問1 次の[資料]に基づいて、当月の工員への給与支給時の仕訳を示しなさい。なお、使用する勘定科目は以下から選択すること。
<勘定科目>賃金、従業員諸手当、法定福利費、仕掛品、製造間接費、現金預金、預り金
[資料] ① 基本賃金:400,000円 ② 定時間外作業手当:30,000円 ③ 住宅手当:10,000円 ④ 源泉所得税:15,000円 ⑤ 社会保険料(工員負担分):18,000円
問2 次の[資料]に基づいて、当月の直接工の賃金消費額を直接労務費と間接労務費に分けて計算しなさい。
[資料]
- 当月の直接工の就業時間
- 直接作業時間:180時間
- 間接作業時間:30時間
- 手待時間:10時間
- 消費賃率:@2,500円(1時間あたり2,500円)
問3 次の[資料]に基づき、当月の直接工の実際消費賃率を求めなさい。
[資料] 直接工の消費賃率は、すべての直接工の賃金の実際発生額によって計算している。 当月の賃金、諸手当の実際発生額は次のとおりである。
- 基本賃金:1,500,000円
- 加給金:300,000円
- 諸手当(製造作業に直接関係しないもの):200,000円 当月の勤務時間の内訳は次のとおりである。
- 直接作業時間:600時間
- 間接作業時間:200時間
- 手待時間:100時間
- 休憩時間:100時間
問4 次の[資料]にもとづき、当月の賃率差異を求め、賃率差異を計上する仕訳を示しなさい。
[資料] 直接工の賃金消費額は、予定消費賃率(1時間あたり2,000円)によって計算している。 当月の賃金の実際発生額に関するデータは次のとおりである。
① 当月の賃金支給:基本賃金 1,300,000円、加給金 220,000円 ② 前月未払額:400,000円、当月未払額:350,000円 ③ 当月の就業時間:750時間
問5 労務費に関する以下の記述のうち、誤っているものを1つ選び、記号で答えなさい。
ア.直接労務費は、直接工の直接作業時間に対する賃金である直接賃金のみを指す。
イ.間接工の賃金消費額は、原則として当月の要支払額を消費額とし、賃率差異は計算されない。
ウ.定時間外作業手当は常に消費賃率の計算に含められ、製造間接費として処理されることはない。
エ.賃率差異がプラスの場合、貸方差異(有利差異)となり、賃率差異勘定の貸方に振り替えられる。
問1 解答
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 |
---|---|---|---|
賃金 | 430,000 | 現金預金 | 407,000 |
従業員諸手当 | 10,000 | 預り金 | 33,000 |
問2 解答
- 直接労務費(直接賃金): 450,000円
- 間接労務費: 100,000円
- 間接作業賃金:75,000円
- 手待賃金:25,000円
問3 解答
実際消費賃率:2,000円
問4 解答
賃率差異:30,000円(貸方差異)
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 |
---|---|---|---|
賃金 | 30,000 | 賃率差異 | 30,000 |
問5 解答
ウ
労務費の分類と賃金消費の基礎
労務費の基本的な概念からその分類、さらには工場で働く従業員(工員)の賃金がどのように消費され、計算されるのかについて、詳しく解説していきます。
労務費の基礎知識
労務費とは?
