問1(計算問題:製品ミックスの決定)
当社はA製品とB製品の2種類を生産販売しています。以下のデータに基づき、どちらの生産販売計画を採用すべきかを差額原価収益分析(差額法)によって判断し、その差額利益(または差額損失)を求めなさい。
項目 | A製品 | B製品 |
---|---|---|
販売価格 | @800円 | @600円 |
変動製造原価 | @300円 | @250円 |
変動販売費 | @ 50円 | @ 30円 |
固定費 | 300,000円(A、B製品に共通して発生) |
案X: A製品500個、B製品200個を生産販売する案 案Y: A製品300個、B製品400個を生産販売する案 (変動販売費は、総販売個数に関わらず、各製品の販売個数に応じて発生し、総額は各案で異なる。)
問2(計算問題:新規受注の可否)
当社は通常、X製品を月間1,200個生産販売しており、以下の原価情報があります。 販売価格:@400円 変動製造原価:@180円 固定製造原価:@120円(=144,000円 ÷ 1,200個) 変動販売費:@ 30円 固定販管費:50,000円
この度、新規の顧客からX製品500個の注文がありました。 注文価格は@280円であり、この注文に限っては変動販売費は発生しません。 ただし、今回の新規注文を引き受ける場合、既存の顧客に対する販売価格を@380円に値下げせざるを得ないことが判明しました。 月間最大生産能力は2,000個です。 新規注文を引き受けるべきか否かを判断するため、差額利益(または差額損失)を求めなさい。
問3(計算問題:追加加工の可否)
当社は現在、基本製品Zを月間800個生産販売しています。 販売価格:@600円 変動製造原価:@250円 変動販売費:@ 40円 固定製造原価:200,000円 固定販管費:60,000円
このZ製品に追加加工を施すことで、高級製品Z’(販売価格@900円)として販売できることがわかりました。追加加工は全ての基本製品Zに対して行います。 高級製品Z’を生産する場合、月間生産販売量は800個であり、変動販売費や固定販管費は基本製品Zの場合と同様です。 追加加工には以下の費用が発生します。 変動加工費:@120円 追加設備賃借料(固定費):40,000円
高級製品Z’への追加加工を行うべきか否かを判断するため、差額利益(または差額損失)を求めなさい。
問4(計算問題:部品の自製か購入か)
当社は製品Qを製造するために必要な部品Pを、現在外部から@150円で購入しています。月間生産量は1,000個です。 工場に遊休生産能力があり、部品Pを自社で製造することが可能であると判明しました。自製する場合の部品Pの製造原価は以下の通りです。 素材費:@40円 変動加工費:@60円 部品専用固定費(月額):30,000円
製品Qの最終販売価格や、部品P以外の製造原価、販売費および一般管理費は、部品Pを自製するか購入するかによって変化しません。 部品Pを自製すべきか、購入すべきかを判断するため、差額利益(または差額損失)を求めなさい。
問5(選択肢問題:意思決定会計の基礎概念)
意思決定会計における「無関連原価」の定義として、最も適切なものはどれか。
ア.未来に発生することが確実な原価
イ.複数の案のいずれを採用しても未来の発生額が同じ原価
ウ.過去に発生した埋没原価のこと
エ.特定の意思決定によって増加する原価
問1
差額利益:26,000円 (案Xの方が有利)
問2
差額利益:26,000円 (新規注文を引き受ける案の方が有利)
問3
差額利益:104,000円 (高級製品Z’への追加加工を行う案の方が有利)
問4
差額利益:20,000円 (部品Pを自社で製造する案の方が有利)
問5
イ.複数の案のいずれを採用しても未来の発生額が同じ原価
意思決定会計の基本と業務執行的意思決定
意思決定会計は、企業の経営管理者が今後の行動を決定する際に必要な情報を提供する会計分野です。これまで学習してきた原価管理や利益管理とは異なり、特定の状況に応じて行われる非反復的な意思決定をサポートすることが特徴です。検定試験において理論問題と計算問題の双方の基礎となる重要な内容ですので、しっかりと理解していきましょう。
1.意思決定会計の特徴
