問1
以下の資料に基づき、全社的な加重平均資本コスト率を求めなさい。なお、解答は小数点以下第2位までを求めること。
〔資料〕
- 調達源泉別の構成割合と税引前の資本コスト率
- 借入金:40%、税引前資本コスト率 7%
- 株式:50%、資本コスト率 15%
- 留保利益:10%、資本コスト率 11%
- 法人税等の税率:40%
問2
当社は新設備導入を検討している。以下の資料に基づき、正味現在価値法により、新設備を導入すべきか否かを判断しなさい。
〔資料〕
- 新設備に関するデータ
- 取得原価:7,000,000円(当期末(0年度末)に現金払い)
- 耐用年数:2年
- 製品の生産販売による年々のネット・キャッシュ・フロー
- 1年度末:4,000,000円
- 2年度末:4,500,000円
- 耐用年数到来時の売却見込額:1,000,000円
- 資本コスト率:10%
- 現在価値計算に用いる現価係数(割引率 10%)
- 1年:0.9091
- 2年:0.8264
- 法人税等は考慮しない。
問3
当社は現有設備の耐用年数到来に伴い、設備Aまたは設備Bのいずれかを導入することを検討している。以下の資料に基づき、正味現在価値法(総額法)により、どちらの設備を導入すべきか判断しなさい。
〔資料〕
- 資本コスト率:10%
- 現在価値計算に用いる現価係数(割引率 10%)
- 1年:0.9091
- 2年:0.8264
- 法人税等は考慮しない。
- 設備Aに関するデータ
- 取得原価:8,000,000円(当期末(0年度末)に現金払い)
- 年々のネット・キャッシュ・フロー(すべて現金収入)
- 1年度末:4,000,000円
- 2年度末:5,000,000円
- 耐用年数:2年(売却見込みなし)
- 設備Bに関するデータ
- 取得原価:9,000,000円(当期末(0年度末)に現金払い)
- 年々のネット・キャッシュ・フロー(すべて現金収入)
- 1年度末:5,000,000円
- 2年度末:5,000,000円
- 耐用年数:2年(売却見込みなし)
問4
当社は新設備導入を検討している。以下の資料に基づき、収益性指数法により、新設備を導入すべきか否かを判断しなさい。
〔資料〕
- 新設備に関するデータ
- 取得原価:3,000,000円(当期末(0年度末)に現金払い)
- 耐用年数:1年
- 製品の生産販売による年々のネット・キャッシュ・フロー
- 1年度末:6,600,000円
- 資本コスト率:10%
- 現在価値計算に用いる現価係数(割引率 10%)
- 1年:0.9091
- 法人税等は考慮しない。
問5
次の意思決定会計に関する記述のうち、空欄(ア)~(エ)に当てはまる適切な語句を選択肢から選びなさい。
意思決定会計における会計単位は(ア)であり、会計期間は(イ)となる。損益計算は(ウ)に基づいて行われ、主要な評価方法では貨幣の(エ)を考慮する。
〔選択肢〕
- A. 企業全体
- B. 各設備投資案
- C. 1年ごと
- D. 各設備投資案の開始から終了まで
- E. 発生主義
- F. 現金収支
- G. 時間価値
- H. 物価変動
問1
10.28%
問2
正味現在価値(NPV):1,181,600円 判断:新設備を導入すべきである。
問3
設備Aの正味現在価値(NPV_A):-231,600円 設備Bの正味現在価値(NPV_B):-322,500円 判断:設備Aを導入すべきである。
問4
収益性指数(PI):2.00 判断:新設備を導入すべきである。
問5
- (ア)B. 各設備投資案
- (イ)D. 各設備投資案の開始から終了まで
- (ウ)F. 現金収支
- (エ)G. 時間価値
設備投資意思決定の基本と評価方法
本章では、企業が長期的な視点で行う重要な意思決定の一つである「設備投資意思決定」について深く学んでいきます。このテーマは、簿記1級の試験で頻繁に出題される論点であり、しっかりと理解することが合格への大きな一歩となります。
1. 設備投資意思決定とは?
