問1(仕訳問題 – 取替投資に伴う固定資産の売却と購入)
当社は、旧設備A(取得原価1,000,000円、減価償却累計額800,000円)を現金150,000円で売却し、同時に新設備Bを現金1,200,000円で購入した。なお、旧設備Aの売却に伴う固定資産売却損益は、税効果を考慮しないものとする。この一連の取引に係る仕訳を示しなさい。
問2(計算問題 – 取替投資の正味現在価値計算(差額法))
以下の資料に基づき、旧設備Cを継続利用する案と新設備Dに取り替える案の差額キャッシュ・フローの正味現在価値を計算しなさい。なお、千円未満は四捨五入すること。
〔資料〕
- 旧設備C(現有設備)に関するデータ
- 使用開始から当期末までに3年が経過
- 取得原価:6,000,000円
- 耐用年数:5年
- 減価償却:定額法(残存価額 0)
- 当期末での売却可能価額:1,500,000円(新設備Dに取替えた場合)
- 年間売上収入:20,000,000円
- 年間製造原価等の現金支出費用:14,000,000円(うち設備稼働費:5,000,000円)
- 新設備Dに関するデータ
- 取得原価:9,000,000円(当期末に現金払い)
- 耐用年数:2年
- 減価償却:定額法(残存価額 0)
- 耐用年数到来時点での見積売却価額:1,000,000円
- 年間売上収入:25,000,000円
- 年間製造原価等の現金支出費用:15,000,000円(うち設備稼働費:4,000,000円)
- キャッシュ・フローはすべて各年度末に生じるものとする。
- 法人税等の税率:30%
- 資本コスト率:10%
- 現在価値計算に用いる現価係数(割引率10%)
- 1年:0.9091
- 2年:0.8264
問3(計算問題 – 拡張投資の正味現在価値計算(差額法))
当社は製品Xを製造販売しており、現行の年間生産販売量30,000個(旧設備Eのみで生産)に対し、今後数年間は年間45,000個の需要が見込まれている。これに対応するため、新設備Fの追加導入を検討している。以下の資料に基づき、旧設備Eのみを利用する案と新設備Fを追加する案の差額キャッシュ・フローの正味現在価値を計算しなさい。なお、千円未満は四捨五入すること。
〔資料〕
- 製品Xの販売価格:@500円
- 旧設備E(現有設備)に関するデータ
- 製品Xの生産能力:年間30,000個
- 1個あたりの変動製造原価(現金支出費用):@200円
- 減価償却費を除く固定製造原価等(現金支出費用):年間1,800,000円
- 取得原価:6,000,000円
- 耐用年数:5年(使用開始から当期末までに3年が経過)
- 新設備Fに関するデータ
- 製品Xの生産能力:年間20,000個
- 取得原価:7,000,000円(当期末に現金払い)
- 耐用年数:2年
- 1個あたりの変動製造原価(現金支出費用):@150円
- 減価償却費を除く固定製造原価等(現金支出費用):年間1,200,000円
- いずれの設備も定額法(残存価額 0)により減価償却を行う。耐用年数到来時に売却できる見込みはない。
- キャッシュ・フローはすべて各年度末に生じるものとする。
- 法人税等の税率:30%
- 資本コスト率:10%
- 現在価値計算に用いる現価係数(割引率10%)
- 1年:0.9091
- 2年:0.8264
問4(計算問題 – 耐用年数の異なる設備の比較(反復投資ケース))
当社は新製品の製造にあたり、設備Gまたは設備Hの導入を検討している。以下の資料に基づき、設備Gを導入する案と設備Hを導入する案のそれぞれの正味現在価値を計算し、どちらの案が有利かを判断しなさい。なお、百円未満は四捨五入すること。
〔資料〕
- 対象製品の年間生産販売量:50,000個
- 対象製品の販売価格:@400円
- 設備Gに関するデータ
- 取得原価:4,000,000円
- 耐用年数:2年(耐用年数到来時に同設備に再投資する)
- 製造原価等の現金支出費用:各年度 12,000,000円
- 設備Hに関するデータ
- 取得原価:7,000,000円
- 耐用年数:4年
- 製造原価等の現金支出費用:各年度 12,500,000円
- どちらの設備も、定額法(残存価額 0)により減価償却を行う。また、耐用年数到来時に売却できる見込みはない。
- キャッシュ・フローはすべて各年度末に生じるものとする。
- 法人税等の税率:30%
- 資本コスト率:10%
