問1(計算問題:市場関連差異の数量ベース分析)
以下の資料に基づき、販売数量差異を市場占拠率差異と市場総需要量差異に分解し、それぞれの数量ベースの差異を計算しなさい。
〔資料〕
- 予算販売数量:5,000個
- 実績販売数量:4,800個
- 予算市場占拠率:25%
- 実績市場占拠率:20%
- 予算市場総需要量:20,000個
- 実績市場総需要量:24,000個
問2(計算問題:市場関連差異の金額ベース分析)
問1の資料に加え、製品の**@予算販売単価**が800円であった場合の、市場占拠率差異と市場総需要量差異の金額ベースの差異を計算しなさい。
問3(計算問題:セールス・ミックス関連差異の数量ベース分析 – 製品A)
以下の資料に基づき、製品Aの販売数量差異をセールス・ミックス差異と総販売数量差異に分解し、それぞれの数量ベースの差異を計算しなさい。
〔資料〕
項目 | 予算 | 実績 |
---|---|---|
製品A販売数量 | 3,000個 | 3,300個 |
製品B販売数量 | 2,000個 | 2,700個 |
総販売数量 | 5,000個 | 6,000個 |
問4(計算問題:セールス・ミックス関連差異の数量ベース分析 – 製品Bと合計)
問3の資料に基づき、製品Bの販売数量差異をセールス・ミックス差異と総販売数量差異に分解し、それぞれの数量ベースの差異を計算しなさい。また、製品Aと製品Bのセールス・ミックス差異の合計、および総販売数量差異の合計を求めなさい。
問5(選択肢問題:差異分析の概念理解)
販売数量差異の分析に関する以下の記述のうち、最も適切ではないものを選びなさい。
ア.市場占拠率差異は、競合他社との需要獲得競争の結果として生じる自社の市場での位置づけの変化を示す。
イ.総販売数量差異は、市場全体の需要量の増減や当社の販売努力の結果として生じる総販売量の変化を示す。
ウ.複数の製品を扱っている場合、各製品のセールス・ミックス差異を合計すると、必ずゼロになる。
エ.市場総需要量差異の計算では、実績市場占拠率を前提として計算される。
オ.販売数量差異を金額ベースで分析する際、要因別分析では予算貢献利益を用いる。
問1 解答
- 販売数量差異:△200個(不利差異)
- 市場占拠率差異:△1,200個(不利差異)
- 市場総需要量差異:1,000個(有利差異)
問2 解答
- 市場占拠率差異:△960,000円(不利差異)
- 市場総需要量差異:800,000円(有利差異)
問3 解答
- 製品A販売数量差異:300個(有利差異)
- 製品Aセールス・ミックス差異:△300個(不利差異)
- 製品A総販売数量差異:600個(有利差異)
問4 解答
- 製品B販売数量差異:700個(有利差異)
- 製品Bセールス・ミックス差異:300個(有利差異)
- 製品B総販売数量差異:400個(有利差異)
- セールス・ミックス差異合計:0個
- 総販売数量差異合計:1,000個(有利差異)
問5 解答
- エ.市場総需要量差異の計算では、実績市場占拠率を前提として計算される。
販売数量差異の分析:利益変動の要因を深掘り
企業にとって、販売数量の大小は利益に大きく影響します。そのため、予算販売数量と実績販売数量の間に生じた「販売数量差異」を詳しく分析することは、非常に重要な管理会計のテーマです。この分析を通じて、なぜ差異が生じたのか、その原因をより詳細に特定し、今後の経営戦略に活かすことができます。
販売数量差異の分析方法には、大きく分けて以下の2つのアプローチがあります。
- 市場環境に着目する分析:市場総需要量の変動と、自社の市場占拠率(マーケットシェア)の変化に分解して分析する方法です。
- 製品構成に着目する分析:複数の同種製品を扱っている場合に、製品ごとの販売構成比(セールス・ミックス)の変化と、全体の販売数量の変化に分解して分析する方法です。
本記事では、これら2つの重要な分析手法について、それぞれの概念、計算方法、そして実務での活用ポイントをわかりやすく解説していきます。
市場総需要量差異と市場占拠率差異
販売数量差異を、市場全体の動きと自社の競争力という観点から分析するのが、市場総需要量差異と市場占拠率差異です。
市場総需要量と市場占拠率の定義
- 市場総需要量(Market Total Demand):当社が生産販売する製品の市場全体での需要量、つまり競合他社が生産販売する分も含むすべての販売数量を指します。
- 市場占拠率(Market Share):市場総需要量に対して、当社が獲得している需要量(販売数量)の割合のことです。マーケットシェアとも呼ばれます。
