問1(計算問題:営業活動によるキャッシュ・フロー(直接法))
以下の資料にもとづいて、「営業活動によるキャッシュ・フロー」における営業収入の額をもとめなさい。
[資料]
- 貸借対照表における売掛金残高:前期末 45,000円、当期末 52,000円
- 当期の売上高:580,000円
- 商品売買はすべて掛けにより行われている。
- 前期に取得した売掛金 3,000円が当期中に貸し倒れている。
問2(計算問題:営業活動によるキャッシュ・フロー(直接法))
以下の資料にもとづいて、「営業活動によるキャッシュ・フロー」における商品の仕入れによる支出の額をもとめなさい。
[資料]
- 貸借対照表における商品の残高:前期末 60,000円、当期末 75,000円
- 貸借対照表における買掛金の残高:前期末 35,000円、当期末 42,000円
- 当期の売上原価:420,000円
- 商品売買はすべて掛けにより行われている。
問3(計算問題:営業活動によるキャッシュ・フロー(間接法))
以下の資料にもとづいて、間接法によって表示される「営業活動によるキャッシュ・フロー」における非資金損益項目に関する調整額の合計をもとめなさい。
[資料]
- 損益計算書における減価償却費:1,500円
- 損益計算書における貸倒引当金繰入:300円(貸倒引当金の前期末残高と当期末残高を比較して、300円増加している)
- 損益計算書における貸倒引当金戻入:100円(当期中に貸倒引当金が100円減少している)
問4(計算問題:営業活動によるキャッシュ・フロー(間接法))
以下の資料にもとづいて、間接法によって表示される「営業活動によるキャッシュ・フロー」における営業資産・営業負債の増減に関する調整額の合計をもとめなさい。
[資料]
- 貸借対照表における売掛金残高:前期末 8,000円、当期末 9,500円
- 貸借対照表における棚卸資産残高:前期末 12,000円、当期末 11,000円
- 貸借対照表における買掛金残高:前期末 6,000円、当期末 7,200円
- 貸借対照表における未払費用残高:前期末 1,000円、当期末 800円
問5(選択肢問題:連結キャッシュ・フロー計算書)
親会社P社と子会社S社の個別キャッシュ・フロー計算書および以下の追加資料に基づき、連結キャッシュ・フロー計算書における「営業活動によるキャッシュ・フロー」の修正項目として正しいものはどれか、適切なものを選択肢から選び、その金額を答えなさい。
[資料]
- P社の個別C/Sの「営業収入」に500,000円、S社の「商品の仕入れによる支出」に400,000円が計上されている。
- 期中に、P社はS社に商品20,000円を掛けにより販売し、代金は全額現金をS社から受け取った。
選択肢: ア. 営業収入の減少 20,000円 イ. 商品の仕入れによる支出の増加 20,000円 ウ. 営業収入の増加 20,000円 エ. 商品の仕入れによる支出の減少 20,000円
問1 解答
570,000円
問2 解答
428,000円
問3 解答
1,700円
問4 解答
500円
問5 解答
ア. 営業収入の減少 20,000円
キャッシュ・フロー計算書の基礎と作成方法
1. キャッシュ・フロー計算書とは何か
キャッシュ・フロー計算書(C/S)とは、一会計期間におけるキャッシュ・フロー(現金の増減)の状況を、活動区分別に報告する計算書を指します。財務諸表の一つであり、C/SまたはC/Fと略されることがあります。
損益計算書(P/L)が企業の収益性を示す情報であるのに対し、P/Lは発生主義会計に基づいて作成されるため、P/L上で利益が出ていても手元に現金が少ない「黒字倒産」のリスクがある場合があります。これに対し、C/Sは企業の資金面における安全性を評価するための情報として作成されます。
C/Sは、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、株主資本等変動計算書(S/S)と同様に財務諸表の一つとして位置づけられ、B/Sの『現金預金』勘定の詳細な内訳を示していると考えることができます。C/Sに関する会計基準として、「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」があり、個別C/Sと連結C/Sの両方を規定しています。
2. キャッシュ・フロー計算書の対象となる資金の範囲
キャッシュ・フロー計算書が対象とする資金の範囲は、**「現金及び現金同等物」**です。
- (1)現金 ここでいう現金とは、手許現金、要求払い預金(当座預金、普通預金)及び特定の電子決済手段をいいます。