- 現在価値計算に用いる現価係数(割引率10%)
- 1年:0.9091
- 2年:0.8264
- 3年:0.7513
- 4年:0.6830
問5(計算問題 – 耐用年数の異なる設備の比較(反復投資しないケース))
問4の設備Gと設備Hの比較において、もし設備Gの耐用年数到来時に同設備に再投資せず、別の異なる投資案に投資すると仮定した場合、設備Gを導入する案の正味現在価値を計算しなさい。なお、設備Hを導入する案の正味現在価値は問4の計算結果を使用すること。千円未満は四捨五入すること。
〔資料〕(問4と同様の資料を一部抜粋)
- 対象製品の年間生産販売量:50,000個
- 対象製品の販売価格:@400円
- 設備Gに関するデータ
- 取得原価:4,000,000円
- 耐用年数:2年(同設備に再投資しない)
- 製造原価等の現金支出費用:各年度 12,000,000円
- 法人税等の税率:30%
- 資本コスト率:10%
- 設備Gの正味現在価値の計算にあたっては、投資によって生じる年々のネット・キャッシュ・フローを再投資した場合の終価の現在価値を⽤いる(再投資率:10%、100円の1年後の終価=100円×1.1)。
- 現在価値計算に用いる現価係数(割引率10%)
- 1年:0.9091
- 2年:0.8264
- 3年:0.7513
- 4年:0.6830
問1 解答
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
現金 | 150,000 | 機械装置(旧設備A) | 200,000 |
減価償却累計額 | 800,000 | 現金 | 1,200,000 |
固定資産売却損 | 50,000 | ||
機械装置(新設備B) | 1,200,000 |
問2 解答
差額キャッシュ・フローの正味現在価値:-75,000円
問3 解答
差額キャッシュ・フローの正味現在価値:46,000円
問4 解答
設備Gを導入する案の正味現在価値:12,347,200円 設備Hを導入する案の正味現在価値:11,284,800円 よって、設備Gを導入する案のほうが1,062,400円有利である。
問5 解答
設備Gを導入する案の正味現在価値:6,753,000円
設備投資の意思決定:取替・拡張・耐用年数比較の徹底解説
設備投資意思決定の全体像
企業が将来の利益を最大化するためには、適切な設備投資の意思決定が不可欠です。設備投資の意思決定は、その目的や性質によっていくつかのモデルケースに分類されます。主な分類としては、新規投資案、取替投資案、拡張投資案、そして耐用年数の異なる設備の比較があります。
新規投資案は、新しい製品の生産開始や未開拓市場への参入など、これまで行っていなかった事業活動のために新しい設備を導入するかどうかを検討するケースです。これは利益の最大化を目的とし、多くの場合、投資案の独立性が高いとみなされます。
これに対し、取替投資案は、現在使用している設備(現有設備)を新しい設備(新設備)に置き換えることを検討するケースです。現有設備を使い続けるか、新設備に替えるかという選択は、相互排他的な関係にあります。この意思決定の目的も、設備の取替によって利益を最大化することです。
拡張投資案は、現有設備に加え、さらに新しい設備を追加導入することで生産能力を拡大し、利益の最大化を目指すケースです。現状維持か、新設備を追加するかという選択肢は、取替投資案と同様に相互排他的な関係にあります。
また、実務においては、検討する複数の設備投資案の耐用年数(または残存耐用年数)が異なることが多くあります。このような場合、そのままでは公正な比較ができないため、何らかの方法で計算期間を揃える必要があります。
取替投資の意思決定
取替投資は、既存の設備を最新の技術が組み込まれた新しい設備に置き換えることで、企業の収益性向上を図る重要な経営判断です。
取替投資の特徴と考慮すべきキャッシュ・フロー
取替投資を検討する際に特に考慮すべきは、以下の3つのポイントです。
- 製品の生産販売量の増加がある場合: 新設備に切り替えることで生産能力が向上し、製品の生産量や販売量が増加する可能性があります。これにより、売上収入が増加し、差額収益が生じることになります。
- 設備稼働費の減少が多い場合: 最新の技術が導入された新設備は、多くの場合、現有設備と比較して設備の利用に伴う変動製造間接費などの設備稼働費が減少します。これは企業にとって費用削減となり、差額原価として考慮されます。
