【簿記1級】新株発行、自己株式、剰余金配当、分配可能額の会計処理

問題

問1

株式会社Xは、取締役会決議により、新株200株を1株あたり800円で募集する旨の決定をし、申込期日までに全額の払い込みを受け、別段預金として処理した。その後、資本金としての効力が発生したため、全額を普通預金に振り替えるとともに、会社法の定める最低額を資本金とし、残額は資本準備金とした。 この一連の取引について、必要な仕訳を示しなさい。

問2

株式会社Yは、株主総会決議により、自己株式50株を1株あたり700円で取得し、取得に要した付随費用5,000円と合わせて現金で支払った。なお、自己株式の帳簿価額は1株あたり750円であった。 その後、株式会社Yは、保有する自己株式20株(帳簿価額1株あたり750円)を1株あたり850円で処分し、代金は当座預金とした。処分に要した費用は3,000円を現金で支払った。 これらの取引について、必要な仕訳を示しなさい。

問3

株式会社Zの前期末の純資産の部(一部)は以下の通りであった。

  • 資本金 500,000円
  • 資本準備金 50,000円
  • 利益準備金 40,000円
  • その他資本剰余金 60,000円
  • 繰越利益剰余金 120,000円

当期の株主総会において、繰越利益剰余金を財源とする剰余金の配当として40,000円、任意積立金への積立として10,000円が決議された。会社法規定の額の準備金を積み立てるものとする。 これらの取引について、必要な仕訳を示しなさい。

問4

以下の資料に基づき、会社法の規定による分配可能額を計算しなさい。

  • 当期末の剰余金総額:350,000円(その他資本剰余金および繰越利益剰余金の合計)
  • 当期末の自己株式残高:20,000円
  • 当期中に処分した自己株式の処分の対価:30,000円
  • 当期末の借方残高のその他有価証券評価差額金:15,000円

問5

以下の資料に基づき、法務省令の規定による分配制限額を計算しなさい。

  • 前期末の資本金:1,200,000円
  • 前期末の資本準備金:80,000円
  • 前期末の利益準備金:40,000円
  • 前期末のその他資本剰余金:70,000円
  • のれん:3,500,000円
  • 繰延資産:150,000円


<答え>

問1の解答

借方科目金額(円)貸方科目金額(円)
別段預金160,000新株式申込証拠金160,000
普通預金160,000別段預金160,000
新株式申込証拠金160,000資本金80,000
資本準備金80,000

問2の解答

借方科目金額(円)貸方科目金額(円)
自己株式35,000現金40,000
支払手数料5,000
当座預金17,000自己株式15,000
その他資本剰余金2,000
支払手数料3,000現金3,000

問3の解答

借方科目金額(円)貸方科目金額(円)
繰越利益剰余金50,000未払配当金40,000
任意積立金10,000
繰越利益剰余金4,000利益準備金4,000

問4の解答

分配可能額:285,000円

問5の解答

分配制限額:220,000円



おすすめ 通信講座 ランキング

第1位:

お金と時間を節約したい人へ
公式サイト

第2位:

紙のテキストがいい人へ
公式サイト

第3位:

従来型のスクールがいい人へ
公式サイト

各講座の比較ページへ

タップできるもくじ

純資産の部の構造と資本・損益取引

純資産とは、会社の資産から負債を差し引いた差額を指します。貸借対照表の**「純資産の部」**は、その資産が最終的に誰に帰属するのかという観点から科目が配列されています。これに対し、資産の部や負債の部では、換金性の高いものから順に並べる流動性配列法が用いられています。

純資産の部においては、大きく分けて資本取引から生じる項目(資本金、資本剰余金など)と、損益取引から生じる項目(利益剰余金など)があります。原則として、これらの間での金額の振替えはできません。しかし、例外として、会社債権者保護の観点から問題がないと判断される場合、利益剰余金から資本金へ振り替えることや、利益剰余金に欠損が生じた場合にその欠損を補填する目的で資本金や資本剰余金から利益剰余金へ振り替えることは認められています。