意思決定会計には、主に2つの大きな特徴があります。
(1)未来の収益や原価を対象とする 意思決定は、企業が「これから」取るべき行動に関するものです。そのため、過去に発生した収益や原価ではなく、その意思決定の結果として「未来に」発生するであろう収益や原価を考慮することが不可欠です。
(2)複数の案を比較し、その差額を考える 意思決定会計では、常に**少なくとも2つ以上の選択肢(案)**を比較検討します。例えば、新しいプロジェクトを実施する案(A案)と実施しない案(B案)を比較する際に、それぞれの案で発生する収益や原価の「差額」に注目して分析を行います。この差額を計算することで、どちらの案が企業にとってより有利であるかを判断することができます。この比較検討を通じて、特殊な原価や収益の考え方が登場します。
2.意思決定会計での特殊原価(収益)
意思決定会計では、前述の「差額を考える」という特徴から、原価や収益を「関連」と「無関連」に分類します。
(1)関連原価と無関連原価 意思決定を行う際には、比較する複数の案(例えばA案とB案)のうち、どちらを選択するかによって未来の発生額が異なる原価を「関連原価」と呼びます。一方で、どちらの案を選択しても未来の発生額が同じ原価を「無関連原価」と呼びます。意思決定の分析においては、原則として関連原価のみを考慮して判断を行います。
(2)関連収益と無関連収益 収益についても同様に分類されます。複数の案のうち、どちらを選択するかによって未来の発生額が異なる収益を「関連収益」と呼びます。そして、どちらの案を選択しても未来の発生額が同じ収益を「無関連収益」と呼びます。こちらも、原則として関連収益のみを考慮します。
(3)差額原価、差額収益、差額利益
- 差額原価とは、比較する各案の関連原価の差額です。
- 差額収益とは、比較する各案の関連収益の差額です。
- 差額利益とは、差額収益から差額原価を差し引いて計算される利益のことです。
この差額収益と差額原価、そしてそれらにもとづく差額利益の計算によって、どの案を採択すべきかを分析する手法を「差額原価収益分析」と呼びます。
(4)機会原価 機会原価とは、ある案を採用した場合に、もし他の案を採用していれば得られていたはずの最大の利益額のことです。例えば、A案とB案を比較している場合にA案を選択すると、B案から得られるはずだった利益は放棄されることになります。この放棄されたB案の利益を、A案を採用することによる「原価」として捉える考え方です。この機会原価の考え方を用いると、差額利益と同じ結論を導き出すことができます。ただし、検定試験対策としては、差額収益と差額原価を理解し、差額利益を計算する方法を優先的にマスターすることが推奨されています。
3.差額原価収益分析の具体的な方法
差額原価収益分析には、主に「差額法」と「総額法」の2つの方法があります。
(1)差額法 差額法は、比較するA案とB案について、関連収益と関連原価のみを抽出して、その差額から差額利益を求める方法です。無関連な収益や原価は計算に含めないため、効率的に分析を進めることができます。
(2)総額法 総額法は、比較するA案とB案について、すべての収益とすべての原価を対象にそれぞれの案の総利益を計算し、その総利益の差額から差額利益を求める方法です。無関連な項目もすべて含めて計算しますが、最終的に導き出される差額利益は差額法と同じになります。
4.業務執行的意思決定のモデルケース
意思決定の種類は大きく分けて、経営の基本構造に関する「構造的意思決定」と、構造的意思決定の結果を前提とした業務に関する「業務執行的意思決定」の2つがあります。本章では、後者の業務執行的意思決定の具体的なモデルケースについて学びます。
(1)顧客からの新規注文引受可否の意思決定 これは、顧客からの新規注文を引き受けるべきか否かを判断するケースです。新規注文を引き受ける案と引き受けない案を比較します。
- 関連収益と関連原価:
- 新規注文分の売上高は、引き受けた場合にのみ発生するため、関連収益です。
- 新規注文分の変動費(変動製造原価や変動販売費など)は、引き受けた場合にのみ発生するため、関連原価です。
- 新規注文のために追加で発生する固定費(例:追加設備費用)があれば、それも関連原価となります。