各差異の概念
- 市場占拠率差異(Market Share Variance):販売数量差異のうち、予算上の市場占拠率と実績の市場占拠率の差を原因として発生した差異です。
- 例えば、予算では市場の40%を占めると見込んでいたものの、実際は30%しか獲得できなかった場合、当社の販売数量にはマイナス、つまり不利な影響が及ぼされます。これは、競合他社との需要獲得競争に敗れた結果と考えることができます。
- 市場総需要量差異(Market Total Demand Variance):販売数量差異のうち、予算上の市場総需要量と実績の市場総需要量の差を原因として発生した差異です。
- 例えば、予算では市場全体の需要量を10,000個と見積もっていたのに、実際は12,000個に増加した場合、当社の販売数量にはプラス、つまり有利な影響が及ぼされます。これは、市場全体の拡大や縮小が原因であると判断できます。
数量ベースでの計算方法
販売数量は「市場総需要量 × 市場占拠率」で計算できるため、この関係を用いて販売数量差異を分解します。市場占拠率差異と市場総需要量差異は、「実績市場総需要量 × 予算市場占拠率」という仮想的な販売数量を軸にして分解されます。
- 市場占拠率差異は、以下の計算式で求められます: \(市場占拠率差異 = 実績販売数量 – (実績市場総需要量 \times 予算市場占拠率)\) この差異は、実績市場総需要量を前提として、自社の市場占拠率が予算と比べてどうだったかを評価します。
- 市場総需要量差異は、以下の計算式で求められます: \(市場総需要量差異 = (実績市場総需要量 \times 予算市場占拠率) – 予算販売数量\) この差異は、予算市場占拠率を前提として、市場総需要量が予算と比べてどうだったかを評価します。
金額ベースでの計算
上記の数量ベースの差異に、1個あたりの価格要素を乗じることで、金額ベースの差異を算出できます。
- 項目別分析の場合:製品の**@予算販売価格**を用いて計算します。
- 要因別分析の場合:製品の**@予算貢献利益**を用いて計算します。
セールス・ミックス差異と総販売数量差異
同じ市場で複数の同種製品(例えば、A製品とB製品)を扱っている企業では、販売数量差異を「セールス・ミックスの割合」と「総販売数量」の2つの側面からさらに細かく分析することができます。
各差異の概念
- セールス・ミックス差異(Sales Mix Variance):販売数量差異のうち、各製品の予算上のセールス・ミックスの割合と実績のセールス・ミックスの割合の差を原因として発生した差異です。
- 例えば、総販売数量のうちA製品が60%、B製品が40%を占める予算だったのに対し、実績ではA製品が50%、B製品が50%になった場合、A製品の割合低下は不利差異に、B製品の割合増加は有利差異につながります。これは、各製品の販売構成が計画通りに進まなかったことによる影響を示します。
- 重要なポイントとして、すべての製品の数量ベースでのセールス・ミックス差異の合計は必ずゼロになります。これは、ある製品の販売構成比が減少すれば、必ず他の製品の販売構成比が増加するためです。
- 総販売数量差異(Total Sales Quantity Variance):販売数量差異のうち、すべての製品の販売量合計(総販売数量)の予算と実績の差を原因として発生した差異です。
- 例えば、予算上の総販売数量が5,000個だったのに対し、実績が7,000個に増加した場合、総販売数量差異は有利差異となります。これは、市場全体の規模や当社の販売努力によって、製品全体の販売数量が増加した(または減少した)ことを示します。
- 総販売数量差異は、すべての製品で有利差異となるか、またはすべての製品で不利差異となります。総販売数量が増加すれば各製品の差異も有利になり、減少すれば不利になります。
数量ベースでの計算方法
製品別の販売数量は「総販売数量 × セールス・ミックス割合」で計算できるため、この関係を用いて販売数量差異を分解します。セールス・ミックス差異と総販売数量差異は、「実績総販売数量 × 予算セールス・ミックス割合」という仮想的な販売数量を軸にして分解されます。
- セールス・ミックス差異は、以下の計算式で求められます: \(セールス・ミックス差異 = 実績販売数量 – (実績総販売数量 \times 予算セールス・ミックス割合)\) この差異は、実績総販売数量を前提として、各製品の販売構成が予算と比べてどうだったかを評価します。
