工業簿記と製品原価計算の基礎と全体像

問題 <の仕訳 >

問1:仕訳問題(製造原価の記帳)

次の当月の取引について、必要な仕訳を完成させなさい。勘定科目は、材料、賃金、経費、製造間接費、仕掛品、製品、売上原価から選択すること。

  1. 当月の直接材料費の消費額は \(¥ 800\) であった。
  2. 当月の間接労務費の発生額は \(¥ 250\) であった。
  3. 当月の製造間接費の実際発生額は \(¥ 900\) であり、これを製品に配賦した。
  4. 製造指図書#201の製品が完成し、その原価は \(¥ 1,500\) であった。
  5. 製造指図書#202の製品(原価 \(¥ 1,000\))を販売した。

問2:計算問題(原価の本質と非原価項目)

以下の当月のデータに基づき、当期の「正常な」製造原価の総額を計算しなさい。

  • 直接材料費: \(¥ 1,200\)
  • 直接労務費: \(¥ 800\)
  • 間接費合計: \(¥ 1,500\)
  • 工場火災による損失: \(¥ 300\) (原材料が焼失)
  • 借入金利息: \(¥ 100\)
  • 設備売却損: \(¥ 50\)
  • 通常範囲内の棚卸減耗費(製造関連): \(¥ 20\)

問3:選択肢問題(原価計算の目的)

原価計算の目的に関する以下の記述のうち、最も適切なものを一つ選びなさい。

ア. 原価計算の目的は、製品の原価を計算することのみに限定される。 イ. 財務会計目的の原価計算は、主に企業内部の経営管理者に情報を提供することを目的とする。 ウ. 管理会計目的の原価計算は、原価管理、利益管理、意思決定などに必要な情報提供を目的とする。 エ. 『原価計算基準』は、原価計算の慣行を要約したものではなく、法的な拘束力を持つ強制規範である。

問4:仕訳問題(部門別計算の勘定連絡)

部門別計算を実施している以下の当月の取引について、必要な仕訳を完成させなさい。勘定科目は、製造間接費、第1製造部門費、第2製造部門費、仕掛品から選択すること。

  1. 当月の製造間接費の実際発生額 \(¥ 1,800\) のうち、第1製造部門に \(¥ 1,000\)、第2製造部門に \(¥ 800\) が集計された。
  2. 第1製造部門費 \(¥ 1,000\) を製品に配賦した。
  3. 第2製造部門費 \(¥ 800\) を製品に配賦した。

問5:計算問題(製造原価報告書への影響)

以下のデータに基づき、製造原価報告書に記載される「当期製品製造原価」の金額を計算しなさい。

  • 期首仕掛品棚卸高: \(¥ 400\)
  • 当期総製造費用: \(¥ 3,500\)
  • 期末仕掛品棚卸高: \(¥ 600\)
  • 製造に関係のない本社費: \(¥ 200\)
  • 異常な原因で発生した棚卸減耗費(仕掛品): \(¥ 50\)


<答え>

問1:仕訳問題(製造原価の記帳)

借方科目金額貸方科目金額
仕掛品800材料800
製造間接費250賃金250
仕掛品900製造間接費900
製品1,500仕掛品1,500
売上原価1,000製品1,000

問2:計算問題(原価の本質と非原価項目)

  • 計算式: 直接材料費 \(+\) 直接労務費 \(+\) 間接費合計 \(+\) 通常範囲内の棚卸減耗費 \(=\) 正常な製造原価の総額 \(¥ 1,200 + ¥ 800 + ¥ 1,500 + ¥ 20 = ¥ 3,520\)
  • 解答: \(¥ 3,520\)

問3:選択肢問題(原価計算の目的)

問4:仕訳問題(部門別計算の勘定連絡)

借方科目金額貸方科目金額
第1製造部門費1,000製造間接費1,800
第2製造部門費800
仕掛品1,000第1製造部門費1,000
仕掛品800第2製造部門費800

問5:計算問題(製造原価報告書への影響)

  • 計算式: 期首仕掛品棚卸高 \(+\) 当期総製造費用 \(–\) 期末仕掛品棚卸高 \(–\) 異常な原因で発生した棚卸減耗費 \(=\) 当期製品製造原価 \(¥ 400 + ¥ 3,500 – ¥ 600 – ¥ 50 = ¥ 3,250\)
  • 解答: \(¥ 3,250\)