- (2)現金同等物 現金同等物とは、**「容易に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わない短期投資」**をいいます。具体的には、取得日から満期日までの期間が3カ月以内の定期預金、譲渡性預金、コマーシャル・ペーパーなどが該当します。なお、売買目的有価証券は価値変動リスクが僅少とはいえないため、現金同等物には含まれません。
3. キャッシュ・フロー計算書の表示区分
キャッシュ・フロー計算書は、以下の3つの区分に分けて表示されます。
- (1)営業活動によるキャッシュ・フロー 会社の主たる営業活動におけるキャッシュ・フローが表示されます。小計欄より上は純粋な営業活動によるキャッシュ・フローが、小計欄より下は投資・財務のいずれの活動にも属さないキャッシュ・フロー及び法人税等に係るキャッシュ・フローが表示されます。 表示方法には、直接法と間接法の2種類があります。
- ①直接法による表示 直接法では、主要な取引ごとに収入総額と支出総額を表示します。例えば、営業収入の回収額や商品の仕入れによる支出額、人件費の支出額などを個別に計算して表示します。
- ②間接法による表示 間接法では、損益計算書の税引前当期純利益に必要な調整項目を加減して、営業活動によるキャッシュ・フローを表示します。P/Lは発生主義、C/Sは現金主義に基づいて作成されるため、この違いを調整する形で算出されます。調整項目には、非資金損益取引に関する調整(減価償却費、貸倒引当金繰入など)、P/Lの逆進(営業外損益と特別損益項目)、営業資産・営業負債の増減の調整(売掛金、棚卸資産、買掛金など)があります。
- (2)投資活動によるキャッシュ・フロー 将来の利益獲得や資金運用のため、どのくらいの資金支出と回収があったかを示すキャッシュ・フローが表示されます。具体的には、有価証券や有形固定資産の取得・売却による収支などが含まれます。取得原価や帳簿価額ではなく、実際に動いたキャッシュに着目することが重要です。
- (3)財務活動によるキャッシュ・フロー 営業活動及び投資活動を維持するための資金調達と返済に関するキャッシュ・フローが表示されます。短期借入金の返済や配当金の支払額などがこれに該当します。
4. 為替差損益に関する処理
為替差損益は、キャッシュ・フロー計算書において特別な処理が必要となる場合があります。
- (1)現金及び現金同等物の換算から生じた為替差損益 外貨建ての現金及び現金同等物を保有していた場合などに発生する換算差額は、C/Sの末尾に**「現金及び現金同等物に係る換算差額」**として独立して表示されます。
- (2)間接法による場合の為替差損益 間接法で「営業活動によるキャッシュ・フロー」を表示している場合、外貨建ての売上債権・仕入債務の増減調整の中に為替差損益が含まれてしまうことがあります。この場合、P/L「税引前当期純利益」から「営業利益」へ逆進する区分における**「為替差損益」から、外貨建ての売上債権・仕入債務から生じた為替差損益を除外して**調整します。これは二重の調整を避けるためです。
5. 連結キャッシュ・フロー計算書
企業集団全体のキャッシュ・フローの状況を明らかにするため、連結キャッシュ・フロー計算書も作成されます。その作成方法には、原則法と簡便法があります。
- (1)原則法 原則法は、親会社C/Sと子会社C/Sを合算し、その後、親会社・子会社間の取引(例えば、連結会社間の売掛金の決済、貸付金の授受、配当金の授受など)から生じたキャッシュ・フローを相殺消去して作成する方法です。子会社株式の所有割合は、原則として考慮する必要はありません(親子会社間の配当金を除く)。
- (2)簡便法 簡便法は、連結貸借対照表や連結損益計算書をもとにして、連結C/Sを作成する方法です。通常、「営業活動によるキャッシュ・フロー」は間接法で表示されることが一般的です。この方法では、個別のC/Sは作成されません。 連結財務諸表特有の勘定科目として、『非支配株主に帰属する当期純利益』や『のれん償却額』、『持分法による投資損益』などがあり、それぞれ間接法における調整の要否が異なります。
【問題解説】
問1 解説
この問題は、営業活動によるキャッシュ・フロー(直接法)における営業収入、すなわち売掛金の回収額を求めるものです。売掛金勘定の増減をBOX図で考えると、資金の動きを把握しやすくなります。
売掛金勘定の期首残高と期末残高、そして当期売上高、貸倒額が与えられています。売掛金は資産勘定であるため、期首残高は借方、期末残高は貸方に記入されます。当期売上高(掛け販売)は売掛金の増加要因として借方に記入されます。貸倒れは売掛金の減少要因となり、貸方に記入します。
これらの情報から、売掛金勘定の貸借の差額として、当期の現金による売掛金回収額を求めます。
計算式は以下のようになります。 期首売掛金残高 + 当期売上高 – (貸倒額 + 期末売掛金残高) = 当期売掛金回収額