- 総販売数量差異は、以下の計算式で求められます: \(総販売数量差異 = (実績総販売数量 \times 予算セールス・ミックス割合) – 予算販売数量\) この差異は、予算セールス・ミックス割合を前提として、総販売数量が予算と比べてどうだったかを評価します。
金額ベースでの計算
上記の数量ベースの差異に、1個あたりの価格要素を乗じることで、金額ベースの差異を算出できます。
- 項目別分析の場合:製品の**@予算販売単価**を用いて計算します。
- 要因別分析の場合:製品の**@予算貢献利益**を用いて計算します。
これらの差異分析を適切に行うことで、販売数量の目標達成度合いだけでなく、その背景にある市場環境の変化や自社の競争戦略、さらには製品構成の適切性までを深く理解し、より効果的な経営判断を下すことが可能になります。
【問題解説】
問1 解説
この問題では、販売数量差異を市場総需要量差異と市場占拠率差異に分解するプロセスを数量ベースで理解することが目的です。まず、全体の販売数量差異を把握し、その後「実績市場総需要量 × 予算市場占拠率」という分解の軸となる数値を算出し、それを用いてそれぞれの差異を計算します。
1. 販売数量差異(数量ベース)の計算 販売数量差異は、単純に実績販売数量と予算販売数量の差として計算されます。 \(販売数量差異 = 実績販売数量 – 予算販売数量\) \(販売数量差異 = 4,800個 – 5,000個 = \triangle 200個(不利差異)\) これは、全体として販売数量が予算より200個少なかったことを示しています。この200個の不利差異が、市場占拠率の変化と市場総需要量の変化のどちらに起因するのかを分析します。
2. 分解の軸となる数値の計算 市場関連差異を分解する際の軸となるのは、「実績市場総需要量 × 予算市場占拠率」です。これは、もし予算通りの市場占拠率を達成できていれば、実績の市場総需要量に対してどれだけの販売数量が得られたはずか、という仮定の数値を示します。 \(分解の軸 = 実績市場総需要量 \times 予算市場占拠率\) \(分解の軸 = 24,000個 \times 25\% = 6,000個\)
3. 市場占拠率差異(数量ベース)の計算 市場占拠率差異は、実績販売数量と、上記で計算した分解の軸との差で求められます。この差異は、実績市場総需要量という前提条件のもとで、自社の市場占拠率の達成度合いを評価するものです。実績の市場占拠率が予算より低かった(20% vs 25%)ため、不利差異となることが予想されます。 \(市場占拠率差異 = 実績販売数量 – (実績市場総需要量 \times 予算市場占拠率)\) \(市場占拠率差異 = 4,800個 – 6,000個 = \triangle 1,200個(不利差異)\) これは、市場における自社の競争力低下、つまり市場占拠率の低下が、販売数量を1,200個減少させたことを示しています。
4. 市場総需要量差異(数量ベース)の計算 市場総需要量差異は、分解の軸と予算販売数量との差で求められます。この差異は、予算市場占拠率という前提条件のもとで、市場総需要量自体の増減が販売数量に与えた影響を評価するものです。予算の市場総需要量(20,000個)より実績(24,000個)が多かったため、有利差異となることが予想されます。 \(市場総需要量差異 = (実績市場総需要量 \times 予算市場占拠率) – 予算販売数量\) \(市場総需要量差異 = 6,000個 – 5,000個 = 1,000個(有利差異)\) これは、市場全体の拡大が、自社の販売数量を1,000個増加させたことを示しています。
5. 検算 最後に、それぞれの差異を合計して、全体の販売数量差異と一致するかを確認します。 \(市場占拠率差異 + 市場総需要量差異 = \triangle 1,200個 + 1,000個 = \triangle 200個\) これは、最初に計算した販売数量差異と一致しており、計算が正しいことが確認できます。
問2 解説
この問題では、問1で計算した数量ベースの市場関連差異を、金額ベース(項目別分析)で評価することが求められています。項目別分析では、差異の金額を算出するために、原則として**@予算販売単価**を乗じます。これにより、各差異が売上高に与えた影響を金額で把握することができます。
