以下の問題に解答してください。税率は40%を使用するものとします。
問1
連結会社相互間の取引から生じる未実現利益の消去に関する税効果会計について、正しい記述を以下の選択肢から選びなさい。
A. アップ・ストリーム取引(子会社→親会社)の場合、納税主体は親会社となり、繰延税金資産(親会社)を計上する。
B. ダウン・ストリーム取引(親会社→子会社)の場合、納税主体は子会社となり、繰延税金負債(子会社)を計上する。
C. 未実現利益の消去における納税主体は、取引の形態にかかわらず、常に売却元の会社となる。
D. 親会社が計上している繰延税金資産と、子会社が計上している繰延税金負債は、原則として相殺して表示する。
問2
親会社(P社)は子会社(S社、持株比率80%)に対して、当期首に簿価100,000円の土地を120,000円で売却した(ダウン・ストリーム)。当期末に行うべき、この未実現利益の消去に係る税効果会計の連結修正仕訳を示しなさい。
問3
子会社(S社、持株比率80%)は親会社(P社)に対して商品を販売している(アップ・ストリーム)。P社の期末商品に含まれるS社からの仕入分には、未実現利益15,000円が含まれている。この未実現利益の消去に係る税効果会計の連結修正仕訳を示しなさい。
問4
子会社(S社)の簿価60,000円の建物について、連結手続上、時価評価を行ったところ75,000円であった。この時価評価差額に対する税効果会計の修正仕訳を示しなさい。
問5
連結財務諸表における税効果会計が「繰延法の例外的な適用」と呼ばれる主な理由として、正しいものを以下の選択肢から選びなさい。
A. 将来の税率変動を考慮し、変更後の税率に基づき繰延税金資産・負債を再計算する点。
B. 期間差異だけでなく、将来減算一時差異と将来加算一時差異のみを対象としている点。
C. 差異発生後に税率が変更されても、すでに確定した税額を使用するため再計算を行わない点。
D. 納税主体が異なる場合でも、繰延税金資産と負債を必ず相殺表示する点。
問1
C. 未実現利益の消去における納税主体は、取引の形態にかかわらず、常に売却元の会社となる。
問2
勘定科目 | 借方金額 | 勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
繰延税金資産(親会社) | 8,000 | 法人税等調整額 | 8,000 |
問3
勘定科目 | 借方金額 | 勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
繰延税金資産(子会社) | 6,000 | 法人税等調整額 | 6,000 |
問4
勘定科目 | 借方金額 | 勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
建物 | 15,000 | 繰延税金負債(子会社) | 6,000 |
評価差額 | 9,000 |
問5
C. 差異発生後に税率が変更されても、すでに確定した税額を使用するため再計算を行わない点。
連結財務諸表における税効果会計の基本と繰延法
連結財務諸表における税効果会計の必要性
税効果会計は、個別財務諸表において適用されている会計処理ですが、その個別財務諸表を基礎として作成される連結財務諸表においても、新たに税効果会計を適用する必要が生じます。
これは、連結手続を行う過程で、個別財務諸表には存在しなかった連結財務諸表固有の一時差異が発生するためです。簿記1級では、この固有の一時差異に対する税効果の処理方法を理解することが重要となります。
連結財務諸表固有の一時差異が生じる代表的なケースとして、以下の3つが挙げられます。
- 資本連結に際し、子会社の資産及び負債の時価評価により評価差額が生じた場合
- 連結会社相互間の取引から生じる未実現利益を消去した場合
- 連結会社相互間の債権と債務の相殺消去により貸倒引当金を減額修正した場合
連結修正仕訳における税効果仕訳の導出方法
上記ケースのうち、②未実現利益の消去や③貸倒引当金の減額修正は、成果連結に関する連結修正仕訳に該当します。これらのケースでは、通常の連結修正仕訳を基にして、対応する税効果の仕訳を導出します。
税効果の仕訳を導出する手順は以下の通りです。
連結修正仕訳にP/L項目が含まれる場合の処理
- 連結修正仕訳のP/L項目の貸借反対側に、『法人税等調整額』を記入します。
- 連結修正仕訳の『利益剰余金(当期首残高)』の貸借反対側に、『利益剰余金(当期首残高)』を記入します。