- 現在時点で現有設備の売却収入(売却損益)が生じる: 新設備に切り替える場合、現有設備はただちに売却されることになります。そのため、その売却収入や、売却に伴って発生する売却損益(売却益または売却損)に関するキャッシュ・フローを適切に評価に含める必要があります。
計算方法:総額法と差額法
取替投資案の意思決定では、主に「総額法」と「差額法」の2つの計算方法が用いられます。どちらの方法を用いても、最終的な意思決定の結論は同じになります。
- 総額法: この方法では、「現有設備を継続利用する案」と「新設備に取り替える案」のそれぞれの正味現在価値(NPV)を個別に計算し、その結果を比較します。NPVがより大きい案が有利であると判断されます。各案の全キャッシュ・フローを洗い出し、現在価値に換算して合計します。
- 差額法: この方法では、「現有設備を継続利用する案」を基準として、新設備に取り替えることによってキャッシュ・フローがどのように変化するか(差額キャッシュ・フロー)を計算します。具体的には、どちらの案を採用するかによって金額が異なる「関連収益」と「関連原価」に焦点を当て、その差額を計算します。差額キャッシュ・フローの正味現在価値がプラスであれば、新設備に取り替える案が有利であると判断されます。 差額法で計算する際には、設備稼働費のように減少する費用はキャッシュ・イン・フローとして扱うなど、現金流入と流出の方向を正しく把握することが重要です。また、計算を効率化するため、両案で同額のキャッシュ・フローとなる「無関連収益」や「無関連原価」は計算から除外することができます。
拡張投資の意思決定
拡張投資は、現有設備を維持しつつ、さらに新しい設備を追加することで事業規模を拡大し、需要増などに対応する投資です。
拡張投資の特徴
拡張投資の意思決定における主な特徴は以下の通りです。
- いずれの案でも現有設備は利用する: 拡張投資は、現有設備をベースに追加投資を行うため、現有設備を使い続けることを前提とします。そのため、現有設備に関する固定製造原価などは、原則として「無関連原価」として扱われることが多いです。
- 現有設備による生産販売量が変化する可能性がある: 新設備を追加する案を採用した場合、単に生産能力が増えるだけでなく、現有設備と新設備の組み合わせによって、それぞれの設備での最適な生産販売量を再検討する必要があります。これは一種の「最適セールス・ミックス」の概念が関わってくるためです。
最適セールス・ミックスの検討
拡張投資案の評価において特に重要なのが、新設備追加後の「最適セールス・ミックス」の決定です。これは、複数種類の製品の最適な組み合わせを検討するのではなく、総需要量を満たすために、既存設備と新設備のどちらでどれだけ生産するか、その最適な組み合わせを決定することを指します。
原則として、1個あたりの変動製造原価が小さい方(または1個あたりの貢献利益が大きい方)の設備を優先して生産することで、全体の利益を最大化することができます。この最適ミックスを考慮して、各案の貢献利益や関連原価、減価償却費のタックス・シールドなどを算出し、差額キャッシュ・フローを計算していきます。売上収入と変動製造原価を分けずに、その純額である貢献利益によって差額収益を計算すると、解答時間を短縮できる場合があります。
耐用年数の異なる設備の比較
現実の設備投資案では、比較対象となる設備の耐用年数が異なることがほとんどです。このような場合、単純に正味現在価値を比較するだけでは、公平な意思決定を行うことができません。計算期間を揃えるための特別なアプローチが必要です。
比較方法の基本
耐用年数の異なる設備を比較する際は、以下の2つのケースに分けて考えます。
- 反復投資するケース: このケースは、設備の耐用年数が到来した際に、同じ設備に再度投資を行う(再投資する)ことを前提とします。この場合、比較期間を揃えるために、各設備の耐用年数の最小公倍数を計算期間として設定します。例えば、耐用年数2年の設備と4年の設備を比較する場合、最小公倍数である4年を評価期間とし、2年設備のケースでは4年間の間に2回の投資が発生するものとしてキャッシュ・フローを計算します。