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製品原価計算の基本と応用

1. 工業簿記と原価計算の基礎

工業簿記は、製品の製造・販売を主な経営目的とする企業、すなわち製造業における簿記のことです。商業簿記が商品の仕入れと販売を記録するのに対し、工業簿記は製品を「製造」する過程を詳細に記帳することに大きな特徴があります。この製造活動の記録の中心となるのが「原価計算」です。原価計算は、単に製品の原価を計算するだけでなく、経営管理に役立つ多様な情報を提供する重要な役割を担っています。

1-1. 原価計算の目的:財務会計目的と管理会計目的

原価計算の目的は、大きく分けて「財務会計目的」「管理会計目的」の2つがあります。

  • 財務会計目的の原価計算 これは主に企業外部の利害関係者(投資家、株主、取引先など)に対して、企業の財務に関する情報を提供するためのものです。具体的には、決算時に作成される財務諸表(貸借対照表や損益計算書など)に表示する製品や仕掛品の金額、売上原価の金額などを正確に計算することが主な目的となります。
  • 管理会計目的の原価計算 こちらは、企業内部の経営管理者に対して、その経営管理に役立つ情報を提供することを目的としています。例えば、以下のような場面で活用されます。
    • 原価管理: 製品の標準原価を設定し、実際の原価と比較することで、原価の差異を分析し、効率的な生産活動を促進するための情報を提供します。
    • 利益管理: CVP分析(コスト・ボリューム・プロフィット分析)や予算と実績の比較などを通じて、利益計画の策定や達成度合いの評価に必要な情報を提供します.
    • 意思決定: 新しい設備の導入や製品ラインナップの変更、部品の自製か外注かといった、経営の重要な意思決定を行う際に、比較検討のための原価情報を提供します。

これらは、『原価計算基準』という、1962年に公表された原価計算に関する会計基準にも明記されています。これは企業における原価計算の慣行の中から、一般に公正妥当と認められる内容を要約した「実践規範」であり、試験でもその内容が問われることがあります。

1-2. 原価計算の分類

原価計算は、その実施方法や目的によって様々な視点から分類されます。

  1. 原価計算制度と特殊原価調査  原価計算は、常時継続的に行われるかどうかによって、原価計算制度特殊原価調査に分けられます。
    • 原価計算制度: 財務諸表作成、原価管理、利益管理といった経常的な目的のために、工業簿記とセットで常時継続的に行われる原価計算です。日常の業務として毎日行われるイメージです。
    • 特殊原価調査: 意思決定といった臨時的な目的のために、必要に応じて随時断片的に行われる原価計算です。例えば、特定の投資案件の採否を検討する際に、その都度、関連原価や機会原価といった特殊な原価概念を用いて行われます。
  2. 実際原価計算と標準原価計算  製品原価を計算する際のアプローチによって分類されます。
    • 実際原価計算: 製品原価を、実際に発生した原価(実際発生額)に基づいて計算する方法です。
    • 標準原価計算: 製品原価を、あらかじめ設定された目標額である標準原価に基づいて計算する方法です。こちらは原価管理の目的で特に重要になります。
  3. 全部原価計算と直接原価計算  製品原価に含める原価の範囲によって分類されます。
    • 全部原価計算: 製品原価を、変動製造原価と固定製造原価のすべての製造原価によって計算する方法です。財務諸表作成において一般的に用いられます。
    • 直接原価計算: 製品原価を、変動製造原価のみによって計算する方法です。固定製造原価は期間費用として処理され、主に利益管理や意思決定に活用されます。
  4. 個別原価計算と総合原価計算  生産形態の違いによって分類されます。
    • 個別原価計算: 顧客の注文に応じて異なる製品を個別に生産する形態(個別受注生産形態)に適用されます。例えば、建築業や造船業など、一つ一つの製品が異なる場合に、製造指図書別に原価を集計します。
    • 総合原価計算: 同一規格の製品を大量に連続生産する形態(見込大量生産形態)に適用されます。例えば、食品加工業や自動車製造業など、同じ製品を大量に作る場合に、一定期間の生産量を対象に原価を集計します。

これら2〜4の分類は、それぞれから1つずつ選択することで、製品原価計算の8通りの組み合わせが生まれます。問題演習を行う際には、どの組み合わせで計算を行うのかをまず確認することが、正確な解答への第一歩となります。