労務費とは、主に製品を製造するために工場の従業員の労働力を消費したことによって発生する原価を指します。材料費が購入した材料を消費した額であるのと同様に、労務費は購入した労働力を消費した額と考えることができます。具体的には、将来的に給与を支払うことを約束し、製品製造のために働いてもらった金額が労務費となるのです。工員に支給される賃金は、この労働力の消費を表すものと捉えられます。労働力は目に見えないため、材料に比べてイメージしにくいかもしれませんが、製品を作る上で労働力が不可欠であることを理解することが大切です。
労務費の重要な分類
労務費は、その性質や製品との関連性によって様々な分類がなされますが、最も重要なのは「製品との関連における分類」です。これは、材料費が直接材料費と間接材料費に分類されるのと同様に、労務費も「直接労務費」と「間接労務費」に分類されます。
- 直接労務費: 特定の製品のためにかかったことが直接的かつ明確にわかる労務費を指します。例えば、ある家具を組み立てる工員の賃金のように、その労働が特定の製品に直接結びつく場合がこれにあたります。
- 間接労務費: 特定の製品のためにかかったことが直接的にはわからない労務費を指します。これは、複数の製品に共通して発生する作業や、製造活動全体を支援する作業にかかる労務費などが該当します。
さらに詳細な分類(形態別・機能別)
上記の製品との関連における分類に加えて、労務費は「どのような役割や目的で消費されたか」という機能別分類などを組み合わせることで、さらに細かく分類されます。
直接労務費は、以下の「直接賃金」のみです。
- 直接賃金: 直接工の直接作業時間に対する賃金を指します。
- 直接工: 主に製品の直接的な製造作業(例えば、家具の組み立てなど)を行う工員のことです。
- 直接作業時間: 直接的な製造作業を行った時間数のことです。
一方、間接労務費には多くの種類があり、直接賃金以外はすべて間接労務費と考えると理解しやすいでしょう。主な間接労務費は以下の通りです。
- 間接作業賃金: 直接工が間接的な製造作業(機械のメンテナンスや清掃、工具の整理など)を行った時間に対する賃金です。
- 手待賃金: 直接工が、工員の責任以外の原因(例えば、停電による機械停止や材料の遅配など)で作業ができなかった時間に対する賃金です。この時間は製品を直接製造しているわけではありませんが、労働力が拘束されているため労務費として計上されます。
- 間接工賃金: 間接的な製造作業のみを行う工員(例えば、工場内の運搬作業員や検査員など)の間接作業時間に対する賃金です。
- 給料: 工員以外の工場従業員(例えば、工場の事務職員や工場長など)に対する給与です。彼らの労働は製造活動全体を支えますが、特定の製品に直接結びつけることはできません。
- 従業員賞与・手当: 賞与や、製造作業に直接関係しない諸手当(住宅手当、通勤手当など)がこれに該当します。
- その他: 退職給付費用や法定福利費なども間接労務費に含まれます。
労務費の分類は一見複雑に見えますが、直接労務費が「直接賃金」のみであるという点をしっかりと押さえることが、学習のポイントとなります。それ以外の労務費は、全て間接労務費として扱われると覚えましょう。
工員への給与支給と賃金の消費
工員に支払われる給与は、様々な構成要素から成り立っており、その支払いと消費は会計処理上重要なステップです。
給与支給の仕組み
工員への給与支給は、以下のような構成で計算されます。
給与支給総額
工員に支給される給与の総額は、支払賃金と諸手当(製造作業に直接関係しないもの)の合計で計算されます。
\(給与支給総額 = 支払賃金 + 諸手当\)このうち、**支払賃金は「賃金勘定」**に、**諸手当は「従業員諸手当勘定」**に記帳されるのが一般的です。企業や試験問題によっては、支払賃金と給料を合わせて「賃金・給料勘定」を用いる場合もあります。
支払賃金の内訳
上記の「支払賃金」は、さらに「基本賃金」と「加給金」に分けることができます。
\(支払賃金 = 基本賃金 + 加給金\)ここでいう「加給金」とは、時間外手当(残業手当)や休日手当など、基本賃金に上乗せして支払われるものを指します。重要なのは、定時間外作業手当(残業手当)のように製造作業に直接関係する手当は、加給金として支払賃金に含めて「賃金」として処理されるという点です。一方で、通勤手当のように製造作業に直接関係しない手当は、前述の通り「従業員諸手当」として処理されます。
