問1 当社は年間288,000kgの材料を必要としています。材料発注1回あたりの通信費および消耗品費が5,000円、積下ろし作業賃金が45,000円であるとき、1回あたりの発注量をYkgとした場合の年間発注費を表す数式を求めなさい。
問2 当社は年間288,000kgの材料を必要とし、購入原価は1kgあたり5,000円です。材料1kgあたりの年間火災保険料が550円、材料1kgあたりの年間資本コストが購入原価の5%であるとき、1回あたりの発注量をYkgとした場合の年間保管費を表す数式を求めなさい。なお、材料倉庫の年間減価償却費800,000円は考慮しないものとする。
問3 問1および問2で求めた数式を用いて、経済的発注量を求めなさい。
問4 経済的発注量を採用した場合、年間発注費と年間保管費はそれぞれいくらになりますか。
問5 経済的発注量の考え方における「トレード・オフの関係」として最も適切なものを選びなさい。
ア.発注費と保管費の合計が最大となる関係
イ.発注費を低く抑えると保管費も低くなる関係
ウ.保管費を低く抑えようとすると発注費が高くなる関係
エ.保管費と材料購入原価が変動しない関係
問1 年間発注費 = \(\frac{14,400,000,000}{Y}\)
問2 年間保管費 = \(400Y\)
問3 経済的発注量:6,000kg
問4 年間発注費:2,400,000円 年間保管費:2,400,000円
問5 ウ
経済的発注量とは?在庫費用の最適化を学ぶ
企業活動において、製品の生産に必要な材料を外部から購入する際、一度にどれくらいの量をまとめて発注すべきか、という問題は重要な経営意思決定の一つです。この発注量の最適解を導き出す概念が「経済的発注量」です。
経済的発注量とは、材料の発注にかかる費用(発注費)と、購入した材料を保管する費用(保管費)の合計額、これらを総称して「在庫品関係費用」と呼びますが、この在庫品関係費用が最も少なくなるような、1回あたりの最適な発注量を指します。具体的に、毎回10kgを発注するのか、それとも1,000kgを発注するのかといった複数の案を比較検討し、最も経済的な発注量を決定するための計算モデルであると言えます。
発注費と保管費の関係性:トレード・オフ
経済的発注量を理解するためには、発注費と保管費、それぞれが発注量によってどのように変動するかを把握することが重要です。この二つの費用は、発注量の増減に対して逆の動きをするため、「トレード・オフの関係」にあると言われます。
(1) 発注費とは
発注費とは、材料を発注する際に発生する費用のことです。これには、事務用消耗品費、通信費、材料の積下ろし作業賃金などが含まれます。
年間の総発注量(製品生産に必要な材料購入量)が一定であるという前提のもとで考えましょう。
- 1回あたりの発注量が少ない場合:
- 発注回数が多くなります。その結果、発注作業が頻繁に発生するため、一定期間(年間や月間)の発注費の総額は高くなります。
- 1回あたりの発注量が多い場合:
- 発注回数が少なくなります。発注作業の頻度が減るため、一定期間(年間や月間)の発注費の総額は低くなります。
この関係を図にすると、発注量が増加するにつれて発注費は減少するという曲線を描きます。
(2) 保管費とは
保管費とは、購入した材料を倉庫に保管するために発生する費用のことです。具体的には、材料倉庫の経費(建物の減価償却費、水道光熱費など)、材料に対する火災保険料などが挙げられます。また、倉庫に保管している材料は、借入金などで調達した資金で購入しているため、その資本コストも保管費として扱うことがあります。
保管費についても、発注量の多少によって以下のように変動します。
- 1回あたりの発注量が少ない場合:
- 倉庫に保管する材料の量が少なくなります。そのため、一定期間の保管費の総額は低くなります。
- 1回あたりの発注量が多い場合:
- 倉庫に保管する材料の量が多くなります。そのため、一定期間の保管費の総額は高くなります。
この関係を図にすると、発注量が増加するにつれて保管費も増加するという直線に近い曲線を描きます。
このように、発注量を少なくすると保管費は低く抑えられますが、発注費は高くなります。逆に、発注量を多くすると発注費は低く抑えられますが、保管費は高くなります。この互いに逆行する関係性が「トレード・オフの関係」と呼ばれる所以です。
経済的発注量の計算
経済的発注量は、このトレード・オフの関係にある発注費と保管費の合計が最も少なくなる点を見つけることで算出されます。グラフ上でこの合計費用を示すと、U字型のような曲線を描き、その最下点が経済的発注量に当たります。この最下点では、発注費と保管費が等しくなるという特徴があります。
