【簿記1級】圧縮記帳と繰越欠損金の会計処理—課税の繰り延べの仕組み

問題

※計算問題で解答が割り切れない場合は、円未満を四捨五入してください。

問1(仕訳問題)

X1年度末に国庫補助金40,000円を受け入れ、全額を用いて機械250,000円を取得した。直接減額方式による圧縮記帳を行った際の、圧縮記帳に関する仕訳を答えなさい。

問2(計算問題)

問1の機械はX2年度より定額法(残存価額0、耐用年数5年)により減価償却を行う。また、実効税率は40%とする。直接減額方式によって、減価償却期間全体(5年間)で生じる「課税の繰り延べ額(税額ベース)」として正しいものを求めなさい。

問3(計算問題)

Y1年度末に国庫補助金30,000円を受け入れ、全額を用いて備品150,000円を取得した。積立金方式により圧縮記帳を行う。実効税率は30%である。この処理に伴いY1年度末に計上される繰延税金負債の金額として正しいものを求めなさい。

問4(計算問題)

問3の備品はY2年度より定額法(残存価額0、耐用年数3年)により減価償却を行う。Y2年度末において、減価償却計画に合わせて圧縮積立金を取り崩す仕訳を行う。このときの「繰越利益剰余金」勘定の金額として正しいものを求めなさい。

問5(選択肢問題)

X1年度末に、税務上、繰越欠損金15,000円が発生した。次期以降に十分な課税所得の発生が見込まれており、実効税率は40%とする。X1年度末に行う、この繰越欠損金に関する仕訳の勘定科目の組み合わせとして正しいものを選択肢から選びなさい。

A. (借) 法人税等調整額 / (貸) 繰延税金負債 B. (借) 繰延税金資産 / (貸) 法人税等調整額 C. (借) 繰延税金負債 / (貸) 繰延税金資産 D. (借) 繰延税金資産 / (貸) 繰越利益剰余金



<答え>

問1 解答

借方勘定科目金額貸方勘定科目金額
機械圧縮損40,000機械40,000

問2 解答

16,000円

問3 解答

9,000円

問4 解答

7,000円

問5 解答

B. (借) 繰延税金資産 / (貸) 法人税等調整額



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圧縮記帳と繰越欠損金:課税時期のコントロールとしての会計処理

簿記1級の学習において、「圧縮記帳」や「繰越欠損金」は、税務上の特例を会計に取り込み、財務報告に影響を与える重要なテーマです。これらの処理の根底には、「課税の繰り延べ」という考え方があります。

2.圧縮記帳とは

特定事業の振興や起業支援といった目的のために、国や地方公共団体から返済が不要な補助金が給付されることがあります。これを国庫補助金といいます。

もしこの国庫補助金がそのまま企業の利益として認識され、すぐに課税の対象となってしまうと、国がわざわざ補助金を給付した趣旨と矛盾してしまいます。そこで、国庫補助金が給付された際に、課税の負担が一度に増えるのを避けるために行われる特殊な会計処理が圧縮記帳です。

この圧縮記帳には、「直接減額方式」と「積立金方式」の2つの会計処理が認められています。

3.直接減額方式

直接減額方式は、国庫補助金を使って取得した固定資産の取得原価を、国庫補助金の金額だけ直接減額する会計処理方法です。

4.直接減額方式の仕組み

設例として、国庫補助金20,000円を受け入れ、機械100,000円を取得し、圧縮記帳(直接減額方式)を行った場合を考えます。

  1. 補助金受領時の処理: 現⾦ 20,000 / 国庫補助⾦受贈益 20,000
  2. 圧縮記帳の実施: 機械圧縮損 20,000 / 機械 20,000 (※固定資産圧縮損を用いることもあります。)

この処理により、『国庫補助⾦受贈益』(特別利益に計上)と『機械圧縮損』(特別損失に計上)が相殺され、取得した年度の利益が増加する(=税金が増額する)のを防ぐことができます。

機械の帳簿価額は、元の100,000円から圧縮額20,000円が引かれ、80,000円となります。

4.課税の繰り延べ効果

初年度に税負担の増加を防いだとしても、圧縮記帳の本質は課税時期の先送り、すなわち「課税の繰り延べ」です。

簿価が80,000円となった機械は、その後の減価償却費の計算にも影響を与えます。耐用年数5年、残存価額0とすると、減価償却費は16,000円(80,000円 ÷ 5年)となります。圧縮記帳をしなかった場合の減価償却費は20,000円(100,000円 ÷ 5年)ですから、圧縮記帳を行った場合、その後の5年間は毎年4,000円ずつ減価償却費(費用)が少なくなります。