現金支給額
実際に工員に現金で支給される額は、給与支給総額から源泉所得税や社会保険料などの「預り金」を差し引いた金額となります。
\(現金支給額 = 給与支給総額 – 預り金\)給与支給の仕訳を理解する際は、これらの計算パターンと、賃金・従業員諸手当・預り金・現金預金といった勘定科目の関係をしっかり把握することが重要です。
直接工の賃金消費額の計算と処理
給与が支給された後、その賃金が実際にどのように製品製造のために「消費されたか」を計算し、原価として振り替える処理が必要になります。特に、直接工の賃金消費額の計算は、直接労務費と間接労務費の金額を明確に区分するために重要です。
就業時間の内訳
賃金は、工員の「就業時間」に対して発生します。就業時間とは、勤務時間から休憩時間や私用外出の時間を差し引いた時間のことです。直接工は、日々の就業時間中の仕事内容を報告することで、以下の3つの時間区分に分類されます。
- 直接作業時間: 製品を直接製造する作業を行った時間です。これには、加工時間だけでなく、作業準備(段取)の時間も含まれます。
- 間接作業時間: 間接的な製造作業(機械の清掃、工具の整理など)を行った時間です。
- 手待時間: 工員自身の責任ではない理由(機械の故障、停電、材料の遅れなど)で作業ができなかった時間です。
直接作業時間と間接作業時間を合わせて「実働時間」と呼びますが、手待時間も工員が仕事をしていなかったわけではないため、就業時間全体に含まれます。
賃金消費額の計算
直接工の賃金消費額は、上記の就業時間の内訳と「消費賃率」を用いて計算されます。消費賃率とは、1時間あたりの賃金消費額のことです。
- 直接賃金(直接労務費)
- \(直接賃金 = 消費賃率 \times 直接作業時間\)
- 間接作業賃金(間接労務費)
- \(間接作業賃金 = 消費賃率 \times 間接作業時間\)
- 手待賃金(間接労務費)
- \(手待賃金 = 消費賃率 \times 手待時間\)
これらの計算により、直接労務費(直接賃金)と間接労務費(間接作業賃金、手待賃金)が具体的にいくら発生したかが明確になります。
賃金消費額の処理(仕訳)
計算された賃金消費額は、以下の通りに勘定科目間で振り替えられます。
- 直接労務費: 「賃金勘定」から**「仕掛品勘定」**に振り替えます。仕掛品は、まだ完成していない製品の製造途上にある原価を表します。
- 間接労務費: 「賃金勘定」から**「製造間接費勘定」**に振り替えます。製造間接費は、後で特定の製品に配賦されることになります。
この「賃金消費額の計算」と「それに伴う仕訳処理」は、セットで理解しておくべき重要なプロセスです。
消費賃率と賃率差異の理解
直接工の賃金消費額を計算する際に用いる消費賃率には、「実際賃率」と「予定賃率」の2種類があります。どちらの賃率を用いるかによって、計算方法や処理が異なります。
消費賃率の種類と計算
実際賃率(実際消費賃率)
実際賃率は、賃金の実際発生額と実際の就業時間に基づいて計算される賃率です。
\(実際賃率 = \frac{賃金の実際発生額}{実際就業時間}\)- 分子の「賃金の実際発生額」: 基本賃金と加給金(定時間外作業手当など)の合計が該当します。企業によっては、従業員賞与や製造作業に直接関係しない諸手当の一部を含む場合もあります。
- 分母の「実際就業時間」: 直接作業時間、間接作業時間、手待時間の合計です。休憩時間は就業時間には含まれません。
実際賃率の計算方法には、個々の工員ごとに計算する「個別賃率」、工員を職種に応じてグループに分けて計算する「職種別平均賃率」、全ての工員をまとめて計算する「総平均賃率」といった分類があります。試験では、問題文の指示に従って適切な賃率を計算する必要があります。
予定賃率(予定消費賃率)
予定賃率は、あらかじめ定めた賃率であり、賃金の予定発生額と予定就業時間に基づいて計算されます。
\(予定賃率 = \frac{賃金の予定発生額}{予定就業時間}\)- 分子の「賃金の予定発生額」: 年間などの一定期間における基本賃金と加給金(定時間外作業手当など)の予定合計額です。
- 分母の「予定就業時間」: 予定される直接作業時間、間接作業時間、手待時間の合計です。
