問1
以下の資料に基づき、資産グループXと資産グループYについて、減損損失を認識すべきかどうかを判定し、減損損失を認識する場合にはその金額を求めなさい。なお、すべての資産に減損の兆候がみられるものとする。
[資料]
項目 | 資産グループX | 資産グループY |
---|---|---|
取得原価 | 40,000円 | 25,000円 |
減価償却累計額 | 10,000円 | 5,000円 |
割引前将来キャッシュ・フローの総額 | 28,000円 | 21,000円 |
正味売却価額 | 25,000円 | 18,000円 |
使用価値 | 23,000円 | 20,000円 |
問2
以下の資料に基づき、Z事業部の減損損失を計上するための仕訳を示しなさい。なお、共用資産を含むより大きな単位で減損損失を認識する方法による。計算過程で端数が生じる場合は、円未満を四捨五入すること。
[資料]
- 資産グループA、資産グループB、および共用資産を含むより大きな単位に減損の兆候が把握された。
- 共用資産を加えることにより増額した減損損失は、共用資産に優先的に配分する。ただし、共用資産が回収可能価額を下回らないようにし、超過額は各資産グループに、帳簿価額の比率に基づいて再配分する。
- Z事業部資産のデータ
項目 | 資産グループA | 資産グループB | 共用資産 | 合計 |
---|---|---|---|---|
帳簿価額 | 30,000円 | 45,000円 | 10,000円 | 85,000円 |
割引前将来キャッシュ・フローの総額 | 33,000円 | 48,000円 | - | 81,000円 |
回収可能価額 | 31,000円 | 38,000円 | 6,000円 | 75,000円 |
問3
以下の資料に基づき、M事業部の減損損失を計上するための仕訳を示しなさい。なお、のれんの帳簿価額を各資産に配分する方法による。
[資料]
- M事業部に分割されたのれんの帳簿価額は20,000円である。
- のれんの帳簿価額の、各資産への配分比率は、それぞれ資産グループPが70%、資産グループQが30%である。
- のれん配分後の資産グループP、資産グループQに減損の兆候が把握された。
- 減損損失が認識された場合、のれん配分後の各資産グループに配分された減損損失は、まずのれんに優先的に配分する(下限はゼロ)。残額は各資産グループに配分する。
- M事業部資産のデータ
項目 | 資産グループP | 資産グループQ |
---|---|---|
帳簿価額 | 100,000円 | 80,000円 |
のれん配分後の割引前将来キャッシュ・フローの総額 | 105,000円 | 85,000円 |
のれん配分後の回収可能価額 | 95,000円 | 82,000円 |
問4
減損損失を認識するかどうかの判定における割引前将来キャッシュ・フローの総額を計算しなさい。なお、割引率は3%とする。計算過程で端数が生じる場合は、円未満を四捨五入すること。
[資料]
- 資産グループの経済的残存使用年数は22年である。
- 20年経過時点の正味売却価額は12,000円、22年経過時点の正味売却価額は9,000円である。
- 経済的残存使用年数までの各期の割引前将来キャッシュ・フローは1,500円である。
問5
固定資産の減損に関する以下の記述について、最も適切なものを一つ選び、記号で答えなさい。
ア.固定資産の減損処理後、当該固定資産の減価償却は停止される。
イ.減損損失を認識するかの判定(STEP2)では、将来キャッシュ・フローの現在価値を使用する。
ウ.減損損失の戻入れは、その後の状況により収益性が回復したと判断される場合に認められる。
エ.共用資産がある場合の原則的な処理では、共用資産を加えることにより増額した減損損失は、共用資産に優先的に配分されるが、その下限はゼロである。
オ.使用価値の算定に用いる割引率は、貨幣の時間的価値とリスクの両方を反映させたものと、貨幣の時間的価値のみを反映させた無リスクのもののいずれかを選択できる。
問1 解答
① 資産グループXについて
- 帳簿価額:40,000円 - 10,000円 = 30,000円
- 減損認識判定:帳簿価額30,000円 > 割引前将来キャッシュ・フローの総額28,000円 → 減損損失を認識する
- 回収可能価額:正味売却価額25,000円 と 使用価値23,000円 を比較 → 高い方である25,000円
- 減損損失の金額:30,000円 - 25,000円 = 5,000円
② 資産グループYについて
- 帳簿価額:25,000円 - 5,000円 = 20,000円
- 減損認識判定:帳簿価額20,000円 < 割引前将来キャッシュ・フローの総額21,000円 → 減損損失を認識しない
問2 解答
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
減損損失 | 10,000 | 共用資産 | 4,000 |
資産グループA | 2,400 | ||
資産グループB | 3,600 |
問3 解答
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
減損損失 | 23,000 | のれん | 18,000 |
資産グループP | 5,000 |
問4 解答
42,000円
問5 解答
オ
固定資産の減損とは何か?