2. 原価の本質:その定義と性質

では、「原価」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。『原価計算基準』では、原価を「経営における一定の給付にかかわらせて、把握された財貨又は用役(以下これを「財貨」という。)の消費を、貨幣価値的に表わしたものである」と定義しています。この定義を分解すると、原価は次の4つの性質を持つことがわかります。

  1. 経済価値の消費: 原価とは、物品やサービスなど、経済的な価値を持つものが消費された金額を指します。例えば、製品を作るために材料を使えば、その材料費は経済価値の消費にあたります。
  2. 給付にかかわらせて把握: 「給付」とは、製品の完成品や月末仕掛品などを指します。原価は、特定の製品や半製品などを生み出すために、いくら費用がかかったかを集計するものです。製品と直接的または間接的に関連しない費用は、原価とはなりません。
  3. 経営目的に関連: 原価は、製品を生産し販売するという企業の経営活動に直接関連するものでなければなりません。例えば、借入金に対する支払利息は費用ではありますが、製品の生産・販売とは直接関係しないため、原価には含まれません。
  4. 正常性: 原価は、正常な状態での経営活動で発生した経済価値の消費である必要があります。例えば、工場で発生した火災による損失や、通常よりも多額の棚卸減耗費のように、異常な原因で発生したものは原価には含まれません。これら原価とならない項目は**「非原価項目」**と呼ばれます。その他、長期休止中の設備の減価償却費や固定資産の売却損なども非原価項目となります。

これらの性質を理解することは、何が原価になり、何がならないのかを判断する上で非常に重要です。

3. 原価の分類:多角的な視点

製造原価は、その発生の仕方や製品との関連性など、様々な視点から分類することができます。これは工業簿記・原価計算を学習する上で、最も基本的な知識の一つであり、今後のあらゆる学習場面で必要となります。

3-1. 形態別分類

これは、製品の製造過程で「何を消費したか」による分類です。製造原価は、この分類により材料費、労務費、経費の3つに分けられます。

  • 材料費: 物品を消費したことによる原価(例: 製品の主原料、補助材料など)。
  • 労務費: 労働力を消費したことによる原価(例: 工員への給料、手当など)。
  • 経費: 物品や労働力以外を消費したことによる原価(例: 工場の水道光熱費、減価償却費、消耗品費など)。

3-2. 製品との関連における分類

これは、「一定の製品のためにかかったことが直接的に(はっきりと)わかるかどうか」による分類です。

  • 製造直接費: 特定の製品のために直接消費されたことが明確にわかる原価です。例えば、自動車のタイヤやエンジン、ある製品を製造した特定の工員の賃金などです。
  • 製造間接費: 特定の製品のために直接消費されたのかが明確にはわからない原価です。例えば、工場全体の減価償却費、複数の製品に共通して使われる消耗品費、工場長の給料などです。これらは後で何らかの基準で各製品に配賦(割り振り)されます。

3-3. 操業度との関連における分類

これは、「操業度(生産量や稼働時間など)の増減に対して、原価がどのように発生するか」による分類です。

  • 変動費: 操業度の増減に比例して増減する原価です。例えば、製品1個あたりに必要な直接材料費のように、たくさん作ればその分だけ多く発生します。
  • 固定費: 操業度の増減にかかわらず、一定額発生する原価です。例えば、工場の減価償却費や賃貸料、工場長の給料のように、製品を全く作らなくても発生します。
  • 準変動費: 操業度がゼロでも一定額(基本料金)が発生し、加えて操業度の増加に応じて比例的に増加する原価です。水道光熱費の基本料金と従量料金がこれにあたります。
  • 準固定費: ある範囲内の操業度では固定的ですが、その範囲を超えると急増し、再び固定化する原価です。例えば、監督者やフォークリフトの台数が増える際に、一定の生産量までは人数や台数は変わらないが、それを超えると急に増える、といったケースが該当します。

これらの分類を理解することで、原価がどのような性質を持っているのかを多角的に捉え、適切な管理や意思決定に役立てることができます。

4. 製品原価計算の手続きと勘定連絡

工業簿記では、製品原価計算を特定の「手続き」に沿って行い、それに合わせて勘定への記帳(仕訳、勘定記入)が行われます。この手続きと、それに伴う勘定間のつながり(勘定連絡)を理解することは、工業簿記の学習における土台となります。

