を指します。具体的には、受取手形、売掛金、貸付金などがこれに該当します。
金銭債権を貸借対照表(B/S)に表示する際の価額は、原則として取得価額から貸倒引当金を控除した金額となります。金銭債権は有価証券とは異なり、活発な市場が存在せず、売却を予定しないため、時価評価は行いません。
ただし、債権金額と取得価額に差額がある場合で、その差額が金利の調整と認められる場合は、償却原価法を適用します。この場合の貸借対照表価額は、償却原価から貸倒引当金を控除した金額となります。
財務諸表における表示価額の計算パターン: 貸借対照表価額 = [取得価額 or 償却原価]- 貸倒引当金
また、金銭債権よりも広い概念として**「金融資産」**が存在し、これは実体の有無にかかわらず現金化できる資産を指します。金融資産には、現金、金銭債権(受取手形、売掛金、貸付金)、有価証券、デリバティブが含まれます。
2. 回収リスクに応じた債権の分類と貸倒引当金の設定
金銭債権は、その全額が必ずしも回収できるわけではなく、回収不能リスクを負っています。このリスクに備えるため、貸倒れるリスクに応じて貸倒引当金を設定し、これを控除した額をB/S価額としなければなりません。
簿記1級では、この回収可能性(債務者の経営状態)に応じて、金銭債権を以下の3つの区分に分類し、それぞれ異なる方法で貸倒見込額を算定します。
債権分類 | 債務者の経営状態 | 回収不能リスク | 算定方法(概要) |
---|---|---|---|
(1) 一般債権 | 問題が発生していない | 通常 | 貸倒実績率等の合理的な基準 |
(2) 貸倒懸念債権 | 重大な問題が発生している | 高い | 財務内容評価法 または キャッシュ・フロー見積法 |
(3) 破産更生債権等 | (実質的に)経営破綻している | 顕在化 | 財務内容評価法 |
2-1. 一般債権(貸倒実績率法)
一般債権とは、債務者の経営状態に特に問題が生じていない通常の債権を指します。
貸倒見込額の算定には、主に貸倒実績率法が用いられます。これは、過去の貸倒実績率などの合理的な基準に基づき、債権ごとに貸倒見込額を算定する方法です。
(例として、過去3年間の貸倒実績率を平均し、当期の債権残高に乗じる方法が挙げられます。)
2-2. 貸倒懸念債権
貸倒懸念債権とは、経営破綻の状態には至っていないものの、債務の弁済に重大な問題が生じている、または生じる可能性の高い債務者に対する債権です。
貸倒見込額の算定には、以下のいずれかの方法を適用します。ただし、一度選択した方法は、債権の状況が変化しない限り継続して適用しなければなりません。
- 財務内容評価法: 債権額から担保の処分見込額や保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態や経営成績を考慮して貸倒見込額を算定する方法です。
- キャッシュ・フロー見積法: 債権の元本回収および利息受取に係る将来キャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権について適用されます。この方法では、将来見込まれるキャッシュ・フローを、当初の約定利子率で現在価値に割り引いた金額の総額と、債権の帳簿価額との差額を貸倒見込額とします。
キャッシュ・フロー見積法を適用する場合、時間の経過に伴い割引現在価値が上昇し、貸倒見込額(引当金)が減少します。この引当金の減少額は、原則として受取利息として処理されます。
2-3. 破産更生債権等
破産更生債権等とは、すでに経営破綻している、または実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権を指します。
この債権の貸倒見込額の算定には、財務内容評価法(実質的な回収可能額を算定する方法)を用います。具体的には、債権額から担保の処分見込額と保証による回収見込額を減額し、その残額すべてを貸倒見込額とします。
なお、破産更生債権等に分類された金銭債権は、**『破産更生債権等』**という勘定科目に振り替えられます。B/S上では通常「投資その他の資産」区分に表示されます。
3. 貸倒引当金および繰入額の表示
3-1. 繰入額の表示区分(P/L)
貸倒引当金繰入額は、対応する金銭債権の種類によって、損益計算書(P/L)上の表示区分が異なります。
- 営業債権(本業から生じた債権、概ね流動資産に表示)から生じた繰入額は、P/Lの**「Ⅲ 販売費及び一般管理費」**区分に表示されます。
- 営業外債権(それ以外の債権、概ね固定資産に表示)から生じた繰入額は、P/Lの**「Ⅴ 営業外費用」**区分に表示されます。