予定賃率を用いることで、原価計算を迅速に行うことができ、また、実際の賃金変動の影響を受けることなく、安定した原価情報を把握できるというメリットがあります。
賃率差異の計算と処理
直接工の賃金消費額の計算に予定賃率を用いた場合、実際の賃金発生額との間に差額が生じることがあります。この差額を「賃率差異」と呼び、これを適切に処理する必要があります。
賃率差異の計算
賃率差異は、以下の計算式で求められます。
\(賃率差異 = 予定賃率による賃金消費額 – 実際発生額\)- 計算結果がマイナスの場合: 「借方差異(不利差異)」となります。これは、予定よりも賃金が実際にかかりすぎた、または予定賃率が低すぎたことを意味します。
- 計算結果がプラスの場合: 「貸方差異(有利差異)」となります。これは、予定よりも賃金が実際にかからなかった、または予定賃率が高すぎたことを意味します。
実際発生額の特殊な計算
原価計算期間と給与の計算期間にズレがある場合、賃金の「実際発生額」は単に当月の給与支給額だけでは判断できません。このような場合、以下のように計算される「要支払額」が実際発生額として用いられます。
\(実際発生額 = 当月の賃金支給額 – 前月未払額 + 当月未払額\)例えば、原価計算期間が5月1日~5月31日、給与計算期間が4月21日~5月20日である場合、4月21日~4月30日の賃金は前月未払額として、5月21日~5月31日の賃金は当月未払額として調整されることになります。
賃率差異の処理(仕訳)
賃率差異は「賃金勘定」からの振り替えによって記帳されます。
- 借方差異(不利差異)の場合: 賃率差異勘定の借方に振り替えます。
- (借方) 賃率差異 xxx / (貸方) 賃金 xxx
- 貸方差異(有利差異)の場合: 賃率差異勘定の貸方に振り替えます。
- (借方) 賃金 xxx / (貸方) 賃率差異 xxx
賃率差異の計算と仕訳は、予定原価計算制度を採用している場合に特に重要となる処理です。常に賃金勘定の記入内容をイメージしながら学習を進めることが理解を深める鍵となります。
間接工の賃金消費額と定時間外作業手当の特例
間接工の賃金消費額
間接工の場合、通常は直接工のように作業時間の詳細な記録を行いません。そのため、間接工の賃金消費額は、「消費賃率 × 作業時間」という計算をせず、原則として当月の「要支払額」を消費額とします。このため、間接工の賃金については賃率差異は計算されません。工員以外の工場従業員の給料などについても同様に、原則として当月の要支払額が消費額とされます。
定時間外作業手当の特殊な扱い
定時間外作業手当は、一般的には加給金の一種として扱われ、直接工の賃金消費額を計算する際の消費賃率に含めて計算されます。しかし、定時間外作業が一時的にしか行われないような特殊な状況においては、定時間外作業手当を消費賃率の計算から除外し、その手当額を直接「製造間接費」として処理する場合があります。この場合、賃率差異を計算する際の「実際発生額」からも、その定時間外作業手当の金額を除いて計算する必要がある点に注意が必要です。
労務費の計算は、賃金支給の仕組みから、その消費、そして予定賃率を用いた場合の差異分析に至るまで、多岐にわたります。
問題解説
問1 解説
この問題は、工員への給与支給時における仕訳の基本を問うものです。給与の支給は、支払われる側(工員)と支払う側(会社)の両側面から考える必要があります。
まず、給与支給総額を計算します。給与支給総額は、支払賃金と諸手当(製造作業に直接関係しないもの)の合計でした。 支払賃金は、基本賃金と加給金(定時間外作業手当など製造作業に直接関係するもの)の合計です。ここでは、基本賃金400,000円と定時間外作業手当30,000円が該当します。したがって、支払賃金は400,000円 + 30,000円 = 430,000円となります。この支払賃金は「賃金勘定」の借方に計上されます。 次に、諸手当として住宅手当10,000円があります。これは製造作業に直接関係しないため、「従業員諸手当勘定」の借方に計上されます。 よって、給与支給総額は 430,000円(賃金) + 10,000円(従業員諸手当) = 440,000円です。