設備投資意思決定とは、企業が生産設備の新設や既存設備の取替など、長期にわたる大規模な投資を行うべきか否か、あるいは複数の投資案の中からどれを選択すべきかを判断するプロセスを指します。これは企業の基本的な「構造的意思決定」の代表例です。例えば、「新しい工場を建設するか?」「古い機械を最新式のものに交換するか?」といった問いに対し、将来の利益やキャッシュ・フローを予測し、最適な選択を行うことが求められます。
様々なパターンがあり、ある設備投資を行うべきか否かを判断するケースや、2つの設備投資案のうちどちらに投資すべきかを比較検討するケースなどがあります。
2. 設備投資意思決定会計の4つの特徴
設備投資意思決定のための会計(意思決定会計)には、財務会計とは異なる大きな4つの特徴があります。これらの特徴を理解することが、適切な意思決定を行う上で非常に重要です。
(1) 会計単位
財務会計における会計単位は、企業全体(個別会計)や企業グループ全体(連結会計)です。したがって、財務会計では会社全体の損益や企業集団の損益を計算します。
これに対し、意思決定会計の会計単位は**「各設備投資案」**となります。つまり、個々の設備投資案そのものがどれだけの損益を生み出すのかを計算の対象とします。
(2) 会計期間
財務会計では、企業の継続を前提としているため、通常、1年や半年、3ヶ月といった予め定められた一定期間で区切って会計処理を行います。
一方、意思決定会計の会計期間は、**「各設備投資案の開始から終了までの期間」**です。設備投資は通常、長期間にわたることが多いため、その期間全体を一区切りとして扱います。したがって、期間を人為的に区切る必要はなく、会計期間は「1回限り」となります。
(3) 損益計算方法
財務会計では、上記の会計期間に基づいて「期間損益計算」を行い、収益と費用を対応させる「発生主義会計」が用いられます。例えば、減価償却費や前払費用のように、現金収支を伴わない取引でも、その期間に発生した費用として計上します。
これに対して、意思決定会計の損益計算は**「全体損益計算」によって行われます。これは、設備投資の開始から終了までの全期間を通じて、「現金収入と現金支出の差額」**によって損益を計算する方法です。発生主義会計の考え方は適用されず、あくまで現金(キャッシュ)の動きに焦点を当てます。
意思決定会計では、現金収入額をキャッシュ・イン・フロー、現金支出額をキャッシュ・アウト・フローと呼びます。そして、キャッシュ・イン・フローからキャッシュ・アウト・フローを差し引いた残額を**純現金流入額(ネット・キャッシュ・フロー)**と呼びます。
(4) 貨幣の時間価値の考慮
財務会計においても、減損損失や資産除去債務、リース資産の計上など、一部で貨幣の時間価値を考慮した「割引現在価値」の計算が取り入れられています。
意思決定会計では、設備投資の期間が長期にわたるため、投資案を評価する主要な方法では必ず貨幣の時間価値を考慮します。これは、将来受け取る100万円と現在受け取る100万円では価値が異なる(現在の100万円の方が価値が高い)という考え方に基づいています。具体的には、将来のキャッシュ・フローを資本コスト率という割引率を用いて現在の価値(現在価値)に換算してから評価を行います。この計算には、「正味現在価値法」や「内部利益率法」などが該当します。
3. 資本コストの理解
資本コストは、設備投資意思決定において重要な「割引率」として機能します。
資本コストとは、企業が事業活動に必要な資本(資金)を調達するためにかかるコストのことです。企業は、銀行からの借入や株式の発行などによって資金を調達し、その資金を使って設備投資を行います。資金の提供者に対しては、その対価として利息や配当金などを支払う必要がありますが、この支払いが資本コストに該当します。
- 他人資本コスト: 銀行からの借入金など、外部から調達した資金にかかるコスト(例:支払利息)。
- 自己資本コスト: 新株発行や利益留保など、企業内部で調達した資金にかかるコスト(例:配当金)。
(1) 資本コスト率の役割
資本コスト率とは、資本調達額に対する資本コストの割合を示します。企業が調達した資本を使って設備投資を行う場合、少なくともこの資本コスト率を上回る利益を得られなければ、その投資は失敗となります。
このため、資本コスト率は、**「設備投資案に最低限求められる投下資本利益率(最低所要投下資本利益率)」として機能し、採算性の低い(資本コスト率を下回る)設備投資案を却下するための「切捨率」**としての役割を果たします。