固定資産は、事業活動を通じて利益を獲得することを目的として保有される事業資産です。企業が保有する資産は、本来キャッシュの獲得に貢献する経済的資源(便益の源泉)であるべきものですが、事業環境の変化などにより、その収益性が著しく低下し、投資額の回収が見込めなくなる場合があります。このような状態を固定資産の減損と呼びます。
減損が発生した場合、その事実を財務諸表に適切に反映させるため、当該固定資産の帳簿価額を減額する処理が行われます。これが固定資産の減損処理です。この処理により、財務諸表の利用者は企業の資産状況をより正確に把握でき、適切な意思決定を行う上で役立つ情報が提供されます(意思決定有用性)。
なお、固定資産の減損処理は、棚卸資産の減額処理と同様に、取得原価主義会計の下で実施されるものです。棚卸資産の収益性が低下した場合は、その回収可能ラインである正味売却価額まで帳簿価額を減額します。このように、資産の種類によって投資の回収方法が異なるため、収益性低下の判断や帳簿価額の減額処理も、その回収される形態に応じて行われます。
減損処理の基本的な3ステップ
固定資産に減損が生じている可能性がある場合、その回収可能性を財務諸表に反映させるために帳簿価額を減額する会計処理(固定資産の減損処理)は、以下の3つの段階を経て行われます。
(1)STEP1:減損の兆候の把握
固定資産に対して減損処理を行うためには、まず減損が発生している可能性があるかどうかを特定する必要があります。実務上、個々の固定資産すべてについて詳細な減損の有無を判定することは過大な負担となるため、まずは「減損の兆候があるかどうか」という観点から固定資産全体をざっくりとふるいにかけます。これにより、減損が生じている可能性のある資産を絞り込み、その後の詳細な判定作業の効率化を図ります。
資産のグルーピング
複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合、それらの資産を「資産グループ」としてまとめ、この単位で減損会計を適用します。これは、資産の収益性低下を判断する際にキャッシュ・フローが重要な指標となるため、キャッシュ・フローを生み出す最小単位で評価を行うという考え方に基づいています。
減損の兆候の具体例
減損の兆候として考えられる具体的なケースには、以下のようなものがあります。
- 資産または資産グループが使用されている営業活動から生じる損益またはキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっている、あるいは継続してマイナスとなる見込みであること。
- 資産または資産グループの使用されている範囲や方法について、当該資産または資産グループの回収可能価額を著しく低下させるような変化が生じた、あるいは生じる見込みであること。
- 資産または資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化した、あるいは悪化する見込みであること。
- 資産または資産グループの市場価格が下落したこと。
(2)STEP2:減損損失を認識するかの判定
STEP1で減損の兆候があると判断され、絞り込まれた資産または資産グループについて、次に実際に減損損失を認識すべきかどうかを判定します。この判定では将来のキャッシュ・フローを見積もって判断することになりますが、将来予測には主観が大きく入り込む余地があります。そのため、会計基準では、減損を認識するかどうかの判定は、相当程度確実な場合に限定して認識するという基本的な考え方に基づいています。
この判定では、以下の算式に基づき、割引前の将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較します。
帳簿価額 > 割引前将来キャッシュ・フローの総額 → 減損損失を認識する 帳簿価額 < 割引前将来キャッシュ・フローの総額 → 減損損失を認識しない
通常、将来のキャッシュ・フローを評価する際には、「お金の時間的価値」を考慮して割引計算を行うのが一般的です。しかし、STEP2の認識判定ではあえて割引前の金額を使用します。これは、割引計算を行うと将来キャッシュ・フローの金額は小さくなるため、割引前の金額を用いることで、減損損失が認識されにくくなるような判断基準としているためです。それでもなお、減損損失を認識すると判定される場合は、減損損失の発生が「相当程度確実」であると判断できるため、この方法が採用されています。
経済的残存使用年数が20年を超えるケース