- 連結修正仕訳のB/S項目の貸借反対側に、原則として『繰延税金資産』を記入します(ただし、ケース③の貸倒引当金修正時など、一時差異が解消する際に課税所得が増加する場合は『繰延税金負債』を使用します)。
これらの仕訳の導出は、「連結修正仕訳1つに対して、対応する税効果の仕訳を1つ行う」という要領で進められます。
資本連結における時価評価差額に対する処理(P/Lを経由しないケース)
ケース①(子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額)は、連結修正仕訳を行う前段階の「個別財務諸表の組替修正仕訳」に該当します。
この評価差額は純資産項目であり、P/Lを経由しない一時差異に該当します。このため、税効果会計を適用する際に**『法人税等調整額』は使用できません**。
(例:土地の時価評価により評価差額6,000円が生じた場合、(借) 土地 10,000 (貸) 繰延税金負債 4,000、評価差額 6,000 のように処理されます)。
納税主体の識別と相殺表示の原則
連結会計では、親会社と子会社という複数の納税主体が登場します。
連結手続上で新たに生じる『繰延税金資産』と『繰延税金負債』については、どの納税主体に関するものかを把握しておく必要があります。なぜなら、納税主体が異なる『繰延税金資産』と『繰延税金負債』は、原則として相殺して表示することができないからです。親会社が計上している繰延税金資産と、子会社が計上している繰延税金負債は相殺できません。
未実現利益消去における納税主体の判断
未実現利益の消去(棚卸資産、固定資産)や貸倒引当金の修正においては、「売却元」の会社が納税主体となります。
- アップ・ストリーム(子会社→親会社): 売却元は子会社であるため、納税主体は子会社となります。
- ダウン・ストリーム(親会社→子会社): 売却元は親会社であるため、納税主体は親会社となります。
連結特有の会計処理:繰延法(例外的な適用)
個別財務諸表における税効果会計は、将来の税率変動を織り込む「資産負債法」を前提としています。しかし、連結財務諸表における未実現利益の消去などに対する税効果の適用では、特殊な処理が行われます。
税率変更時の再計算の有無
連結上の税効果会計の計算は、売却元の会社で適用された法定実効税率を使用して算定されます。ここで算出された税額は、売却元において課税関係が完了した確定金額とみなされます。
このため、もしその後に税率が改正されたとしても、売却元の会社での課税関係は完了しているため、税率の変更の影響を受けることがなく、再計算を行いません。
この「税率が変更されても再計算しない」という特徴は、本来、期間差異が生じた年度の税率を重視する**「繰延法」**の特徴に合致しています。したがって、連結財務諸表における税効果会計は、制度上は資産負債法を前提としつつも、この点において「繰延法の例外的な適用」と位置づけられています。
問題解説
問1 解説
この問題は、連結財務諸表における税効果会計の基本原則である「納税主体」に関する理解を問うものです。
未実現利益の消去は、売却側(売却元)の会社が、個別財務諸表上で利益を計上し、それに対して法人税を支払っています。連結上この利益を消去する場合、それに伴って個別で支払った税金の一部も連結上調整する必要があります。したがって、税効果会計を適用する際の納税主体は、必ず売却元の会社となります。
- アップ・ストリーム(子会社→親会社)の場合、売却元は子会社であるため、納税主体は子会社です。
- ダウン・ストリーム(親会社→子会社)の場合、売却元は親会社であるため、納税主体は親会社です。
選択肢Dにあるように、親会社と子会社は納税主体が異なるため、それぞれの会社が計上した繰延税金資産と繰延税金負債は相殺表示できないのが原則です。
正答はCです。
問2 解説
この問題は、ダウン・ストリーム(親会社が売却元)の固定資産売却益の消去に係る税効果会計を問うものです。
【手順1:未実現利益の消去】 売却益は 120,000円 – 100,000円 = 20,000円。 (借) 固定資産売却益 20,000 / (貸) 土地 20,000
【手順2:税効果仕訳の導出】 未実現利益20,000円が消去されることで、親会社が支払った税金が連結上「過払い」の状態となるため、繰延税金資産を計上します。 税額は、未実現利益 20,000円 × 税率 40% = 8,000円。
連結修正仕訳(P/L科目:固定資産売却益)の借方項目に対し、税効果仕訳では貸方に『法人税等調整額』を計上します。B/S項目(土地)の貸方に対し、借方に『繰延税金資産』を計上します。
納税主体は売却元である親会社です。
仕訳は以下の通りです。