- 反復投資しないケース: このケースは、設備の耐用年数が到来した後に、同じ設備に再投資せず、別の異なる投資案に投資することを前提とします。この場合、長期の耐用年数を持つ設備(例:4年)に合わせて、短期の耐用年数を持つ設備(例:2年)から生じる年々のネット・キャッシュ・フローを、その耐用年数到来後に一定の利益率(再投資率)で再投資されるものとして計算します。具体的には、短期設備から生じるネット・キャッシュ・フローの終価(将来価値)を計算し、その終価を資本コスト率で現在価値に割り戻して、正味現在価値を算出します。これにより、異なる耐用年数の投資案を公平に比較することが可能になります。
【問題解説】
問1 問題解説
本問は、設備を新しいものに交換する「取替投資」において、旧設備の除却・売却と新設備の取得に関わる仕訳を問う問題です。
まず、旧設備Aの売却に関する仕訳を考えます。固定資産の売却では、まず帳簿価額からその資産を除却し、その上で売却による現金収入と売却損益を計上します。 旧設備Aの帳簿価額は、取得原価から減価償却累計額を差し引いて計算します。 取得原価1,000,000円 – 減価償却累計額800,000円 = 帳簿価額200,000円 この帳簿価額200,000円の設備を現金150,000円で売却していますので、現金収入150,000円では帳簿価額に満たないため、差額は固定資産売却損となります。 固定資産売却損 = 帳簿価額200,000円 – 現金収入150,000円 = 50,000円
次に、新設備Bの購入に関する仕訳を考えます。新設備Bは現金1,200,000円で取得していますので、これは単純に固定資産(機械装置など)の増加と現金の減少を記帳するだけです。
これらの取引は、取替投資の初期段階で発生するキャッシュ・フローに直接影響を与えるため、正味現在価値計算における「初期投資」の一部として考慮されます。固定資産売却損益は、税効果を考慮しないという指示があるため、会計上の損益としてそのまま処理します。
問2 問題解説
本問は、取替投資の意思決定を差額法で評価する問題です。差額法では、「旧設備継続利用案」と「新設備取替案」のキャッシュ・フローの差額を計算し、その正味現在価値を求めます。
1. 初期(0年度末)の差額キャッシュ・フロー
- 新設備Dの購入支出: 新設備Dを購入する場合にのみ発生するため、関連原価です。9,000,000円の現金支出となります。
- 旧設備Cの売却収入: 新設備Dに取り替える場合にのみ旧設備Cを売却するため、関連収益です。1,500,000円の現金収入となります。
- 旧設備Cの売却損益による税効果:
- 旧設備Cの簿価:取得原価6,000,000円 ÷ 耐用年数5年 = 年間減価償却費1,200,000円
- 経過年数3年の減価償却累計額:1,200,000円 × 3年 = 3,600,000円
- 当期末簿価:6,000,000円 – 3,600,000円 = 2,400,000円
- 売却損:簿価2,400,000円 – 売却価額1,500,000円 = 900,000円
- 売却損による税金減少(タックス・シールド):900,000円 × 30% = 270,000円(現金流入)
初期の差額キャッシュ・フロー合計
\(-9,000,000\text{円 (新D購入)} + 1,500,000\text{円 (旧C売却)} + 270,000\text{円 (売却損税効果)} = -7,230,000\text{円}\)2. 年々(1年度末、2年度末)の差額キャッシュ・フロー
- 売上収入の差額: 新設備D案の方が年間5,000,000円(25,000,000円 – 20,000,000円)多いです。
- 製造原価等の現金支出費用の差額: 新設備D案の方が年間1,000,000円(15,000,000円 – 14,000,000円)多いです。
- ただし、設備稼働費は新設備D案の方が年間1,000,000円(5,000,000円 – 4,000,000円)少なくなります。この減少分は差額収益と考えることができます。
- その他の現金支出費用(14M-5M=9M, 15M-4M=11M)の差額は2M。
- または、営業キャッシュ・フローの税引後差額:
- 差額収益: 新D売上25,000,000 – 旧C売上20,000,000 = +5,000,000円
- 差額費用: 新D現金支出15,000,000 – 旧C現金支出14,000,000 = +1,000,000円 (現金流出増)
- 税引前差額損益: 5,000,000 – 1,000,000 = 4,000,000円
- 税引後差額キャッシュ・フロー: 4,000,000円 × (1 – 0.3) = 2,800,000円