将来キャッシュ・フローの見積もりは、経済的残存使用年数が長くなるほど主観が入り込む余地が大きくなります。そのため、経済的残存使用年数が20年を超える場合、21年目以降の将来キャッシュ・フローは、20年目時点まで割引計算を行い、その回収可能価額を割引前将来キャッシュ・フローの総額に含めて判定を行います。回収可能価額は、後述するSTEP3で用いる「使用価値」と「正味売却価額」のいずれか高い方の金額です。
(3)STEP3:減損損失の測定
STEP2で減損損失を認識すると判定された場合、最後に減損損失の具体的な金額を測定します。このステップでは、当該固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額します。この減額によって発生する金額が減損損失であり、損益計算書上では特別損失として計上されます。
回収可能価額とは
回収可能価額とは、「使用価値」と「正味売却価額」のいずれか高い方の金額を指します。これは、通常、経営者がより有利な方を選択すると考えられるためです。
- 使用価値:当該資産または資産グループを継続して使用し、最終的に処分することによって生じると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をいいます。STEP3における使用価値の算定では、原則として将来キャッシュ・フローの割引計算(割引後の金額)を行います。
- 正味売却価額:現時点での売却によって回収できる金額をいいます。具体的には、時価から処分にかかる費用見込額を控除して算定されます。
使用価値算定に用いられる割引率
将来キャッシュ・フローの見積値には、実際のキャッシュ・フローとの乖離リスクが伴います。このリスクは使用価値の算定に反映させる必要があり、その方法には以下の2つが認められています。
- a. リスクを将来キャッシュ・フローの見積り額自体に反映させる方法:この場合、割引率には貨幣の時間価値のみを反映した無リスクの割引率(長期国債利回りなど)を用います。
- b. リスクを割引率に反映させる方法:この場合、割引率には貨幣の時間的価値とリスクの両方を反映させた割引率(加重平均資本コストなど)を用います。
いずれの方法を用いる場合でも、割引率は税引前の利率を使用します。
共用資産がある場合の減損処理
共用資産とは、本社建物のように、複数の資産または資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に寄与する資産のうち、「のれん」以外のものを指します。共用資産もキャッシュ・フローの生成に関与するため、減損処理を行う上で考慮が必要です。共用資産がある場合の減損処理には、会計基準上「原則的な処理」と「容認処理」の2つの方法があります。
(1)原則的な処理:共用資産を含むより大きな単位でグルーピング
この方法では、まず共用資産を含まない各資産または資産グループ(キャッシュ・フローを生み出す最小の単位)において、前述したSTEP1からSTEP3の計算手順を通常通り行います。
次に、共用資産を含む「より大きな単位」でグルーピングを行い、この単位で再びSTEP1からSTEP3の計算手順を実施します。この「より大きな単位」で減損損失が認識された場合、共用資産を加えることによって増加した減損損失は、まず共用資産に優先的に配分されます。ただし、共用資産の帳簿価額が回収可能価額を下回らないように配分されます。共用資産への優先配分で減損損失が残った場合(超過額)は、残りの減損損失を各資産グループの帳簿価額の比率など合理的な基準に基づき再配分します。
(2)容認処理:共用資産の帳簿価額を各資産グループに配分
容認処理では、まず共用資産の帳簿価額を、問題文の指示に従って各資産または資産グループに配分します。その後、共用資産の簿価が配分された各資産グループにおいて、STEP1からSTEP3の計算手順を1回のみ行います。原則処理が計算手順を2回(2周)行うのに対し、容認処理は1回で完結します。
減損損失が認識された場合、配分された減損損失は、簿価などの比率に応じて、共用資産と各資産グループに配分します。
のれんがある場合の減損処理
のれんとは、M&A(合併・買収)などにより他社の事業を購買した際に発生する、その事業の超過収益力(プレミアム部分)を指す無形固定資産です。のれんが帰属する事業に減損が生じた場合、基本的には共用資産と同様に扱われますが、無形固定資産である特性上、一部異なる処理が行われます。
(1)のれんの分割
