【簿記1級】 リース会計応用問題〜セール・アンド・リースバック、特別仕様のリース物件、割安購入選択権、貸手側の会計処理など〜

問題

計算過程で円未満の端数が生じる場合は、四捨五入して解答してください。

問1(計算問題:特別仕様のリース物件)

当社は×1年4月1日に以下の条件でB社とファイナンス・リース契約を結びました。当社の決算日は3月31日です。

項目条件
所有権移転条項なし
リース期間5年
リース物件の経済的耐用年数7年
借手の見積現金購入価額\(45,000\)円
リース料総額の割引現在価値\(44,000\)円
減価償却方法定額法(残存価額ゼロ)
特記事項当該リース物件は借手のための特別仕様であり、使用期間を通じて借手によってのみ使用されることが明確である。

このリース資産の計上金額と、×2年3月31日に計上される減価償却費を答えなさい。

問2(計算問題:割安購入選択権)

当社は×1年4月1日に以下の条件でC社とリース契約を結びました。当社の決算日は3月31日です。計算の過程で端数が生じる場合には、円未満を四捨五入すること。

項目条件
所有権移転条項なし
リース期間4年
リース物件の経済的耐用年数6年
借手の見積現金購入価額\(50,000\)円
リース料(年額、後払い)\(13,000\)円
追加借入利子率(年)\(3%\)
減価償却方法定額法(残存価額ゼロ)
特記事項割安購入選択権(行使価額 \(1,000\)円)が付されている。

このリース資産の計上金額と、×2年3月31日に計上される減価償却費を答えなさい。

問3(仕訳問題:セール・アンド・リースバック)

当社は、現在所有している帳簿価額(取得原価\(60,000\)円、減価償却累計額\(30,000\)円)の備品を、×3年4月1日にD社へ\(34,000\)円で売却し、直ちにファイナンス・リース取引としてリースバックを受けました。当該取引の会計処理(売却損益を計上しない制度上の処理)として、×3年4月1日の売却・リースバック時の仕訳を求めなさい。なお、売却額とリース債務の計上額は同額であると仮定します。

問4(選択肢問題:貸手側の会計処理)

所有権移転ファイナンス・リース取引において、貸手(リース会社)がリース取引開始日に売上高と売上原価を計上する会計処理方法(①の方法)を採用している場合、決算日において売上総利益から控除される形で表示される勘定科目として正しいものはどれですか?

A. 支払利息 B. 繰延リース利益繰入 C. 受取利息 D. リース投資資産

問5(計算問題:フルペイアウトの判定)

当社は×1年4月1日(期首)に以下の条件でE社とリース契約を結び、フルペイアウトの判定を行います。計算の過程で端数が生じる場合には、円未満を四捨五入すること。

項目条件
リース期間5年
リース物件の経済的耐用年数7年
借手の見積現金購入価額\(55,000\)円
リース料(年額、後払い)\(12,000\)円
上記リース料に含まれる維持管理費相当額\(500\)円
追加借入利子率(年)\(2%\)

現在価値基準(概ね90%以上)を満たしているか否かを判定し、その根拠となる計算結果(リース料総額の現在価値)を答えなさい。


<答え>

問1(計算問題:特別仕様のリース物件)

項目金額
リース資産の計上金額\(44,000\)円
×2年3月31日の減価償却費\(6,286\)円

問2(計算問題:割安購入選択権)

項目金額
リース資産の計上金額\(49,210\)円
×2年3月31日の減価償却費\(8,202\)円

問3(仕訳問題:セール・アンド・リースバック)

勘定科目借方金額勘定科目貸方金額
減価償却累計額\(30,000\)備品\(60,000\)
現金\(34,000\)長期前受収益\(4,000\)
リース資産\(34,000\)リース債務\(34,000\)

問4(選択肢問題:貸手側の会計処理)

B. 繰延リース利益繰入

問5(計算問題:フルペイアウトの判定)

項目金額判定
リース料総額の現在価値\(54,205\)円満たしている

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リース会計の詳細論点とセール・アンド・リースバックの処理

この章では、ファイナンス・リース取引をさらに深く理解するために必要となる詳細な論点と、実務で頻繁に用いられるセール・アンド・リースバック取引の会計処理について解説します。簿記2級で学習した基本の知識を土台として、経済的実態を重視した処理の背景を理解していきましょう。