- 減価償却費のタックス・シールドの差額:
- 旧設備Cの年間減価償却費:1,200,000円(先述)
- 旧設備Cのタックス・シールド:1,200,000円 × 30% = 360,000円
- 新設備Dの年間減価償却費:9,000,000円 ÷ 2年 = 4,500,000円
- 新設備Dのタックス・シールド:4,500,000円 × 30% = 1,350,000円
- 差額タックス・シールド(現金流入増):1,350,000円 – 360,000円 = 990,000円
年々の差額キャッシュ・フロー合計:
\(2,800,000\text{円 (営業CF)} + 990,000\text{円 (減価償却費TS)} = 3,790,000\text{円}\)3. 終期(2年度末)の差額キャッシュ・フロー
- 新設備Dの売却収入: 1,000,000円の現金収入。
- 新設備Dの売却益に対する法人税: 簿価0円のため、売却益1,000,000円に課税されます。
- 税金支出:1,000,000円 × 30% = 300,000円(現金流出)
終期の差額キャッシュ・フロー合計:
\(1,000,000\text{円 (売却収入)} – 300,000\text{円 (売却益課税)} = 700,000\text{円}\)4. 正味現在価値の計算
- 0年度末: \(-7,230,000\text{円}\)
- 1年度末: \(3,790,000\text{円} \times 0.9091 = 3,445,069\text{円}\)
- 2年度末: \((3,790,000\text{円} + 700,000\text{円}) \times 0.8264 = 4,490,000\text{円} \times 0.8264 = 3,710,736\text{円}\) (または 3,790,000 * 0.8264 + 700,000 * 0.8264 = 3,131,816 + 578,480) \(\text{正味現在価値} = -7,230,000 + 3,445,069 + 3,131,816 + 578,480 = -74,635\text{円}\)
千円未満を四捨五入すると、-75,000円となります。差額正味現在価値がマイナスであるため、新設備Dに取り替えるべきではないと判断されます。
問3 問題解説
本問は拡張投資の意思決定を差額法で評価する問題です。拡張投資では、既存設備を継続利用しながら新設備を追加するため、需要の変化と最適な生産配分(最適セールス・ミックス)の検討が重要になります。
1. 最適セールス・ミックスの決定
- 総需要量:45,000個
- 旧設備Eの生産能力:30,000個
- 新設備Fの生産能力:20,000個
- 製品Xの販売価格:@500円
- 旧設備Eの変動製造原価:@200円 → 貢献利益@300円(@500 – @200)
- 新設備Fの変動製造原価:@150円 → 貢献利益@350円(@500 – @150)
変動製造原価が低い(貢献利益が高い)新設備Fの生産を優先します。
- 新設備Fでの生産量:20,000個(生産能力の上限まで)
- 旧設備Eでの生産量:総需要45,000個 – 新設備Fの20,000個 = 25,000個
2. 初期(0年度末)の差額キャッシュ・フロー
- 新設備Fの購入支出: 新設備Fを追加する案でのみ発生するため、関連原価です。7,000,000円の現金支出となります。
初期の差額キャッシュ・フロー合計: \(-7,000,000\text{円}\)
3. 年々(1年度末、2年度末)の差額キャッシュ・フロー
- 貢献利益の差額:
- 旧設備Eのみ利用案の貢献利益:@300円 × 30,000個 = 9,000,000円
- 新設備F追加案の貢献利益:(@350円 × 20,000個) + (@300円 × 25,000個) = 7,000,000円 + 7,500,000円 = 14,500,000円
- 差額貢献利益(現金流入増):14,500,000円 – 9,000,000円 = 5,500,000円
- 減価償却費を除く固定製造原価等の差額:
- 旧設備Eのみ利用案:年間1,800,000円
- 新設備F追加案:年間1,800,000円(E)+ 1,200,000円(F)= 3,000,000円
- 差額固定費(現金流出増):3,000,000円 – 1,800,000円 = 1,200,000円