製品原価計算の主な手続きは、以下の3つの段階に分けられます。

  1. 費目別計算(第1の手続き) これは、製品の製造のために消費された原価を、形態別に「材料費」「労務費」「経費」として集計する手続きです。具体的な材料の消費や賃金の発生、経費の支払いといった個々の費用の発生源を明確にし、これをそれぞれの勘定(材料勘定、賃金勘定、経費勘定など)に集計します。
  2. 部門別計算(第2の手続き) この手続きでは、主に製造間接費を各製造部門に集計し、その後、各製造部門費を製品に配賦します。部門別計算を行う目的は、主に以下の2つです。
    • 製品原価のより正確な計算: 各製造部門の特性に合わせて適切な配賦基準(例えば、機械稼働時間や直接作業時間など)を選択することで、各製品が負担すべき製造間接費をより正確に計算できます。
    • 原価管理: 各製造部門の責任範囲を明確にし、その部門で発生した原価を管理することで、無駄の削減や効率性の向上を図ることができます。例えば、部門長が自身の部門の原価に責任を持つことで、原価意識が高まります。 小規模な企業では、この部門別計算が省略されることもありますが、1級の学習では重要な論点です。
  3. 製品別計算(第3の手続き) この最終段階では、費目別計算や部門別計算を通じて集計・配賦された原価を、個々の製品ごとに集計します。具体的には、**完成した製品の原価(完成品原価)**や、期末にまだ製造中の製品の原価(月末仕掛品原価)を計算します。

これらの手続きは、それぞれが仕掛品勘定や製造間接費勘定といった主要な勘定科目と密接に連携しています。例えば、直接材料費や製造間接費は「仕掛品」勘定へ振り替えられ、完成した製品の原価は「仕掛品」勘定から「製品」勘定へ、そして販売された製品の原価は「製品」勘定から「売上原価」勘定へと流れていきます。この一連の流れを図示したものが「勘定連絡図」であり、工業簿記の全体像を把握する上で非常に役立ちます。

5. 工業簿記における財務諸表

工業簿記の学習の最終目標の一つは、企業内部の製造活動を財務諸表に反映させることです。工業簿記によって作成される主な財務諸表は、商業簿記と同様に損益計算書、貸借対照表、そして工業簿記に特有の製造原価報告書の3つです。

5-1. 損益計算書

商業簿記の損益計算書と大きく異なる点は、売上原価の表示方法です。 商業簿記では、「期首商品棚卸高」「当期商品仕入高」「期末商品棚卸高」の3つで売上原価を示しますが、工業簿記では「期首製品棚卸高」「当期製品製造原価」「期末製品棚卸高」の3つで示されます。この「当期製品製造原価」は、製造原価報告書でその詳細が示されます。 また、原価計算の分類で触れた「直接原価計算」を採用している場合は、売上高から変動製造原価を差し引いた利益を「変動製造マージン」として表示するなどの違いもあります。 さらに、実際原価計算と標準原価計算の間で生じる「原価差異」(材料消費価格差異、賃率差異、製造間接費の配賦差異など)は、原則として売上原価として処理されます。不利差異(借方差異)は売上原価に加算し、有利差異(貸方差異)は売上原価から減算します。ただし、多額の原価差異が生じた場合は、期末棚卸資産(期末製品や期末仕掛品)にも配賦されることがあります。

5-2. 貸借対照表

貸借対照表には、商業簿記にはない工業簿記特有の資産科目が表示されます。具体的には、材料、仕掛品、製品といった棚卸資産や、機械装置などの固定資産の期末残高が重要になります。これらの金額は、製品原価計算を通じて正確に計算されたものです。

5-3. 製造原価報告書

製造原価報告書は、当期製品製造原価の計算過程(明細)を詳細に示す財務諸表です。これは、実質的に仕掛品勘定の記入内容に対応しており、当期に製造活動に投下されたすべての原価がどのように集計され、当期に完成した製品にいくらの原価がかかったのかを分かりやすく示します。 簿記1級の試験では、これらの財務諸表そのものの作成が直接問われることは稀ですが、これらの財務諸表上の重要な科目、特に「当期製品製造原価」や「仕掛品」などの計算過程の理解度が問われることが多くあります。そのため、財務諸表の形式と内容を前提知識としてしっかりと把握しておくことが不可欠です。