経済的発注量を計算する際には、発注量によって変動する費用、すなわち「関連原価」のみを用いて計算を行います。例えば、材料の購入原価や、倉庫の減価償却費や水道光熱費の基本料金など、発注量に関わらず発生する固定的な費用は「無関連原価」とされ、意思決定上考慮されません。
具体的な計算式は以下の通りです。
- 年間発注費の計算式 年間発注費は、1回あたりの発注費に年間の発注回数を乗じて計算されます。年間発注回数は、年間の必要材料購入量を1回あたりの発注量で割ることで求められます。 \(年間発注費 = 1回あたりの発注費 \times 年間発注回数\) \(年間発注回数 = \frac{年間の必要材料購入量}{1回あたりの発注量}\) したがって、年間発注費の最終的な計算式は次のようになります。 \(年間発注費 = 1回あたりの発注費 \times \frac{年間の必要材料購入量}{1回あたりの発注量}\)
- 年間保管費の計算式 年間保管費は、1kgあたりの保管費に平均在庫量を乗じて計算されます。平均在庫量は、倉庫にある材料が徐々に消費されることを考慮し、1回あたりの発注量を2で割ることで算出されます。 \(年間保管費 = 1kgあたりの保管費 \times 平均在庫量\) \(平均在庫量 = \frac{1回あたりの発注量}{2}\) したがって、年間保管費の最終的な計算式は次のようになります。 \(年間保管費 = 1kgあたりの保管費 \times \frac{1回あたりの発注量}{2}\)
経済的発注量は、年間発注費と年間保管費の式を立て、\(年間発注費 = 年間保管費\)となる方程式を解くことで求められます。この計算は、実際の業務執行における意思決定のモデルケースとして非常に重要です。
問題解説
問1 解説
この問題は、年間発注費の計算式を理解しているかを確認するものです。年間発注費は、1回あたりの発注費用に年間の発注回数を乗じることで求められます。まず、1回あたりの発注費を正確に計算することが重要です。資料によると、1回あたりの通信費・消耗品費が5,000円、積下ろし作業賃金が45,000円ですので、これらを合計します。
\(1回あたりの発注費 = 5,000円 + 45,000円 = 50,000円\)次に、年間の発注回数をYkgという1回あたりの発注量で表現します。年間の必要材料購入量は288,000kgですので、年間の発注回数は以下のようになります。
\(年間発注回数 = \frac{年間の必要材料購入量}{1回あたりの発注量} = \frac{288,000 kg}{Y}\)最後に、年間発注費の数式を完成させます。
\(年間発注費 = 1回あたりの発注費 \times 年間発注回数\) \(年間発注費 = 50,000円 \times \frac{288,000 kg}{Y}\) \(年間発注費 = \frac{14,400,000,000}{Y}\)
問題文には、材料の購入原価(1kgあたり5,000円)が記載されていますが、これは1回あたりの発注量に関わらず発生する「無関連原価」であるため、年間発注費の計算には含めません。関連原価と無関連原価の判断は、簿記1級の意思決定会計において非常に重要なポイントとなります。
問2 解説
この問題は、年間保管費の計算式と、関連原価・無関連原価の判断能力を問うものです。年間保管費は、1kgあたりの保管費に平均在庫量を乗じることで求められます。まず、1kgあたりの保管費を正確に算出します。資料によると、火災保険料が550円、資本コストが購入原価の5%です。購入原価は1kgあたり5,000円ですので、資本コストは以下のようになります。
\(資本コスト = 5,000円 \times 5\% = 250円\)したがって、1kgあたりの保管費は、火災保険料と資本コストの合計です。
\(1kgあたりの保管費 = 550円 + 250円 = 800円\)次に、平均在庫量をYkgという1回あたりの発注量で表現します。平均在庫量は、倉庫にある材料が徐々に消費されるため、1回あたりの発注量の半分として計算されます。
\(平均在庫量 = \frac{1回あたりの発注量}{2} = \frac{Y}{2}\)最後に、年間保管費の数式を完成させます。
\(年間保管費 = 1kgあたりの保管費 \times 平均在庫量\) \(年間保管費 = 800円 \times \frac{Y}{2}\) \(年間保管費 = 400Y\)
問題文に記載されている材料倉庫の年間減価償却費800,000円は、倉庫に保管する材料の量に関わらず一定額発生するため、「無関連原価」と判断され、年間保管費の計算には含めません。このように、意思決定の際には、どの費用が関連原価であり、どの費用が無関連原価であるかを適切に判断することが求められます。
問3 解説