- 無関連収益と無関連原価:
- 既存注文分の売上高や既存注文分の変動費は、通常、新規注文の有無に関わらず発生するため、無関連収益や無関連原価となることが多いです。
- 通常の固定費も、新規注文の有無に関わらず発生するため、無関連原価となることが多いです。
- ただし、新規注文の引き受けによって既存顧客への販売価格を値下げせざるを得なくなるような場合には、既存注文分の売上高も関連収益となることがあります。
(2)製品の追加加工可否の意思決定 これは、現在生産している製品に追加の加工を施し、より高価な改良製品として販売すべきか否かを判断するケースです。追加加工を行う案と行わない案(既存製品のまま販売する案)を比較します。
- 関連収益と関連原価:
- 改良製品の売上高は、追加加工を行った場合にのみ発生するため、関連収益です。
- 既存製品の売上高は、追加加工を行わない場合にのみ発生するため、これも関連収益となります。通常、このタイプの意思決定では無関連収益は発生しません。
- 改良製品への追加加工費(変動費および固定費)は、追加加工を行った場合にのみ発生するため、関連原価です。特に、追加加工のために新たに発生する固定製造原価などは、機械的に無関連と考えがちですが、追加加工を行わなければ発生しないため、関連原価となります。
- 無関連原価:
- 既存製品の製造原価(追加加工を行う前までに発生する原価)は、追加加工を行うか否かに関わらず発生するため、無関連原価となります。
(3)部品を自製するか、購入するかの意思決定 これは、製品の生産に必要な部品を自社で製造すべきか、それとも外部から購入すべきかを判断するケースです。遊休生産能力(工場の余剰生産能力)がある場合などに検討されることが多いです。
- 関連収益と関連原価:
- 部品の購入原価は、購入する場合にのみ発生するため、関連原価です。
- 部品の製造原価(変動費および固定費)は、自製する場合にのみ発生するため、関連原価です。ここでも、自製する場合にのみ発生する固定製造原価などは関連原価となります。
- 無関連収益と無関連原価:
- 最終的に生産される製品の売上高は、部品を自製しても購入しても変わらないため、無関連収益となることが多いです。この意思決定では、通常、関連収益は発生しません。
- 部品以外の製品の製造原価は、部品の調達方法に関わらず発生するため、無関連原価となります。
これらのモデルケースを理解することで、様々な意思決定問題に対応できるようになります。
【問題解説】
問1(製品ミックスの決定)解説
この問題は、2つの製品ミックス案(案Xと案Y)を比較し、企業全体の利益に与える影響を判断する業務執行的意思決定の問題です。差額法を用いて分析を行います。差額法では、各案で異なる未来の収益や原価、すなわち「関連収益」と「関連原価」のみに着目して計算を進めます。
まず、各案の販売量を確認します。 案X:A製品500個、B製品200個 案Y:A製品300個、B製品400個
次に、関連収益と関連原価を識別します。
- 売上高(販売価格):A製品とB製品の販売個数が案Xと案Yで異なるため、それぞれの製品の売上高は関連収益となります。
- A製品:案X (500個) と 案Y (300個) で異なる。
- B製品:案X (200個) と 案Y (400個) で異なる。
- 変動製造原価:A製品とB製品の生産個数が異なるため、それぞれの変動製造原価は関連原価となります。
- 変動販売費:問題文に「変動販売費は、総販売個数に関わらず、各製品の販売個数に応じて発生し、総額は各案で異なる」とあります。各製品の販売個数が異なるため、これも関連原価となります。
- 固定費:問題文に「A、B製品に共通して発生」とあり、各案の選択によって固定費の総額が変わるという記述はありません。したがって、固定費は無関連原価となります。
【差額収益の計算】
\(\text{A製品の関連収益差額} = 500 \times 800 – 300 \times 800 = 160{,}000\,\text{円(案Xが有利)}
\) \(
\text{B製品の関連収益差額} = 200 \times 600 – 400 \times 600 = -120{,}000\,\text{円(案Yが有利)}
