(計算問題の解答が割り切れない場合は、小数点以下を四捨五入して、円未満を切り捨てた整数値で解答してください。)
問1(選択肢問題:逆取得の理解)
以下の記述のうち、逆取得(リバース・アクイジション)に関する記述として正しいものを一つ選びなさい。
- 株式を交付した法律上の存続会社が、経済的にも取得企業となるケースをいう。
- 企業結合上の被取得企業にパーチェス法が適用されることはない。
- 個別財務諸表上、法律上の被取得企業は、法律上の取得企業の資産・負債を時価評価しなければならない。
- 株式を交付した法律上の存続会社が、経済的には被取得企業となるケースをいう。
問2(仕訳問題:共通支配下の取引の個別会計処理)
P社は、100%子会社であるS社とT社を企業結合させ、S社を存続会社とする吸収合併を行った。これは共通支配下の取引に該当する。T社の純資産の簿価(移転元帳簿価額)は¥1,500,000であった。S社が行うべきT社との企業結合に関する仕訳を示しなさい。
問3(計算問題:逆取得の連結上の取得原価算定)
A社はB社を吸収合併し、A社株式を交付した。経済的実態に基づき、これは逆取得(B社が経済的取得企業)と判定された。合併比率に基づき、B社の旧株主が取得したA社株式の議決権比率は80%となった。このとき、B社株式(経済的取得企業)の合併直前の時価総額は¥1,000,000であり、A社株式(法律上の存続会社)の合併直前の時価総額は¥200,000であった。連結財務諸表上、法律上の被取得企業(A社)を取得した際の取得原価として算定されるべき金額を求めなさい。
問4(選択肢問題:共同支配企業の形成の連結処理)
複数の独立した企業が契約等に基づき共同支配企業を形成した。この結合の経済的実態は持分の結合と呼ばれる。この共同支配企業に対する投資について、連結財務諸表上適用される会計処理として最も適切なものを一つ選びなさい。
- パーチェス法
- 持分法
- 適正な帳簿価額による処理
- 時価法
問5(選択肢問題:パーチェス法非適用の理由)
以下の企業結合に関する記述のうち、「取得」に該当しないためパーチェス法が適用されないのはどれか。
- 子会社が親会社を吸収合併し、親会社の旧株主が子会社の多数派株主となる逆取得。
- 独立した企業が、支配権の確立を目的として、相手企業の支配権を対価を伴って獲得する場合。
- 結合当事企業のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合。
- 合併比率が当事企業間で交渉により決定され、両社の株主間の持分比率が大きく変動する場合。
【問1】(選択肢問題:逆取得の理解)
解答: 4. 株式を交付した法律上の存続会社が、経済的には被取得企業となるケースをいう。
【問2】(仕訳問題:共通支配下の取引の個別会計処理)
解答:
借方勘定 | 金額 | 貸方勘定 | 金額 |
---|---|---|---|
純資産 | 1,500,000 | 資本等移動差額 | 1,500,000 |
【問3】(計算問題:逆取得の連結上の取得原価算定)
解答: ¥1,000,000
【問4】(選択肢問題:共同支配企業の形成の連結処理)
解答: 2. 持分法
【問5】(選択肢問題:パーチェス法非適用の理由)
解答: 1. 子会社が親会社を吸収合併し、親会社の旧株主が子会社の多数派株主となる逆取得、および 3. 結合当事企業のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合
(注:選択肢問題として、例外ケースを示している1と3のどちらを選んでも正答ですが、この設問の意図は例外ケースの把握なので、ここでは両方を正答とします。)
企業結合会計の特例:パーチェス法が適用されないケース
企業結合の会計処理の大部分は、経済的実態が「取得」に該当すると考えられるため、パーチェス法が適用されます。しかし、企業結合の経済的実態が「取得」に該当しない、または支配獲得とは言い難い特定のケースが存在します。その代表的な3つのケースが、「逆取得」「共通支配下の取引」「共同支配企業の形成」です。これらのケースでは、通常の企業結合とは異なる特別な会計処理が適用されます。
逆取得とは、その会計処理
逆取得の定義
逆取得とは、株式を交付した企業(法律上の存続会社)と、企業結合上の取得企業が一致しないことをいいます。
具体的な例として、A社(法律上の存続会社、株式交付会社)がB社を吸収合併したケースを考えます。通常であれば、存続会社であるA社が取得企業となるはずです。しかし、B社の方が規模が大きかったなどの理由により、合併後のA社の多数派株主が旧B社株主となってしまうことがあります。
この場合、実質的にA社を支配したのはB社(旧B社株主)であるため、消滅したはずのB社が企業結合上の取得企業(経済的取得企業)に該当します。逆に、株式を交付したA社(法律上の存続会社)は、企業結合上の被取得企業となってしまいます。これが「逆取得」と呼ばれる理由です。逆取得が生じるケースには、吸収合併の他、株式交換や吸収分割などがあります。
逆取得の会計処理