貸方については、工員から預かる金額(預り金)と、実際に現金で支払う金額(現金預金)を計上します。預り金には、源泉所得税15,000円と社会保険料18,000円が含まれます。したがって、預り金の合計は15,000円 + 18,000円 = 33,000円となります。これは「預り金勘定」の貸方に計上されます。 現金支給額は、給与支給総額から預り金を差し引いて計算します。 現金支給額 = 440,000円(給与支給総額) – 33,000円(預り金) = 407,000円となります。この金額は「現金預金勘定」の貸方に計上されます。
これらの計算に基づき、適切な勘定科目を用いて仕訳を行うことで、給与支給時の取引を正確に会計帳簿に反映させることができます。
問2 解説
この問題は、直接工の賃金消費額を直接労務費と間接労務費に区分して計算する基本的なプロセスを確認するものです。労務費の分類の重要性を理解し、それぞれの時間区分に応じた賃金消費額を算出することが求められます。
まず、直接労務費に該当するのは「直接賃金」のみであることを思い出しましょう。直接賃金は、直接工の直接作業時間に対する賃金であり、「消費賃率 × 直接作業時間」で計算されます。
\(直接賃金 = 2,500円/時間 \times 180時間 = 450,000円\)この450,000円が直接労務費となります。
次に、間接労務費に該当する項目を計算します。間接労務費には、間接作業賃金と手待賃金が含まれます。 間接作業賃金は、直接工の間接作業時間に対する賃金であり、「消費賃率 × 間接作業時間」で計算されます。
\(間接作業賃金 = 2,500円/時間 \times 30時間 = 75,000円\)手待賃金は、直接工の手待時間に対する賃金であり、「消費賃率 × 手待時間」で計算されます。
\(手待賃金 = 2,500円/時間 \times 10時間 = 25,000円\)間接労務費の合計額は、間接作業賃金75,000円と手待賃金25,000円の合計、つまり 75,000円 + 25,000円 = 100,000円となります。
この問題を通じて、直接労務費が製品に直接賦課される「仕掛品」へ、間接労務費が一旦「製造間接費」へ集計されるという原価計算の基本的な流れを再確認することができます。正確な原価計算のためには、このように賃金消費額を正しく分類することが不可欠です。
問3 解説
この問題は、直接工の「実際消費賃率」を計算する能力を問うものです。実際消費賃率は、実際の賃金発生額と実際の就業時間に基づいて算出される重要な指標です。
まず、実際消費賃率の計算式を確認します。
\(実際消費賃率 = \frac{賃金の実際発生額}{実際就業時間}\)1. 分子「賃金の実際発生額」の計算 賃金の実際発生額には、基本賃金と加給金が含まれます。 [資料]より、基本賃金は1,500,000円、加給金は300,000円とあります。 したがって、賃金の実際発生額 = 1,500,000円 + 300,000円 = 1,800,000円となります。 諸手当(製造作業に直接関係しないもの)200,000円は、通常、賃率計算の分子には含めません。
2. 分母「実際就業時間」の計算 就業時間には、直接作業時間、間接作業時間、手待時間が含まれます。休憩時間は就業時間には含まれない点に注意が必要です。 [資料]より、直接作業時間600時間、間接作業時間200時間、手待時間100時間とあります。 したがって、実際就業時間 = 600時間 + 200時間 + 100時間 = 900時間となります。
3. 実際消費賃率の計算 計算した分子と分母を用いて、実際消費賃率を算出します。
\(実際消費賃率 = \frac{1,800,000円}{900時間} = 2,000円/時間\)この実際消費賃率は、実際の原価計算において、直接工の労働力1時間あたりのコストを正確に把握するために用いられます。また、予定賃率を設定している場合に、賃率差異を分析する際の基準ともなります。
問4 解説
この問題は、予定賃率を使用している場合に発生する「賃率差異」の計算とその仕訳処理を問うものです。賃率差異の計算では、実際の賃金発生額を正しく把握することが重要です。
まず、賃率差異の計算式を確認します。
\(賃率差異 = 予定賃率による賃金消費額 – 実際発生額\)1. 予定賃率による賃金消費額の計算 当月の就業時間は750時間、予定消費賃率は1時間あたり2,000円です。