例えば、資本コスト率が年利10%で100万円を調達して設備投資を行う場合、その投資によって年10%を超える利益が得られなければ、資金調達のコストを賄いきれず赤字になってしまいます。
(2) 資本コスト率の計算(加重平均資本コスト率)
資本コスト率は、通常、**全社的な「加重平均資本コスト率(WACC: Weighted Average Cost of Capital)」**として計算されます。これは、複数の調達源泉(借入金、株式、留保利益など)から資金を調達している場合に、それぞれの調達額の割合に応じて平均値を算出したものです。
計算の際には、以下の点に注意が必要です。
- 他人資本(借入金)の資本コスト率: 支払利息などの他人資本にかかるコストは、税法上「損金算入」されるため、法人税等の支払いを減らす効果があります。この税金軽減効果を考慮し、「税引後」の資本コスト率を用います。
- 計算式: 税引後の資本コスト率 = 税引前の資本コスト率 × (1-税率)
- 自己資本(株式、留保利益)の資本コスト率: 配当金などの自己資本にかかるコストは、損金算入されないため、法人税等の影響は考慮しません。問題で与えられた資本コスト率をそのまま用います。
- 留保利益は、株主に配当されずに企業内に残された利益(利益剰余金)ですが、これにも資本コストを考慮します。これは、もしこの留保利益を他の投資機会に投じていれば得られたはずの利益を「機会原価」として捉えるためです。
最終的な加重平均資本コスト率は、各調達源泉の税引後資本コスト率に、総資本に対する各調達源泉の構成割合を乗じて合計することで算出されます。
4. 正味現在価値法 (NPV法)
正味現在価値法(NPV法: Net Present Value Method)は、設備投資案の評価方法の中で最も重要とされる方法です。
正味現在価値(NPV)は、投資によって将来生じる年々のネット・キャッシュ・フローの現在価値の合計から、投資に必要なキャッシュ・アウト・フロー(初期投資額など)の現在価値の合計を差し引いて計算されます。
\(正味現在価値 = \text{投資によって生じる年々のネット・キャッシュ・フローの現在価値合計} – \text{投資に必要なキャッシュ・アウト・フローの現在価値合計}\)
計算された正味現在価値がプラス(正)であれば、その設備投資案は利益を生む採算性のある案であると判断され、採用すべきとされます。逆に、マイナス(負)であれば損失を生じる案であるため、採用すべきではないと判断されます。
正味現在価値がプラスであるということは、その設備投資案が、資本コスト率と同じ利益率の投資案(例えば銀行預金など)と比較して、追加でどれだけの利益を生み出すかを示しています。つまり、正味現在価値は、資本コスト率を超える利益率によって生み出される「差額利益」を意味しているのです。
5. 正味現在価値法による設備投資案の比較
複数の設備投資案を検討する場合、それが「独立投資案」なのか「相互排他的投資案」なのかを区別することが重要です。
(1) 独立投資案
独立投資案とは、ある投資案の採否が他の投資案の採否に影響を与えないものを指します。例えば、新しい生産ラインAの導入と、既存設備の省エネ化Bが全く関係なく検討されるようなケースです。
この場合、それぞれの投資案について独立して正味現在価値を計算し、NPVがプラスであれば採用、マイナスであれば却下という判断を個別に行えばよいことになります。
(2) 相互排他的投資案
相互排他的投資案とは、複数の投資案のうち、どれか一つしか採用できないものを指します。例えば、老朽化した既存設備を交換する際に、新設備Aと新設備Bのどちらか一方しか選べないようなケースです。
この場合、単にそれぞれのNPVがプラスかどうかを見るだけでなく、複数の案を比較して、最も有利な案を選択する必要があります。比較方法としては、すべての収益と原価を考慮する「総額法」と、投資案間で異なる収益・原価のみを考慮する「差額法」があります。
- 関連収益・関連原価: 複数の投資案間で金額が異なる収益や原価のこと。意思決定に影響を与えるため、比較計算に含めます。
- 無関連収益・無関連原価: 複数の投資案間で金額が同額で、意思決定に影響を与えない収益や原価のこと。比較計算から除外しても最終的な判断結果は変わりませんが、個別の投資案のNPVを問う場合は含めて計算します。
6. 収益性指数法 (PI法)