1. 市場占拠率差異(金額ベース)の計算 問1で計算した数量ベースの市場占拠率差異に、@予算販売単価を乗じます。市場占拠率差異は1,200個の不利差異でした。 \(市場占拠率差異(金額) = 市場占拠率差異(数量) \times \text{@予算販売単価}\) \(市場占拠率差異(金額) = \triangle 1,200個 \times 800円/個 = \triangle 960,000円(不利差異)\) この結果は、市場占拠率の低下により、売上高が960,000円減少したことを意味します。これは、企業の競争力という内部要因によって引き起こされた損失として捉えられます。
2. 市場総需要量差異(金額ベース)の計算 同様に、問1で計算した数量ベースの市場総需要量差異に、@予算販売単価を乗じます。市場総需要量差異は1,000個の有利差異でした。 \(市場総需要量差異(金額) = 市場総需要量差異(数量) \times \text{@予算販売単価}\) \(市場総需要量差異(金額) = 1,000個 \times 800円/個 = 800,000円(有利差異)\) この結果は、市場全体の需要増加が、売上高を800,000円増加させたことを意味します。これは、企業を取り巻く外部環境の好転によって得られた利益として捉えられます。
3. 検算 金額ベースの差異の合計が、全体の販売数量差異(金額ベース)と一致するかを確認します。 まず、全体の販売数量差異(数量ベース)200個の不利差異を金額に換算すると、 \(\triangle 200個 \times 800円/個 = \triangle 160,000円(不利差異)\) そして、各差異の合計は、 \(\triangle 960,000円(不利差異) + 800,000円(有利差異) = \triangle 160,000円(不利差異)\) 計算結果は一致しており、金額ベースでの分析も正しく行われたことが確認できます。この分析により、販売数量の変動が最終的な売上高にどのように影響したかを、より具体的な数値で把握することが可能です。
問3 解説
この問題では、複数の製品を扱っている企業において、製品Aの販売数量差異がセールス・ミックスの変化と総販売数量の変化のどちらに起因するのかを、数量ベースで分析することが求められています。
1. 各製品のセールス・ミックス割合の算出 まず、予算と実績におけるA製品、B製品の総販売数量に対する割合(セールス・ミックス割合)を計算します。これは、各製品が総販売数量に占める比率を示します。
- 予算セールス・ミックス割合
- 総販売数量(予算) = 3,000個 (A) + 2,000個 (B) = 5,000個
- 製品A(予算): \(3,000個 / 5,000個 = 0.60 = 60\%\)
- 製品B(予算): \(2,000個 / 5,000個 = 0.40 = 40\%\)
- 実績セールス・ミックス割合
- 総販売数量(実績) = 3,300個 (A) + 2,700個 (B) = 6,000個
- 製品A(実績): \(3,300個 / 6,000個 = 0.55 = 55\%\)
- 製品B(実績): \(2,700個 / 6,000個 = 0.45 = 45\%\)
2. 製品Aの販売数量差異(数量ベース)の計算 まず、製品A単独の販売数量差異を計算します。 \(製品A販売数量差異 = 製品A実績販売数量 – 製品A予算販売数量\) \(製品A販売数量差異 = 3,300個 – 3,000個 = 300個(有利差異)\) 製品Aは予算より300個多く販売され、全体としては有利な結果でした。
3. 分解の軸となる数値の計算 セールス・ミックス差異と総販売数量差異を分解する際の軸となるのは、「実績総販売数量 × 予算セールス・ミックス割合」です。これは、もし予算通りのセールス・ミックス割合が維持されていれば、実績の総販売数量に対して製品Aがどれだけ販売されたはずか、という仮定の数値を示します。 \(製品Aの分解の軸 = 実績総販売数量 \times 製品A予算セールス・ミックス割合\) \(製品Aの分解の軸 = 6,000個 \times 60\% = 3,600個\)
4. 製品Aのセールス・ミックス差異(数量ベース)の計算 セールス・ミックス差異は、製品Aの実績販売数量と、上記で計算した分解の軸との差で求められます。これは、実績総販売数量という前提条件のもとで、製品Aの販売構成が予算と比べてどうだったかを評価するものです。製品Aの割合が予算(60%)より実績(55%)で低下しているため、不利差異となることが予想されます。 \(製品Aセールス・ミックス差異 = 製品A実績販売数量 – (実績総販売数量 \times 製品A予算セールス・ミックス割合)\) \(製品Aセールス・ミックス差異 = 3,300個 – 3,600個 = \triangle 300個(不利差異)\) これは、製品Aの販売構成比率が低下したことが、製品Aの販売数量を300個減少させたことを示しています。