- 税引後営業キャッシュ・フローの差額:
- \((5,500,000\text{円 (貢献利益増)} – 1,200,000\text{円 (固定費増)}) \times (1 – 0.3) = 4,300,000\text{円} \times 0.7 = 3,010,000\text{円}\)
- 減価償却費のタックス・シールドの差額:
- 旧設備Eの年間減価償却費:6,000,000円 ÷ 5年 = 1,200,000円
- 旧設備Eのタックス・シールド:1,200,000円 × 30% = 360,000円
- 新設備Fの年間減価償却費:7,000,000円 ÷ 2年 = 3,500,000円
- 新設備Fのタックス・シールド:3,500,000円 × 30% = 1,050,000円
- 旧設備Eの減価償却費は両案で共通して発生するため、差額法では新設備Fのタックス・シールドのみが関連収益として考慮されます。
- 差額タックス・シールド(現金流入増):1,050,000円
年々の差額キャッシュ・フロー合計:
\(3,010,000\text{円 (営業CF)} + 1,050,000\text{円 (減価償却費TS)} = 4,060,000\text{円}\)4. 正味現在価値の計算
- 0年度末: \(-7,000,000\text{円}\)
- 1年度末: \(4,060,000\text{円} \times 0.9091 = 3,690,946\text{円}\)
- 2年度末: \(4,060,000\text{円} \times 0.8264 = 3,355,544\text{円}\) \(\text{正味現在価値} = -7,000,000 + 3,690,946 + 3,355,544 = 46,490\text{円}\)
千円未満を四捨五入すると、46,000円となります。差額正味現在価値がプラスであるため、新設備Fを追加すべきであると判断されます。
問4 問題解説
本問は、耐用年数が異なる設備投資案を比較する「反復投資するケース」の問題です。この場合、両案を公平に比較するために、耐用年数の最小公倍数の期間で評価します。設備G(耐用年数2年)と設備H(耐用年数4年)の最小公倍数は4年ですので、4年間でそれぞれの正味現在価値を計算します。
【設備Gを導入する案】(評価期間4年)
- 初期投資(0年度末): 取得原価 4,000,000円。
- 年々のキャッシュ・フロー:
- 年間売上収入:@400円 × 50,000個 = 20,000,000円
- 年間製造原価等の現金支出費用:12,000,000円
- 年間減価償却費:4,000,000円 ÷ 2年 = 2,000,000円
- 減価償却費のタックス・シールド:2,000,000円 × 30% = 600,000円
- 税引後営業キャッシュ・フロー:(20,000,000円 – 12,000,000円) × (1 – 0.3) = 8,000,000円 × 0.7 = 5,600,000円
- 年々のネット・キャッシュ・フロー:5,600,000円 + 600,000円 = 6,200,000円
- キャッシュ・フローの時系列と現在価値
- 0年度末: -4,000,000円 (設備G購入)
- 1年度末: 6,200,000円 × 0.9091 = 5,636,420円
- 2年度末: (6,200,000円 – 4,000,000円(再投資)) × 0.8264 = 2,200,000円 × 0.8264 = 1,818,080円
- 3年度末: 6,200,000円 × 0.7513 = 4,658,060円
- 4年度末: 6,200,000円 × 0.6830 = 4,234,600円
- 設備Gの正味現在価値:
百円未満を四捨五入し、12,347,200円
【設備Hを導入する案】(評価期間4年)
- 初期投資(0年度末): 取得原価 7,000,000円。
- 年々のキャッシュ・フロー:
- 年間売上収入:20,000,000円(設備Gと同様)
- 年間製造原価等の現金支出費用:12,500,000円
- 年間減価償却費:7,000,000円 ÷ 4年 = 1,750,000円
- 減価償却費のタックス・シールド:1,750,000円 × 30% = 525,000円
- 税引後営業キャッシュ・フロー:(20,000,000円 – 12,500,000円) × (1 – 0.3) = 7,500,000円 × 0.7 = 5,250,000円