\(20,000 \times 40% = 8,000\)(借) 繰延税金資産(親会社) 8,000 / (貸) 法人税等調整額 8,000
この仕訳により、連結財務諸表上、利益(売却益)の消去に伴い発生した税金費用の調整が行われます。
問3 解説
この問題は、アップ・ストリーム(子会社が売却元)の期末棚卸資産の未実現利益消去に係る税効果会計を問うものです。
【手順1:未実現利益の消去】 (借) 売上原価 15,000 / (貸) 商品 15,000
【手順2:税効果仕訳の導出】 未実現利益 15,000円 × 税率 40% = 6,000円。 連結修正仕訳(P/L科目:売上原価)の借方項目に対し、税効果仕訳では貸方に『法人税等調整額』を計上します。B/S項目(商品)の貸方に対し、借方に『繰延税金資産』を計上します。
納税主体は売却元である子会社です。
仕訳は以下の通りです。
\(15,000 \times 40% = 6,000\)(借) 繰延税金資産(子会社) 6,000 / (貸) 法人税等調整額 6,000
アップ・ストリームの場合、さらにこの税効果仕訳後の利益剰余金変動額に対して、非支配株主持分への按分処理が必要となりますが、本問では税効果仕訳自体を求めているため、上記の仕訳が解答となります。
問4 解説
この問題は、資本連結手続における子会社の資産(建物)の時価評価差額に対する税効果会計を問うものです。これはP/Lを経由しない一時差異に該当します。
【手順1:時価評価差額の算出と組替修正】 評価差額は 75,000円 – 60,000円 = 15,000円。 この評価差額15,000円が、連結上の純資産(評価差額)として計上されます。
【手順2:税効果仕訳の導出】 この評価差額は、将来建物が減価償却または売却されたときに解消し、その時点で課税所得が増加する(一時差異が解消する=将来加算一時差異)ため、繰延税金負債を計上します。 税額は、評価差額 15,000円 × 税率 40% = 6,000円。
この仕訳はP/Lを経由しないため、相手科目は『法人税等調整額』ではなく**『評価差額』(純資産項目)**となります。
仕訳は以下の通りです。
\(15,000 \times 40% = 6,000\)(借) 建物 15,000 / (貸) 繰延税金負債(子会社) 6,000 (貸) 評価差額 9,000 (注: ここでは設問の要求に基づき、建物勘定と税効果の関連のみを抽出して記述します。)
(借) 建物 15,000 / (貸) 繰延税金負債(子会社) 6,000 評価差額 9,000 正答としては、税効果部分の金額を抽出して記入します。
問5 解説
この問題は、連結財務諸表における税効果会計の、個別財務諸表(資産負債法)との最大の違いに関する理論を問うものです。
個別財務諸表では、税率が変更された場合、将来解消する繰延税金資産や負債について、変更後の税率を用いて再計算することが求められます。これは資産負債法の考え方です。
しかし、連結上の未実現利益の消去に関する税効果は、売却元ですでに課税関係が完了した税額(確定した金額)に基づいて計算されます。したがって、税率が変更されても、この金額を再計算することはありません。この「差異発生時の税率を重視し、再計算を行わない」点が、期間差異が生じた年度を重視する繰延法の特徴であるため、連結財務諸表における税効果会計は繰延法の例外的な適用と言われるのです。
正答はCです。
まとめ
ポイント1:連結固有の一時差異
連結手続上で生じる固有の一時差異の代表例は、「子会社の資産負債の時価評価差額」「未実現利益の消去」「貸倒引当金の減額修正」の3つです。
ポイント2:税効果仕訳の導出
成果連結に係る修正仕訳の税効果仕訳は、「連結修正仕訳1つ」に対して「税効果の仕訳を1つ」対応させて導出します。P/L項目は『法人税等調整額』、B/S項目は『繰延税金資産』または『繰延税金負債』を使います。
ポイント3:P/Lを経由しない評価差額の処理
子会社の時価評価により生じた評価差額に対する税効果は、純資産項目でありP/Lを経由しないため、『法人税等調整額』を使用しません。
ポイント4:納税主体と相殺表示
連結会計では複数の納税主体(親会社、子会社)が存在します。未実現利益の消去における納税主体は**「売却元」の会社**となります。納税主体が異なる繰延税金資産と負債は相殺表示できません。
ポイント5:繰延法の例外的な適用
連結財務諸表における税効果会計は、税率が変更されたとしても、すでに確定した税額を使用するため再計算を行いません。この点が、差異発生時の税率を重視する「繰延法」の例外的な適用と言われる所以です。