5. 製品Aの総販売数量差異(数量ベース)の計算 総販売数量差異は、分解の軸と製品Aの予算販売数量との差で求められます。これは、予算セールス・ミックス割合という前提条件のもとで、総販売数量自体の増減が製品Aの販売数量に与えた影響を評価するものです。総販売数量が予算(5,000個)より実績(6,000個)で増加したため、有利差異となることが予想されます。 \(製品A総販売数量差異 = (実績総販売数量 \times 製品A予算セールス・ミックス割合) – 製品A予算販売数量\) \(製品A総販売数量差異 = 3,600個 – 3,000個 = 600個(有利差異)\) これは、市場全体の拡大や販売努力により総販売数量が増加したことが、製品Aの販売数量を600個増加させたことを示しています。
6. 検算 最後に、製品Aのセールス・ミックス差異と総販売数量差異を合計して、製品Aの販売数量差異と一致するかを確認します。 \(\triangle 300個 + 600個 = 300個\) これは、製品Aの販売数量差異300個と一致しており、計算が正しいことが確認できます。
問4 解説
この問題では、問3の続きとして製品Bの差異を計算し、さらにセールス・ミックス差異と総販売数量差異の全体合計を確認することで、両差異の特性を理解することを目的としています。
1. 製品Bの販売数量差異(数量ベース)の計算 まず、製品B単独の販売数量差異を計算します。 \(製品B販売数量差異 = 製品B実績販売数量 – 製品B予算販売数量\) \(製品B販売数量差異 = 2,700個 – 2,000個 = 700個(有利差異)\) 製品Bは予算より700個多く販売され、全体としては有利な結果でした。
2. 各製品のセールス・ミックス割合の確認 問3で計算した割合を再確認します。
- 製品B(予算): \(2,000個 / 5,000個 = 40\%\)
- 製品B(実績): \(2,700個 / 6,000個 = 45\%\)
3. 製品Bの分解の軸となる数値の計算 製品Bのセールス・ミックス差異と総販売数量差異を分解する際の軸となるのは、「実績総販売数量 × 製品B予算セールス・ミックス割合」です。 \(製品Bの分解の軸 = 実績総販売数量 \times 製品B予算セールス・ミックス割合\) \(製品Bの分解の軸 = 6,000個 \times 40\% = 2,400個\)
4. 製品Bのセールス・ミックス差異(数量ベース)の計算 製品Bの実績販売数量と、上記で計算した分解の軸との差で求めます。製品Bの割合が予算(40%)より実績(45%)で増加しているため、有利差異となることが予想されます。 \(製品Bセールス・ミックス差異 = 製品B実績販売数量 - (実績総販売数量 \times 製品B予算セールス・ミックス割合)\)
\(製品Bセールス・ミックス差異 = 2,700個 - 2,400個 = 300個(有利差異)\)
これは、製品Bの販売構成比率が改善したことが、製品Bの販売数量を300個増加させたことを示しています。
5. 製品Bの総販売数量差異(数量ベース)の計算 分解の軸と製品Bの予算販売数量との差で求めます。総販売数量が予算より実績で増加しているため、有利差異となることが予想されます。 \(製品B総販売数量差異 = (実績総販売数量 \times 製品B予算セールス・ミックス割合) - 製品B予算販売数量\)
\(製品B総販売数量差異 = 2,400個 - 2,000個 = 400個(有利差異)\)
これは、総販売数量の増加が、製品Bの販売数量を400個増加させたことを示しています。
6. 各差異の合計
- セールス・ミックス差異の合計 製品Aのセールス・ミックス差異:△300個(不利差異) 製品Bのセールス・ミックス差異:300個(有利差異)
\(合計 = \triangle 300個 + 300個 = 0個\)
すべての製品のセールス・ミックス差異を合計すると、必ずゼロになるという特性が確認できました。これは、ある製品の構成比が低下すれば、必ず別の製品の構成比が上昇するため、構成比変動によるプラスとマイナスの影響が相殺されることを意味します。 - 総販売数量差異の合計 製品Aの総販売数量差異:600個(有利差異) 製品Bの総販売数量差異:400個(有利差異)