新株の発行

新株の発行とは、株式会社が設立された後に、新たに株式を発行して資金を調達する行為のことです。新株発行の際には、株式の申込者から払い込まれた金額を、資本金としての効力が生じるまでの間、一時的に**「新株式申込証拠金」**という科目で処理します。この期間中、その資金は会社の運転資金として直接使用することはできません。資本金としての効力が生じた後、この新株式申込証拠金は正式に資本金へと振り替えられます。

自己株式に関する会計処理

自己株式の定義と会計的性格

自己株式とは、株式会社が自社で保有する自社の株式を指します。かつては会社法で原則禁止されていましたが、現在では一定の手続きを経ることで取得が認められています。

会計上、自己株式には、他の有価証券と同様に資産として扱う資産説と、資本から控除するものと考える資本控除説の2つの考え方がありますが、日本の制度では資本控除説が採用されています。したがって、貸借対照表上では、純資産の部の「株主資本」から控除する形式で表示されます。

自己株式の取得

自己株式を取得する際に発生する付随費用は、一般的な有価証券の取得原価とは異なり、取得原価には含めません。これは、自己株式が資産ではなく資本の控除項目であるため、その取得にかかる費用は資金調達に関連する財務費用とみなされ、損益計算書の営業外費用として**「支払手数料」**の科目で計上されます。

設例:自己株式の取得 取締役会決議により、自己株式10株を1株あたり60千円で取得し、取得に要した付随費用10千円と合わせて現金で支払った場合。

借方科目金額(千円)貸方科目金額(千円)
自己株式600現金610
支払手数料10

(自己株式:10株×@60千円=600千円)

自己株式の処分

自己株式を処分した場合、その処分対価と自己株式の帳簿価額との間に差額が生じることがあります。この差額は、自己株式に関する取引が資本取引であるとみなされるため、**「その他資本剰余金」**として処理されます。処分対価が帳簿価額を上回る場合は自己株式処分差益、下回る場合は自己株式処分差損となります。

設例:自己株式の処分 自己株式10株(1株あたりの帳簿価額60千円)を700千円で処分し、代金は当座預金とした。処分に要した費用10千円を現金で支払った場合。

借方科目金額(千円)貸方科目金額(千円)
当座預金700自己株式600
その他資本剰余金100
支払手数料10現金10

(自己株式処分差益:700千円-600千円=100千円)

自己株式の消却

自己株式の消却とは、会社が保有する自己株式を法的に消滅させる行為であり、これにより発行済株式総数が減少します。消却の際には、その自己株式の帳簿価額を減らし、通常は**「その他資本剰余金」**を原資として処理します。

設例:自己株式の消却 保有する自己株式100千円を消却し、その原資をその他資本剰余金とした場合。

借方科目金額(千円)貸方科目金額(千円)
その他資本剰余金100自己株式100

自己株式の処分と新株発行を同時に行った場合

資金調達の際に、新株発行と保有する自己株式の処分を同時に行うことがあります。この場合、払い込まれた総額を、募集株式数に占める自己株式の処分相当部分と新株発行相当部分の比率で按分して考えます。

自己株式の帳簿価額と処分対価が一致しないことから、自己株式処分差益または差損が生じます。特に自己株式処分差損が生じた場合、資本の空洞化を招く恐れがあるため、会社法により安易に資本金や資本準備金の額を増やすことは認められていません。この場合、新株発行に相当する払込金額から差損額を控除した上で資本金や資本準備金を計上します。

剰余金の配当と分配可能額

剰余金の配当の概要

株式会社は、株主総会の決議によって、いつでも株主に対して剰余金の配当を行うことができます。ここでいう剰余金とは、純資産のうち、後述する分配可能額を算定する際の基準となる金額を指し、資本剰余金利益剰余金の2種類に区分されます。

配当を行う際には、原則として、配当する金額の10分の1を準備金(資本準備金または利益準備金)として積み立てなければなりません。ただし、この準備金積立には上限があり、準備金の合計額が資本金の額の4分の1に達するまでとされています。