これは、その分利益が増え、5年間で合計20,000円の利益が増加し、最終的に初年度に免れた税額(例:20,000円 × 税率40% = 8,000円)と同じ額の税金が、その後の5年間にわたって増額することになるためです。

3.積立金方式

直接減額方式では、国庫補助金を受け取った企業(B/S簿価80,000円)と、受け取っていない同業他社(B/S簿価100,000円)の財務諸表を比較することが難しくなってしまうという問題点があります。

そこで、固定資産の取得原価を減額せず(100,000円のまま計上)、圧縮額を任意積立金として積み立てる会計処理方法が積立金方式です。この方式は、財務会計の質的特性である「比較可能性」(企業間の比較を含む)を維持するために有用です。

4.積立金方式と税効果会計

積立金方式による圧縮記帳は、税効果会計の適用対象となります。

積立金方式では、会計上は取得原価を減額しないのに対し、税務上は圧縮積立金を積み立てることによって、国庫補助金の金額が損金として認められ、固定資産の取得原価が減額された(直接減額方式と同じ)として扱われます。

その結果、「会計上の簿価(100,000円)>税務上の簿価(80,000円)」という差異が生じます。これは将来加算一時差異となり、『繰延税金負債』が発生します。

繰延税金負債は、国庫補助金20,000円に実効税率40%を乗じた8,000円となります。

4.積立金と取り崩し

積立金方式では、繰越利益剰余金から、税効果相当額を控除した後の金額で圧縮積立金が積み立てられます。

  • 積立額:20,000円(国庫補助金)- 8,000円(繰延税金負債)= 12,000円。

この圧縮積立金は、固定資産の減価償却計画にあわせて、毎年取り崩されていきます。例えば5年間で解消する場合、毎年2,400円(12,000円 ÷ 5年)が取り崩されます。

積立金方式の会計処理の効果は、煩雑ではあるものの、直接減額方式と全く同じ「課税の繰り延べ」となります。

4.繰越欠損金

企業が赤字決算(欠損金)となった場合、通常は税金は発生しません。しかし、この赤字を将来の事業年度で生じた利益と相殺し、将来の税金負担を軽減するという制度が存在します。この将来に繰り越される赤字を繰越欠損金といいます。

4.繰越欠損金と税効果会計

繰越欠損金は、「将来の税金負担額を軽減する効果」を意味する一時差異に類似することから、一時差異に準じるものとして扱われます。

企業は、将来の税金がまけてもらえる権利として、欠損金に実効税率を乗じた額を繰延税金資産として計上します。

  • 計上額:税務上の繰越欠損金 × 実効税率。

ただし、繰越欠損金に係る繰延税金資産を計上するためには、将来にわたって十分な課税所得が発生し、回収可能であると見込まれることが前提となります。そのため、その回収可能性を慎重に判断する必要があります。

将来、実際に課税所得が発生し、繰越欠損金が控除された際には、計上されていた繰延税金資産を取り崩す仕訳が行われます。

4. 【問題解説】

問1 問題解説

本問は、圧縮記帳のうち直接減額方式(国庫補助金を使って取得した固定資産の取得原価を、補助金の額だけ直接減額する方式)の処理を問うものです。直接減額方式では、『国庫補助金受贈益』を相殺するために『機械圧縮損(または固定資産圧縮損)』を計上し、同時に機械勘定を直接減額します。

具体的な仕訳は、受け入れた国庫補助金40,000円を圧縮損として費用計上し、同時に機械(固定資産)の貸方(減少)として40,000円を計上します。これにより、機械の帳簿価額は210,000円(250,000円 - 40,000円)となります。この圧縮損の計上によって、当初計上した国庫補助金受贈益と相殺される形になり、初年度の課税所得が増加するのを防ぐことができます。結果として、課税時期が将来に繰り延べられる効果を得るわけです。

問2 問題解説

本問は、直接減額方式における課税の繰り延べ額を計算する問題です。課税の繰り延べ効果とは、初年度に防いだ税額が、その後の減価償却期間を通じて、減価償却費の減少という形で徐々に課税される現象です。