\)
合計差額収益:160,000円 $+$ (△120,000円) = 40,000円 (A案が有利) これは、案Xを選択した場合、案Yと比較して総売上高が40,000円増加することを意味します。
【差額原価の計算】
\( \text{A製品の変動製造原価差額} = 500 \times 300 – 300 \times 300 = 60{,}000\,\text{円(案Xが不利)} \)
\( \text{B製品の変動製造原価差額} = 200 \times 250 – 400 \times 250 = -50{,}000\,\text{円(案Yが不利)} \)
\( \text{A製品の変動販売費差額} = 500 \times 50 – 300 \times 50 = 10{,}000\,\text{円(案Xが不利)} \)
\( \text{B製品の変動販売費差額} = 200 \times 30 – 400 \times 30 = -6{,}000\,\text{円(案Yが不利)} \)
合計差額原価:
60,000円 + (△50,000円) + 10,000円 + (△6,000円) = 14,000円 (A案が不利) これは、案Xを選択した場合、案Yと比較して総原価が14,000円増加することを意味します。
【差額利益の計算】 差額利益 = 合計差額収益 $-$ 合計差額原価 差額利益 = 40,000円 $-$ 14,000円 = 26,000円
差額利益が26,000円(プラス)となるため、案Xを採用する方が26,000円有利であると判断できます。
問2(新規受注の可否)解説
この問題は、新規注文を引き受けるべきか否かを判断するケースです。新規注文を引き受けた場合に、既存の取引に影響(価格の値下げ)が生じる点が重要なポイントです。この影響によって、既存の売上高も関連収益として考慮する必要があります。差額法で分析を進めます。
まず、2つの案を明確にします。 A案:新規注文を引き受ける案 B案:新規注文を引き受けない案
次に、関連収益と関連原価を識別します。
- 新規注文分の売上高:A案でのみ発生するため、関連収益です。
- 既存顧客への売上高:A案では値下げが発生するため、B案(既存価格維持)と比較して売上高が減少します。この変動は意思決定に依存するため、関連収益となります。
- 新規注文分の変動製造原価:A案でのみ発生するため、関連原価です。
- 既存分の変動製造原価:新規注文の有無に関わらず発生するため、無関連原価です。
- 変動販売費(新規注文分):問題文より「この注文に限っては変動販売費は発生しない」とあるため、0円であり、関連原価には含まれません。
- 変動販売費(既存分):新規注文の有無に関わらず発生するため、無関連原価です。
- 固定製造原価、固定販管費:新規注文の有無に関わらず総額は変化しないため、無関連原価です。
【差額収益の計算】 新規注文分の売上高: A案:500個 $\times$ @280円 = 140,000円 B案:0円 差額収益(新規分):140,000円 $-$ 0円 = 140,000円(A案が有利)
既存顧客への売上高の影響: A案(値下げ後):1,200個 $\times$ @380円 = 456,000円 B案(値下げなし):1,200個 $\times$ @400円 = 480,000円 差額収益(既存分):456,000円 $-$ 480,000円 = △24,000円(A案が不利)
合計差額収益:140,000円 $+$ (△24,000円) = 116,000円 (A案が有利)
【差額原価の計算】 新規注文分の変動製造原価: A案:500個 $\times$ @180円 = 90,000円 B案:0円 差額原価(新規分):90,000円 $-$ 0円 = 90,000円(A案が不利)
変動販売費(新規注文分)は0円なので、差額原価には影響しません。 その他の既存分の変動費や固定費は無関連原価であるため、差額原価には含まれません。
合計差額原価:90,000円 (A案が不利)
【差額利益の計算】 差額利益 = 合計差額収益 $-$ 合計差額原価 差額利益 = 116,000円 $-$ 90,000円 = 26,000円