利益剰余金の配当

利益剰余金は、会社の損益取引から生じた剰余金であり、会社が事業活動を通じて獲得し、社内に留保してきた利益の累計額を意味します。通常、株主への利益配当はこの利益剰余金から行われます。配当が決議された時点では「未払配当金」として処理し、後日実際に支払われます。利益剰余金から配当を行う場合、積み立てる準備金は利益準備金となります。

設例:利益剰余金の配当 株主総会で繰越利益剰余金を財源とする配当18,000円と任意積立金2,000円が決議され、会社法規定の準備金を積み立てた場合。 (資本金400,000円、既存準備金合計93,000円と仮定) 準備金積立上限は100,000円(400,000円 ÷ 4)。積立上限までの差額は7,000円(100,000円 – 93,000円)。 配当額18,000円の10分の1は1,800円。この1,800円は積立上限までの差額7,000円を下回るため全額積み立てる。

借方科目金額(円)貸方科目金額(円)
繰越利益剰余金21,800利益準備金1,800
未払配当金18,000
任意積立金2,000

資本剰余金の配当

資本剰余金は、資本取引(例えば、株式の発行や自己株式の処分など)から生じた剰余金であり、利益剰余金と同様に配当の財源となり得ます。資本剰余金から配当を行う場合、積み立てる準備金は資本準備金となります。複数の剰余金を財源として配当する場合は、配当額の比率に応じてそれぞれの準備金を積み立てます。

設例:資本剰余金と利益剰余金の配当 株主総会でその他資本剰余金を財源とする配当6,000千円、繰越利益剰余金を財源とする配当4,000千円が決議され、会社法規定の準備金を積み立てた場合。 (配当総額10,000千円、資本金400,000千円、既存準備金合計73,000千円と仮定) 積立必要額は1,000千円(10,000千円 ÷ 10)。 資本準備金:1,000千円 × (6,000千円 ÷ 10,000千円) = 600千円 利益準備金:1,000千円 × (4,000千円 ÷ 10,000千円) = 400千円

借方科目金額(千円)貸方科目金額(千円)
その他資本剰余金6,000未払配当金10,000
繰越利益剰余金4,000
その他資本剰余金600資本準備金600
繰越利益剰余金400利益準備金400

分配可能額の算定

分配可能額とは、会社債権者を保護する目的で、会社が株主に配当できる剰余金の金額に会社法によって設けられた上限額のことです。剰余金が無制限に配当されてしまうと、会社の財産が減少し、会社債権者(銀行や仕入先など)が債権の回収ができなくなるリスクが高まるためです。

剰余金の算定

分配可能額を計算する第一歩は、「分配時の剰余金」を正確に算定することです。これは前期末の貸借対照表における剰余金に、期中(前期末から配当時点まで)の剰余金の変動を反映させて求められます。 ここでいう剰余金には、その他資本剰余金繰越利益剰余金任意積立金などが含まれますが、資本準備金利益準備金といった準備金は含まれません。

会社法の規定による分配可能額の算定

分配可能額には、まず会社法による制限がかかります。 計算式: \(\text{分配可能額} = \text{剰余金} – \text{自己株式} – \text{自己株式の処分の対価} – \text{借方残高のその他有価証券評価差額金}\)

  • 自己株式の控除:自己株式は会計上、資本の控除項目として扱われるため、実質的な配当原資とはなりません。
  • 自己株式の処分の対価の控除:当期中に自己株式が処分された場合、これによって「その他資本剰余金」が増加し、結果的に分配可能額が増えてしまうことがあります。しかし、前期末の利益は確定していますが、当期の利益は配当時点では未確定です。自己株式の処分は比較的容易に行えるため、これによって安易に分配可能額を増加させることを防ぎ、会社債権者を保護する目的で控除されます。
  • 借方残高のその他有価証券評価差額金の控除:その他有価証券評価差額金が借方残高(含み損の状態)の場合、これも実質的な分配原資ではないため控除されます。

法務省令の規定による分配可能額の算定

会社法の規定に加えて、より詳細な法務省令による分配制限があります。 計算式: \(\text{分配可能額} = \text{剰余金} – (\text{会社法の規定による制限}) – \text{法務省令による分配制限額}\)