所有権移転ファイナンス・リースの詳細判定

ファイナンス・リース取引は、原則として所有権移転と所有権移転外に分類されますが、所有権が借手に移転すると見なされる「所有権移転ファイナンス・リース取引」には、契約書に所有権移転条項が明記されているケース以外にも、以下の2つの特例的な判定基準が存在します。

1.特別仕様のリース物件

リース物件が借手のための特別仕様で製作されており、返還されたとしても第三者による使用が困難である場合、貸手は当該物件を売却したり他社へリースしたりすることができません。したがって、事実上、所有権が借手に移転せざるを得ないリース物件であると判断され、所有権移転ファイナンス・リース取引に該当します。例えば、特定の航空機などが代表例です。

2.割安購入選択権

リース期間の経過後、リース物件の価額と比べて著しく有利な価額(割安な価額)で買い取ることができる権利(割安購入選択権)が借手に付与されており、その権利の行使が確実に予想される場合、これも所有権移転ファイナンス・リース取引に該当します。この場合、「リース期間が終わったら、超安く売りますよ」という規定であるため、借手はその権利を使う前提で会計処理を行う必要があります。

この場合、リース資産の計上額を算定する際、支払リース料総額に割安購入選択権の行使価額を加算して割引現在価値を算定します。

減価償却と残価保証の論点

所有権移転ファイナンス・リース取引では、減価償却はリース物件の経済的耐用年数を用いて行います。一方、所有権移転外ファイナンス・リース取引では、原則としてリース期間にわたって減価償却を行います。

残価保証(所有権移転外ファイナンス・リース取引の論点)

残価保証とは、主に所有権移転外ファイナンス・リース取引において発生する論点です。これは、リース期間終了後、返還するリース物件の処分価額が契約上の保証価額に満たなかった場合に、借手がその不足額を補填しなければならないという条件です。

この場合、借手は残価保証額を支払うことになる前提で会計処理を考えるため、リース資産の計上額を算定する際、支払リース料総額にこの残価保証額を加算して割引現在価値を算定します。

また、残価保証がある場合、例外的に残価保証額を残存価額として減価償却を計算します。残価保証があるケースと割安購入選択権があるケースは、いずれも支払リース料総額に特定の金額を加算するという点で計算方法は似ていますが、前者は所有権移転外FL、後者は所有権移転FLという点で分類が異なります。

ファイナンス・リース取引の判定(フルペイアウト)

リース取引がファイナンス・リース取引に分類されるには、「ノンキャンセラブル」(事実上解約不可能)と「フルペイアウト」の2要件を満たす必要があります。

フルペイアウトに該当するための具体的な基準には、以下の2つがあり、いずれかを満たしている場合にフルペイアウトと判断されます。

  1. 現在価値基準(額の問題): リース料総額の現在価値が、リース資産の見積現金購入価額の概ね90%以上であること。
  2. 経済的耐用年数基準(期間の問題): リース期間が、リース物件の経済的耐用年数の概ね75%以上であること。

維持管理費用・役務提供相当額の取り扱い

リース料の支払いの中には、リース物件の固定資産税や保険料などの維持管理費用相当額や、メンテナンス費用などの役務提供相当額が含まれている場合があります。

これらの費用は、リース取引の本質である金融業としての利息部分ではないと考えられます。したがって、ファイナンス・リース取引の判定(現在価値基準)を行う際や、リース資産の計上額を算定する際には、リース料総額からこれらの維持管理費用相当額を控除して考えます。

セール・アンド・リースバック取引の会計処理

セール・アンド・リースバック取引とは、借手が所有する物件を貸手に売却すると同時に、当該物件を貸手からリース(リースバック)として借り受ける取引を指します。

この取引がファイナンス・リース取引に該当する場合、会計上は特別な処理が必要です。なぜなら、物件を売却した後も、借手は同じ資産を使い続けている状況に変化がないにもかかわらず、売却損益が計上され、資産の計上額や減価償却費が変わってしまうためです。

経済的実態としては、これはリース物件を担保とした借入と、その返済に過ぎないと考えられます。

そこで、経済的実態に即した会計処理を行うために、売却損益は計上せず、差額(売却益または売却損)を『長期前受収益』または『長期前払費用』として繰り延べます。そして、繰り延べた収益・費用は、リースバックされた物件の残存耐用年数にわたって均等額を減価償却費に加減する形で損益計上します。

この処理の目的は、セール・アンド・リースバック取引をしなかった場合と比較して、資金の借入(リース債務の発生)以外では、損益に与える影響を同じにすることです。したがって、問題を解く際には、売却損益や減価償却費が「セール・アンド・リースバックをしなかった場合と同じになる」という点を覚えておくと、迅速に正答を導くことができます。