この問題は、経済的発注量の核となる「発注費と保管費が等しくなる」という原理を用いて、最適な発注量を算出するものです。問1で求めた年間発注費と、問2で求めた年間保管費の数式を等号で結び、Y(1回あたりの発注量)について解きます。
問1より、年間発注費は\(\frac{14,400,000,000}{Y}\)。 問2より、年間保管費は\(400Y\)。
経済的発注量では、これらが等しくなるため、以下の式が成り立ちます。
\(\frac{14,400,000,000}{Y} = 400Y\)この方程式をYについて解きます。
両辺にYを掛けて分母を払います。 \(14,400,000,000 = 400Y^2\)
次に、Y^2について解きます。 \(Y^2 = \frac{14,400,000,000}{400}\) \(Y^2 = 36,000,000\)
最後に、Yの値を求めます。 \(Y = \sqrt{36,000,000}\) \(Y = 6,000\)
したがって、経済的発注量は6,000kgとなります。この計算過程では、金額の桁数が非常に多くなるため、電卓の入力には細心の注意を払う必要があります。ルートボタン(√)の活用も有効です。
問4 解説
この問題は、経済的発注量における年間発注費と年間保管費が「等しくなる」という性質を利用して、それぞれの費用を算出するものです。問3で計算した経済的発注量Y = 6,000kgを、問1で求めた年間発注費の数式、または問2で求めた年間保管費の数式に代入することで、それぞれの費用を求められます。
年間発注費の数式にY = 6,000kgを代入します。 \(年間発注費 = \frac{14,400,000,000}{Y}\) \(年間発注費 = \frac{14,400,000,000}{6,000}\) \(年間発注費 = 2,400,000円\)
年間保管費の数式にY = 6,000kgを代入します。 \(年間保管費 = 400Y\) \(年間保管費 = 400 \times 6,000\) \(年間保管費 = 2,400,000円\)
この結果からも、経済的発注量においては年間発注費と年間保管費が完全に一致することが確認できます。これは、この二つの費用の合計が最小となる点が、両費用が交差する点、すなわち等しくなる点であるという経済的発注量の特性を示しています。この一致は、計算が正しく行われたかの確認にもなります。
問5 解説
この問題は、経済的発注量の概念において非常に重要な「トレード・オフの関係」について問うものです。トレード・オフの関係とは、複数の要素が互いに相反する関係にあることを指します。
経済的発注量の文脈では、1回あたりの発注量を少なくすると、発注回数が増えるため発注費は高くなりますが、倉庫に保管する材料が少なくなるため保管費は低くなります。逆に、1回あたりの発注量を多くすると、発注回数が減るため発注費は低くなりますが、保管する材料が増えるため保管費は高くなります。つまり、一方の費用を抑えようとすると、もう一方の費用が増加するという関係です。
この定義に合致する選択肢を探します。
- ア.「発注費と保管費の合計が最大となる関係」は誤りです。経済的発注量は合計が最小となる点を探す概念です。
- イ.「発注費を低く抑えると保管費も低くなる関係」は誤りです。両方が低くなるのではなく、一方が高くなります。
- ウ.「保管費を低く抑えようとすると発注費が高くなる関係」は正しい記述です。これがトレード・オフの関係の具体例です。
- エ.「保管費と材料購入原価が変動しない関係」は誤りです。材料購入原価は無関連原価ではありますが、この選択肢はトレード・オフの関係を適切に説明していません。
したがって、最も適切な選択肢はウです。
まとめ
- ポイント1:経済的発注量の定義
- 発注費と保管費の合計(在庫品関係費用)が最も少なくなる1回あたりの発注量。
- ポイント2:発注費の特性
- 1回あたりの発注量が少ないと、発注回数が増えるため、発注費の総額は高くなります。
- 1回あたりの発注量が多いと、発注回数が減るため、発注費の総額は低くなります。
- ポイント3:保管費の特性
- 1回あたりの発注量が少ないと、保管材料が少ないため、保管費の総額は低くなります。
- 1回あたりの発注量が多いと、保管材料が多いため、保管費の総額は高くなります。
- ポイント4:トレード・オフの関係
- 発注費と保管費は、1回あたりの発注量の増減によって逆の動きをする「トレード・オフ」の関係にあります。片方を抑えようとするともう一方が増加します。
- ポイント5:経済的発注量の計算と関連原価
- 経済的発注量では「発注費=保管費」となります。
- 計算には、1回あたりの発注量によって変化する「関連原価」のみを使用します。発注量に関わらず一定額発生する費用(例:購入原価、減価償却費の基本料金)は「無関連原価」として除外されます。