のれんが複数の事業に関連して発生している場合、まずのれんの帳簿価額を各事業に分割して配分します。この配分は、各事業の取得時における時価の比率など、合理的な方法によって行われます。この「のれんの分割」は、共用資産のケースでは行わない、のれん特有の手順です。
各事業にのれんが分割された後は、共用資産のケースと同様に、「原則的な処理」と「容認処理」の2つの方法があります。
(2)原則的な処理:のれんを含むより大きな単位でグルーピング
この方法も共用資産の原則処理と同様に、まずのれんを含まない各資産または資産グループにおいてSTEP1からSTEP3の計算手順を行います。
次に、のれんを含む「より大きな単位」でグルーピングを行い、この単位で再びSTEP1からSTEP3の計算手順を実施します。この「より大きな単位」で減損損失が認識された場合、のれんを加えることによって増加した減損損失は、のれんに優先的に配分されます。共用資産の下限が回収可能価額であるのに対し、のれんは無形固定資産であるため、帳簿価額の下限はゼロとなります。
(3)容認処理:のれんの帳簿価額を各資産グループに配分
この方法では、まず各事業部に分割して配分されたのれんを、さらに各資産または資産グループに配分します。その後、のれんの簿価が配分された各資産グループにおいて、STEP1からSTEP3の計算手順を1回のみ行います。
減損損失が認識された場合、配分された減損損失は、のれんに優先的に配分されます。これは、収益性が低下している事業において、超過収益力である「のれん」が計上されているという矛盾を解消するため、何よりもまずのれんから減額する必要があるという考え方に基づいています。のれんの下限はゼロです。
固定資産の減損に関するその他の論点
(1)減価償却との関係
固定資産の減損処理は、決算においてその期の減価償却費を控除した後の帳簿価額に基づいて行われます。また、減損処理を行った資産についても、減損損失控除後の帳簿価額を基礎として、その後の期間も減価償却は継続して行われます。
(2)減損損失の戻入れの有無
一度認識した減損損失について、その後資産の収益性が回復した場合に、その損失を戻し入れるべきかという議論がありますが、会計基準上は、減損損失の戻入れは行わないこととされています。これは、減損損失の認識が「相当程度確実な場合に限定」されているという考え方に基づいています。
【問題解説】
問1 問題解説
この問題では、固定資産の減損処理における**減損損失の認識判定(STEP2)と減損損失の測定(STEP3)**の基本的な手順を理解しているかが問われています。特に、帳簿価額、割引前将来キャッシュ・フローの総額、正味売却価額、使用価値といった各数値の意味と、それらをどのように比較・利用するかがポイントとなります。
解法手順:
- 帳簿価額の算定: 取得原価から減価償却累計額を差し引いて、現在の帳簿価額を求めます。これは、減損損失の認識判定と測定の両方で使用する基準となる金額です。
- 減損認識判定(STEP2): 算定した帳簿価額と、資料で与えられている割引前将来キャッシュ・フローの総額を比較します。
- 帳簿価額 > 割引前将来キャッシュ・フローの総額 の場合:減損損失を認識します。これは、将来のキャッシュ・フローで投資額を回収できない可能性が高いと判断されるためです。
- 帳簿価額 < 割引前将来キャッシュ・フローの総額 の場合:減損損失は認識しません。この場合、将来のキャッシュ・フローで投資額を回収できる見込みがあるため、現時点での減損処理は不要と判断されます。 割引前将来キャッシュ・フローを用いるのは、将来予測に主観が入り込む余地が大きいため、より厳格な基準で減損を認識するためです。割引計算を行うと金額が小さくなるため、割引前の金額と比較することで、減損損失が認識されにくくなります。それでも認識される場合は、相当程度確実であると判断されるわけです。
- 減損損失の測定(STEP3): STEP2で減損損失を認識すると判定された資産についてのみ、減損損失の金額を計算します。
- 回収可能価額の算定: 正味売却価額と使用価値のうち、いずれか高い方を回収可能価額とします。企業は通常、より有利な方を選択して投資を回収すると考えられるためです。
- 正味売却価額は、市場での売却価格から処分費用を差し引いた金額であり、現在の市場価値を反映しています。
- 使用価値は、将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引いた金額であり、資産を使い続けることで得られる経済的便益を表しています。