収益性指数法(PI法: Profitability Index Method)は、正味現在価値法と非常によく似た評価方法です。
収益性指数(PI)は、投資によって生じる年々のネット・キャッシュ・フローの現在価値合計を、投資に必要なキャッシュ・アウト・フローの現在価値合計で割って計算します。
\(収益性指数 = \frac{\text{投資によって生じる年々のネット・キャッシュ・フローの現在価値合計}}{\text{投資に必要なキャッシュ・アウト・フローの現在価値合計}}\)
正味現在価値法が「現在価値の差額」を見るのに対し、収益性指数法は「現在価値の比率」を見る点に違いがありますが、計算要素は全く同じです。
評価基準は、計算された収益性指数の値が1より大きければ、その設備投資案は利益を生む案であるため、採用すべきと判断されます。1より小さければ損失を生む案であるため、採用すべきではないと判断されます。
相互排他的投資案を比較する際には、収益性指数が大きい方をより有利な案と判断します。
【問題解説】
問1:全社的な加重平均資本コスト率の計算
この問題では、企業が複数の資金源から資本を調達している場合の、全体としての資本コスト率を計算します。これを全社的な加重平均資本コスト率(WACC)と呼びます。
計算のポイントは、他人資本(借入金)の資本コスト率を計算する際に、法人税の影響を考慮する点です。支払利息は損金算入されるため、税金支払いを減らす効果(タックスシールド)があります。したがって、借入金の資本コストは税引後で考える必要があります。自己資本(株式、留保利益)の資本コストは損金算入されないため、税引前と税引後の区別なく、与えられた資本コスト率をそのまま用います。
解法手順:
- 借入金の税引後資本コスト率を計算する。
- 税引前資本コスト率 × (1 – 法人税率) で求めます。
- 各調達源泉の構成割合と対応する税引後資本コスト率を掛け合わせる。
- それらを合計して、全社的な加重平均資本コスト率を算出する。
計算の背景:
加重平均資本コスト率は、企業が新たに資金を調達する際に、その資金をどれだけの割合で(例えば、借入金と株式で)調達するかを考慮した平均コストです。この率は、設備投資の採否を判断する際の「最低限クリアすべきハードル」となります。このハードルを下回る投資は、資本調達コストすら賄えない、と判断されるためです。
\(借入金の税引後資本コスト率 = 7% \times (1 – 0.40) = 7% \times 0.60 = 4.2%\)
\(加重平均資本コスト率 = (4.2% \times 0.40) + (15% \times 0.50) + (11% \times 0.10)\) \(= 1.68% + 7.50% + 1.10% = 10.28%\)
問2:正味現在価値法による単独投資案の採否判断
この問題は、単一の設備投資案の採否を正味現在価値法(NPV法)を用いて判断するものです。NPV法では、将来のキャッシュ・フローを現在の価値に割り引いて評価します。
解法手順:
- 各年度のネット・キャッシュ・フローを把握する。
- 1年度末は製品販売によるキャッシュ・フローのみ。
- 2年度末は製品販売によるキャッシュ・フローと設備の売却見込額の合計。
- 各年度のネット・キャッシュ・フローを、与えられた資本コスト率(割引率)と現価係数を用いて現在価値に換算する。
- 換算したネット・キャッシュ・フローの現在価値の合計額を計算する。
- 現在価値の合計額から、初期投資に必要なキャッシュ・アウト・フロー(取得原価)を差し引いて、正味現在価値(NPV)を計算する。
- 初期投資額はすでに現在時点の金額であるため、割引計算は不要です。
- 計算されたNPVがプラスかマイナスかで採否を判断する。
計算の背景:
正味現在価値法は、企業が設定した資本コスト率(最低限確保すべき収益率)を上回る利益をその投資案が生み出すかどうかを数値で示します。NPVがプラスであれば、その投資案は資本コストを上回る価値を企業にもたらすと判断できます。逆にマイナスであれば、その投資を行うことで企業の価値が減少すると判断されるため、投資すべきではありません。この問題では、キャッシュ・イン・フローとキャッシュ・アウト・フローを明確に区別し、それぞれの現在価値を正確に計算する力が試されます。
\(\text{1年度末のネット・キャッシュ・フローの現在価値} = 4,000,000円 \times 0.9091 = 3,636,400円\)