この章で学習した内容は、簿記1級の工業簿記・原価計算における全ての学習の土台となります。今後のステップアップのために、ここで解説した概念や勘定連絡の流れをしっかりと定着させ、複雑な問題にも対応できるよう基礎力を高めていきましょう。


【問題解説】

問1:仕訳問題(製造原価の記帳)解説

この問題は、工業簿記における最も基本的な原価の流れ、すなわち勘定連絡を理解しているかを問うものです。製品原価計算は、費目別計算、部門別計算、製品別計算という3つの手続きを経て行われますが、この問題では特に部門別計算を省略している場合の主要な勘定連絡を問うています。

  1. 直接材料費の消費: 製品を製造するために直接的に使用された材料の費用です。材料は消費されることで原価となり、**「仕掛品」**という製造中の製品の原価として集計されます。したがって、資産である「材料」が減少し、製造中の製品の原価である「仕掛品」が増加するため、「仕掛品」を借方、「材料」を貸方とします。
  2. 間接労務費の発生: 複数の製品に共通して使われたり、直接的には特定の製品に紐付けられない労働力の費用です。このような間接的な製造原価は、まず**「製造間接費」**勘定に集計されます。賃金の発生源は「賃金」勘定ですが、それが間接労務費として製造間接費になるため、「製造間接費」を借方、「賃金」を貸方とします。
  3. 製造間接費の製品への配賦: 製造間接費は、その性質上、個別の製品に直接紐付けられないため、何らかの合理的な基準に基づいて製品に「配賦」されます。この配賦によって、製造間接費が最終的に製造中の製品の原価に組み込まれます。製造間接費勘定から「仕掛品」勘定へ振り替えるため、「仕掛品」を借方、「製造間接費」を貸方とします。
  4. 製品の完成: 製造が終わり、完成した製品の原価は「仕掛品」勘定から「製品」勘定へ振り替えられます。仕掛品は未完成の製品を示す勘定科目であり、それが完成品に変わることで「仕掛品」は減少し、「製品」という資産が増加します。
  5. 製品の販売: 完成した製品が顧客に販売されると、その製品の原価は費用として認識され、**「売上原価」**となります。棚卸資産である「製品」が減少するため貸方に、費用である「売上原価」が発生するため借方とします。

これらの仕訳は、工業簿記における費用の発生から製品の完成、そして販売に至るまでの基本的な原価の流れを正確に追うための土台となります。

問2:計算問題(原価の本質と非原価項目)解説

この問題は、「原価の本質」の中でも特に**「正常性」の原則と、「経営目的に関連」**という原則を理解しているかを問うものです。原価とは、あくまで「正常な経営活動において、経営目的に関連して発生した経済価値の消費」を指します。したがって、計算においては、与えられた情報の中から、この「正常性」と「経営目的に関連」という条件を満たす項目だけを抽出する必要があります。

与えられた項目を見てみましょう。

  • 直接材料費(\(¥ 1,200\)): 製品の製造に直接使われる材料費は、正常な製造活動の一部であり、経営目的(製品の生産・販売)に直接関連するため、原価に含まれます。
  • 直接労務費(\(¥ 800\)): 製品の製造に直接関わる労働力費も、同様に正常な製造活動の一部であり、原価に含まれます。
  • 間接費合計(\(¥ 1,500\)): 製造間接費は、製品との関連は間接的ですが、製造活動には不可欠な費用であり、正常な経営活動に属するため、原価に含まれます。
  • 工場火災による損失(\(¥ 300\)): 火災による損失は、通常の製造活動では発生しない異常な原因によるものであり、「正常性」の原則に反します。したがって、これは非原価項目であり、製造原価には含めません。
  • 借入金利息(\(¥ 100\)): 借入金利息は費用ではありますが、製品の生産や販売という経営目的に直接関連しないため、非原価項目となります。
  • 設備売却損(\(¥ 50\)): 設備売却損も、製品の生産・販売活動とは直接関連しないため、非原価項目に分類されます。
  • 通常範囲内の棚卸減耗費(製造関連)(\(¥ 20\)): 棚卸減耗費は、通常、製品の製造・保管過程で避けられない一定程度の損失であり、「正常な」範囲内であれば製造原価の一部として扱われます。したがって、この金額は原価に含めます。異常な棚卸減耗費は非原価項目です。