- 減損損失額の算定: 帳簿価額から回収可能価額を差し引いた金額が、減損損失として計上されます。この金額だけ帳簿価額を減少させ、特別損失として処理します。
- 回収可能価額の算定: 正味売却価額と使用価値のうち、いずれか高い方を回収可能価額とします。企業は通常、より有利な方を選択して投資を回収すると考えられるためです。
この問題では、資産グループXとYそれぞれについて上記の手順を適用します。特に、減損損失を認識するか否かの判定を正確に行うことが重要です。資産グループYのように、帳簿価額が割引前将来キャッシュ・フローの総額を下回る場合は、減損損失は発生しないため、STEP3の測定に進む必要がないことに注意してください。
問2 問題解説
この問題は、共用資産がある場合の減損処理における原則的な方法に関する理解を問うものです。共用資産は複数の資産グループのキャッシュ・フロー生成に寄与するため、その減損処理には特殊なルールが適用されます。この原則的な処理では、まず個別の資産グループの減損判定を行い、その後、共用資産を含んだ「より大きな単位」での減損判定と損失配分を行う、という二段階のアプローチを取ります。
解法手順:
- 各資産グループにおける減損認識判定(STEP1〜3): まず、共用資産を含まない個々の資産グループ(資産グループA、資産グループB)について、通常の減損認識判定(STEP2)を行います。帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フローの総額を比較し、減損損失を認識するかどうかを判断します。
- 資産グループA:帳簿価額30,000円と割引前将来キャッシュ・フローの総額33,000円を比較します。帳簿価額30,000円 < 割引前将来キャッシュ・フローの総額33,000円となるため、資産グループAでは個別に減損損失を認識しません。
- 資産グループB:帳簿価額45,000円と割引前将来キャッシュ・フローの総額48,000円を比較します。帳簿価額45,000円 < 割引前将来キャッシュ・フローの総額48,000円となるため、資産グループBでは個別に減損損失を認識しません。 この段階では、いずれの資産グループも個別の減損損失は認識されませんでした。
- 共用資産を含むより大きな単位での減損認識判定(STEP1〜3): 次に、共用資産を含めた「より大きな単位」全体での減損認識判定を行います。この単位での帳簿価額、割引前将来キャッシュ・フローの総額、回収可能価額を合計値として利用します。
- 帳簿価額合計:資産グループA (30,000円) + 資産グループB (45,000円) + 共用資産 (10,000円) = 85,000円
- 割引前将来キャッシュ・フローの総額合計:資産グループA (33,000円) + 資産グループB (48,000円) = 81,000円 (共用資産自体は独立したキャッシュ・フローを生み出さないため、含めません)。
- 回収可能価額合計:資産グループA (31,000円) + 資産グループB (38,000円) + 共用資産 (6,000円) = 75,000円
- 減損損失の測定と配分(STEP3): 「より大きな単位」で減損損失を認識すると判定されたため、減損損失の金額を測定し、各資産に配分します。
- 減損損失の金額:帳簿価額合計85,000円 - 回収可能価額合計75,000円 = 10,000円。
- 共用資産への優先配分: 資料2の指示に基づき、この減損損失10,000円をまず共用資産に優先的に配分します。共用資産の帳簿価額 (10,000円) と回収可能価額 (6,000円) を比較し、回収可能価額を下回らない範囲で減損額を配分します。 共用資産の減損額 = 帳簿価額10,000円 - 回収可能価額6,000円 = 4,000円。 よって、減損損失10,000円のうち4,000円を共用資産に配分します。
- 超過額の各資産グループへの再配分: 共用資産への配分後、残った減損損失(超過額)は、10,000円 - 4,000円 = 6,000円です。この6,000円を、資料2の指示に従い、各資産グループ(AとB)の帳簿価額の比率に基づいて再配分します。 資産グループAの帳簿価額:30,000円 資産グループBの帳簿価額:45,000円 合計:30,000円 + 45,000円 = 75,000円
- 資産グループAへの配分額:\(6,000円 \times \frac{30,000円}{75,000円} = 2,400円\)
