以下の設例に基づき、問1~問5に答えなさい。
(共通設例) A社(完全親会社)はB社(完全子会社)と株式交換を行い、A社がB社の発行済株式すべてを取得した。A社株式の交換日における株価は@25円であった。
問1(仕訳問題:新株発行)
A社は株式交換の対価として新株を600株発行し、B社の全株式を取得した。A社は払込資本のうち、50%を資本金とし、残額を資本準備金とする。A社が行うべき仕訳を示しなさい。
問2(仕訳問題:自己株式処分)
A社は株式交換の対価として、新株300株と自己株式150株を交付した。自己株式の帳簿価額は1,000円であった。A社は払込資本のうち、50%を資本金とし、残額を資本準備金とする。A社が行うべき仕訳を示しなさい。
問3(計算問題:払込資本の計算)
問2の設例において、A社が計上すべき資本金および資本準備金はそれぞれいくらになるか求めなさい。なお、計算過程で端数が生じる場合は、円未満を四捨五入しなさい。
問4(選択肢問題:基礎概念)
株式交換に関する記述として、最も適切なものを選びなさい。
ア. 株式交換は、子会社側が資産や負債を引き継ぐ組織再編行為であるため、パーチェス法ではなく持分プーリング法を適用する。 イ. 株式交換は、株式会社がその発行済株式の全部を他の会社に取得させ、完全子会社となることをいう。 ウ. 株式交換が行われると、完全親会社、完全子会社ともに、個別会計上で投資と資本の相殺消去の仕訳を行う。
問5(計算問題:取得原価)
A社は株式交換の対価として、新株1,500株と自己株式500株を交付した。A社が行うべき子会社株式の取得原価はいくらか求めなさい。
問1(仕訳)解答
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
---|---|---|---|
子会社株式 | 15,000 | 資本金 | 7,500 |
資本準備金 | 7,500 |
問2(仕訳)解答
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
---|---|---|---|
子会社株式 | 11,250 | 資本金 | 5,125 |
資本準備金 | 5,125 | ||
自己株式 | 1,000 |
問3(計算)解答
- 資本金:5,125円
- 資本準備金:5,125円
問4(選択肢)解答
イ. 株式交換は、株式会社がその発行済株式の全部を他の会社に取得させ、完全子会社となることをいう。
問5(計算)解答
50,000円
株式交換の会計処理
株式交換の概要と個別会計処理
株式交換とは何か
株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の会社(完全親会社)に取得させて、完全子会社となることを指します。これは、M&Aにおける組織再編手法の一つであり、当事企業が2社以上あり、資本関係が発生するケースに該当するため、個別上の処理と連結上の処理の両方を考える必要があります。
株式交換は支配を獲得する取引であるため、「取得」に該当します。したがって、会計処理は原則としてパーチェス法によって行われます。
親会社(完全親会社)の個別処理
完全親会社は、完全子会社となる企業の株主に対し、対価として自社の株式などを交付します。この際、親会社が計上する「子会社株式」の取得原価は、交付する株式の時価をもって算定されます。
(1)新株を発行して対価を交付した場合
親会社が新株を発行して対価とする場合、取得原価は交付株式数に時価を乗じて求められます。この取得原価をもって、借方に「子会社株式」を計上します。
貸方に計上する払込資本(資本金および資本準備金)の額は、一般的に会社法に基づき、増加した純資産額(子会社株式の取得原価)の範囲内で決定されます。設例では、払込資本の50%を資本金とし、残額を資本準備金とするケースが示されています。
\(\text{取得原価} = \text{交付株式数} \times \text{親会社株式の時価}
\)
(2)自己株式を処分して対価を交付した場合
株式交換の対価として、新株の発行と自己株式の処分を同時に行うケースもあります。
この場合も、取得原価は交付する株式(新株+自己株式)の時価で算定します。
しかし、払込資本の額を算定する際には、交付した自己株式の帳簿価額を控除する必要があります。
\(\text{払込資本の金額} = \text{取得原価} – \text{自己株式の帳簿価額}
\)
この結果、貸方には「子会社株式」の取得原価、「自己株式」の帳簿価額、そして残額を会社法に基づき分割した「資本金」と「資本準備金」が計上されることになります。
子会社(完全子会社)の個別処理
完全子会社となる企業は、株主が親会社に交代するだけで、企業体そのものには変更がありません。したがって、特に仕訳は行いません。
連結会計上の処理
株式交換が完了し、完全親子会社関係が樹立された後は、連結財務諸表を作成するための処理を行います。
連結処理の原則
株式交換の連結上の処理は、何ら特殊な処理はありません。親会社が個別会計上で計上した子会社株式(投資)について、通常の100%子会社の連結処理を行うだけです。
具体的な手順は以下の通りです。
- 子会社資産負債の時価評価:株式交換日(取得日)において、子会社の諸資産・負債を時価評価します。これに伴い、時価評価差額を認識します。
- 投資と資本の相殺消去:親会社が計上した「子会社株式」(投資)と、子会社の資本項目(資本金、資本剰余金、利益剰余金、時価評価差額など)を相殺消去します。
- のれんの認識:子会社株式の取得原価と、子会社の純資産時価評価額との差額は、「のれん」として処理されます。
\text{のれん} = \text{子会社株式の取得原価} – (\text{子会社純資産の時価評価額})
\)