問題解説

問1(計算問題:特別仕様のリース物件)の解説

本問は、リース契約に所有権移転条項はありませんが、特別仕様のリース物件に該当するという特記事項があります。特別仕様のリース物件は、返還されても第三者による使用が困難であるため、事実上、借手に所有権を移転せざるを得ない取引と見なされ、所有権移転ファイナンス・リース取引として処理されます。

1. リース資産の計上金額の算定 リース物件の貸手の購入価額等が不明であるため、借手の見積現金購入価額リース料総額の割引現在価値を比較し、いずれか低い方をリース資産の計上金額とします。 見積現金購入価額: \(45,000\)円 リース料総額の割引現在価値: \(44,000\)円 \(45,000\)円 \(>\) \(44,000\)円であるため、計上金額は低い方の \(44,000\)円となります。

2. 減価償却費の算定 所有権移転ファイナンス・リース取引に該当する場合、減価償却はリース物件の経済的耐用年数(本問では7年)で行います。残存価額はゼロと指示されているため、定額法による年間の減価償却費は以下のようになります。

\(\text{減価償却費} = \frac{\text{リース資産計上額}}{\text{経済的耐用年数}}\) \(\text{減価償却費} = 44,000 \text{円} \div 7 \text{年} \approx 6,285.71 \text{円}\)

円未満を四捨五入するため、\(6,286\)円となります。

問2(計算問題:割安購入選択権)の解説

本問は、所有権移転条項はありませんが、割安購入選択権が付与されているため、所有権移転ファイナンス・リース取引に該当します。割安購入選択権が付与されている場合、リース資産の現在価値を計算する際には、支払リース料総額にその行使価額 (\(1,000\)円) を加算して算定する必要があります。

1. リース料総額の割引現在価値の算定 リース期間は4年、リース料は毎年後払い、追加借入利子率は3%です。行使価額(\(1,000\)円)は最終年(4年目)の支払いに含めます。

\(\text{現在価値} = \frac{13,000}{1.03^1} + \frac{13,000}{1.03^2} + \frac{13,000}{1.03^3} + \frac{13,000 + 1,000}{1.03^4}\)
  • 1年目: \(13,000 \div 1.03 \approx 12,621.36\)円
  • 2年目: \(13,000 \div 1.0609 \approx 12,253.74\)円
  • 3年目: \(13,000 \div 1.092727 \approx 11,896.71\)円
  • 4年目 (元本+\(1,000\)円): \(14,000 \div 1.12550881 \approx 12,438.25\)円

合計: \(12,621.36 + 12,253.74 + 11,896.71 + 12,438.25 = 49,210.06\)円

円未満を四捨五入し、リース料総額の割引現在価値は \(49,210\)円となります。

2. リース資産の計上金額の算定 見積現金購入価額(\(50,000\)円)と割引現在価値(\(49,210\)円)を比較し、低い方を選択します。 \(50,000\)円 \(>\) \(49,210\)円であるため、計上金額は \(49,210\)円です。

3. 減価償却費の算定 所有権移転FLのため、経済的耐用年数(6年)で償却します。

\(49,210 \text{円} \div 6 \text{年} \approx 8,201.66 \text{円}\)

円未満を四捨五入し、減価償却費は \(8,202\)円となります。

問3(仕訳問題:セール・アンド・リースバック)の解説

セール・アンド・リースバック取引(ファイナンス・リースに該当する場合)は、経済的実態が「資産を担保とした借入」であるため、売却時に損益を計上せずに処理することが求められます。

1. 売却損益の算定 まず、売却損益が発生したかどうかを確認します。

  • 帳簿価額: \(60,000\)円 (取得原価) \(– 30,000\)円 (累計額) \(= 30,000\)円
  • 売却価額: \(34,000\)円
  • 売却益: \(34,000\)円 \(– 30,000\)円 \(= 4,000\)円

2. 制度上の会計処理 売却益(\(4,000\)円)が発生していますが、これを売却益として計上せず、将来の費用と相殺するために繰り延べます。売却益は長期前受収益として計上します。

3. 仕訳の構成

  • 資産の除却: 備品 (\(50,000\)円)と減価償却累計額 (\(30,000\)円)を貸方・借方に計上します。
  • 現金受領: 現金 (\(34,000\)円)を借方に計上します。
  • 売却益の繰延: 差額の \(4,000\)円を長期前受収益として貸方に計上します。
  • リースバック: リース資産とリース債務を売却額と同額(\(34,000\)円)で計上します。
借方金額貸方金額
減価償却累計額30,000備品60,000
現金34,000長期前受収益4,000
リース資産34,000リース債務34,000