逆取得の場合であっても、経済的実態に照らすと、取得企業(消滅会社)が、被取得企業(存続会社)にパーチェス法を適用して会計処理すべきという考え方があります。
①個別財務諸表上の処理
日本の個別財務諸表においては、会社法の規定による制約が存在します。この制約により、法律上の存続会社(被取得企業)は、被取得企業(法律上の存続会社)の資産・負債を時価評価することができません。
そこで、個別財務諸表上は、被取得企業(法律上の存続会社)が取得企業(法律上の消滅会社)を「適正な帳簿価額」で評価し、それを取得原価とする会計処理を行います。個別上の処理では、パーチェス法による時価評価は行われません。
②連結財務諸表上の処理
一方、連結財務諸表は会社法の制約を受けません。したがって、連結財務諸表上は、被取得企業(法律上の存続会社)にパーチェス法が適用されることとなります。
具体的な取得原価の算定は、取得企業(経済的取得企業)株式の時価を基準として、議決権比率の割合で算定します。
共通支配下の取引
共通支配下の取引の定義
共通支配下の取引とは、結合当事企業のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいいます。例えば、親会社が100%子会社同士を合併させるようなケースが該当します。
共通支配下の取引の会計処理
連結会計において、企業集団内での商品売買や固定資産売買から生じた損益(未実現損益)は、集団全体の損益とはみなされず、消去されていました。
これと同様に、企業集団内における企業結合も、外部に対して損益を計上すべき取引ではないと考えられます。そのため、損益が計上されないように、移転元の適正な帳簿価額で会計処理を行うこととされています。
共同支配企業の形成
共同支配企業の形成の定義
共同支配企業の形成とは、複数の独立した企業が、契約等に基づき、共同で支配する企業(共同支配企業)を形成する企業結合をいいます。
この経済的実態は、いずれの企業も単独では支配を獲得していないと考えられ、「持分の結合」と呼ばれます。したがって、パーチェス法は適用されません。
共同支配企業の形成と判定されるためには、共同支配となる契約の存在や、支払われた対価のすべてが議決権のある株式であるなど、複数の条件を満たしている必要があります。
共同支配企業の形成の会計処理
①個別財務諸表上の処理
個別財務諸表上は、共通支配下の取引と同様に、移転した事業に関する適正な帳簿価額で評価することとされています。
②連結財務諸表上の処理
共同支配企業は、親会社や子会社のような完全な支配関係にはありません。そのため、連結財務諸表上、共同支配企業に対する投資については、持分法を適用することとなります。
問題解説
問1(選択肢問題:逆取得の理解)
解説: 逆取得とは、株式を交付した法律上の存続会社と、経済的な実態としての取得企業が一致しない状況を指します。通常の企業結合では、株式を交付した会社が取得企業(A社)となりますが、逆取得では、被吸収会社(B社)の旧株主が合併後の会社の多数派となり、実質的にB社がA社を支配したと見なされます。このため、法律上の存続会社A社が企業結合上の被取得企業となることから「逆取得」と呼ばれます。
選択肢を検討します。
- 誤り。これは通常の取得の定義です。
- 誤り。連結財務諸表上は、経済的実態に基づき、被取得企業(法律上の存続会社)にパーチェス法が適用されます。
- 誤り。個別財務諸表上は、会社法の制約があるため時価評価は行わず、適正な帳簿価額で評価します。
- **正しい。**株式を交付した法律上の存続会社A社が、経済的実態として被取得企業となるのが逆取得です。
問2(仕訳問題:共通支配下の取引の個別会計処理)
解説: 本件は、親会社P社の下にあるS社とT社間の企業結合であり、共通支配下の取引に該当します。共通支配下の取引では、企業集団内での取引であるため、外部に対して損益を計上することが許されません。したがって、移転元企業(消滅会社T社)の適正な帳簿価額で会計処理を行う必要があります。
この問題では、存続会社S社が消滅会社T社の純資産¥1,500,000を適正な帳簿価額で受け入れることになります。対価の交付は合併契約に伴い消滅会社の親会社(ここではS社、T社の共通の親会社P社)との間で処理されるため、存続会社S社側では資本取引として処理されます。具体的には、受け入れた純資産は資本等移動差額(または資本剰余金/資本金)として処理されますが、ここでは共通支配下の取引における基本的な処理として、受け入れた純資産額を資本等移動差額として認識します。
借方勘定 | 金額 | 貸方勘定 | 金額 |
---|---|---|---|
純資産 | 1,500,000 | 資本等移動差額 | 1,500,000 |
この仕訳は、パーチェス法のようにのれんや負ののれんを計上するのではなく、純資産の帳簿価額をそのまま受け入れる点が、共通支配下の取引の最大の特徴です。パーチェス法が適用される取得では、資産・負債は時価で評価されますが、共通支配下の取引では時価評価は行われません。企業集団内での簿価の引き継ぎこそが、この取引の目的となります。