- 資産グループBへの配分額:\(6,000円 \times \frac{45,000円}{75,000円} = 3,600円\)
共用資産がある場合の原則処理は、二段階での減損判定と優先配分という複雑な手順を要しますが、これは共用資産が独立したキャッシュ・フローを生み出さない特性と、その減損が事業全体の収益性低下を反映しているという考え方に基づいています。
問3 問題解説
この問題は、のれんがある場合の減損処理における容認的な方法の理解を問うものです。のれんの減損処理は共用資産と類似していますが、のれんが無形固定資産であり、事業の超過収益力を表すことから、減損損失の配分に関して特徴的なルールが適用されます。特に、容認処理では、のれんをあらかじめ各資産グループに配分した上で減損判定を行い、減損損失が生じた場合には、のれんに対して優先的に損失を配分するという点がポイントです。
解法手順:
- のれんの各資産グループへの配分: まず、M事業部に分割されたのれんの帳簿価額20,000円を、資料2の配分比率(資産グループPが70%、資産グループQが30%)に従って、それぞれの資産グループに配分します。
- 資産グループPに配分されるのれん:\(20,000円 \times 70% = 14,000円\)
- 資産グループQに配分されるのれん:\(20,000円 \times 30% = 6,000円\)
- のれん配分後の各資産グループにおける減損認識判定(STEP1〜3): 次に、のれんの配分額を加えた「のれん配分後の帳簿価額」を用いて、各資産グループごとに減損認識判定(STEP2)と減損損失の測定(STEP3)を行います。容認処理では、この一連の計算を1回のみ行います。
- 資産グループPについて:
- のれん配分後の帳簿価額:100,000円 (元の帳簿価額) + 14,000円 (配分のれん) = 114,000円
- 減損認識判定(STEP2): のれん配分後の帳簿価額114,000円と、のれん配分後の割引前将来キャッシュ・フローの総額105,000円を比較します。 114,000円 > 105,000円 となるため、資産グループPでは減損損失を認識します。
- 減損損失の測定(STEP3): 減損損失の金額 = のれん配分後の帳簿価額114,000円 - のれん配分後の回収可能価額95,000円 = 19,000円
- 資産グループQについて:
- のれん配分後の帳簿価額:80,000円 (元の帳簿価額) + 6,000円 (配分のれん) = 86,000円
- 減損認識判定(STEP2): のれん配分後の帳簿価額86,000円と、のれん配分後の割引前将来キャッシュ・フローの総額85,000円を比較します。 86,000円 > 85,000円 となるため、資産グループQでは減損損失を認識します。
- 減損損失の測定(STEP3): 減損損失の金額 = のれん配分後の帳簿価額86,000円 - のれん配分後の回収可能価額82,000円 = 4,000円
- のれん配分後の帳簿価額:80,000円 (元の帳簿価額) + 6,000円 (配分のれん) = 86,000円
- のれん配分後の割引前将来キャッシュ・フローの総額:82,000円(元の85,000円から修正)
- 減損認識判定(STEP2): のれん配分後の帳簿価額86,000円と、のれん配分後の割引前将来キャッシュ・フローの総額82,000円を比較します。 86,000円 > 82,000円 となるため、資産グループQでは減損損失を認識します。
- 減損損失の測定(STEP3): 減損損失の金額 = のれん配分後の帳簿価額86,000円 - のれん配分後の回収可能価額82,000円 = 4,000円
- 資産グループPについて:
- 減損損失の配分: 資料4の指示に従い、各資産グループで認識された減損損失を、まずのれんに優先的に配分し、残額を各資産グループ(固定資産)に配分します。のれんの下限はゼロです。
- 資産グループPの減損損失19,000円の配分:
- のれんへの配分:資産グループPに配分されたのれんは14,000円です。この金額を上限として優先配分します。19,000円 > 14,000円 であるため、のれんには14,000円が配分されます。
- 資産グループP(固定資産)への配分:19,000円 (総減損額) - 14,000円 (のれん配分額) = 5,000円
- 資産グループQの減損損失4,000円の配分:
- のれんへの配分:資産グループQに配分されたのれんは6,000円です。4,000円 < 6,000円 であるため、のれんには4,000円が配分されます。