具体的な数値に当てはめると、 45,000円(前期末) + 580,000円(当期売上高) – (3,000円(貸倒) + 52,000円(当期末)) = 570,000円
したがって、当期の営業活動によるキャッシュ・フローにおける営業収入の額は570,000円となります。これは、会社の主たる営業活動から得られた現金の流入額を示す非常に重要な指標です。
問2 解説
この問題は、営業活動によるキャッシュ・フロー(直接法)における商品の仕入れによる支出額、すなわち買掛金の支払額を求めるものです。商品と買掛金という2つの勘定の動きを、それぞれBOX図で追っていくことで解決できます。
まず、商品の仕入額を求めるために商品勘定の動きを把握します。商品(棚卸資産)は資産勘定です。 期首商品残高 + 当期仕入額 – 売上原価 = 期末商品残高 この式から当期仕入額を逆算できます。 当期仕入額 = 売上原価 + 期末商品残高 – 期首商品残高 420,000円(売上原価) + 75,000円(当期末商品) – 60,000円(前期末商品) = 435,000円
次に、この当期仕入額が買掛金の増加額に相当すると考えます。買掛金は負債勘定です。 買掛金勘定の期首残高と期末残高、そして当期仕入額が与えられています。買掛金は負債勘定であるため、期首残高は貸方、期末残高は借方に記入されます。当期仕入額(掛け仕入れ)は買掛金の増加要因として貸方に記入されます。
これらの情報から、買掛金勘定の貸借の差額として、当期の現金による買掛金支払額を求めます。 期首買掛金残高 + 当期仕入額 – 期末買掛金残高 = 当期買掛金支払額 35,000円(前期末) + 435,000円(当期仕入額) – 42,000円(当期末) = 428,000円
したがって、当期の営業活動によるキャッシュ・フローにおける商品の仕入れによる支出の額は428,000円となります。これは、商品の仕入れのために会社から流出した現金の額を示します。
問3 解説
この問題は、間接法による営業活動によるキャッシュ・フロー作成において、非資金損益取引に関する調整額の合計を求めるものです。間接法では、税引前当期純利益を起点として、実際には現金の動きを伴わない損益項目を調整します。
非資金損益項目は、減価償却費や貸倒引当金繰入などのように、現金の収入・支出を伴わずにP/Lに計上される収益・費用項目です。
- 減価償却費:これは現金の支出を伴わない費用です。税引前当期純利益を計算する際に費用として差し引かれていますが、実際には現金が流出していないため、キャッシュ・フロー計算書では加算して調整します。 減価償却費 1,500円 → 加算
- 貸倒引当金繰入:これも現金の支出を伴わない費用です。税引前当期純利益を計算する際に費用として差し引かれていますが、実際には現金が流出していないため、キャッシュ・フロー計算書では加算して調整します。 貸倒引当金繰入 300円 → 加算
- 貸倒引当金戻入:これは現金の収入を伴わない収益です。税引前当期純利益を計算する際に収益として加えられていますが、実際には現金が流入していないため、キャッシュ・フロー計算書では減算して調整します。 貸倒引当金戻入 100円 → 減算
これらの調整額を合計すると、 1,500円(加算) + 300円(加算) – 100円(減算) = 1,700円
したがって、非資金損益項目に関する調整額の合計は1,700円となります。間接法では、このようにP/L上の利益と実際の現金増減のズレを解消する調整を行うことが重要です。
問4 解説
この問題は、間接法による営業活動によるキャッシュ・フロー作成において、営業資産・営業負債の増減に関する調整額の合計を求めるものです。P/L上では営業損益が計上されるものの、現金収支が伴わない(掛け取引など)場合に発生するP/L「営業利益」とC/S「営業活動によるCF」のズレを調整します。
調整の考え方は以下の通りです。
- 営業資産の増加:現金が営業資産に変わったと考えるため、キャッシュは減少。C/Sでは減算。
- 営業資産の減少:営業資産が現金に変わったと考えるため、キャッシュは増加。C/Sでは加算。
- 営業負債の増加:現金を借り入れて負債が増えたと考えるため、キャッシュは増加。C/Sでは加算。
- 営業負債の減少:現金で営業負債を返済したと考えるため、キャッシュは減少。C/Sでは減算。
具体的な項目と調整額は以下の通りです。
- 売掛金(営業資産): 前期末 8,000円 → 当期末 9,500円(1,500円増加) 営業資産の増加なので、減算 1,500円。
- 棚卸資産(営業資産): 前期末 12,000円 → 当期末 11,000円(1,000円減少) 営業資産の減少なので、加算 1,000円。
- 買掛金(営業負債): 前期末 6,000円 → 当期末 7,200円(1,200円増加) 営業負債の増加なので、加算 1,200円。