まず、圧縮記帳の有無による減価償却費の差異を把握します。

  1. 圧縮記帳をしなかった場合の減価償却費(5年間合計): 250,000円 ÷ 5年 = 50,000円/年 50,000円/年 × 5年間 = 250,000円
  2. 圧縮記帳をした場合の減価償却費(5年間合計): 圧縮後の簿価:250,000円 - 40,000円 = 210,000円 210,000円 ÷ 5年 = 42,000円/年 42,000円/年 × 5年間 = 210,000円

減価償却費の差異(費用減少額)は、40,000円(250,000円 - 210,000円)となります。この40,000円の差異が、5年間にわたって利益を増加させます。この増加した利益にかかる税額こそが、初年度に圧縮記帳で回避した税額(課税の繰り延べ額)と一致します。

したがって、課税の繰り延べ額(税額ベース)は、補助金受領額(または差異)に税率を乗じて計算します。 課税の繰り延べ額 = 40,000円 × 40% = 16,000円

問3 問題解説

本問は積立金方式における税効果会計の適用を問う問題です。積立金方式では、会計上は固定資産の取得原価を減額しませんが、税務上は圧縮記帳の損金が認められるため、固定資産の簿価に差異が生じます。

この差異は、会計上の簿価(150,000円)が税務上の簿価(120,000円:150,000円-30,000円)よりも大きい状態であるため、将来加算一時差異(将来的に税金の負担が増加する差異)となります。

将来加算一時差異が発生した際には、将来の税金負担額を表す『繰延税金負債』を計上します。繰延税金負債の計上額は、国庫補助金(差異額)に実効税率を乗じて求めます。

繰延税金負債 = 国庫補助金30,000円 × 実効税率30% = 9,000円

この仕訳は、(借) 法人税等調整額 9,000 / (貸) 繰延税金負債 9,000 となります。

問4 問題解説

積立金方式では、圧縮積立金を積み立てる際、国庫補助金から繰延税金負債の計上額を控除します。

まず、Y1年度末の圧縮積立金の積立額を計算します。 繰延税金負債は問3より9,000円でした。 積立額 = 国庫補助金30,000円 - 繰延税金負債9,000円 = 21,000円

Y1年度末の積立仕訳:(借) 繰越利益剰余金 21,000 / (貸) 圧縮積立金 21,000。

次に、Y2年度末で減価償却計画(耐用年数3年)にあわせて積立金を取り崩します。 取り崩す総額は21,000円であり、3年間にわたって均等に取り崩すため、Y2年度末の取り崩し額は、21,000円 ÷ 3年 = 7,000円となります。

取り崩しの仕訳は、(借) 圧縮積立金 / (貸) 繰越利益剰余金 となります。 したがって、繰越利益剰余金勘定の金額(貸方)は7,000円です。

問5 問題解説

本問は、繰越欠損金が発生した際の税効果会計の処理を問うものです。繰越欠損金とは、将来の税金負担を軽減する効果を持つものであり、「将来税金をまけてもらえる権利」として、一時差異に準じるものとして扱われます。

この「将来の税金負担軽減効果」は、繰延税金資産として計上されます。計上される金額は、繰越欠損金15,000円に実効税率40%を乗じた6,000円です。

仕訳の形は、資産の増加(借方)と費用の減少(貸方)となるため、(借) 繰延税金資産 / (貸) 法人税等調整額となります。

したがって、正しい組み合わせはBです。



まとめ

ポイント1

圧縮記帳は、国庫補助金などが給付された際に、初年度にすぐに課税されるのを防ぎ、「課税の繰り延べ」効果をもたらす特殊な会計処理である。

ポイント2

直接減額方式は、国庫補助金で取得した固定資産の取得原価を直接減額する方法である。これにより受贈益と圧縮損が相殺され、初年度の課税を回避する。

ポイント3

積立金方式は、固定資産の取得原価を減額しないため、財務諸表の比較可能性を保つことができる。代わりに任意積立金として処理する。

ポイント4

積立金方式の圧縮記帳は、税効果会計の適用対象となる。会計上の簿価と税務上の簿価に差異が生じ、「将来加算一時差異」として繰延税金負債が発生する。

ポイント5

繰越欠損金は、将来の税金負担を軽減する権利であり、将来課税所得が発生する見込みがある場合、一時差異に準じるものとして繰延税金資産を計上する。


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この記事を書いた人

簿記2級を取得し、現在簿記1級を勉強中。
学んだことを忘れないようにここでまとめてます。
普段は、会社で経理をしながら、経理・簿記関係の情報を発信。
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