- 資産グループQ(固定資産)への配分:4,000円 (総減損額) - 4,000円 (のれん配分額) = 0円
- 資産グループPの減損損失19,000円の配分:
最終的な仕訳は、借方に「減損損失」を、貸方に「のれん」と「資産グループP(固定資産)」を計上します。のれんの容認処理では、このように各資産グループでの減損損失を算出した後、のれんを優先的に減額するという点が、共用資産の容認処理とは異なる重要な点です。のれんは超過収益力を表すため、収益性低下時にはまずこれを消却すべきという考え方に基づいています。
問4 問題解説
この問題は、減損損失を認識するかの判定(STEP2)における割引前将来キャッシュ・フローの総額の計算、特に経済的残存使用年数が20年を超える場合の特殊な計算方法を理解しているかを問うものです。通常のケースでは、割引前の将来キャッシュ・フローを単純に合算しますが、20年を超える長期の見積もりは不確実性が高いため、特定のルールが適用されます。
解法手順:
- 経済的残存使用年数の確認: 資料1から、資産グループの経済的残存使用年数が22年であることがわかります。これは20年を超えているため、特別な計算ルールを適用する必要があります。
- 20年目までの将来キャッシュ・フローの合算: 経済的残存使用年数までの各期の割引前将来キャッシュ・フローは1,500円であり(資料3)、これは22年間続くと見込まれます。このうち、まず20年目までの分を単純に合算します。
21年目以降の回収可能価額の算定: 経済的残存使用年数が20年を超える場合、21年目以降の将来キャッシュ・フローは、20年目時点まで割引計算を行い、その回収可能価額を総額に含めます。この回収可能価額は、「20年経過時点の正味売却価額」と「20年経過時点から残存使用年数終了時までの将来キャッシュ・フローを割引計算した使用価値」のいずれか高い方で算定します。
- 20年経過時点の正味売却価額: 資料2より、12,000円です。
- 20年経過時点の使⽤価値: 20年経過時点から残存使用年数終了時(22年経過時点)までの将来キャッシュ・フローを割引率3%で現在価値に割り引きます。残りの期間は22年 – 20年 = 2年間です。
- 21年目のキャッシュ・フロー: 1,500円
- 22年目(残存使用年数終了時)のキャッシュ・フロー: 1,500円 + 終了時点の処分価値9,000円 (資料2より22年経過時点の正味売却価額) = 10,500円 これらのキャッシュ・フローを20年目時点(現在)に割り引きます。
\(\quad \approx 11,359.22円\) 円未満を四捨五入すると、11,359円となります。 回収可能価額の決定: 正味売却価額12,000円と使用価値11,359円を比較し、高い方である12,000円を21年目以降の回収可能価額とします。
割引前将来キャッシュ・フローの総額の計算: 最後に、20年目までの将来キャッシュ・フローの合計と、21年目以降の回収可能価額を合算します。 総額 = 30,000円 (20年目まで) + 12,000円 (21年目以降の回収可能価額) = 42,000円
この計算方法は、長期にわたる将来キャッシュ・フローの見積もりの不確実性を考慮し、20年目以降の部分についてはより保守的に回収可能価額を用いることで、減損認識判定の信頼性を高めることを目的としています。特に、割引計算が必要となる部分があることに注意が必要です。
問5 問題解説
この問題は、固定資産の減損に関する様々な論点の中から、会計基準に合致する最も適切な記述を選ぶことを求めるものです。減損処理の基本的な流れだけでなく、その後の処理や、使用価値算定に関する詳細なルールまで、幅広く知識が問われます。
各選択肢について、その正誤と理由を詳しく見ていきましょう。
- ア.固定資産の減損処理後、当該固定資産の減価償却は停止される。 この記述は誤りです。固定資産の減損処理が行われた後も、その固定資産の事業利用は継続されることが前提です。したがって、減損損失控除後の帳簿価額を新たな取得原価とみなし、残存耐用年数にわたって減価償却は継続して行われます。減損は資産の価値が低下したことを認識するものであり、その後の経済的便益の消費(減価償却)とは別個の概念です。