\(\text{2年度末のネット・キャッシュ・フロー(製品販売+売却見込額)} = 4,500,000円 + 1,000,000円 = 5,500,000円\)
\(\text{2年度末のネット・キャッシュ・フローの現在価値} = 5,500,000円 \times 0.8264 = 4,545,200円\)
\(\text{ネット・キャッシュ・フローの現在価値合計} = 3,636,400円 + 4,545,200円 = 8,181,600円\)
\(\text{正味現在価値 (NPV)} = 8,181,600円 – 7,000,000円 = 1,181,600円\)
NPVは1,181,600円とプラスであるため、新設備を導入すべきであると判断できます。
問3:正味現在価値法による相互排他的投資案の比較
この問題は、複数の設備投資案(設備Aと設備B)の中から、最も有利なものを選択するケースです。これらの投資案は相互排他的であるため、両方を採用することはできません。総額法を用いて比較します。
解法手順:
- 設備Aについて、各年度のネット・キャッシュ・フローの現在価値を計算する。
- 初期投資額(取得原価)は0年度末のキャッシュ・アウト・フローとして現在価値で考慮する。
- 1年度末、2年度末のネット・キャッシュ・フローをそれぞれの現価係数で現在価値に割り引く。
- 設備Aの正味現在価値(NPV_A)を計算する。
- ネット・キャッシュ・フローの現在価値合計から、初期投資額を差し引く。
- 同様に、設備Bについても各年度のネット・キャッシュ・フローの現在価値を計算し、正味現在価値(NPV_B)を計算する。
- 設備Aと設備BのNPVを比較し、より大きい(有利な)方の設備を導入すべきと判断する。
計算の背景:
相互排他的投資案の比較では、たとえどちらのNPVがマイナスであったとしても、どちらか一方を選ばなければならない場合があるため、NPVの大小で判断します。正味現在価値は、その投資案が企業にどれだけの価値を加えるかを示すため、より大きなプラスのNPV、またはより小さいマイナスのNPVを持つ案が、企業にとってより有利な選択肢となります。この問題では、それぞれの設備投資がもたらすキャッシュ・フローと初期投資額を正確に現在価値に換算し、比較する能力が問われます。
設備Aの計算:
\(\text{1年度末のネット・キャッシュ・フローの現在価値} = 4,000,000円 \times 0.9091 = 3,636,400円\)
\(\text{2年度末のネット・キャッシュ・フローの現在価値} = 5,000,000円 \times 0.8264 = 4,132,000円\)
\(\text{設備Aのネット・キャッシュ・フローの現在価値合計} = 3,636,400円 + 4,132,000円 = 7,768,400円\)
\(\text{設備Aの正味現在価値 (NPV_A)} = 7,768,400円 – 8,000,000円 = -231,600円\)
設備Bの計算:
\(\text{1年度末のネット・キャッシュ・フローの現在価値} = 5,000,000円 \times 0.9091 = 4,545,500円\)
\(\text{2年度末のネット・キャッシュ・フローの現在価値} = 5,000,000円 \times 0.8264 = 4,132,000円\)
\(\text{設備Bのネット・キャッシュ・フローの現在価値合計} = 4,545,500円 + 4,132,000円 = 8,677,500円\)
\(\text{設備Bの正味現在価値 (NPV_B)} = 8,677,500円 – 9,000,000円 = -322,500円\)
比較判断:
設備AのNPVが-231,600円、設備BのNPVが-322,500円です。 \(-231,600円 (NPV_A) > -322,500円 (NPV_B)\) NPV_Aの方が大きいため、設備Aを導入すべきであると判断できます。
問4:収益性指数法による単独投資案の採否判断
この問題は、収益性指数法(PI法)を用いて単一の設備投資案の採否を判断するものです。PI法は、将来のキャッシュ・フローの現在価値と初期投資額の比率を見ることで、投資の効率性を評価します。
解法手順:
- 将来のネット・キャッシュ・フローの現在価値を計算する。
- 1年度末のキャッシュ・フローを現価係数で現在価値に割り引く。