\(予定賃率による賃金消費額 = 2,000円/時間 \times 750時間 = 1,500,000円\)2. 実際発生額(要支払額)の計算 原価計算期間と給与計算期間にズレがある場合、実際発生額は「当月の賃金支給額 – 前月未払額 + 当月未払額」で計算される「要支払額」となります。 [資料]より、当月の賃金支給額は基本賃金1,300,000円と加給金220,000円の合計であり、1,520,000円です。前月未払額は400,000円、当月未払額は350,000円です。
\(実際発生額 = 1,520,000円(当月支給額) – 400,000円(前月未払額) + 350,000円(当月未払額) = 1,470,000円\)3. 賃率差異の計算
\(賃率差異 = 1,500,000円(予定賃率による賃金消費額) – 1,470,000円(実際発生額) = 30,000円\)計算結果がプラスなので、貸方差異(有利差異)となります。これは、予定よりも実際の賃金発生額が少なかったことを意味します。
4. 賃率差異の仕訳 貸方差異は、賃率差異勘定の貸方へ振り替えます。これに伴い、賃金勘定の残高を調整します。 貸方差異は、賃金勘定の借方残高を減らす方向で調整するため、賃金勘定の貸方に計上します。
この問題は、予定原価計算における賃率差異の概念と、期間のズレがある場合の実際発生額の特殊な計算方法を理解しているかを問うものです。
問5 解説
この問題は、労務費に関する様々な知識を総合的に確認する選択肢問題です。各選択肢の内容を正確に判断し、誤りを見抜くことが求められます。
- ア.直接労務費は、直接工の直接作業時間に対する賃金である直接賃金のみを指す。 これは正しい記述です。教科書解説記事でも述べた通り、直接労務費は直接賃金に限定されます。
- イ.間接工の賃金消費額は、原則として当月の要支払額を消費額とし、賃率差異は計算されない。 これも正しい記述です。間接工は通常作業時間の記録を行わないため、直接工のように消費賃率を用いて消費額を計算せず、賃率差異も発生しないのが原則です。
- ウ.定時間外作業手当は常に消費賃率の計算に含められ、製造間接費として処理されることはない。 これは誤っている記述です。定時間外作業手当は通常は加給金として消費賃率に含めて計算されますが、定時間外作業が一時的に行われるような場合には、消費賃率に含めずに製造間接費として処理されることがあります。
- エ.賃率差異がプラスの場合、貸方差異(有利差異)となり、賃率差異勘定の貸方に振り替えられる。 これは正しい記述です。賃率差異の計算結果がプラス(予定賃率による消費額 > 実際発生額)は、有利差異であることを示し、賃率差異勘定の貸方に記帳されます。
したがって、誤っている記述は「ウ」となります。この問題は、細かな例外処理や原則の理解を問う良問です。
まとめ
- ポイント1:労務費の基本分類
- 労務費は、製品製造のための労働力消費原価。
- 最も重要な分類は、製品との関連による「直接労務費」と「間接労務費」。
- ポイント2:直接労務費は「直接賃金」のみ
- 直接労務費に該当するのは「直接工の直接作業時間に対する賃金」である直接賃金のみ。
- それ以外の労務費(間接作業賃金、手待賃金、間接工賃金、給料、諸手当など)はすべて間接労務費。
- ポイント3:給与支給額と消費額の計算構造
- 給与支給総額は「支払賃金+諸手当」。支払賃金はさらに「基本賃金+加給金」。
- 直接工の賃金消費額は、就業時間(直接作業時間、間接作業時間、手待時間)に「消費賃率」を乗じて計算。
- 直接労務費は仕掛品勘定へ、間接労務費は製造間接費勘定へ振り替える。
- ポイント4:消費賃率の種類と実際発生額の定義
- 消費賃率には「実際賃率」と「予定賃率」がある。
- 実際賃率 = 賃金の実際発生額 ÷ 実際就業時間。
- 予定賃率 = 賃金の予定発生額 ÷ 予定就業時間。
- 原価計算期間と給与計算期間にズレがある場合の「実際発生額(要支払額)」は「当月支給額-前月未払額+当月未払額」で計算される。
- ポイント5:賃率差異の計算と処理
- 予定賃率を用いる場合に「賃率差異」が発生する。
- 賃率差異 = 予定賃率による賃金消費額 - 実際発生額。
- マイナスは借方差異(不利差異)、プラスは貸方差異(有利差異)。
- 賃率差異は賃金勘定から賃率差異勘定へ振り替える。
- 間接工の賃金は原則として要支払額が消費額となり、賃率差異は計算しない。