- 未払費用(営業負債): 前期末 1,000円 → 当期末 800円(200円減少) 営業負債の減少なので、減算 200円。
これらの調整額を合計すると、 -1,500円(売掛金) + 1,000円(棚卸資産) + 1,200円(買掛金) – 200円(未払費用) = 500円
したがって、営業資産・営業負債の増減に関する調整額の合計は500円となります。この調整により、発生主義で計上された営業利益を現金主義の営業活動によるキャッシュ・フローに近づけることができます。
問5 解説
この問題は、連結キャッシュ・フロー計算書における修正項目に関するものです。連結C/Sの原則法では、親会社と子会社の個別C/Sを合算した後、連結会社間の取引から生じたキャッシュ・フローを相殺消去する必要があります。
資料を見ると、P社はS社に商品20,000円を掛けで販売し、代金は全額現金をS社から受け取ったとあります。これはP社にとっての「営業収入」であり、S社にとっての「商品の仕入れによる支出」となります。
個別C/Sでは、
- P社の「営業収入」に20,000円の現金流入が計上されています。
- S社の「商品の仕入れによる支出」に20,000円の現金流出が計上されています。
しかし、連結会計の観点では、P社とS社は一つの企業集団であるため、この取引は企業集団内部での資金の移動に過ぎません。外部との取引ではないため、連結キャッシュ・フロー計算書においては、この20,000円の資金移動は相殺消去する必要があります。
相殺消去は、P社の「営業収入」から20,000円を減算し、S社の「商品の仕入れによる支出」から20,000円を減算することで行われます。 したがって、修正項目としては「営業収入の減少 20,000円」と「商品の仕入れによる支出の減少 20,000円」が考えられます。
選択肢を確認すると、「ア. 営業収入の減少 20,000円」と「エ. 商品の仕入れによる支出の減少 20,000円」が該当します。問題は「修正項目として正しいものはどれか、適切なものを選択肢から選び、その金額を答えなさい」とあるため、両方正しいですが、問題文の形式から一つの回答を選ぶことを想定し、最も直接的なキャッシュ・インフローの修正項目である「営業収入の減少」を選びます。ただし、連結C/Sでは両方の項目が修正される点に留意しましょう。
最終的に連結キャッシュ・フロー計算書を作成する際には、P社の営業収入からこの20,000円を減額し、S社の商品の仕入れによる支出からも20,000円を減額することで、連結内部取引によるキャッシュ・フローの重複計上を防ぎます。
選択肢の中で最も適切かつ単一の回答として「ア. 営業収入の減少 20,000円」が選べます。
【まとめ】
- ポイント1:C/Sの目的と対象範囲 C/Sは、P/Lの黒字倒産リスクを補完し、企業の資金安全性を示すために作成されます。対象となる資金は「現金及び現金同等物」であり、現金同等物は「容易に換金可能かつ価値変動リスクが僅少な短期投資」を指します。定義を正確に理解しましょう。
- ポイント2:3つの活動区分 C/Sは「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つの区分で表示されます。それぞれがどのような活動を意味し、どのような取引が含まれるかを明確に区別することが重要です。特に、受取利息や支払配当金などの表示区分は、採用する表示方法によって変わる可能性があるため注意が必要です。
- ポイント3:営業活動によるCFの直接法と間接法 営業活動によるCFには「直接法」と「間接法」があります。 直接法は主要な取引ごとに収入総額と支出総額を表示するのに対し、間接法はP/Lの税引前当期純利益を起点に、非資金損益取引、P/Lの逆進、営業資産・営業負債の増減などを調整して算出します。実務では簡便な間接法が使われることが多いですが、両方の計算ロジックを理解しておく必要があります。
- ポイント4:投資活動・財務活動の把握ポイント 投資活動は将来の利益獲得や資金運用に関する収支、財務活動は資金調達と返済に関する収支です。特に、有価証券や固定資産の売却・取得においては、取得原価や帳簿価額ではなく、実際に動いた現金(売却額や取得額)に注目することが重要です。
- ポイント5:為替差損益と連結C/Sの処理 為替差損益は、現金同等物の換算差額としてC/S末尾に表示されるほか、間接法では外貨建て売上債権・仕入債務に係る為替差損益は逆進項目から除外されることに注意が必要です。連結C/Sでは、親会社・子会社間のキャッシュ・フローは相殺消去されます。連結固有の勘定科目(のれん償却額、持分法による投資損益など)の調整も問われることがあるため、これらも確認しておきましょう。