もし貸倒引当金の要設定額が、すでに設定されている残高よりも少なくなった場合は、戻入れを行います。この戻入額は、対応する「Ⅲ 販売費及び一般管理費」または「Ⅴ 営業外費用」において控除する形式で表示されますが、「Ⅳ 営業外収益」に計上することも認められています。
3-2. 貸倒引当金の表示方法(B/S)
貸倒引当金は、減価償却累計額と同様に、貸借対照表上での表示方法が認められています。
- 間接控除方式
- 直接控除注記方式
これらは、科目を個別に行うか、一括して行うかについても、いずれの方法も認められています。
4. 会計上の変更及び誤謬の訂正との関係
貸倒引当金は、将来の貸倒額を見積もって計上する項目であるため、実際の貸倒額と設定額の間に差額が生じることが通常です。この差額の会計処理は、それが「会計上の見積りの変更」に該当するのか、「誤謬の訂正」に該当するのかによって異なります。
4-1. 会計上の見積りの変更に該当する場合
貸倒引当金の設定時の判断は合理的であったが、その後の状況の変化によって差額が生じた場合、これは会計上の見積りの変更に該当します。
- 引当金を超える貸倒れ: 設定額を超過して貸倒れが生じた差額は**『貸倒損失』**として処理されます。計上区分は『貸倒引当金繰入』と同様です。
- 償却債権の回収: 過年度に貸倒処理した金銭債権が当期に回収されたときは**『償却債権取立益』**(P/L「Ⅳ 営業外収益」区分)として処理されます。
4-2. 誤謬の訂正に該当する場合
貸倒引当金の設定時に、利用可能な情報を誤用した、または使用しなかったことによる見積りの誤りは誤謬の訂正として扱われます。
誤謬の訂正に該当する場合、過去の財務諸表作成時に遡って修正再表示を行う必要があります。このため、過年度の利益に影響を与える差額は、原則として繰越利益剰余金を修正して処理します。
問題解説
問1 解説:貸倒懸念債権(財務内容評価法)
この問題は、債務の弁済に重大な問題が生じている貸倒懸念債権に対して、財務内容評価法を適用し、貸倒引当金を設定するプロセスを理解しているかを問うものです。
財務内容評価法では、まず債権総額から担保の処分見込額および保証による回収見込額を控除し、実質的に無担保・無保証となる残額を求めます。
ステップ1:実質的な無担保・無保証残額の算定 債権額 100,000円 - 担保見込額 60,000円 - 保証見込額 5,000円 = 35,000円
ステップ2:貸倒見込額(要設定額)の算定 この実質的な残額35,000円に対して、さらに40%の貸倒リスクを見積もります。 貸倒見込額:35,000円 × 40% = 14,000円
ステップ3:繰入額の算定 期末の貸倒引当金の要設定額は14,000円です。設定前の残高は8,000円であったため、差額を繰り入れます。 繰入額:14,000円 - 8,000円 = 6,000円
この長期貸付金は営業外債権に該当するため、繰入額は「貸倒引当金繰入(営業外費用)」として処理します。
問2 解説:一般債権(貸倒実績率法)
この問題は、一般債権に対して貸倒実績率法を適用し、平均実績率に基づいて引当金繰入額を算定するプロセスを問うものです。
ステップ1:各期の貸倒実績率の算定 貸倒実績率 = 実際貸倒高 ÷ 期末債権残高
- 1期末:3,300円 ÷ 150,000円 = 0.022 (2.2%)
- 2期末:4,200円 ÷ 200,000円 = 0.021 (2.1%)
- 3期末:5,520円 ÷ 240,000円 = 0.023 (2.3%)
ステップ2:貸倒実績率の平均の算定 (0.022 + 0.021 + 0.023) ÷ 3年 = 0.066 ÷ 3 = 0.022 (2.2%)
ステップ3:貸倒引当金の要設定額(貸倒見込額)の算定 当期の一般債権残高 250,000円 × 2.2% = 5,500円
ステップ4:貸倒引当金繰入額の算定 要設定額 5,500円 - 設定済み残高 4,500円 = 1,000円
当期の貸倒引当金繰入額は1,000円となります。この債権は営業債権であるため、繰入額は販売費及び一般管理費として計上されます。
問3 解説:破産更生債権等に関するB/S表示
この問題は、破産更生債権等の定義、評価方法、および表示に関する知識を問うものです。
- A. 破産更生債権等は、回収リスクが顕在化しているため、過去の実績率ではなく、債務者の財務内容に基づいた財務内容評価法によって見込額を算定します。よってAは誤りです。