法務省令の規定では、前期末の貸借対照表に**「のれん等調整額」**が生じている場合に、剰余金から減額されます。

  • 資本等金額:「資本等金額」とは、前期末における資本金資本準備金利益準備金の合計額です。これらの項目は配当の財源とはならず、会社債権者保護のための会社財産確保の基準となる金額と考えられています。
  • のれん等調整額:「のれん等調整額」とは、資産の部に計上された**「のれん」の額の2分の1と、「繰延資産」**の額の合計です。繰延資産は既に費消・支出されており換金性のない会計上の資産であり、のれんも単体で売却できるものではありません。これらの金額が多額である場合、配当の原資にできる資産が少ないとみなされ、資本の空洞化を防ぐために分配制限がかけられます。

分配制限額の具体的な計算は、以下のケースに分けて行います

  1. のれん等調整額 ≦ 資本等金額 の場合: → 分配制限額はゼロ
  2. 資本等金額 < のれん等調整額 ≦ 資本等金額 + その他資本剰余金 の場合: → 分配制限額 = のれん等調整額 - 資本等金額
  3. 資本等金額 + その他資本剰余金 < のれん等調整額 の場合(のれん等調整額がかなり大きいケース): a. のれん ÷ 2 ≦ 資本等金額 + その他資本剰余金 の場合: → 分配制限額 = のれん等調整額 - 資本等金額。 b. のれん ÷ 2 > 資本等金額 + その他資本剰余金 の場合: → 分配制限額 = その他資本剰余金 + 繰延資産

また、会社の純資産額が300万円未満の場合や、配当を行った結果として純資産額が300万円を下回ることになる場合にも、剰余金の配当はできません。




【問題解説】

問1の解説

本問は、新株発行に伴う払い込みから資本金への振替、および資本金と資本準備金への配分に関する仕訳問題です。新株発行では、まず申込期日までに払い込まれた金額を一時的に**「新株式申込証拠金」**として処理することが重要です。これは、資本金としての効力が発生するまでの資金を、会社の運転資金としてすぐに使えないようにするためです。

具体的な仕訳手順としては、まず新株200株を1株800円で募集し、全額払い込みがあった時点で、総額160,000円(200株 × 800円)を別段預金で受け入れ、貸方は新株式申込証拠金とします。

次に、資本金としての効力が発生した際には、この新株式申込証拠金を資本金に振り替えます。この時、会社法が定める最低額を資本金とし、残額を資本準備金とすることが指示されています。会社法では、払い込まれた金額の2分の1以上を資本金としなければならないと定められています。残りの金額は資本準備金とすることができます。したがって、総額160,000円のうち、最低額である2分の1の80,000円(160,000円 × 0.5)を資本金とし、残りの80,000円を資本準備金とします。この際、別段預金から普通預金への振り替えも同時に行われるため、借方は普通預金、貸方は別段預金、そして新株式申込証拠金を減らし、資本金と資本準備金を増やす仕訳を一度に行います。

このように、新株発行における資金の受け入れ、効力発生までの仮勘定処理、そして資本金・資本準備金への配分という一連の流れを理解することが、この問題のポイントとなります。

問2の解説

本問は自己株式の取得と処分の仕訳に関する問題です。自己株式は株式会社が保有する自己の株式であり、会計的には資本の控除項目として扱われます。

まず自己株式の取得についてです。自己株式50株を1株700円で取得していますので、自己株式の勘定科目は35,000円(50株 × 700円)増加します。しかし、取得に要した付随費用5,000円は、通常の有価証券とは異なり、自己株式の取得原価には含めません。これは、自己株式が資産ではなく資本の控除項目であるため、資金調達に関連する財務費用として、**「支払手数料」(営業外費用)**として処理されます。したがって、現金の支出は取得対価35,000円と付随費用5,000円の合計40,000円となります。