- イ.減損損失を認識するかの判定(STEP2)では、将来キャッシュ・フローの現在価値を使用する。 この記述も誤りです。減損損失を認識するかの判定(STEP2)では、割引前の将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較します。将来キャッシュ・フローの現在価値(すなわち割引後の金額)を使用するのは、減損損失の測定(STEP3)における使用価値の算定時です。STEP2であえて割引前の金額を用いるのは、減損損失の認識を「相当程度確実な場合」に限定するため、認識されにくい基準を設定しているからです。
- ウ.減損損失の戻入れは、その後の状況により収益性が回復したと判断される場合に認められる。 この記述も誤りです。日本の会計基準では、一度認識した減損損失について、その後の状況変化により収益性が回復したとしても、原則として減損損失の戻入れは行わないとされています。これは、減損損失の認識が保守的に、かつ「相当程度確実な場合」に限定されているという考え方に基づいています。
- エ.共用資産がある場合の原則的な処理では、共用資産を加えることにより増額した減損損失は、共用資産に優先的に配分されるが、その下限はゼロである。 この記述も誤りです。共用資産がある場合の原則的な処理において、増額した減損損失を共用資産に優先的に配分するという点は正しいですが、その配分額の下限は回収可能価額であり、ゼロではありません。のれんの場合は下限がゼロですが、共用資産は有形固定資産であり、正味売却価額などの回収可能価額が存在するため、これを下回ることはないという考え方に基づきます。
- オ.使用価値の算定に用いる割引率は、貨幣の時間的価値とリスクの両方を反映させたものと、貨幣の時間的価値のみを反映させた無リスクのもののいずれかを選択できる。 この記述は適切です。使用価値の算定においては、将来キャッシュ・フローの見積もりに含まれるリスクを適切に反映させる必要があります。その方法として、リスクを将来キャッシュ・フローの金額自体に反映させて無リスクの割引率を用いる方法(a)と、リスクを割引率自体に反映させて(貨幣の時間的価値とリスクの両方を反映させた)割引率を用いる方法(b)の2つが認められています。いずれの方法も最終的な使用価値の算定結果は同じになるよう調整されます。
したがって、最も適切な記述は「オ」です。
まとめ
ポイント1:固定資産の減損とは 収益性が低下し、投資額の回収が見込めなくなった固定資産の帳簿価額を減額する会計処理のことです。この処理により、財務諸表の信頼性と意思決定有用性が向上します。
ポイント2:減損処理の3つのステップ 固定資産の減損処理は、以下の3つのステップで行われます。
- STEP1:減損の兆候の把握 – 実務負担軽減のため、キャッシュ・フローを生み出す最小単位(資産グループ)で、減損の可能性がある資産を絞り込みます。
- STEP2:減損損失を認識するかの判定 – 帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フローの総額を比較し、帳簿価額が割引前将来キャッシュ・フローを上回る場合に減損を認識します。割引前を用いることで、減損認識を「相当程度確実な場合」に限定しています。
- STEP3:減損損失の測定 – 帳簿価額を回収可能価額まで減額します。回収可能価額は「使用価値(割引後将来キャッシュ・フローの現在価値)」と「正味売却価額」のいずれか高い方です。減損損失は特別損失として計上されます。
ポイント3:共用資産がある場合の減損処理 共用資産がある場合、原則的な処理では、まず各資産グループで減損判定を行い、次に共用資産を含むより大きな単位で再度減損判定を行います。より大きな単位で認識された増額減損損失は、まず共用資産に優先的に配分され、残額は各資産グループに再配分されます。共用資産の減損配分額の下限は回収可能価額です。
ポイント4:のれんがある場合の減損処理 のれんがある場合、まずのれんを各事業に分割します。原則的な処理では、共用資産と同様に各資産グループで判定後、のれんを含むより大きな単位で再度減損判定を行います。認識された増額減損損失は、のれんに優先的に配分されます。のれんの減損配分額の下限はゼロです。容認処理においても、のれんが優先的に配分されます。
ポイント5:その他の重要な論点
- 減損処理後の減価償却:減損処理後も、減損損失控除後の帳簿価額に基づき減価償却は継続します。
- 減損損失の戻入れ:一度計上した減損損失は、原則として戻入れを行いません。
- STEP2の20年超のケース:経済的残存使用年数が20年を超える場合、21年目以降の将来キャッシュ・フローは、20年目時点まで割引計算した回収可能価額を含めて割引前将来キャッシュ・フローの総額を算定します。