連結処理の基本的な考え方は、パーチェス法を採用する他の取得型の組織再編(合併など)と共通しています。
問題解説
問1(仕訳問題:新株発行)解説
本問は、完全親会社A社が新株を発行して株式交換の対価とした場合の、個別会計上の処理を問うものです。
株式交換は「取得」にあたり、取得原価は交付株式の時価で算定されます。
- 取得原価の算定: 交付株式数 600株 × 株価 @25円 = 15,000円。 この15,000円を「子会社株式」として借方に計上します。
- 払込資本の算定: 払込資本の合計は取得原価と同額の15,000円です。 このうち、50%を資本金、残りの50%を資本準備金とします。 資本金:15,000円 × 50% = 7,500円 資本準備金:15,000円 × 50% = 7,500円
仕訳は、借方:子会社株式 15,000、貸方:資本金 7,500、資本準備金 7,500となります。これは、PDFソースの設例と全く同じ構造で計算されており、基本的な株式交換の処理を理解しているかを確認する問題です。完全子会社となるB社側は仕訳をしません。
問2(仕訳問題:自己株式処分)解説
本問は、対価として新株と自己株式を組み合わせて交付した場合の処理を問うものです。
このケースでも、まず取得原価を交付株式の時価総額で算定します。
- 取得原価の算定: 交付総株式数 (新株300株 + 自己株式150株) = 450株 取得原価:450株 × 株価 @25円 = 11,250円。 これを「子会社株式」として借方に計上します。
- 自己株式の控除: 自己株式を処分したため、貸方に自己株式の帳簿価額(1,000円)を減少させます。
- 払込資本の算定: 払込資本の金額は、「取得原価11,250円」から「自己株式の簿価1,000円」を控除した額となります。 払込資本合計:11,250円 – 1,000円 = 10,250円。
- 資本金・資本準備金への配分: 払込資本10,250円のうち、50%ずつを資本金と資本準備金に配分します。 資本金:10,250円 × 50% = 5,125円 資本準備金:10,250円 × 50% = 5,125円
仕訳は、借方:子会社株式 11,250、貸方:資本金 5,125、資本準備金 5,125、自己株式 1,000となります。この処理は、自己株式を対価とした場合の特殊な計算ステップを正確に踏めるかを試すもので、PDFソースの設例と計算構造が一致します。
問3(計算問題:払込資本の計算)解説
問2の解説で既に計算過程が示されていますが、払込資本の計算は、自己株式を対価として使用した場合に最も注意を要する点です。
計算手順:
- 取得原価の算定: (新株 300株 + 自己株式 150株) × @25円 = 11,250円
- 払込資本の総額算定: 取得原価 11,250円 – 自己株式の帳簿価額 1,000円 = 10,250円 ※自己株式の処分は、純資産の増加に直結する新株発行とは異なり、純資産項目間の振替の側面を持つため、取得原価の全額が資本とならないことに注意が必要です。
- 資本金、資本準備金の算定: 払込資本総額 10,250円 × 50% = 5,125円
したがって、資本金は5,125円、資本準備金は5,125円となります。本問では端数は発生しませんでしたが、仮に1/3などを資本金とする指示があった場合、四捨五入の指示に従って処理する必要があります。今回は問題文の指示通り、計算過程で端数処理の必要はありません。
問4(選択肢問題:基礎概念)解説
本問は、株式交換の定義と基本的な会計処理に関する理解を問うものです。
ア. 株式交換は支配獲得取引であるためパーチェス法を適用します。また、子会社は企業体として存続するため、親会社に資産負債を引き継ぐわけではありません。記述は不適切です。 イ. 株式交換は、株式会社がその発行済株式の全部を他の会社(完全親会社)に取得させ、完全子会社となることと定義されています。これは正確な記述です。 ウ. 投資と資本の相殺消去は、連結財務諸表を作成する際に行う連結上の処理であり、個別会計上の仕訳ではありません。また、子会社は個別上、原則として仕訳を行いません。記述は不適切です。
したがって、イが最も適切です。
問5(計算問題:取得原価)解説
取得原価の算定は、株式交換会計の出発点であり、パーチェス法において非常に重要です。
取得原価は、対価として交付する株式すべての時価総額によって算定されます。新株発行か自己株式の処分かに関わらず、交付された株式の経済的価値の総額が取得原価となります。
計算手順:
- 交付総株式数の特定: 新株 1,500株 + 自己株式 500株 = 2,000株
- 取得原価の算定: 2,000株 × 株価 @25円 = 50,000円
したがって、A社が計上すべき子会社株式の取得原価は50,000円です。この計算結果は、その後の払込資本や連結会計におけるのれんの計算の基礎となります。取得原価の算定は、交付株式の時価総額を用いるというルールを確実に覚えておくことが重要です。
まとめ
ポイント1:支配獲得=取得(パーチェス法適用) 株式交換は支配獲得取引であるため、「取得」に該当し、パーチェス法を適用します。
ポイント2:取得原価は「交付株式の時価」 完全親会社が計上する子会社株式の取得原価は、対価として交付する自社株式(新株および自己株式)の時価で算定します。
ポイント3:自己株式処分の際の払込資本の計算 対価として自己株式を処分した場合、払込資本として計上できる金額は、取得原価から自己株式の帳簿価額を控除した額となります。
ポイント4:子会社は仕訳なし 完全子会社側は、株主が交代するだけであり、個別上の特別な仕訳は行いません。
ポイント5:連結処理は通常通り 株式交換後の連結処理は、通常の100%子会社に対する投資と資本の相殺消去と同様であり、特殊な処理は伴いません。