- B. 財務内容評価法では、債権額から担保処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見込額とします。これは、残りの部分が実質的に回収不能であると見なされるためです。よってBは正しいです。
- C. 破産更生債権等に分類された金銭債権は、決算時に**『破産更生債権等』勘定**に振り替えられます。よってCは誤りです。
- D. 破産更生債権等は、その性質上、B/Sにおいては原則として**「投資その他の資産」**区分(固定資産)に表示されます。よってDは誤りです。
したがって、正解はBです。
問4 解説:貸倒懸念債権(キャッシュ・フロー見積法)
この問題は、返済条件が緩和された貸倒懸念債権に対して、キャッシュ・フロー見積法を適用するプロセス、特に割引率の適用と端数処理を理解しているかを問うものです。
キャッシュ・フロー見積法では、将来のキャッシュ・フローを当初の約定利子率(本問では4%)で割り引いて現在価値を求め、その現在価値と帳簿価額(80,000円)の差額を貸倒見込額とします。
ステップ1:将来キャッシュ・フローの算定 期末に回収が見込まれるCFは、利息200円(※)と元本80,000円の合計です。 ※利息は引き下げ後の利率1%で計算:80,000円 × 1% = 800円 (利息)
ステップ2:将来キャッシュ・フローの割引現在価値の算定 将来CF 80,800円 を、当初の約定利子率4%の割引現在価値係数(0.9615)で割り引きます。 80,800円 × 0.9615 = 77,689.2円
問題の指示により、円未満を四捨五入します。 割引現在価値:77,689円
ステップ3:貸倒見込額(要設定額)の算定 帳簿価額と割引現在価値の差額が貸倒見込額となります。 貸倒見込額:80,000円 - 77,689円 = 2,311円
当期の貸倒引当金の要設定額は2,311円です。
問5 解説:誤謬の訂正
この問題は、貸倒引当金の設定時の見積り誤りが判明した場合の処理を問うものであり、これは誤謬の訂正に該当します。
誤謬の訂正の場合、過去に遡って修正再表示を行う必要があるため、過年度の利益に影響を与えた部分(設定不足額)は繰越利益剰余金を修正して処理します。
ステップ1:貸倒引当金の使用 設定されていた貸倒引当金600円を取り崩します。
ステップ2:設定不足額の処理 今回の貸倒額は1,500円です。貸倒引当金の設定時の見積り誤りによる不足額は400円でした。この400円は、過去の費用計上額が過少であったことを意味するため、繰越利益剰余金を減少させます。
ステップ3:状況変化による差額の確認 今回の貸倒総額1,500円のうち、引当金残高600円、誤謬による不足額400円でした。 残りの差額 1,500円 - 600円(引当金)- 400円(誤謬) = 500円 この500円は、引当金設定後に生じた状況変化によるものと見なされ、会計上の見積りの変更に該当します。したがって、この500円は当期の費用**『貸倒損失』**として処理します。
勘定科目 | 借方金額 | 貸方金額 | 根拠 |
---|---|---|---|
貸倒引当金 | 600 | 設定済みの利用 | |
繰越利益剰余金 | 400 | 誤謬の訂正(遡及修正) | |
貸倒損失 | 500 | 見積りの変更(当期費用化) | |
売掛金 | 1,500 |
まとめ
貸倒引当金設定に関するポイント1〜5
ポイント1:金銭債権のB/S価額算定 貸借対照表価額は、取得価額または償却原価から貸倒引当金を控除した金額となります。時価評価は原則行いません。
ポイント2:債権分類と適用する算定方法 金銭債権は回収リスクに応じて「一般債権(実績率法)」「貸倒懸念債権(財務内容評価法orCF見積法)」「破産更生債権等(財務内容評価法)」の3つに分類されます。
ポイント3:キャッシュ・フロー見積法の適用注意点 貸倒懸念債権にCF見積法を適用する場合、将来CFの割引には当初の約定利子率を使用します。時間の経過による引当金の減少額は、原則として受取利息として処理します。
ポイント4:繰入額のP/L表示区分 繰入額の表示は、債権の性質によって異なります。営業債権に対する繰入額は「販売費及び一般管理費」へ、営業外債権に対する繰入額は「営業外費用」へ計上します。戻入れは対応する費用科目の控除形式、または「営業外収益」で処理します。
ポイント5:会計上の変更と誤謬の区別 合理的な判断後の状況変化による差額は「見積りの変更」であり、『貸倒損失』で処理します。設定時の情報誤用による差額は「誤謬の訂正」であり、原則として過去に遡及して『繰越利益剰余金』を修正します。