次に自己株式の処分についてです。保有する自己株式20株(帳簿価額1株あたり750円)を1株850円で処分し、代金は当座預金で受け取っています。処分価額は17,000円(20株 × 850円)です。この自己株式の帳簿価額は15,000円(20株 × 750円)ですので、処分対価と帳簿価額の差額2,000円(17,000円 – 15,000円)が生じます。この差額は、自己株式に関する取引が資本取引であるため、**「その他資本剰余金」**として処理されます。このケースでは処分価額が帳簿価額を上回っているため、自己株式処分差益となります。処分に要した費用3,000円は、取得時と同様に「支払手数料」として処理されます。したがって、当座預金には処分対価17,000円が入り、自己株式は帳簿価額15,000円だけ減少し、差額の2,000円はその他資本剰余金となります。別途、現金から支払手数料3,000円を支払う仕訳が必要です。

この問題では、自己株式の取得と処分における費用の取り扱い、および処分差額の処理がポイントとなります。

問3の解説

本問は、繰越利益剰余金を財源とする剰余金の配当と、それに伴う準備金の積立に関する仕訳問題です。株式会社は株主総会の決議により、剰余金の配当を行うことができます。この際、会社法により、配当する金額の10分の1を準備金として積み立てることが義務付けられています。ただし、この準備金の積立には上限があり、資本金の額の4分の1に達するまでとされています。

まず、剰余金の配当40,000円と任意積立金への積立10,000円が決議されています。これらの財源は繰越利益剰余金ですので、借方に繰越利益剰余金を合計50,000円(40,000円 + 10,000円)減少させます。配当額40,000円は決議時点では未払いであるため、「未払配当金」として処理します。任意積立金は貸方に計上します。

次に、準備金の積立額を計算します。配当額40,000円の10分の1である4,000円(40,000円 × 0.1)を積み立てる必要があります。 積立上限額は、資本金500,000円の4分の1である125,000円(500,000円 × 0.25)です。 既存の準備金は資本準備金50,000円と利益準備金40,000円の合計90,000円です。 積立上限までの差額は、\(125,000 \text{円} – 90,000 \text{円} = 35,000 \text{円}\)となります。 今回の積立必要額4,000円は、この積立上限までの差額35,000円を下回るため、4,000円全額を積み立てることができます。繰越利益剰余金からの配当であるため、積み立てる準備金は**「利益準備金」**となります。したがって、借方に繰越利益剰余金4,000円を減らし、貸方に利益準備金4,000円を計上します。

この問題では、剰余金配当と任意積立の処理、および会社法に則った準備金積立額の計算が主要なポイントとなります。

問4の解説

本問は、会社法の規定に基づく分配可能額の計算問題です。会社法では、会社債権者保護の観点から、剰余金の配当に一定の制限を設けており、その上限額が分配可能額です。 会社法の規定による分配可能額の計算式は次の通りです。

\(\text{分配可能額} = \text{剰余金} – \text{自己株式} – \text{自己株式の処分の対価} – \text{借方残高のその他有価証券評価差額金}\)

与えられた資料に当てはめて計算します。

  • 剰余金総額:350,000円
  • 自己株式残高:20,000円
  • 当期中に処分した自己株式の処分の対価:30,000円
  • 当期末の借方残高のその他有価証券評価差額金:15,000円

計算は以下のようになります。

\(\text{分配可能額} = 350,000 \text{円} – 20,000 \text{円} – 30,000 \text{円} – 15,000 \text{円}\) \(\text{分配可能額} = 285,000 \text{円}\)

ここで重要なのは、それぞれの控除項目の意味です。自己株式を控除するのは、自己株式が資本の控除項目であるため、実質的な分配原資ではないからです。自己株式の処分の対価を控除するのは、当期の自己株式処分によって分配可能額が不当に増加するのを防ぐためです。特に、決算期末までの利益が確定していない期中に自己株式の処分が行われた場合、これによって分配可能額が増加することを制限する目的があります。また、借方残高のその他有価証券評価差額金も、含み損を表すため分配可能額から控除されます。

これらの控除項目を正しく適用し、会社の真の分配可能額を算出することが本問のポイントです。

問5の解説

本問は、法務省令の規定に基づく分配制限額の計算問題です。会社法に加えて、法務省令ではより詳細な分配制限が設けられています。特に、資産の部に計上される**「のれん等調整額」**が一定額を超える場合に分配制限がかかるのが特徴です。