問4(選択肢問題:貸手側の会計処理)の解説

本問は、リース取引の貸手側(リース会社)の会計処理に関する理解を問うものです。

貸手側の処理方法には主に3つありますが、「リース取引開始日に売上高と売上原価を計上する①の方法」は、売却取引に近い処理を行います。

この方法では、リース開始日にリース料総額を売上高として、リース物件の購入価額を売上原価として計上します。これにより、売上高と売上原価の差額(総利益)が計上されますが、この総利益には将来受け取るべき利息相当額が含まれています。

この将来の利息相当額のうち、未回収分(翌期以降に利息として受け取る分)は、決算時において繰延リース利益として貸借対照表に負債として計上し、同時に損益計算書上、売上総利益から控除する形で繰延リース利益繰入を計上します。この処理により、当期に実現した利益のみが計上されることになります。

したがって、売上総利益から控除される形で表示される勘定科目は B. 繰延リース利益繰入 です。

ちなみに、所有権移転ファイナンス・リース取引の場合、貸手が計上する債権勘定は『リース債権』となります。

問5(計算問題:フルペイアウトの判定)の解説

ファイナンス・リース取引の判定におけるフルペイアウトの要件のうち、本問では現在価値基準(概ね90%以上)を満たすか否かを判定します。

1. リース料総額の現在価値の算定 現在価値を算定するにあたり、リース料には維持管理費用相当額 (\(500\)円)が含まれているため、この金額はリース料総額から控除する必要があります。純粋なリース料(元本と利息部分)は年間 \(12,000 \text{円} – 500 \text{円} = 11,500 \text{円}\) です。 リース期間は5年、追加借入利子率は2%、毎年後払いです。

\(\text{現在価値} = \frac{11,500}{1.02^1} + \frac{11,500}{1.02^2} + \frac{11,500}{1.02^3} + \frac{11,500}{1.02^4} + \frac{11,500}{1.02^5}\)
  • 1年目: \(11,500 \div 1.02 \approx 11,274.50\)円
  • 2年目: \(11,500 \div 1.0404 \approx 11,053.44\)円
  • 3年目: \(11,500 \div 1.061208 \approx 10,836.70\)円
  • 4年目: \(11,500 \div 1.08243216 \approx 10,624.18\)円
  • 5年目: \(11,500 \div 1.1040808 \approx 10,415.82\)円

合計: \(11,274.50 + 11,053.44 + 10,836.70 + 10,624.18 + 10,415.82 = 54,204.64\)円

円未満を四捨五入し、リース料総額の現在価値は \(54,205\)円となります。

2. 判定 現在価値基準は、「リース料総額の現在価値」が「見積現金購入価額の概ね90%以上」を満たすかどうかで判定します。 見積現金購入価額 \(55,000\)円 \(\times 90% = 49,500\)円

リース料総額の現在価値 \(54,205\)円は、 \(49,500\)円を超えています。したがって、現在価値基準を満たしています


まとめ

ポイント内容
ポイント1:所有権移転ファイナンス・リースの特例契約上の条項以外に、「特別仕様のリース物件」または「割安購入選択権が付与されている場合」も所有権移転ファイナンス・リース取引に該当します。
ポイント2:割安購入選択権と残価保証の算定いずれも支払リース料総額に当該価額を加算して割引現在価値を算定しますが、割安購入選択権は所有権移転FL、残価保証は所有権移転外FLの論点です。
ポイント3:減価償却と残存価額所有権移転FLでは経済的耐用年数で償却します。所有権移転外FLで残価保証がある場合、残価保証額を残存価額として償却します。
ポイント4:フルペイアウトの判定現在価値基準(90%以上)または経済的耐用年数基準(75%以上)のいずれかを満たせばフルペイアウトに該当します。
ポイント5:セール・アンド・リースバック経済的実態は資産担保の借入と見なし、売却損益を計上しません。差額(損益)は長期前受収益/長期前払費用として繰り延べ、減価償却を通じて損益に反映します。

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この記事を書いた人

簿記2級を取得し、現在簿記1級を勉強中。
学んだことを忘れないようにここでまとめてます。
普段は、会社で経理をしながら、経理・簿記関係の情報を発信。
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