\(合計 = 600個 + 400個 = 1,000個(有利差異)\)
総販売数量差異は、すべての製品で有利差異となるか、またはすべての製品で不利差異となるという特性が確認できました。今回は総販売数量全体が5,000個から6,000個に増加したため、両製品ともに有利差異となりました。これは、市場全体の動きや企業の総販売努力が、すべての製品に共通して影響を与えた結果を示しています。
問5 解説
この問題は、販売数量差異の分析に関する基本的な概念と特性の理解度を問うものです。各選択肢の内容を検討し、最も適切ではない記述を特定します。
- ア.市場占拠率差異は、競合他社との需要獲得競争の結果として生じる自社の市場での位置づけの変化を示す。
- これは適切な記述です。市場占拠率差異は、予算と実績の市場占拠率の差から生じる差異であり、これはまさに市場における自社の競争力や位置づけの変化を反映します。競合他社との競争結果が占拠率に影響を与えるため、この説明は正しいです。
- イ.総販売数量差異は、市場全体の需要量の増減や当社の販売努力の結果として生じる総販売量の変化を示す。
- これも適切な記述です。総販売数量差異は、予算と実績の市場総需要量または総販売数量の差によって生じる差異であり、これは市場全体の景気動向や需要変動、あるいは企業全体の販売促進活動の結果として現れるものです。
- ウ.複数の製品を扱っている場合、各製品のセールス・ミックス差異を合計すると、必ずゼロになる。
- これも適切な記述です。教科書解説記事でも述べたように、セールス・ミックス差異は製品ごとの構成比の変動を示すもので、ある製品の比率が減れば、必ず他の製品の比率が増えるため、その影響は全体として相殺され、数量ベースの合計は常にゼロになります。
- エ.市場総需要量差異の計算では、実績市場占拠率を前提として計算される。
- これは適切ではない記述です。市場総需要量差異は、予算市場占拠率を前提として計算されます。これは、市場全体の需要量の変化のみを抽出するため、自社の占拠率の変動(これは市場占拠率差異で捉える)を排除して計算する必要があるからです。したがって、この選択肢は誤りです。
- オ.販売数量差異を金額ベースで分析する際、要因別分析では予算貢献利益を用いる。
- これも適切な記述です。販売数量差異を金額ベースで分析する際、項目別分析では予算販売価格を、要因別分析では予算貢献利益を用いるのが一般的です。これは、変動費や固定費を考慮した利益の観点から差異を評価するためです。
以上の検討から、最も適切ではない記述は「エ」です。
【まとめ】
- ポイント1:販売数量差異の重要性
- 販売数量差異は、企業の利益に大きな影響を与えるため、その発生原因を詳細に分析することが重要です。この分析によって、予算と実績のギャップを明確にし、改善策を検討できます。
- ポイント2:差異分析の2つの主要な側面
- 販売数量差異は、主に以下の2つの視点から詳細に分析されます。
- 市場環境による影響:市場全体の規模(市場総需要量)と自社の競争力(市場占拠率)に着目する分析。
- 製品構成による影響:複数の製品を扱っている場合の総販売数量と各製品の構成比率(セールス・ミックス)に着目する分析。
- 販売数量差異は、主に以下の2つの視点から詳細に分析されます。
- ポイント3:分解の軸となる計算式
- 市場占拠率差異と市場総需要量差異は、「実績市場総需要量 × 予算市場占拠率」を軸として分解されます。
- セールス・ミックス差異と総販売数量差異は、「実績総販売数量 × 予算セールス・ミックス割合」を軸として分解されます。これらの軸となる仮想的な数値を理解することが、差異を正しく計算する上で重要です。
- ポイント4:金額計算に用いる単価
- 販売数量差異を金額ベースで計算する際、項目別分析では@予算販売価格を、要因別分析では@予算貢献利益を乗じて計算します。問題文でどちらの分析が求められているかを必ず確認しましょう。
- ポイント5:セールス・ミックス差異と総販売数量差異の特性
- セールス・ミックス差異は、全製品の数量ベースの合計が必ずゼロになります。これは、特定の製品の構成比が減れば、他の製品の構成比が増えるためです。
- 総販売数量差異は、市場全体の動きを反映するため、**すべての製品が同じ方向(有利差異または不利差異)**になります。