差額利益が26,000円(プラス)となるため、新規注文を引き受ける案の方が26,000円有利であると判断できます。
問3(追加加工の可否)解説
この問題は、基本製品Zに追加加工を施し、高級製品Z’として販売すべきか否かを判断するケースです。追加加工を行うことによって、販売価格が上昇する一方で、追加の加工費が発生します。差額法で分析を行います。
まず、2つの案を明確にします。 A案:追加加工を行って高級製品Z’として販売する案 B案:追加加工を行わず基本製品Zのまま販売する案
次に、関連収益と関連原価を識別します。
- 高級製品Z’の売上高:A案でのみ発生するため、関連収益です。
- 基本製品Zの売上高:B案でのみ発生するため、関連収益です。
- 基本製品Zの製造原価(変動・固定含む):追加加工を行うか否かに関わらず、基本製品Zは生産する必要があるため、これは無関連原価です。
- 変動販売費:問題文より「変動販売費や固定販管費は甲製品の場合と同様である」とあり、各案で発生額が変わらないため、無関連原価です。
- 固定販管費:上記と同様に、無関連原価です。
- 追加加工の変動加工費:A案でのみ発生するため、関連原価です。
- 追加設備賃借料(固定費):A案でのみ発生するため、固定費であっても関連原価です。これは、追加加工を行わなければ発生しない費用だからです。
【差額収益の計算】 高級製品Z’の売上高: A案:800個 $\times$ @900円 = 720,000円 B案:0円 差額収益(Z’):720,000円 $-$ 0円 = 720,000円(A案が有利)
基本製品Zの売上高: A案:0円 B案:800個 $\times$ @600円 = 480,000円 差額収益(Z):0円 $-$ 480,000円 = △480,000円(A案が不利)
合計差額収益:720,000円 $+$ (△480,000円) = 240,000円 (A案が有利)
【差額原価の計算】 変動加工費: A案:800個 $\times$ @120円 = 96,000円 B案:0円 差額原価(変動加工費):96,000円 $-$ 0円 = 96,000円(A案が不利)
追加設備賃借料: A案:40,000円 B案:0円 差額原価(追加設備賃借料):40,000円 $-$ 0円 = 40,000円(A案が不利)
その他の費用は無関連原価であるため、差額原価には含まれません。
合計差額原価:96,000円 $+$ 40,000円 = 136,000円 (A案が不利)
【差額利益の計算】 差額利益 = 合計差額収益 $-$ 合計差額原価 差額利益 = 240,000円 $-$ 136,000円 = 104,000円
差額利益が104,000円(プラス)となるため、高級製品Z’への追加加工を行う案の方が104,000円有利であると判断できます。
問4(部品の自製か購入か)解説
この問題は、製品Qの部品Pを自社で製造するか、外部から購入し続けるかを判断する「自製か購入か」の意思決定です。工場に遊休生産能力があることを前提としています。差額法で分析を行います。
まず、2つの案を明確にします。 A案:部品Pを外部から購入する案 B案:部品Pを自社で製造する案
次に、関連収益と関連原価を識別します。
- 製品Qの最終販売価格、部品P以外の製造原価、販売費および一般管理費:問題文より「変化しません」とあるため、これらは両案で同額発生する無関連収益および無関連原価です。このタイプの意思決定では、通常、関連収益は発生しません。
- 部品Pの購入原価:A案でのみ発生するため、関連原価です。
- 部品Pの素材費、変動加工費:B案でのみ発生するため、関連原価です。
- 部品専用固定費(月額):B案でのみ発生するため、固定費であっても関連原価です。
【差額収益の計算】 関連収益に該当する項目はないため、差額収益は0円です。
【差額原価の計算】 部品Pの購入原価: A案:1,000個 $\times$ @150円 = 150,000円 B案:0円 差額原価(購入):0円 $-$ 150,000円 = △150,000円(B案が有利) ※ B案を基準にA案との差額を考えると、B案はA案よりも原価が150,000円減少するため、△150,000円となります。