問3(計算問題:逆取得の連結上の取得原価算定)
解説: 逆取得の場合、連結財務諸表上は会社法の制約を受けないため、経済的実態に基づきパーチェス法が適用されます。
このケースでは、B社(経済的取得企業、消滅会社)がA社(法律上の被取得企業、存続会社)を取得したと見なされます。 連結上の取得原価は、経済的取得企業(B社)の株式の時価を基準として算定されます。
- 取得原価の算定基準額の特定: 経済的取得企業はB社です。B社の合併直前の時価総額が基準となります。 基準額:¥1,000,000
- 議決権比率の適用: B社の旧株主が合併後の会社(A社)の議決権比率80%を占めています。連結財務諸表上、B社がA社の80%を取得したと見なされます。 しかし、逆取得における連結上の取得原価の算定では、法律上の被取得企業(A社)の純資産のうち、取得企業(B社)が取得したと見なされる持分に対応する金額を取得原価として算定します。 取得原価 = 経済的取得企業(B社)の時価総額 × B社株主が取得した議決権比率 取得原価 = ¥1,000,000(B社の時価) 注意点: 逆取得の連結処理では、被取得企業(A社)の純資産の時価評価が必要ですが、取得原価は原則として経済的取得企業(B社)の株式の時価を基礎に算定します。ここでは、A社を取得するための対価はB社の時価総額全体として評価されるため、取得原価はB社の時価総額全額をベースとします。 A社(法律上の被取得企業)を取得した際の取得原価は、経済的取得企業であるB社の時価総額を用います。 取得原価 = ¥1,000,000 (A社の時価総額¥200,000は、経済的取得企業であるB社の取得原価の算定には直接使用されません。また、議決権比率80%は支配獲得の事実を示すために重要ですが、このケースでは取得企業であるB社の時価総額全体を基準とします。)
問4(選択肢問題:共同支配企業の形成の連結処理)
解説: 共同支配企業の形成は、複数の独立企業が契約等に基づき共同支配企業を設立する結合形態であり、その経済的実態は「持分の結合」と呼ばれます。これは、結合に参加したどの企業も単独での支配権を獲得していない状態を意味します。
したがって、通常の支配関係の成立とは見なされないため、パーチェス法は適用されません。この共同支配企業に対する投資について、連結財務諸表上は、持分法を適用して処理することとされています。持分法は、投資会社が被投資会社に対し支配力はないものの、重要な影響力を有する場合に適用される会計処理です。共同支配の場合、両者(または複数)が重要な影響力を相互に行使し合う状態と解釈されます。
個別財務諸表上では、移転した事業は適正な帳簿価額で評価されますが、連結上の処理では持分法が求められます。
問5(選択肢問題:パーチェス法非適用の理由)
解説: パーチェス法は、企業結合の経済的実態が「取得」に該当する場合に適用される会計処理です。したがって、パーチェス法が適用されないのは、「取得」に該当しない特殊なケース、すなわち「逆取得」「共通支配下の取引」「共同支配企業の形成」のいずれかに該当する場合です。
選択肢を検討します。
- 逆取得に該当します。逆取得は「取得」の実態が通常と異なり、株式交付会社が被取得企業となるケースであり、個別会計では会社法の制約も受けるため、パーチェス法が適用されない例外ケースです。
- これは支配権を獲得する取引であり、通常の「取得」に該当し、パーチェス法が適用されます。
- これは共通支配下の取引の定義そのものです。共通支配下の取引は、同一の最終支配株主の下で行われるため、外部との取引による「取得」とは見なされず、パーチェス法は適用されません。
- これは通常の合併や買収における支配獲得の一側面を示すものであり、支配を獲得した側(取得企業)にはパーチェス法が適用されます。
パーチェス法が適用されない特殊な例外ケースは、1(逆取得)と3(共通支配下の取引)の両方です。
まとめ
- ポイント1:パーチェス法非適用ケース 逆取得、共通支配下の取引、共同支配企業の形成の3つのケースでは、企業結合の経済的実態が「取得」ではないため、原則としてパーチェス法は適用されません。
- ポイント2:逆取得の個別上の処理 逆取得(法律上の被取得企業が経済的取得企業となる)において、個別財務諸表は会社法の制約を受けるため、時価評価は行わず、被取得企業が取得企業を**「適正な帳簿価額」**で評価します。
- ポイント3:逆取得の連結上の処理 連結財務諸表上は会社法の制約を受けないため、経済的実態を重視し、被取得企業(法律上の存続会社)にパーチェス法が適用されます。取得原価は、経済的取得企業(消滅会社)の株式の時価を基準に算定します。
- ポイント4:共通支配下の取引の処理 共通支配下の取引は、同一の株主集団内で完結する取引であるため、損益を計上しないよう、移転元の適正な帳簿価額で会計処理されます。
- ポイント5:共同支配企業の形成の処理 共同支配企業の形成は「持分の結合」と呼ばれ、連結財務諸表上、共同支配企業に対する投資は持分法が適用されます。個別上は適正な帳簿価額で評価されます。