- 投資に必要なキャッシュ・アウト・フロー(初期投資額)を把握する。
- 初期投資額はすでに現在時点の金額である。
- 将来のネット・キャッシュ・フローの現在価値を、初期投資に必要なキャッシュ・アウト・フローで割って、収益性指数(PI)を計算する。
- 計算されたPIが1より大きいか小さいかで採否を判断する。
計算の背景:
収益性指数は、投資した1円あたりどれだけの現在価値が得られるかを示す指標です。PIが1より大きいということは、投資額よりも大きな現在価値が期待できることを意味し、企業価値を高める投資であると判断できます。NPV法が「絶対額」で評価するのに対し、PI法は「相対的な効率性」を示すため、投資資金に制約がある場合に特に有効です。この問題では、PIの計算方法とその評価基準を正確に理解しているかが問われます。
\(\text{1年度末のネット・キャッシュ・フローの現在価値} = 6,600,000円 \times 0.9091 = 6,000,060円\)
\(\text{収益性指数 (PI)} = \frac{6,000,060円}{3,000,000円} \approx 2.00\)
PIは2.00であり、1より大きいため、新設備を導入すべきであると判断できます。
問5:意思決定会計に関する基礎知識
この問題は、意思決定会計の基本的な特徴に関する理解を問うものです。各空欄に当てはまる適切な語句を選択肢から選ぶことで、意思決定会計と財務会計との違いを整理する狙いがあります。
解法手順:
- 意思決定会計における「会計単位」の定義を思い出す。
- 意思決定会計における「会計期間」の定義を思い出す。
- 意思決定会計における「損益計算方法」の原則を思い出す。
- 意思決定会計の主要な評価方法で「考慮される貨幣の価値」について思い出す。
- それぞれの空欄に最も適した選択肢を選ぶ。
解説の背景:
簿記1級の意思決定会計は、財務会計とは異なる独自の考え方に基づいています。特に「現金主義」と「貨幣の時間価値」の概念は、将来のキャッシュ・フローを評価する上で非常に重要です。これらの基本概念をしっかりと押さえることが、より複雑な計算問題に取り組む上での土台となります。本問を通じて、意思決定会計の基礎を再確認することができます。
- 会計単位: 財務会計が「企業全体」であるのに対し、意思決定会計は「各設備投資案」を単位とします。
- 会計期間: 財務会計が「1年ごと」などの一定期間であるのに対し、意思決定会計は「各設備投資案の開始から終了まで」という長期かつ一回限りの期間を対象とします。
- 損益計算方法: 財務会計が「発生主義」であるのに対し、意思決定会計は「現金収支」に基づいて損益を計算します。
- 貨幣の価値: 長期的な投資であるため、「貨幣の時間価値」を主要な評価方法では必ず考慮します。
まとめ
- ポイント1:意思決定会計の特徴を理解する
- 会計単位は各設備投資案、会計期間は各設備投資案の開始から終了まで、損益計算は現金収支に基づきます。
- 長期間にわたるため、貨幣の時間価値を考慮することが主要な評価方法で不可欠です。
- ポイント2:資本コストは資金調達の対価
- 資本コストは資金調達にかかるコストであり、設備投資案の**最低所要投下資本利益率(切捨率)**となります。
- 通常は加重平均資本コスト率として計算され、他人資本のコストは税引後で考慮します。
- ポイント3:正味現在価値法(NPV法)が最重要
- 投資によって生じるネット・キャッシュ・フローの現在価値合計から、投資に必要なキャッシュ・アウト・フローの現在価値合計を差し引いて計算します。
- 正味現在価値がプラス(>0)であれば採用、マイナス(<0)であれば却下と判断します。
- NPVは、資本コスト率と同じ利益率の投資案と比べたときの差額利益を意味します。
- ポイント4:複数の投資案比較では区別が重要
- 独立投資案は各々独立してNPVがプラスか否かで判断します。
- 相互排他的投資案は複数の案から一つを選択するため、総額法や差額法を用いて最も有利な案を比較検討します。この際、関連収益・原価と無関連収益・原価の区別が重要です。
- ポイント5:収益性指数法(PI法)はNPV法とセット
- ネット・キャッシュ・フローの現在価値合計を投資に必要なキャッシュ・アウト・フローの現在価値合計で割って計算します。
- 収益性指数が1より大きい(>1)であれば採用、1より小さい(<1)であれば却下と判断します。
- 相互排他的投資案では、PIが大きい方を選択します。