まず、計算に必要な主要な金額を特定します。

  • 資本等金額:前期末における『資本金』、『資本準備金』、『利益準備金』の合計額です。 \(\text{資本等金額} = 1,200,000 \text{円} + 80,000 \text{円} + 40,000 \text{円} = 1,320,000 \text{円}\)
  • のれん等調整額:資産の部に計上した『のれん』の額の2分の1と、『繰延資産』の額の合計額です。 \(\text{のれん等調整額} = (3,500,000 \text{円} \div 2) + 150,000 \text{円} = 1,750,000 \text{円} + 150,000 \text{円} = 1,900,000 \text{円}\)
  • 資本等金額+その他資本剰余金: \(1,320,000 \text{円} + 70,000 \text{円} = 1,390,000 \text{円}\)
  • のれん ÷ 2: \(3,500,000 \text{円} \div 2 = 1,750,000 \text{円}\)

これらの値を使って、法務省令の分配制限額の計算パターンに当てはめます。

  1. のれん等調整額(1,900,000円)と資本等金額(1,320,000円)を比較します。 \(1,320,000 \text{円} < 1,900,000 \text{円}\) なので、ケース1(のれん等調整額 ≦ 資本等金額)には該当しません。
  2. 次に、のれん等調整額(1,900,000円)が資本等金額+その他資本剰余金(1,390,000円)を超えているかを確認します。 \(1,390,000 \text{円} < 1,900,000 \text{円}\) なので、ケース2(資本等金額 < のれん等調整額 ≦ 資本等金額+その他資本剰余金)には該当せず、ケース3(資本等金額+その他資本剰余金 < のれん等調整額)に該当します。
  3. ケース3に該当するため、さらに**「のれん ÷ 2」(1,750,000円)と「資本等金額+その他資本剰余金」**(1,390,000円)を比較します。 \(1,750,000 \text{円} > 1,390,000 \text{円}\) なので、ケース3-b(のれん ÷ 2 > 資本等金額+その他資本剰余金)に該当します。
  4. ケース3-bの場合の分配制限額は、**「その他資本剰余金 + 繰延資産」**です。 \(\text{分配制限額} = 70,000 \text{円} + 150,000 \text{円} = 220,000 \text{円}\)

この計算では、のれんや繰延資産といった換金性の低い資産が多額にある場合に、資本空洞化を防ぐ目的で分配制限がかけられるという法務省令の考え方を理解することが重要です。


【まとめ】

分配可能額の算定: 会社債権者保護のため、剰余金の配当には会社法と法務省令による制限があります。分配可能額は、算定された剰余金から自己株式、自己株式の処分の対価、借方残高のその他有価証券評価差額金、そしてのれん等調整額に基づく法務省令による分配制限額を控除して計算されます。

純資産の部と自己株式の会計処理: 純資産は資産と負債の差額であり、貸借対照表の純資産の部では帰属の観点から科目配列されます。自己株式は資本の控除項目とされ、株主資本から控除する形式で表示されます。

新株発行と自己株式の取得・処分費: 新株発行時の払込金は「新株式申込証拠金」として一時処理後、資本金となります。自己株式の取得にかかる付随費用は、取得原価に含めず**「支払手数料」(営業外費用)として処理します。処分対価と帳簿価額の差額は「その他資本剰余金」**として扱われます。

自己株式の処分と新株発行の同時処理: 自己株式の処分と新株発行を同時に行う場合、払込金額は株式数の比率で按分します。自己株式処分差損が生じた場合は、資本の空洞化を防ぐため、新株発行に相当する額から差損額を控除した上で資本を増やします。

剰余金の配当と準備金積立: 剰余金の配当は株主総会決議に基づき、資本剰余金または利益剰余金を財源として行われます。原則として、配当額の10分の1を準備金(資本準備金または利益準備金)として積み立てますが、この上限は資本金の4分の1です。

あわせて読みたい!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

簿記2級を取得し、現在簿記1級を勉強中。
学んだことを忘れないようにここでまとめてます。
普段は、会社で経理をしながら、経理・簿記関係の情報を発信。
Twitterもやってますので良かったらフォローお願いします。

タップできるもくじ