以上の分析から、正常な製造原価を構成するのは、直接材料費、直接労務費、間接費合計、そして通常範囲内の棚卸減耗費のみとなります。これらを合計することで、当期の正常な製造原価の総額が計算できます。非原価項目を正確に識別し、除外することがこの問題のポイントです。

問3:選択肢問題(原価計算の目的)解説

この問題は、原価計算の多面的な目的、特に財務会計目的と管理会計目的の区別を正確に理解しているかを確認するものです。また、『原価計算基準』の性質についても問われています。

各選択肢を詳しく見ていきましょう。

  • ア. 原価計算の目的は、製品の原価を計算することのみに限定される。 これは誤りです。原価計算は「製品の原価を計算すること」だけでなく、経営管理に役立つ情報(原価管理、利益管理、意思決定など)を提供することも重要な目的としています。
  • イ. 財務会計目的の原価計算は、主に企業内部の経営管理者に情報を提供することを目的とする。 これも誤りです。企業内部の経営管理者への情報提供は、管理会計目的の原価計算の役割です。財務会計目的の原価計算は、主に企業外部の利害関係者(投資家、株主など)に情報を提供することを目的としています。
  • ウ. 管理会計目的の原価計算は、原価管理、利益管理、意思決定などに必要な情報提供を目的とする。 この記述は正しいです。管理会計目的の原価計算は、まさに経営管理者が原価をコントロールし、利益を管理し、適切な経営判断を下すための情報を提供することを目的としています。
  • エ. 『原価計算基準』は、原価計算の慣行を要約したものではなく、法的な拘束力を持つ強制規範である。 これも誤りです。『原価計算基準』は、企業における原価計算の慣行の中から、「一般に公正妥当と認められるところを要約して設定された実践規範(ガイドライン)」であり、法的な強制力を持つものではありません。

したがって、ウが最も適切な記述となります。原価計算の目的を明確に区別し、それぞれの特性を理解することが、1級の学習において非常に重要です。

問4:仕訳問題(部門別計算の勘定連絡)解説

この問題は、部門別計算を実施している場合の製造間接費の勘定連絡、特に製造間接費が各製造部門に集計され、その後製品に配賦される流れを理解しているかを確認するものです。部門別計算は、製造間接費をより正確に製品に配賦し、かつ部門ごとの原価管理を可能にするための重要な手続きです。

  1. 製造間接費の各製造部門への集計: 製造間接費は、まず「製造間接費」勘定に一時的に集計されます。部門別計算を行う場合、次にこの製造間接費を、実際に費用が発生した部門(この場合は第1製造部門と第2製造部門)に振り替えます。これにより、各部門が負担すべき製造間接費が明確になります。したがって、「第1製造部門費」と「第2製造部門費」を借方に、「製造間接費」を貸方にします。
  2. 第1製造部門費の製品への配賦: 各製造部門に集計された費用は、最終的に製品の原価として集計されるために「仕掛品」勘定へ振り替えられます。この時、それぞれの部門の特性に応じた配賦基準(例:機械稼働時間、直接作業時間など)が用いられることで、より正確な原価計算が可能になります。ここでは第1製造部門費を配賦するため、「仕掛品」を借方、「第1製造部門費」を貸方とします。
  3. 第2製造部門費の製品への配賦: 同様に、第2製造部門費も製品原価として「仕掛品」勘定へ振り替えられます。これも「仕掛品」を借方、「第2製造部門費」を貸方とします。

部門別計算における勘定連絡は、製造間接費の集計と配賦のプロセスを明確に示します。これにより、製品原価の正確性が向上し、各部門の原価管理が容易になるというメリットがあります。

問5:計算問題(製造原価報告書への影響)解説

この問題は、製造原価報告書の作成プロセスと、それに影響を与える要素、特に非原価項目や異常な損失の扱いを理解しているかを問うものです。製造原価報告書は、「当期製品製造原価」の計算過程(明細)を示すものであり、実質的には仕掛品勘定の動きに対応しています。

製造原価報告書における「当期製品製造原価」は、以下の計算式で求められます。

期首仕掛品棚卸高 \(+\) 当期総製造費用 \(–\) 期末仕掛品棚卸高 \(=\) 当期製品製造原価

ただし、この計算式に適用される「当期総製造費用」や「期末仕掛品棚卸高」には、原価の本質(特に正常性や経営目的に関連)に基づかない非原価項目や異常な損失は含まれません