部品Pの素材費: A案:0円 B案:1,000個 $\times$ @40円 = 40,000円 差額原価(素材費):40,000円 $-$ 0円 = 40,000円(B案が不利)
部品Pの変動加工費: A案:0円 B案:1,000個 $\times$ @60円 = 60,000円 差額原価(変動加工費):60,000円 $-$ 0円 = 60,000円(B案が不利)
部品専用固定費: A案:0円 B案:30,000円 差額原価(部品専用固定費):30,000円 $-$ 0円 = 30,000円(B案が不利)
合計差額原価:(△150,000円) $+$ 40,000円 $+$ 60,000円 $+$ 30,000円 = △20,000円 (B案が有利) これは、部品Pを自製する案(B案)を選択した場合、購入する案(A案)と比較して総原価が20,000円減少することを意味します。
【差額利益の計算】 差額利益 = 合計差額収益 $-$ 合計差額原価 差額利益 = 0円 $-$ (△20,000円) = 20,000円
差額利益が20,000円(プラス)となるため、部品Pを自社で製造する案の方が20,000円有利であると判断できます。
問5(意思決定会計の基礎概念)解説
この問題は、意思決定会計における「無関連原価」の定義に関する基礎知識を問うものです。意思決定会計では、複数の選択肢を比較検討する際に、その選択によって変化する項目と変化しない項目を明確に区別することが重要です。
- ア.未来に発生することが確実な原価:これは必ずしも無関連原価の定義とは限りません。未来に発生する原価であっても、案によって発生額が異なる場合は関連原価となります。
- イ.複数の案のいずれを採用しても未来の発生額が同じ原価:これが無関連原価の正しい定義です。意思決定のどちらの案を選んでも、その原価の発生額が変わらないため、意思決定の比較には直接影響しないと見なされます。
- ウ.過去に発生した埋没原価のこと:埋没原価(サンクコスト)は、すでに発生してしまっており、現在の意思決定によって回収したり変更したりできない原価のことです。これも無関連原価ではありますが、無関連原価の定義全体を網羅するものではありません。無関連原価には、将来発生するが案間で差がない原価も含まれます。
- エ.特定の意思決定によって増加する原価:これは、むしろ関連原価の特性に近い説明です。特定の意思決定(案の採用)によって発生額が増減する原価は、関連原価として意思決定に考慮されるべきものです。
したがって、最も適切な定義はイです。無関連原価は、意思決定の対象となる複数の案間でその金額が変化しないため、差額計算に影響を与えず、比較検討の対象から除外されます。
【まとめ】意思決定会計の重要なポイント
- ポイント1:意思決定会計の2つの特徴
- 未来の収益や原価を対象とする。
- 必ず2つ以上の案を比較し、その差額に注目する。
- ポイント2:関連原価と無関連原価
- 関連原価:案の選択によって未来の発生額が異なる原価。
- 無関連原価:案の選択に関わらず未来の発生額が同じ原価。
- 意思決定では、基本的に関連原価のみを考慮する。
- ポイント3:関連収益と無関連収益
- 関連収益:案の選択によって未来の発生額が異なる収益。
- 無関連収益:案の選択に関わらず未来の発生額が同じ収益。
- 意思決定では、基本的に関連収益のみを考慮する。
- ポイント4:差額原価、差額収益、差額利益
- 差額原価:各案の関連原価の差額。
- 差額収益:各案の関連収益の差額。
- 差額利益:差額収益 - 差額原価。これによる分析を差額原価収益分析と呼ぶ。
- ポイント5:業務執行的意思決定の注意点
- 新規注文引受: 新規注文分は関連、既存分や一般固定費は通常無関連。ただし、新規注文で既存取引に影響が出れば既存分も関連になる。
- 追加加工: 改良製品・既存製品の売上高、追加加工費(変動・固定問わず)は関連。既存製品の製造原価は無関連。
- 自製か購入か: 部品の購入費・製造費(変動・固定問わず)は関連。最終製品の売上高、部品以外の製品製造原価は無関連。
- 固定費であっても、特定の意思決定によって発生・消滅するものは関連原価となる点に特に注意する。