- 年々のネット・キャッシュ・フロー:5,250,000円 + 525,000円 = 5,775,000円
- キャッシュ・フローの時系列と現在価値
- 0年度末: -7,000,000円 (設備H購入)
- 1~4年度末: 5,775,000円 × (0.9091 + 0.8264 + 0.7513 + 0.6830) = 5,775,000円 × 3.1698 = 18,284,805円
- 設備Hの正味現在価値:
百円未満を四捨五入し、11,284,800円
【両案の比較】 設備Gの正味現在価値 12,347,200円 > 設備Hの正味現在価値 11,284,800円 したがって、設備Gを導入する案の方が有利であると判断されます。
問5 問題解説
本問は、耐用年数が異なる設備投資案を比較する「反復投資しないケース」の問題です。この場合、耐用年数が短い設備Gのネット・キャッシュ・フローを、耐用年数が長い設備Hの評価期間(4年)にわたって、再投資率10%で再投資したと仮定して終価を計算し、その終価を現在価値に割り戻して比較します。
1. 設備Gの年々のネット・キャッシュ・フロー 問4の計算より、設備Gの年々のネット・キャッシュ・フローは6,200,000円でした。
2. 年々のネット・キャッシュ・フローの終価合計(4年後) 設備Gの投資期間は2年ですが、設備Hの評価期間である4年に合わせて、年々のキャッシュ・フローが10%の再投資率で運用された場合の4年後の終価を計算します。
- 1年度末の6,200,000円は、3年間再投資される。 \(6,200,000\text{円} \times (1.1)^3 = 6,200,000\text{円} \times 1.331 = 8,252,200\text{円}\)
- 2年度末の6,200,000円は、2年間再投資される。 \(6,200,000\text{円} \times (1.1)^2 = 6,200,000\text{円} \times 1.21 = 7,492,000\text{円}\)
- 4年後の終価合計: \(8,252,200\text{円} + 7,492,000\text{円} = 15,744,200\text{円}\)
3. 終価合計の現在価値換算 この4年後の終価を、資本コスト率10%で現在価値に割り戻します。
- \(15,744,200\text{円} \times 0.6830 = 10,753,090.6\text{円}\)
4. 設備Gの正味現在価値 初期投資額(0年度末の設備購入支出)と、年々のキャッシュ・フローの終価の現在価値を合計します。
- \(-4,000,000\text{円 (初期投資)} + 10,753,090.6\text{円 (終価の現在価値)} = 6,753,090.6\text{円}\) 千円未満を四捨五入し、6,753,000円
5. 両案の比較 設備Gの正味現在価値 6,753,000円 設備Hの正味現在価値 11,284,800円(問4の計算結果) したがって、設備Gの正味現在価値は設備Hよりも小さいため、このケースでは設備Hを導入する案の方が有利であると判断されます。
まとめ
- ポイント1: 設備投資意思決定は、新規投資、取替投資、拡張投資、耐用年数の異なる設備の比較に分類されます。特に取替投資と拡張投資は相互排他的な関係にあります。
- ポイント2: 取替投資の意思決定では、新設備導入による売上増加、設備稼働費の減少、現有設備の売却収入・売却損益が重要なキャッシュ・フロー要素となります。計算は総額法でも差額法でも同じ結論になります。
- ポイント3: 拡張投資では、現有設備と新設備の両方を利用することを前提とし、需要量と各設備の生産能力を考慮した**最適セールス・ミックス(生産量の最適な組み合わせ)**の検討が特に重要です。変動費の低い設備から優先的に生産します。
- ポイント4: 耐用年数の異なる設備を比較する際は、そのままでは公正な比較ができないため、必ず計算期間を揃える必要があります。同じ設備に繰り返し投資する「反復投資するケース」では、耐用年数の最小公倍数を比較期間とします。
- ポイント5: 「反復投資しないケース」では、短期の投資から生じる年々のネット・キャッシュ・フローを再投資率で将来価値に換算し、その将来価値を割引いて正味現在価値を計算することで、長期の投資と比較します。