与えられた項目を見てみましょう。

  • 期首仕掛品棚卸高(\(¥ 400\)): 期首に未完成だった製品の原価です。これは当期製品製造原価の計算に含めます。
  • 当期総製造費用(\(¥ 3,500\)): 当期に製造活動に投入された費用です。問題文から、この金額はすでに正常な製造原価が含まれていると解釈できます。
  • 期末仕掛品棚卸高(\(¥ 600\)): 期末に未完成で残った製品の原価です。これは当期完成した製品の原価にはならないため、差し引きます。
  • 製造に関係のない本社費(\(¥ 200\)): 「経営目的に関連」しないため、製造原価には含まれません。これはそもそも「当期総製造費用」の計算には含まれていないはずの項目であり、製造原価報告書には影響しません。したがって、無視します。
  • 異常な原因で発生した棚卸減耗費(仕掛品)(\(¥ 50\)): これは「正常性」の原則に反する非原価項目です。仕掛品勘定で発生していても、正常な製造原価とはみなされないため、当期製品製造原価からは除外されるべきです。つまり、当期総製造費用に含まれて計算された結果、仕掛品勘定に計上されてしまっている場合は、完成品原価としてではなく、別途費用として処理されるため、当期製品製造原価を計算する際にはこの金額を控除する必要があります。

したがって、当期製品製造原価の計算は以下のようになります。

\(¥ 400 (\text{期首仕掛品棚卸高}) + ¥ 3,500 (\text{当期総製造費用}) – ¥ 600 (\text{期末仕掛品棚卸高}) – ¥ 50 (\text{異常な棚卸減耗費}) = ¥ 3,250\)

製造原価報告書は、仕掛品勘定と密接な関係にあるため、仕掛品勘定の流れをイメージしながら、非原価項目を適切に識別・除外することが重要です。


【まとめ】

今回の重要なポイントを以下にまとめます。

  • ポイント1:原価計算の二つの目的を理解する 原価計算は、**財務諸表作成のための「財務会計目的」**と、**経営管理のための「管理会計目的」**という、大きく異なる2つの目的を持っています。特に、原価管理、利益管理、意思決定といった管理会計目的の重要性が1級では増します。
  • ポイント2:原価の4つの本質を把握する 「原価」とは単なる費用のことではありません。「経済価値の消費」「給付にかかわる」「経営目的に関連」「正常性」という4つの本質的な性質を満たすものが原価です。特に、「正常性」に反する異常な損失や、「経営目的」に直接関連しない費用は非原価項目として、製造原価から除外されることを覚えておきましょう。
  • ポイント3:製造原価の多様な分類方法を使いこなす 製造原価は、「形態別(材料費、労務費、経費)」「製品との関連(直接費、間接費)」「操業度との関連(変動費、固定費など)」といった様々な視点から分類されます。これらの分類を組み合わせることで、多様な原価計算のパターンが生まれます。特に、直接費と間接費の区別、そして変動費と固定費の区別は、今後の学習の土台となります
  • ポイント4:製品原価計算の3つの手続きと勘定連絡の重要性 製品原価計算は、「費目別計算」「部門別計算」「製品別計算」という3つの手続きに沿って行われます。これらの手続きは、工業簿記の勘定連絡と密接に結びついています。材料、賃金、経費が製造間接費や仕掛品へと流れ、最終的に製品、売上原価となる一連の勘定の流れ(勘定連絡図)を理解することが、複雑な計算問題や仕訳問題を解く上での基本となります。
  • ポイント5:工業簿記特有の財務諸表項目を理解する 工業簿記では、損益計算書の売上原価表示が商業簿記と異なり、「当期製品製造原価」が中心となります。また、製造原価報告書は仕掛品勘定の内容を詳細に示したものであり、期末貸借対照表には「材料」「仕掛品」「製品」といった棚卸資産が計上されることも特徴です。これらの財務諸表項目が何を示し、どのように計算されるのかを理解しておくことが、試験で問われる計算過程の理解に繋がります。

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この記事を書いた人

簿記2級を取得し、現在簿記1級を勉強中。
学んだことを忘れないようにここでまとめてます。
普段は、会社で経理をしながら、経理・簿記関係の情報を発信。
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